堀込泰行「人の手に委ねて変化するのが面白い」世界観広げる試み
INTERVIEW

堀込泰行

「人の手に委ねて変化するのが面白い」世界観広げる試み


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年10月10日

読了時間:約14分

ABCにとらわれない曲ができるんじゃないか

堀込泰行(撮影=冨田味我)

――「砂漠に咲く花」は西脇辰弥さんのクロマチックハーモニカがアクセントとなっていて、ラテンのリズムと相まって心地よいですね。

 この曲はライブで1回やってるんです。クアルテート・エン・シーという60年代から活動しているブラジルの女性コーラスグループがいるんですけど、彼女たちの60年代の音源を意識したアレンジでライブでは演奏していました。この曲はGENTOUKIの田中君と共同プロデュースでやっているんですけど、「もう少し面白みのあるアレンジにしましょう」という話になって、彼の案で前半はディスコっぽく始まって、途中からラテンに移っていくというアレンジになりました。

 そういったデモが上がってきて良い感じだなと思って、そこに僕が「スティーヴィー・ワンダーみたいな雰囲気にもしたいんだよね」というところから、スティーヴィーといったらクロマチックハーモニカのイメージがあるので、入れてみたら良いんじゃないかなとなって、この形にまとまりました。

――スティーヴィー・ワンダーのイメージだったんですね。今作はクロマチックハーモニカもそうなのですが、「home sweet home」では宮地夏海さんのフルート、「足跡」での須原 杏さんのヴァイオリン、「Cheers!」は浜田 均 さんのヴィブラフォンや山本拓夫さんのアルトサックスだったり、曲ごとにアクセントとなっている楽器が明確にフィーチャーされているなと感じました。

 結果的に印象に残る楽器が多い、華やかなアルバムになりましたね。

――その中でも「泥棒役者」で聴ける金原千恵子さん率いるストリングスセクションの奏でる雰囲気がレッド・ツェッペリン(英バンド)の「カシミール」のような雰囲気もあって興味深かったです。

 通常で言ったらこの曲はもう少しブルージーな気分とかを吐き出すような曲になるかと思うんですけど、デモの段階からストリングスが入っていたということもあって、制作段階から華やかな印象になるなと思っていました。それもあって自分のネガティブな部分を吐き出すブルージーなのも違うだろうなと思ってこの形になりました。

 制作しているうちになぜそうなったのかわからないんですけど、手塚治虫さんの漫画で『七色いんこ』という作品が子供の頃にすごく好きで読んでいて、それが歌詞のモチーフになっています。主人公は代役専門の役者さんなんですけど、すごく上手で主役が失踪してしまったときとかに代役として出演するんですけど、出演料はもらわずに暗転した時に客席から宝石などをくすねる主人公なんです。なので歌詞は「七色いんこ」を知らない人にも伝わるよう、一人よがりにならないようにしないとと考えながらも、結構楽しんで作った歌詞です。僕の中で明確なモチーフがある歌詞は初めてかもしれないですね。

――この漫画も読んでみたくなりました。さて、今作もそうなのですが堀込さんの曲を聴いているとサビをどのように捉えているのかという疑問が生まれました。明確にサビがある曲ももちろんあるのですが、どこか全てがひとつといった感覚があります。

 Aメロ、Bメロ、Cメロ(サビ)とセクションしっかりある曲もアリだと思いますけど、ABCとあるとCだけが楽しくて、ABはそんなに面白くないみたいなイメージもあるかと思うんです。実際のところはそんなことはなくて、こういった日本的な形でもABというのはすごく大事で、大事ではないパートというのはないと思っています。その考え方もあってABもすごく大事に作っているつもりです。その考え方があるからこそ、ABCにとらわれない曲ができるんじゃないかなと思っています。「ここがサビだよ」と言わないでもポップな楽曲は出来ると信じています。

 その両方を行き来できるのが造り手として面白いと思っています。洋楽はそのあたりが自由なので、そのスタイルは僕が過去に聴いてきた音楽も影響しているのかなと思います。あと別にサビで盛り上がる必要もないと感じていて、聴いて面白いと思えればそれでいいのかなと思います。サビで盛り上がって楽しいというのはカラオケ的な発想だとそうなるかもしれないですね。歌って楽しくさせるにはサビで盛り上がった方が良いと思いますから。僕の場合はあまりそこに重きを置いていないんです。

――最後にキリンジでデビューされて20周年ですが、11月にはKIRINJIとツーマンライブ『KIRINJI 20th Anniversary Live「19982018」』も決定されています。どのようなライブになりそうですか。

 KIRINJI 20周年のイベントにお祝いで駆けつけるという、そのくらいの気持ちですね。

(おわり)

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