15年の足跡が形になっている、シド アニメの世界観で開けた音楽
INTERVIEW

15年の足跡が形になっている、シド アニメの世界観で開けた音楽


記者:榑林史章

撮影:

掲載:18年04月04日

読了時間:約15分

 4人組ロックバンドのシドが4月4日に、アニメタイアップ曲のみを収録したベスト盤『SID Anime Best 2008-2017』をリリース。2003年に結成、2008年にTVアニメ『黒執事』OPテーマとしてシングル「モノクロのキス」でメジャーデビュー。今作は、これまで数多くのアニメテーマソングを手がけてきた彼らの足跡が詰まった作品になった。アニメ制作側から提示される“縛り”が、逆に彼らのポテンシャルを引き上げたと語る彼ら。お気に入りのアニメや各曲のエピソードとともに、この15年の歩みをメンバーに改めて振り返ってもらった。【取材=榑林史章】

勉強も分かるようになると楽しい

――アニメベストを出すという企画は、どこから生まれたのでしょうか?

マオ

マオ 雑談で「俺らの曲でアニメテーマソングってどのくらいあるんだろうね?」と話していたのが最初で、数えたら10曲以上あったから、「じゃあアルバムにできるじゃん!」となりまして。レコード会社や事務所のスタッフも「いいね!」とノッてくれて、ちょうど結成15周年というタイミングでもあったので、こうして出せることになりました。

――改めて聴いてみて、どんなことを感じましたか。

明希 自分たちのやりたいことをアニメの世界観に、しっかり寄り添って作れている11曲だなと思いましたね。今になってジワジワと、達成感みたいなものも感じています。

Shinji いろんなシドの一面が見せられているし、アニメを通して初めて聴いてくれる人も多いので、アニメタイアップのおかげでシドという名前を広めることができたと思います。

ゆうや 内容が、すごく濃いなという印象です。1曲ごとに、この時の自分たちはこうだったなとか、すぐに思い浮かべることができますね。それだけ濃いことをやってきたんだなと思いました。

――アニメソングを作るにあたっては、アニメ制作側からのオーダーもあったりすると思うのですが、それによって引き出されたり成長させられた部分も多かったですか?

マオ 作詞の面では、すごく大きかったです。それ以前は、たとえば事務所から「こういうタイプの歌詞を書いてみたらどう?」といった感じの提案はあったのですが、アニメのタイアップをやるようになってからは「こういう世界観でお願いします」とか、「こういう登場人物で、こういうストーリーなので」とか、「こういう空気感で書いてください」とか、どんどんいい意味での“縛り”が増えていったんです。その中で、自分をどれだけ出せるか、シドとしてどういう歌詞を残せばいいのかを、すごく考えながら書くようになっていって。

 最初のころは、普通にアルバム曲を書いたり自分たちの曲を書く時よりも時間がかかっていましたけど、“縛り”があることのほうが、自分にはやりやすいんだなと気づいた部分もあって。それからは、どんどん書くのが早くなっていきました。勉強と一緒で、できるようになると、どんどん楽しくなっていった感じです。だから、今がいちばん楽しいですね。

 アニメのタイアップをいただくと「タイアップがきた!」って嬉しくなって、「今度はどんな世界観だろう?」と好奇心でワクワクしている自分がいて。最初のころは、「これを俺が表現するのか〜」と、背負うものの大きさにプレッシャーを感じて…。今もそれがまったくないわけではないけど、楽しみながらやれています。自分としては、そうやってどんどん向き合い方が変わっていった歴史を感じながら、この11曲を聴くことができます。

――曲作りの面ではいかがですか?

ゆうや 曲も歌詞と近くて。最初はシドの4人だけのキャラクターで作っていたのが、そこにアニメの登場人物という新たなキャラクターも加わって作っていくという感覚で。単に4人で作るのでは出てこないアイデアが出てくるようになって、幅が広がりました。それに縛りという部分では、最初は僕も難しさを感じていましたけど、最近ではそのアニメ作品の持っている世界観に乗っかって作ることが、作曲のヒントになる時もあって。アニメ作品の世界観とかコンセプトが、作曲のヒントになって返ってくるので、今では逆に作りやすいです。

――そのヒントというのは、具体的に言うと?

ゆうや 曲作りの時には自分の中でテーマを立てるんですけど、アニメや漫画の持つテーマもありつつ、それによって自分がどんな印象を受けるかというものを、もう一つのテーマとして持つようにしていて。そのふたつを1曲のなかに落とし込むように作っていく時もありました。

 たとえば「硝子の瞳」は、劇場版アニメーション『黒執事 Book of the Atlantic』の主題歌ですが、その作品を観て強く印象づけられた部分があって。ある女の子のキャラクターが、実はすごく強いんだけどそれを隠していて、でも戦わなければいけない状況になって…というシーンだったんです。そのシーンを観て、自分が感じた気持ちを膨らませて作っていきました。だから、毎回すごくヒントを与えてくれていると思います。

明希 アニメ側のスタッフさんから、「こういうテンポ感で」とか、具体的なヒントをいただくこともあって。TVアニメ『マギ The labyrinth of magic』の前期OPテーマ「V.I.P」の時は、「アップテンポでお願いします」というお話をいただいて、作っていった記憶があります。

 「V.I.P」「ANNIVERSARY」は、TVアニメ『マギ』のシリーズとのタイアップで、中東っぽい匂いというか、砂漠や魔法があってという世界観なので、アラビアっぽさが感じられるアレンジを意識しました。それにバンドではあまり使わない、シタール(北インド発祥の弦楽器)とか鉄琴や木琴といった音も取り入れていて。

 バンド以外の楽器をアレンジすることもあったので、それはすごく勉強になりました。シタールは生ではなくて音源で使ったんですけど、単に音を使うだけではダメで、アラビア音階を勉強しなくてはいけなくて。最初は手探りでしたけど、そういう勉強もすごく楽しかったです。

――今までやったことのないことを勉強するのは、楽しさにつながるんですね。

明希 マオが話したように、勉強が分かるようになると楽しくなるのと同じです。それに自分たちがそのタイミングでやりたいことも、しっかりと曲に入れ込まないといけなくて、どう両立させるか考えることも必要で。シドのファンの方とアニメを観てくださる方と、両方の方が納得して楽しんでいただける曲になればいいなというのは、毎回考えていますね。

Shinji 「ANNIVERSARY」は、ボトルネックギター(スライドギター)を使っていて、「ENAMEL」では七弦ギターを弾いています。でも基本的に僕は六弦弾きなので、七弦になると、同じギターでもまったく感覚が変わるんですね。弦の押さえ方も違うし、細かいことだけどライブで立って弾く時は、ストラップの長さも変えないと弾けない。僕としては、六弦と七弦は同じギターでもまったく違う楽器くらいの感覚なんです。そういうところでも勉強と言うか、チャレンジすることができましたね。

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