妄想を膨らませて作ることもある
――今回印象的だった制作はありますか?
「春風」です。作詞作曲は、Soulifeのお二人です。欅坂46の「二人セゾン」などを手がけている方で、制作もとても面白かったです。歌詞に<恋のメモリー>とか<シルエット>といったワードが出てきて、ちょっとした良い意味での古さがある曲なのですが、その古さといろんなものが相まって、いい曲は生まれるんだなと気づきました。
――それが普遍性というところに繋がるんでしょうね。
本当にそうだと思います。
――家入さんご自身で作詞作曲したものも何曲かあって。スカのロックチューン「TOKYO」は、勝手に山口百恵さんっぽいかなと思いました。
そういう意識はなかったですけど、歌謡曲が好きで、幼いころから聴いて歌っているので、きっと自然に出ているのかもしれませんね。
「TOKYO」はアルバム制作の最後に作った曲ですけど、日常で体験したちょっとしたアクシデントがヒントになっています。例えば、渋谷ですごい勢いで人にぶつかられて、「すみませんの一言もなかったなぁ」とか、そんなちょっとしたことで妄想が膨らんで曲を書いたりして。
――普通はぶつかられたらムカついて気分が悪いだけだけど、そこでタダでは起きないと言うか。
もちろん「ムッ」としますよ。でもそういう負の感情も自分の心から生まれたもので、だからこういう曲ができるんですけど、その小さな憤りに対して逆襲するところまで妄想を膨らませることもあって。この曲も実際にきっかけがあって、そこから「絶対に見返してやる!」という妄想を膨らませて作りました。
――こういうスカっぽいビートのロックサウンドということもイメージしながら?
私は曲先なので、先にメロディを作ってそこに歌詞を乗せたんですけど。自分の想いを伝えるだけでストップしてしまっているアルバムにはしたくなかったので、「TOKYO」はライブの時にみんなと一緒に踊れる曲にしたいと思って。それで最後に<ラララ〜>と歌うところは、ライブで大合唱できるようにと作っています。
――日頃のムカついたことを、みんなで<ラララ〜>と歌って発散させちゃおうと。
そういうことですね。どんなことがあっても、最終的に笑えてしまえることが一番。実際にライブで歌うのが、今から楽しみです。
――「ありきたりですが」は、杉山勝彦さんの作詞作曲で、坂本昌行さんの編曲。前半はアコギと歌だけで、よりやさしく切なく。
坂本さんには、「四畳半感を出してほしい」とお願いをしました。今作は壮大なバラードが多かったので、もっと日常的な情景が浮かぶ曲も欲しくて。例えばペラペラのスカートを履いて近所のスーパーまで買い物にいって、相手はもういないんだけど家でその人が好きだったメニューをまた作ってしまったみたいなイメージです。
私が今まで出してきた曲では、<わたし>という一人称でラブソングを歌ったことがほとんどなくて。同じ杉山さんの「ずっと、ふたりで」も<僕>目線だったし。<わたし>という視点でこれだけ女性らしい内容を歌うのはほとんど初に近いので、すごく新鮮な曲です。
――どうやったら「ありきたりですが」という、絶妙なタイトルが浮かぶんでしょうね。
杉山さんは、乃木坂46さんなどに楽曲提供していて。杉山さんいわく、「アイドルのファンには、曲越しに彼女たちが日々苦悩・成長している姿に共感・共鳴してさらに応援を重ねて…という方たちが多いような気がするので、曲を作る側として曲が流れていってしまわないようにと意識する」そうです。だから、杭を打つことがとても上手なんです。
――杭を打つと言うのは、曲にキャッチーさを込めたり意外性やインパクトを与えることですね。
はい。<君とのごはんが恋しくて>と家入レオに歌わせたいと思った発想が、すごく面白いと思ったし、勉強になりました。杉山さんは、アイドル畑に限らずそういうことを常に考えていて、この曲でもタイトルしかり、そのことがすごく表れていますね。あと今回の制作で面白かったのは、本間昭光さんとのやりとりでした。