音楽はなくならない、笹川美和 デビュー15年を迎えてもブレない信念
INTERVIEW

音楽はなくならない、笹川美和 デビュー15年を迎えてもブレない信念


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年10月31日

読了時間:約14分

 シンガーソングライターの笹川美和が10月31日、ベストアルバム『豊穣 -BEST ’03〜’18-』を発売。この作品は彼女のデビュー15周年を記念したもので、自身の代表曲と3曲の新曲を合わせた13曲を収録。これまでの活動を総括しつつ、次を見据えるかの様な気概を感じさせる作品となっている。前作『新しい世界』において彼女は、提供曲を歌うという新しい試みのもと、シンガーとして新たなステージに立った。そこからベスト盤の制作に乗り出した心中はどの様なものだったのか。さらに「15年経っても高鳴ることができるのはとても嬉しい」と語るほどの刺激となった、新曲への想いなどを彼女に聞いた。【取材=小池直也/撮影=片山拓】

「ひとつの作品として聴いてもらおう」

笹川美和(撮影=片山拓)

――今回はプロフィールに「エッセイスト的シンガーソングライター」とありますが、新しい肩書きですね。

 スタッフさんが新たなキャラを付けてくれました(笑)。なかなか嬉しいです。5月13日にあった『笹川美和 Concert 2018 〜新しい世界〜』東京公演の物販として、エッセイを書いたりもしたんですよ。それもきっかけとしてあったのかもしれません。今まで歌詞は歌詞だと思っていたので、エッセイ的にと意識していたわけではありませんでした。「小説を書いてみたらどうか?」と提案を事務所の方からも頂いたりもしたのですが。ただ、読むのは好きですが書けないんですよ。

 私は歌詞でも文を短くしようとするんです。例えば動詞でも名詞に当てはまる言葉はなんだろう、と考えているので。いかに言葉数を少なくして、伝えたいことを書くかと。だから、エッセイくらいが私の書ける限界なのかもしれません。それも最近気づいたことかもしれません。だからラッパーの方はすごいですよね。私は少ない自分の歌詞でも覚えられない(笑)。

――前作『新しい世界』は、音楽的にもアートワーク的にも裸になった作品でしたね。その次の一手がベストアルバムというのは驚きです。

 そうなんです。私もベストが出せるとは思っていませんでした。きっとアーティストさんによって「ベスト盤を出す」ということについての認識は色々だと思います。私にとってはご褒美の様なもので。これが10周年の時だったら「まだベストは早い」と言ってしまったかもしれません。でも10周年からの5年、そして『新しい世界』のリリースがありました。

 その作品で自分の中でブレない、今の笹川美和というものを何となく掴めたんです。だからこそ、自作曲以外も歌えると思って作った作品でした。それがある意味でゼロ地点。その次にベストのお話があって「出してもいいかもしれない」と思えたんです。新しい方にも私の15年を知ってもらいたいと思って。

 それから時代的にも配信が主流になっている中で、利点として「時系列関係なく聴くことができる」ということがあります。デビュー作も新作も関係ないじゃないですか。私自身や私のもともとのファンの方からしたら、ベストかもしれませんが「ひとつの作品として聴いてもらおう」というコンセプトでベスト盤を作ったつもりです。

――過去作品からの選曲はどの様に?

 難しかったですね。なんだかんだで100曲くらい出していて、隠れた人気曲もあったりして悩みました。やっぱりスタッフさんに、大まかに選んでもらった部分が大きいかもしれません。私が選ぶと、ちょっとベストとは違う思い入れになってしまう。なので、客観的に見てもらった意見を大事にしました。主観が入ってしまうと、自分セレクトみたいになってしまうんですよ。どの曲も大差なく大事なのは変わらないので。だから第三者の視点がなかったら、逆に選べなかったかもしれないです。

――新曲も3曲収録されていますね。

 「蝉時雨」は、舞台『野球 飛行機雲のホームラン 〜 Homerun of Contrail』のテーマソングなんです。この舞台に関わっていらっしゃった桑田真澄さんと一緒に写真を撮ってSNSに上げたら、知り合いのミュージシャンから好評でした。並びが斬新だった様で(笑)。新潟は巨人ファンが多いんですよ。家族にも見せたら「おお! 桑田さんじゃねえか」みたいな反応で。

 この舞台にはもともと『新しい世界』に収録されていた「サンクチュアリ」をプロモーションや劇中で使って頂いていたんです。その後、書き下ろした曲も欲しいとのことで「蝉時雨」を書きました。この舞台で使われるのは2曲くらいの予定だったのですが、作演出の西田大輔さんのご好意で5曲もお使い頂いていて。ちょっと恥ずかしかったですね。ただ、この曲に関してはこの舞台を題材にしたからこそできあがったものだと思っています。

――SNSと言えば、「アレンジに恋をした」とツイートされていた「高鳴り」はいかがですか?

 過去のアレンジはどれももちろん好きなんですけど、恋をしたのは初めてでした。担当してくださったのは、Kan Sanoさんです。もともとディレクターの方に「やってみたい人がいる」と提案されたんです。私も色々な人のエッセンスを取り入れたいと思っていたので「もちろんです」と快諾しました。作曲自体も今までの私にはなかった曲ができたな、とちょうど思っていたんですよ。

 しかもKanさんは年齢が同じで。私はメジャーデビューが20歳だったので、知り合いのミュージシャンというと割と年上の方が多いんですよ。最近は同世代の方と知り合うことが多くて、感慨深いですね。それから何も言わずに曲をKanさんに投げたら、このアレンジが返ってきたんですよ。聴いた時に「あ、恋してる! 高鳴ってる!」って。本当にKanさんのセンスが凄かった。ピアノも弾く人によって全然音が違うんですけど「私この人のピアノの音色好きだな」と思えましたし。

 それをタイトルにしたわけではないんです。タイトルはもともと付いていて。でもこのアレンジを聴いて、タイトルを再認識した様な、初めての経験でした。あまりに楽曲とリンクしたので、なかなかな感動がありましたね。

――Kanさんのソロアルバム『k is s』はシンセサイザーを巧みに使った作品だったので、「高鳴り」のピアノを使ったアレンジは驚きでした。

 レコ—ディングの時に初めてお会いして、本人に聞いたんですよ。でも、あの音は本物のピアノではない(キーボードである)らしいです。「どんな機材を使っているの?」という様な話にもなりました。Kanさんとはこの先も色々な曲でご一緒したいなと思っています。

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