今も演じることに怖さがある、松岡充 役者に挑戦した真の理由
INTERVIEW

今も演じることに怖さがある、松岡充 役者に挑戦した真の理由


記者:長澤智典

撮影:

掲載:18年05月28日

読了時間:約17分

自分以外を知ることが己を知る一番の近道

――松岡さん自身、音楽と役者活動のバランスは、どのように捉えているのでしょうか?

MICHAEL

 基本にあるのはヴォーカリストであり、バンドマンという姿勢です。とはいえ今は、音楽的に活動をしやすい時代ではなくなっている。そのために、役者で培った経験を音楽面に反映させようといろいろ動いている面はあります。

 今、活動しているMICHAELでは、会場を1箇所の定点にしたフェスを2年に1回のペースで過去2回主宰しました。それは、舞台公演と同じように、同じ会場を長期間、僕らは一週間から10日間貸し切り、MICHAELは毎日出演しながら、連日異なるゲストを招いて進行していく。僕らがやり続けることで、「平日は行けないけど週末なら行ける」という人が来やすくなる。逆に、「週末は難しいけど平日なら来れる」という方も足を運びやすくなる。

 僕自身舞台へ連日出ずっぱりの経験をしているから、「バンドだって一週間や10日くらい毎日ライブがあっても出来るだろう」との想いからやり始めたことなんですけど…正直めっちゃしんどいです(笑)。でも、ジャンルを超えて、才能あるアーティストたちと毎回ステージを通してコラボレートしていく楽しさはやり甲斐がありますし、こういう形態でのイベントはミュージシャンとしてだけでなく、俳優としても活動してきた僕にしか出来ないことだとも自負しています。

――最近では、後輩ヴォーカリストの真緒(The THIRTEEN)さんを、松岡さん自身が企画した、芝居もある総合エンターテインメント『DAYDREAM BABYS*』(自主公演)へ招き入れたりなど、ミュージシャン仲間が役者の世界へ足を踏み入れるきっかけ作りも行っていませんか?

 バンドのフロントマンって特に、ヴォーカリストは歌を歌うだけじゃなく、MCや場の空気のコントロールも含め、常に高いボルテージまで引き上げていく力を持ってるんだから、みんな出来ると思うんですよね。真緒は、自分から「やりたいです」と言ってきたので、「じゃあ、やろうか」となり、仲間へ引き入れたんだけど、ミュージジャンでも役者が出来る人って沢山いると思います。みんな、「もっとやればいいのに」と思いますよね。実際、役者としてやり続けてきたことであり得ないことまでやれていますからね。

MICHAEL

MICHAEL

――それは何ですか?

 ブロードウェイでは、出演キャストが終演直後に観客をお見送りしたり、一緒に記念撮影をしたりする習慣があるんですね。それを真似て、『DAYDREAM BABYS*』(2016年上演)のときに舞台が終わってから出口でオーディエンスの皆さんをお見送りするという企画をやりました。アーティストとしては今でも基本はあり得ないことだと思うんです。だけど、今は、そのライブのチケットを買って、足を運んでくれたファンのみんなには「ありがとう。また会おうね」と言いたいなと思えるようになったところは変わりましたね。

――やはり舞台と客席には見えない境界線があるわけですよね。

 そこが丸くなったということなのかな。若い頃は、宇宙の中の一部として地球があるのに、その地球のことしか見れなかった。つまり、いろんな方々がいての自分なのに、自分自身のことで精一杯だった。だけど、いろんな経験をしていくなかで、自分以外を知ることが己を知る一番の近道だということがわかってくる。そうやって物事を俯瞰で捉えられるようになったことが大きいんでしょうね。それがわからなかった時期は、「このもやもやは一体なんだろう」という意識でしか生きていけなかった。そこが、大きな違いとしてあることかな。

役者をやる意味、経験することの大事さ

――音楽活動の場合は、ライブ会場の規模やCDの売上枚数など具体的な成果が数字として見えてきます。でも役者の場合、視聴率や観客数では測れることもできると思いますが、見えにくいですよね。その辺を松岡さんは、どのように捉えているのでしょうか?

松岡充

松岡充

 僕の場合、ありがたい話なんですけど、これまでずっと主演としてやらせていただきました。普通、役者さんの場合、メインキャストを掴むまでに、「新米なんだから、こういう役も経験だから」と、いろんな役柄の経験を積み上げていくことが多いと思うんですけど。僕は最初から主役を任されていた、そういった面では恵まれてきたんですけど、今は、自分のポジションを考える時期にも来ているなとは感じています。

――自分のポジションですか?

 そう。そろそろ年齢的にも、舞台で言う真ん中よりも止めのところにいるべきかなと思ってる。むしろ主役とは正反対の個性を出すことで、主役はもちろん、自分の存在も際立たせれば、作品全体を俯瞰した視点でと冷静に捉えていける。今は、そこも大事だなと思っています。

――いわゆるプロデューサー的な視点ですよね。

 全部を引っ張っていく主役もやり甲斐はあるけど、そうじゃない役柄も少しずつ増えているのも事実。ただし、いまだに「俺がやらなくても良くない?」「なんのために松岡を指名したの?」となる作品は断っています。何よりも大事なのが、僕がやることで、その作品が面白くなるのかどうかということ。役者をやる意味も、結局はそこが大きなポイントなんだと思います。

松岡充

松岡充

――ちなみに、これまで演じてきた作品の中、「これは」というエピソードがあったら教えてください。

 なんでかわかんないですけど、舞台の場合、自分が最初に出ていき、ストーリーが始まる作品が多いんです。いきなり歌い出したり、いきなり芝居を始めたり。あれは、何度経験しても怖いですよね。もちろん舞台上にも緊張感があれば、観客のの緊張感も伝わってくるんですよ。あの空気へ触れたときは、いまだに緊張しますね。

――さて、あらゆる経験を積んで様々なことを学んだという松岡さんですが、いま、若い人たちにメッセージを送るとしたらどのような言葉がありますか?

 僕らの時代は、常に「その先に何があるんだろう」と思いながら、その先の景色を見てみたいと追い求めてきました。だけど今のいわゆる“さとり世代”と言われる人たちは、その先がわかっていると思っているからこそ、無理に踏み出すのではなく、現状の中でのベストをキープしようとする。

 だけど、その経験をしたのとしないのとでは、経験則の違いが生き方に現れ出てくるんだと思います。どうせならひとつでも多く経験を重ねたほうが良いと思う。世の中、そんな単純なものじゃない。「物事には多面性があるからこそ、それを一つずつ知ったほうが人生も楽しくなるよ」と、今の若い世代の人たちには伝えたいですね。

(おわり)

ライブ情報

MICHAEL TOUR 2018 “荒野の二人”
※ツアーは6月2日の神戸を皮切りに7月8日の大阪公演まで全8公演を開催。ニューアルバム『かの青きグレイスフルデイヅ』のリリースツアーとなる。各会場、来場者のなかから抽選で選ばれた人を対象に、終演後、メンバーが直接感謝の思いを伝える『MANICS Meet Hug&Greet』がおこなわれる。

舞台情報

▽KOKAMI@network vol.16 音楽劇「ローリング・ソング」
作家で演出家の鴻上尚史が書き下ろし、森雪之丞が作詞・音楽監修を手掛ける新作オリジナル音楽劇。中山優馬、中村雅俊とともにトリプル主演を務める。夢に翻弄される20代のミュージシャン、40代のビジネスマン、60代の結婚詐欺師の三世代の男たちの物語を描く。8月から9月にかけて東京、福岡、大阪で上演される。

▽浪漫活劇「るろうに剣心」
和月伸宏「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」原作の舞台。脚本・演出は小池修一郎(宝塚歌劇団)。緋村剣心は早霧せいな、神谷薫は上白石萌歌、そして松岡は、舞台オリジナルとなる剣心の敵役・加納惣三郎を演じる。10月から11月にかけ、東京・新橋演舞場、大阪・松竹座でそれぞれ上演される。

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MICHAELとしての活動をおこなう松岡充
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松岡充
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松岡充
松岡充
松岡充

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