笹川美和と齊藤工(撮影=田中聖太郎)

 シンガーソングライターの笹川美和が11日、東京・新宿シネマートで、映画『blank13』の上映後におこなわれたトークイベントに登壇した。この中で笹川は1曲披露してから、長編初監督となる斎藤工(齊藤工)と語り合い、「スタッフ一同驚きました。『なぜ齊藤工さんが過去の私の音源を使いたいというのだ』と騒然となって(笑)」とオファー時を振り返った。齊藤は「誰よりも先にキャスティングをしたのがこの曲が使えるか否かだった」など笹川の歌への愛を明かした。

笹川美和(撮影=田中聖太郎)

 この映画は俳優として有名な斎藤工が“齊藤工”名義で監督を務めた作品。これまでも彼は齊藤名義で映画監督、写真家、映画情報番組のMC、コラムニストなどの活動もおこなってきたが、今回の作品が長編映画初挑戦となる。家族を描いたこの作品は、第3回シドニー・インディ映画祭で4部門ノミネート、最優秀脚本賞受賞など世界でも既に世界でも評価を得ている。笹川による主題歌「家族の風景」も世界観の構築に大きな存在であったという。

 作品の上映が終わってからイベントがスタート。笹川が緑のノースリーブ姿で登場。右手で鍵盤をぽろんと弾いてから、段々とギアが上がる様な形で演奏が始まった。そして<キッチンにはハイライトとウィスキーグラス/どこにでもあるような 家族の風景>、煙が浮かぶ様な歌が放たれると会場の空気が変わる。最後の1音を弾き終えると、彼女は笑った。

 演奏が終わってから“齊藤工”監督が登場する。改めて笹川の紹介と自身の挨拶をしてから「夢の様です」と一言。互いに謙遜しあう様子が微笑ましい。続けて齊藤は「構想の段階で、誰よりも先にキャスティングをしたのがこの曲が使えるか否かだった」と主題歌に対する想いを語っていく。「台本は文字。主題となる楽曲というヒントがあると、実はとても空間に浸りやすい。ある意味で、この曲が主人公の作品なんです」。

笹川美和と齊藤工(撮影=田中聖太郎)

 話題は笹川が在住の新潟についてにも及ぶ。笹川は「東京も好きですよ」と前置きしてから「自宅のピアノの前でしか作曲しないので、新潟には思い出が散りばめられています。四季もはっきりしていて、それも曲のイメージになっています」とコメント。齊藤監督が好きな彼女の楽曲は「影法師」だそうで、この曲は中学生の時の冬の帰り道を歌った曲だと明かされた。

 笹川が「私の曲は暗いものが多い」と控えめに話すと、齊藤は「そこが良いんじゃないですか」と述べた。それに対し笹川が「大丈夫ですか? 何か抱えてらっしゃいますか?」と返すと、会場からは笑いがもれるなど話は弾んでいく。また2人の出会いは10年前のとある渋谷でのライブだったという。色々なアーティストが出る中で、齊藤は「ライブハウスが急に冬の澄んだ空気の様な状態になった」と回想。

 オファーを受けた時について、笹川が「スタッフ一同驚きました。『なぜ齊藤工さんが過去の私の音源を使いたいというのだ』と騒然となって(笑)」とコメント。「映画でも凄く良い使われ方をしていて。カバー曲(原曲はハナレグミによる)だから棚からぼたもちだと思っていますけど、これだけ皆さんに接して頂いているのはやっぱり嬉しいです」とも重ねた。

 齊藤は、笹川と松田洋子役の神野三鈴の2人を挙げ「2人の存在によって、この作品のラストシーンはどの映画にも負けないものになった」と語る。「この終わり方は曲を使わせて頂きたいと思っていた時をはるかに超えたものになったなと思います。それは笹川さんの曲があったから」と改めて主題歌の存在感について言及。トークイベントは歌と映画の有機的な関係を示すひとときとなった。【取材=小池直也】

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