11日、都内でおこなわれた映画『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A』の完成披露上映会を取材に行ったときのこと。取材前に配られた資料に目を通していると、ふと一つのことが目に付いた。

 今回、映画のために用意された楽曲は、新たに作られたオープニングテーマ「笑顔ノ花」と、エンディングテーマ「春~spring~」の2曲。「春~spring~」は、00年代に活躍したロックバンドのHysteric Blueのヒットナンバーで、その印象的なメロディを聴いて、口ずさんでしまう人も多いのではないだろうか。

 この中で私の目に留まったのは、「笑顔ノ花」の作詞/作曲者のクレジット。テレビドラマ放映時にはクレジットを見逃していたのだが、そこには「ユカ」という名前が記されていた。

 「ユカ」というのは、2017年9月に解散したユニット・みみめめMIMIのメンバー、シンガーでコンポーザーだったタカオユキさんが、楽曲提供時に使用していた名前。彼女はこの映画の前作でも楽曲「きみにワルツ」を提供しており、本作は前作と同じ製作陣・スタッフという趣旨に共鳴したタカオユキさんが引退前に書き下ろした楽曲だという。

 改めて耳にすると、彼女らしいカラーが前面に感じられる楽曲である。ポップで華やかなハーモニーは、ラストシングル「晴レ晴レファンファーレ」を思わせる前ノリの8ビートから始まり、2コーラス目のサビ前は、ワルツのリズムがフッと入る。メロディやハーモニーと、楽曲のあちこちに「あの曲」と、みみめめMIMIの楽曲をふと思い出させるパターンも感じられる。

 <ここから始まる 新しいストーリー 笑顔の花 蝶になって スリーツーワン羽ばたいてく>

 こんな歌詞で始まる楽曲の冒頭。「スリーツーワン」などと調子を合わせるフレーズを入れるような作風もよく見かけたところだ。この楽曲が、試写会の会場で大勢の観衆の前で披露された瞬間、変な話だが、なぜかふと懐かしい友人に再会したような気持ちになった。

 シーンを離れてしまうと、忘れ去られてしまうのは致仕方のないことではあるが、こうして今改めて彼女の楽曲が人目に触れ、人々に明るい雰囲気を吹き込んだ様子を見て、文字どおり改めて「新しいストーリー」を予感させる清々しい気持ちを感じた。

 この楽曲自体を彼女自身の歌唱で聴くことが、もう叶わないのは寂しいところではあるが、その一方で、何か人々の心に残る意味があるものは、どんなことがあってもいつかまた人々の目の前に現れる、そんなことをつい思いたくなるような瞬間だった。【桂 伸也】

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