4人組ロックバンドのシドが23日、ニューシングル「ほうき星」をリリース。11月から3曲連続配信リリースの「ほうき星」「siren」「声色」を一つにパッケージ。コロナ禍で4人が感じたさまざまな思いを、明るく前向きなロック、ラウドロック、切ないバラードという曲調に落とし込んだ。誰もが心に感じた思いを言葉と音で代弁し、シドの持つやさしさ、強さ、熱さといった魅力が詰まっている。この約1年の間にシドの4人が感じたことはどのようなものだったのか。各楽曲に込めた彼らの思いを聞くとともに、これからの展望を語ってもらった。【取材・撮影=榑林史章】
みんなを不安にさせないことを常に意識
――11月から順次配信されている「ほうき星」「siren」「声色」を収録したCD『ほうき星』がリリースされます。配信から最終的にCDパッケージでという流れは、以前から考えていたのですか?
マオ こういう流れが決まったのはここ2~3か月のことです。いつもならこのあたりでリリースして、ここでライブをやってと、かなり前から決まっているものですけど、今年は決まっていたものが全部なくなってしまって。どうしようかと思っていたところ、今回のリリースが急に決まりました。なので勢いよく作って、その勢いのままCDを出すという形です。
――ファンのみんなに向けて、今の状況におけるシドの気持ちを伝えておきたいという気持ちもあったのですか?
マオ そうですね。僕たちはバンドなので、音楽とライブで気持ちを伝えていくことが軸ですけど、今はライブが出来ない状況なので、せめて音楽でというのは自然な流れでした。
――自粛期間に入ってライブが出来なくなった時は、率直にどんなことを感じましたか?
マオ これまでに感じたことのないザワつきを感じました。正直言って怖さや不安もありましたけど、その不安な世の中に希望を与えていくのが僕たちの役目だとすぐに思い直して、じゃあ今やれることは何だろうとすぐ考え始めました。そういう切り替えは、わりと早かったかもしれない。そういう自分たちの気持ちもファンのみんなにちゃんと伝えながら、みんなを不安にさせないことも常に意識して活動してきました。
――自分たちのことよりもファンを気づかうところがシドらしいですね。
マオ 自分たちはもう、シドというバンドを17年もやってきているので、ちょっとやそっとじゃブレない。でも今回のことは、ファンのみんなの生活をも脅かすようなものでしたから、みんなのことをずっと心配していました。
――ゆうやさんはいかがですか?
ゆうや 僕らは年単位でスケジュールを組むので、そのころに決まっていたものが延期になって、じゃあいつ出来るのか状況を見ながらずっと模索していて、それがずっと続いているという感じでした。でもやれることが制限されているのはみんな同じで、そんな中でも生活していかなきゃならない。そこに「元気にしてるぜ!」とか「元気にやってます!」という発信をすることは、本当に大事なことだと改めて感じた時期でしたね。
Shinji 外出禁止の時期は、家の中で出来ることを僕も探していました。でもバンドの打ち合わせは遠隔で小まめにやっていて。遠隔での会議は初めてだったから、最初は戸惑ったりもしましたし、個人的にはパソコンのカメラが壊れていたことに気づいて、早く買い替えなきゃって思いました(笑)。
明希 僕らにしたら日常のことだったライブが、やってはいけないことの一つになってしまって、どこにぶつけていいか分からないもどかしさがあったり、いろんな感情がその数カ月間で錯綜していた感じです。ライブやレコーディングはやれない時期でしたけど、中止や延期になった公演のケアなどバンド活動に付随することで、考えなければいけないことや決めなければいけないことなど山ほどありましたね。
――そんな状況で感じたことが込められた3曲です。いつもシングルの表題曲は、作詞のマオさんを除いた3人がそれぞれで曲を書いて、その中から1曲を決めるという方式です。今回は、誰がどんな曲調を作るとか、バランスみたいなものはあらかじめ話し合ったのですか?
明希 今回は作曲者3人それぞれのテーマを最初に決めて、それに沿って各々が書いてくるという感じでした。それぞれ一点集中型で作れたのでデモを作る期間もいつもより短くて、アレンジを進めていくのも早くて。スピード感のある制作になりました。
「ほうき星」はどんな形でも前に進み続けるという意思表明
――まず「ほうき星」はShinjiさんの作曲で、前向きで明るくストレートな楽曲ですね。
Shinji ざっくり言うと、明るく希望の持てる曲調ということがテーマでした。最初はこういうリズムでこういうテンポでという構想を描いて、その上でメロディを考えて。今回はガッツリ出来上がってから渡すのではなくて、途中段階で渡すようにしようということになっていて、そのほうが、意見が違った時の微調整もすぐ出来るということで。それで途中で話し合いをして、メロディを変えたりというのがけっこうありました。
――すごくシンプルですよね。
Shinji そうですね。シンプルにしたいというのは、最初からありました。アレンジの面でこういったシンプルなサウンドが、自分の中でブームになっていて、シンプルで格好いいもので伝えたいという気持ちがありました。
ゆうや すごく真っ直ぐだし、明るい希望がある楽曲というコンセプトにもすごく沿っていて。歌詞が付く前から、聴いた人の背中を押してあげられる曲になるだろうなと思いました。ノリ的にも、今はなかなか有人ライブが出来ないけど、ライブでやっている姿がすごく浮かぶなって。Aメロの入り口の感じからウルウルきちゃいそうなほどキレイで、グッとキそうだなって思いました。
――マオさんは、歌詞を書くにあたってどんなことを考えましたか?
マオ 僕が伝えたい気持ちと、きっとファンのみんなが欲しがっているだろう言葉が、一番繋がっている部分はどこかを追求して書きました。僕はこういう気持ちなんだよと押していくのではなく、今までの僕たちの歴史を踏まえた上で、みんなが欲しがっているのはきっとこういう言葉だよねって。それを遠く離れているけど確かめ合いながら、書いていったイメージです。
――歌詞の<今日も歌うよ>というフレーズからも、みなさんの思いが伝わってきます。
マオ 僕たちが止まってしまっては、みんなが帰って来られる場所がなくなってしまいますからね。どんな形でも前に進み続けるという、意思表明でもあります。
現実の暗い部分や辛い部分も刻み込んだ「siren」
――「ほうき星」は、とても率直な気持ちが込められた曲。次に明希さん作曲の「siren」は、どこか東京アラートが出された時の雰囲気とか、人間のきれいごとばかりではない部分も表現されていて。ロックバンドはファンを楽しませるのはもちろん、自分たちが感じた現実も素直に表現するべきだという信念や骨太さを感じました。
マオ 歌詞はおっしゃっていただいたように、明るい部分だけではなくて、現実の暗い部分や辛い部分も言葉として、この時代にしっかり刻んでおきたいと思って包み隠さず書きました。
――人の心の闇の部分を感じさせるような出来事もありましたし。
マオ そうですね。みんな頑張っているだけなのに、何かちょっとしたことで批判されてしまったり。「誰も悪くはないのにな」って思いながら、ニュースを見ていました。そういう複雑な気持ちも表したいと思いました。
――サウンドは、人気のなくなった街にサイレンだけが響いているような情景が浮かびました。
明希 僕が作曲とサウンドで目指した世界観は、決して東京アラートにリンクしていたものだったわけではなくて。作っていった世界観が、たまたまそういうものとリンクしてしまったという感じです。サウンド感はラウドで重厚感のあるもので、ベースのフレーズはまとわりつくようなちょっと威圧的な感じと言うか、そういうものをイメージして作っていて。
Shinji この曲は、AメロとBメロのアレンジが洋楽的な感じで、その中にしっかり日本人の心をくすぐるメロディが乗っかっていて。洋楽的なスタイリッシュな部分と、日本人的なメロディの両方の良さが詰まっていると感じました。アレンジは音の抜き差しが非常に楽しくて、ガーンと出てくるところと音が静かにいなくなる場所とか、アレンジが緻密に構築されていて、演奏という部分ではすごく楽しく演奏出来る曲です。
――ライブではきっと、身体を揺らしながら黙々と演奏する感じだろうなと思います。
明希 そうですね。世界観を見せつけるような立ち位置の曲になるんじゃないかなと。そういう予感はしています。
「声色」で思い切り泣く時があってもいい
――そして最後に収録の「声色」は、ゆうやさんの作曲です。切なさもありながら熱さも感じさせるメロディだなと思いました。
ゆうや 切なめなバラードというテーマがあって。今置かれている状況は個人個人で違うかもしれませんが、コロナに脅かされながら生活しているということは全世界共通です。そこにおける悲しみや切なさを、心の中で爆発させながら書くという感じでした。誰々を思ってとか何かを思ってと言うよりは、誰もが共通して持ち合わせているだろう思いを広げていった感じです。
Shinji ゆうやらしい部分も感じながら、「こういう曲も書くんだ」という意外性もあって、ゆうやのメロディセンスの幅広さが垣間見える、すごく素敵な曲だと思います。
明希 それと同時に、すごくシドらしい曲だと思います。僕らと言えば、きっとこういう曲の雰囲気をイメージされる方が多いと思います。
――やさしくてメランコリックな部分があるのは、たしかにシドらしいですね。また歌詞からは、いつかライブで声を届けたいというファンへの思いみたいなものも感じました。
マオ そう受け取ってくれましたか。もともとは、会いたくても会えない男女の話を書いていたんです。でも途中からは、ファンのみんなに対しての思いや、きっとファンのみんなは今こういうふうに思ってくれているんじゃないかと、そういうふうに頭の中で切り替わっていったんです。だからそう受け取ってもらえたのは、すごくうれしいです。
――歌詞に出てくる<声>は、ライブをイメージしたこととも受け取れます。
マオ いろんな受け取り方が出来ると思います。それに「ほうき星」みたいな曲で背中を押してほしい人もいれば、悲しかったり不安だったりした時に、思い切り泣きたい人もいると思うんです。泣きたい時って誰でもあるので、そういう時にハマる曲や歌詞ってどういうものなんだろうって考えて、この曲で思い切り泣いてもらってもいいなという気持ちも込めています。
もっとみんなに安心感を与えてあげられる存在に
――来年1月には『SID LIVE 2021 ~結成記念日配信ライブ~』を無観客で開催されます。オンラインでは、トークなど配信されていましたが。
Shinji トークなら今までもニコニコ生放送などで経験があるので大丈夫なんですけど、シドのライブを無観客でやるのは初めてのことなので楽しみです。ドキドキワクワクという感じです。
明希 すごく楽しみです。僕らならではの時間を作ることが出来たら良いなと思っています。新曲をどう交えてやっていこうか、内容を考えるのも楽しいです。
ゆうや 配信という部分は置いといても、シドでライブをやること自体が約1年ぶりになるんです。やりたいけどやれなかったライブもあったから、ライブはすごくやりたかったし、ライブというものはお客さんにとっても僕らにとっても大切な場所で、そこで関係性を繋いでいてくれた部分もあります。オンラインという形ではあるけど、久しぶりにみなさんの前でシドが演奏して歌うところを届けられるのは、すごくうれしいです。
――念願のライブになるわけですが、マオさんはいかがですか?
マオ そうですね、すごく楽しみです。久しぶりにセットリストを並べながら、すごくワクワクしました。「ああ、いつもこういう感じだったな」と、今までのツアーのことも思い出しました。とは言え2021年一発目のライブなので、バッチリ決めたいと思います。
――マオさんはツアーを思い出しながら、各地の美味しいものを取り寄せてエアでツアーを楽しんでいたそうですが。
マオ そうなんです(笑)。けっこうネットで買えるんですよね。ご当地ものを取り寄せて、「ツアー行きたいな~」と思いを馳せていました。シドもソロのツアーも中止になってしまったのは寂しいですけど、逆にツアーで各地のライブに行く予定だったみんなが、一挙に集結出来るのが今回の配信ライブの良さでもあります。どこに住んでいても見に来られて、海外からでも見られますから、ぜひ多くのみなさんに楽しんでほしいです。
――では最後に、みなさんの2021年の展望を教えてください。
明希 今の状況が収束してくれることを願っています。それこそ「ほうき星」に願いを込めるじゃないけど。でもどういう状況になろうと、僕らはしっかり前を向いて旗を振っていかなきゃいけない。何よりファンのみんなをがっかりさせたくない。そのために何をすれば良いか、常に考え続けたいという気持ちです。
ゆうや 自分たちが立てた計画が、その通りに出来る年になっていることを願うばかりです。計画したことが無駄にならないように進んで、「あの年は最悪だったな」って、笑っていられるような年にしたいです。
Shinji ツアーに行けるかどうかは今はまだ何とも言えないけど。やっぱり常に、いつでもライブが出来るように心づもりして、身体作りやギターの練習もして。準備を怠らずにその時を待とうかなと思います。
マオ 今決まっているのは1月の配信ライブ。あとは今年は延期になってしまった河口湖での『SID LIVE 2020 -Star Forest-』の振替公演がやれたらなと思っているので、まずは、この2つを楽しみにしていてほしいです。まだ先が見えない状況なので今はそれ以上何も確約出来ないですけど、常にちゃんと希望を見せてあげながら進んで行こうと思います。僕たちがちゃんとやっていることを見せていれば、ファンのみんなも安心してくれるだろうし。もっとみんなに、安心感を与えてあげられる存在になっていきたいです!
(おわり)
作品情報
シド
「ほうき星」
12月23日発売
【初回生産限定盤(CD+写真集)】 KSCL-3285/6 2273円+税
【通常盤(CD)】 KSCL-3287 1364円+税
<CD収録内容>
1. ほうき星
2. siren
3. 声色
<写真集>
全32ページ撮り下ろしブックレット付属
公演情報
2021年1月14日『SID LIVE 2021 ~結成記念日配信ライブ~』