「コウノドリ」主題歌歌う謎多きシンガー、Uru 知られざる素顔
INTERVIEW

「コウノドリ」主題歌歌う謎多きシンガー、Uru 知られざる素顔


記者:桂泉晴名

撮影:

掲載:17年11月17日

読了時間:約11分

 2015年の第1シリーズに続き2017年10月に第2シリーズがスタートし、大きな感動を呼んでいる俳優の綾野剛主演のTBS系ドラマ『コウノドリ』。「生まれること、そして生きること」をテーマにしたこの作品を優しく彩っているのが、女性シンガーのUruが歌う「奇蹟」である。

 Uruは2013年にYouTubeチャンネルを立ちあげ、中島みゆきの「糸」やスキマスイッチの「奏」など、数々の名曲カバー動画をアップしてきた。その独特の優しく包み込むような歌声がネット上で話題となった。歌唱や演奏だけでなく、アレンジ、プログラミング、動画撮影、編集など1人でこなす。

 2016年にシングル「星の中の君」でメジャーデビューして以来、これまで4枚のシングルを発表。最新シングル「奇蹟」を8日に発売した。メディア露出は少なく、謎に包まれている面も多い彼女。一体どんなパーソナリティを持った女性なのか、彼女の知られざる素顔に迫った。

そのときに出せる私の全力で歌っていた

Uru「奇蹟」MV

――デビュー前はYouTubeでカバー曲をアップされて、100本を目標に活動されていたそうですね。

 ピアノをずっと習っていて、少しずつ色々な曲を弾くようになりました。歌も前から好きだったので、ちょっとずつ動画を作るようになりました。

――YouTubeの動画アップはご自身の名前を広げることもありつつ、修行の場という意味もあったのでしょうか。

 自分もアーティストになりたいと思っていながら、まだ知識がそこまでなかったので、歌の練習をしたいというのと、曲作りに関しての知識を学びたい、それをしながら自分の存在を知って頂きたい。願わくば、それを関係者の方に見て頂くきっかけにならないかな、という感じでした。

――選曲はどういう点がポイントでしたか?

 全部自分が歌いたいと思った曲です。昔の曲も今流行っている曲も、全部やってみたくて、あまり偏らないようにはしていました。圧倒的にバラードが多いのですが、私自身が普段聴くのはアップテンポの曲が多いので、たまにアップテンポの曲も混ぜたりしています。

――100本の動画を上げてみることによって、どんな力を獲得できましたか?

 私はピアノだったので、ずっと楽譜を見ながら弾いていて、最初コードという概念がなかったんです。でも、曲を作るにあたっては絶対コードをわかっていなければならないので。「この曲はこんなコードがのっているんだ」ということを勉強させてもらいながら歌っていました。簡単なものは知っていたんですけど、難しいコードは「こういう感じなんだ」というのが、やっとわかってきて。100本上げるまでの間に勉強できたと思います。

 でも、100曲の中にも、「まだこんなふうに歌えたんじゃないか」と思いながらも、アップした曲も何曲かあります。その時に出せる私の全力でいつも歌っていたものを出しているつもりです。ただ「何でもっとこんな感じに出来ないんだろう」と思って、更新をやめてしまったときもありました。だけど、いつも応援してくださっている方々に背中を押されて続けて来れました。

――映像は「Uruスタジオ」と呼ばれる、ご自身のスタジオから発信しているそうですね。

 白い机が作業スペースなんです。あそこでいつも作業をしています。端っこが好きなので、端にいます。歌うときだけ荷物をどかして、撮っていたんです。

――映像を拝見すると、すごく整理されている部屋でした。

 でもパソコンとか、いっぱい乗っていて。撮るときだけ。だから、カメラの横にゴチャってなっているんです(笑)。

――いろいろな曲をやることによって、ご自身の強みや弱みで改めて知ったことはありましたか?

 今日はダメだと思った日は、歌うのをやめることにしています。そのまま歌っても、そういう完成度のものしかできなくなってしまうので。気分が切り替わらないうちは、そのまま続けるのではなく、1回止めにして自分がいいときに、また戻るようにした方が効率もいいし。気持ちの入れ方もまったく変わってくるので。でも、歌わせて頂くカバー曲の歌詞が、ちょうど今の気持ちにフィッティングしていたら、そのまま歌ったりもしますけど。そういう自分との付き合い方というか、「こういう人間なんだな」というのは、やりながら見えてきましたね。

人見知りを治すために美容院を変えた

「奇蹟」通常盤

――いろいろな方の作品を歌うことで、様々なことを吸収したと思うのですが、それによってご自身の詞の中で書くことは変わりましたか?

 歌詞ののせ方とか、こういう風に始まって、ここで盛り上がって、こういう感じに終わるという定義があると思っていたんです。でもアーティストさんによって、それを冒頭に持ってくる方もいれば、最後に持ってくる方もいて。それぞれだから、本当に自分が表現したいように作ればいいんだというのがわかりました。

――ちなみに、今ご自身で作詞する際に大切にしていることは?

 これまで、たくさんタイアップをやらせて頂いているので、歌詞を書くときは制作サイドさんからも、要望をいただいたりしています。自分の書きたいことと、それを一緒に作ってくださっている方と1つの作品を作らなくてはいけないので、そういう意味で、曲だけになってもいけないし、かといって私の言いたいこと一色になってしまってもダメなので、そういうところのバランスを考えています。あと、曲や音楽は、自分の置かれている状況で受け止め方が絶対変わってくると思うので。あまり「こういう曲です」というのを主張しすぎないようにする。でも、なるべく聴いた後にふっと力が抜けるような感じで書けたらいいな、とは思っています。

――Uruさんは、ご自身をどういう風に捉えていますか?

 「もうちょっとできるのに、なんで本番になるとこんなに力を発揮できないんだろう」と前は思っていたんです。だけど、それが今の実力なんだな、というのを実感しました。たぶん、自信過剰だったんでしょうね。「もうちょっと力を発揮できたのに」じゃなくて、フルに発揮している実力がそこだというのが見えてきて。YouTubeの時もライブでもそうだけど、それをうまく底上げできていけたらいいな、と思っています。

 いろいろ「こうなんだろうな」「ああなんだろうな」と考えすぎてしまって。すごく臆病ですね。もう少しガン! とできたらいいなと思うんですけど。でも、そういう自分にしか書けない歌詞や歌もあるので、それは受け入れてはいます(笑)。

――石橋をたたいて渡るタイプですね。

 確実にそうです。

――人付き合いなど大変じゃないですか。

 苦手ですね。人見知りだし(笑)。ただ、それではこの仕事はできないのでいろいろ考えて、美容院を変えるようにしました。

――美容院を変えるんですか?

 髪の毛を触ってもらうのも、「あまり知らない人だと嫌だな」とずっと思っていたんです。でも人見知りを治したいと思ったときに、一人でいろいろ旅に出てみたり、美容院をたまに変えたりしています。そうすると知らない人から話しかけてくることに、ちょっと慣れました。

――意外に身近な存在ですよね。

 おなじみのお店だと、いつも「こういう感じにしてください」というのもわかってくれているので。それを変えると、また1から「こういう感じで」と言ったりしなくてはいけないですね。知らない人に初めて伝えるのは、いまだにすごくドキドキします(笑)。

誰にでも共通していることが書けたら

「奇蹟」初回限定版

――5枚目のシングル「奇蹟」はデビュー時から大切にしていた曲で、歌詞をドラマのために書き下ろしたそうですね。

 デビューのときから、この曲自体はあって。歌詞は違ったのですが、すごくいい曲だなと思っていました。

――どのような思いを込めて作詞をおこないましたか?

 ドラマはすごく感動的で、本当に毎日奇蹟が起こるような、すばらしい作品なので、最初は全部ポジティブな言葉でまとめていたんです。でも、スタッフさんとのやり取りの中で出産ってそれぞれいろいろなケースがあって、すべてが最初から明るい訳じゃないから、そういうところも書くべきだと話をして書き直したんですね。それで出だしはネガティブな感じから始まるんですが、だんだん変わっていく構成になっています。

――<青く小さな心>という詞から始まりますね。

 「青い」というのは、成熟していないというイメージですが、やはり親になるという瞬間は歓喜だけじゃなくて、「大丈夫かな」とか「ちょっと心配だな」とか、そういう気持ちもあると思うので。でも、いろいろなケースがあるけれど、誰にも共通していることが書けたら、なおさらいいなと考えていました。

――それが後半部分の<何も特別な事など無くてもいい>といったフレーズになるのかなと思います。

 出産経験のある友だちに聞いたのですが「本当に何もなくていいから、ただ元気でいてくれればいい」と言っていた事を、「そうだよな」と思って。私も「心だけは優しくあってほしい」とか、そういう願いはあるけれど、生きている上で、すごい賞を獲ったとか、特別な何かがあったみたいなことは、もちろん喜ばしいことなのですが、強くは望んでなくて。普通に元気に子どもらしく、のびのびと育っていって欲しいと思うので、自分の気持ちでもありますね。

――タイトルを「奇蹟」にしようと決めた理由は?

 何個か候補があったんですけど、私の中でも「たぶんこれだろうな」というのはあって。原作を読ませていただき、前クールのドラマを見て、これから始まるドラマのコンセプトをお聞きして。さらに出産した友だちも、「本当に奇蹟だと思う」と言っていたので、本当、そうだなと思って決めました。

――漢字は「奇跡」ではなく「奇蹟」なんですね。

 迷ったんですけど、「奇蹟」という方は人為的なものではなく、神様から授かったものとか、そういう意味合いがあるらしくて。また、私のデビューが決まったときに、この字を使ってキャッチコピーを作ってくださったので(笑)。レーベルの方が「奇蹟の歌声」というキャッチコピーを作ってくださったんです。

――この漢字は最初からUruさんと縁があったんですね。ちなみに最近「奇蹟」を感じたことはありますか。

 私はmiwaさんの曲(前クールの主題歌「あなたがここにいて抱きしめることができるなら」)をデビュー前にYouTubeで歌わせて頂いたんですけど、自分がその次に主題歌を歌うとは全く思っていなかったので。それこそ奇蹟だと思いました。

――そして「奇蹟」の編曲はポップマエストロ、冨田恵一さんが担当されています。今回一緒にやられていかがでしたか。

 事前に「冨田さんのアレンジは冨田さんらしい色がある」と伺っていたんですけど、大サビに向けて、盛り上がるところなど、すごく音の厚みも足して壮大な感じにして頂いたので、最初に聞いた時に「なるほど」とわかりました。ミックスの時に1回お会いしたのですが、すごい方なのに、とても気さくに話してくださって。冨田さんがいつも作業している椅子にも座らせてもらって。「ここで聴いた方が、真ん中で聴けるから」と。

――今までいろいろな方とタッグを組まれていて、ご自身の変化はどういうところにありましたか。

 これまでは自分でレコーディングをして、自分でテイクも選び、バックの部分も作っていたんです。だから人にテイクを選んでいただいて、違う方がアレンジをしてくださって、というのが全部重なって、みんなで1つの作品を作り上げるという感覚がなかった。

 そして1つのCDができるまでに、ジャケットの方向性を決めて写真を撮って、それをデザインしてくださる方がいる。曲を作って、レコーディングのディレクションをしてくださる方がいる。そうやって全部が合わさって、やっと1つの作品ができるんだなという、1曲に対してのありがたみを、今まで以上に感じるようになりました。

――今までは全部1人でできることはやろうと考えていた?

 チームプレイがすごく苦手なんです。だから人にお願いして、「自分はこう」と分担することができず、全部自分でやりたかったんですけど、それではダメで。やはり、いろいろな人の知恵が混ざり合って、よりいいものができあがったりもするので、やってみて納得することも多かったです。

母の優しさと強さを表せるように

『コウノドリ』主題歌「奇蹟」を歌うUru

――カップリング曲はmiwaさんの前クール主題歌のカバー「あなたがここにいて抱きしめることができるなら」で、ピアノと歌のみで構成されています。

 ピアノは清塚信也さん(『コウノドリ』のピアノテーマ、音楽監修を担当)に弾いていただいて、オケを使わずに、ピアノ1本で歌っています。

――ピアノ一本になったのはなぜですか?

 清塚さんが「ご一緒したい」といってくださったんです。それで自分のスタジオで歌ったものを、録っていただいた清塚さんのピアノと一緒にしました。

――エディットはどういう点にこだわりましたか?

 ニュアンスを大事にしています。レコーディングは自分で、ミックスはエンジニアさんと一緒にしたんですけど、柔らかい母性を感じる曲なので、ちょっと丸みがあったり。でも、母は強いので。優しさから強さまで幅広い演奏を清塚さんがして下さったので、そこに私も歌として、優しさと強さを表せるように、のせていきました。

 清塚さんのピアノは、どんなに小さな音も芯があって、すごいなと思いました。雰囲気も、盛り上がるところも、あがっていったりしていて。ピアノだけでもこんな風になるんだと思いましたね。

――YouTubeでカバーした当時と今回とで、歌うときの心境の違いはありましたか?

 清塚さんが先にピアノで土台を作ってくださっていたので、いい意味で引っ張られるようにして、自然に歌えました。あまり「ここはこういう風に歌う」と決めずに、出てくる感じのまま歌ったと思います。

――「奇蹟」はどんなシングルになったと思いますか?

 すごく愛されているドラマなので、自分がこの素敵な作品の主題歌にしていただいたことがまず奇蹟だと思います。そして『コウノドリ』の主題歌として歌詞は書かせていただいたのですが、全体としては親子の間に限らず、恋人や友人、家族にもたぶん通じるものがあるのではないかと感じています。「大事にしたい」とか、そういう人間ならではの深い思いが曲になったシングルではないかと思います。

【取材=桂泉晴名】

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