SPICY CHOCOLATEが11日に、ベストアルバム『スパイシーチョコレート BEST OF LOVE SONGS』をリリースした。収録楽曲の総ダウンロード総数は200万DL超え。まさに恋愛アンセムを揃えた究極のベスト盤と言える。SPICYは、日本人レゲエアーティストでは初となる第57回グラミー賞ベスト・レゲエ・アルバム部門に選出されるなど日本にレゲエ文化を浸透させた立役者の一人。そもそもジャマイカで生まれたレゲエは社会への反抗の音楽、いわゆるレベルミュージックであるとされているが、なぜ、彼らは恋愛ソングを作り続けているのか。その真意をリーダーのKATSUYUKI a.k.a.DJ CONTROLERに聞くとともに、同アルバムに収録された新曲で、自身初の告白ソング「君のことが好きだったんだ feat. BENI, Shuta Sueyoshi (AAA) & HAN-KUN」に参加したBENIとHAN-KUNを交えて、恋愛とは何か談義してもらった。【取材・撮影=木村陽仁】
真っ直ぐな気持ち、SPICYらしさ
――『スパイシーチョコレート BEST OF LOVE SONGS』の1曲目には、BENIさん、Shuta Sueyoshiさん(AAA)、HAN-KUNさんがフィーチャリングで参加した、新曲「君のことが好きだったんだ」が収録されています。この曲のテーマは?
KATSUYUKI これは「告白」がテーマです。実は、SPICY CHOCOLATEの作品には告白ソングがなくて。ベストアルバムに入る1曲なら今までにやったことのないテーマを、という思いがあって、それならば「告白」でと。この曲で「本当に君の事が好きだったんだ」ということを伝えられたらいいなと思い、どストレートなド直球な告白ソングをイメージして作りました。
――Sueyoshiさん、BENIさん、HAN-KUNさんにオファーしようとした理由は?
KATSUYUKI BENIさんとはずっと一緒に曲を作りたいなと思っていて、これまでも何回かアプローチをしていました。それが今回、ようやくタイミングが合って、ご一緒させてもらって。Sueyoshiさんは、ライブ映像や音源を聴いて良いなって思っていて。BENIさんに合う人として誰が良いかなって考えていたときに、Sueyoshiさんはどうかなって思って。それでSueyoshiさんにオファーしたらOKを頂いて。それで、レゲエテイストを出してもらえるアーティストは? って考えたら、やっぱりHAN-KUNにお願いしよう、ということでこの3人に決まりました。
――私感ですが、楽曲を聴いた印象は、テレビドラマの様に「一つの物語として成り立っている」ということでした。KATSUYUKIさんがドラマの脚本とプロデューサーで。作詞でHAN-KUNさんは参加されていますが、ドラマに合う配役を当てはめていったように。
KATSUYUKI 確かに一つの物語になっているので、全部でSPICY CHOCOLATEの中にある大きな物語と言えます。1曲1曲に一つのストーリーがある。まさしくその通りだと思います。特にこの曲に関しては、このアルバムのなかでも、今年のなかでも一番目玉になる曲だと思っていて。テーマもそうですし、曲調も、人選もそうです。どういう曲ならSPICYのベストアルバムに相応しいのか考え、そして皆で話し合って決めていきました。
――BENIさんはオファーを頂いたときどういう印象を受けましたか。
BENI 先ほどもKATSUYUKIさんが話していましたが、何回かお話は頂いてたんですけど、タイミングがなかなか合わなくて。ようやっと一緒に楽曲制作が出来て、しかも、ベストアルバムという大事なタイミングですし、凄く縁を感じました。
自分が今までやってきたような曲や、コラボレーションになかったような曲だったので、凄く楽しみで。今回は別々にレコーディングをしたんですけど、それにも関わらず凄くまとまったというか。本当に皆のカラーがしっかり出ていて。私にとってフィーチャリングも含めて今までにない経験だったので、凄く楽しめました。
――HAN-KUNさんはオファーを頂いたときはどうでしたか。
HAN-KUN それこそKATSUYUKIくんとはこれまでも色々と楽曲制作させて頂いたり、自身でもプロジェクトとして色んな方とやらせて頂いたことはありますが、たぶんこの先も、俺が自分で考えてできるコラボレーションじゃないというか。このアイデアは浮かばなかったというか。
例えばBENIさんも素晴らしいアーティストだし、Sueyoshiくんも素晴らしいアーティスト。自分もKATSUYUKIくんも含めて、ここで楽曲を作るっていうところには辿り着かなかったなと今でも思っていて。本当にKATSUYUKIくんのプロジェクトに関われて、その絵が見れて、実際にその歌を書き始めて、ボーカルを入れて、楽曲が一つになって、作品として出来上がったものを聴いたときに、何か客観的にその作品を聴けたというか。
凄く照れくさいけど、書き始めたときにKATSUYUKIくんが大切にしてた「真っすぐに伝えたいんだよね」っていう言葉が、歌詞の世界に描かれた楽曲になったのかなって凄く感じました。
――歌を聴いたときに、それぞれの個性が凄く出ていて素敵だなと思いました。
KATSUYUKI やっぱ3人それぞれ、トップクラスのアーティストですし、皆さん、忙しい方たちなのでどういうふうにしたらもっと良くなれるかなと。それと、皆さんそれぞれグループだったりソロで活動しているので、それとは違った一面を出すためにはどういうふうにしたら良いんだろうか、ということは凄く考えて作りました。
いつものBENIちゃんとは違うねっていうものをSPICY CHOCOLATEの中で見せたかったし、いつものHAN-KUNとは違うHAN-KUNだよね、いつものSueyoshiくんとは違うSueyoshiくんだよねっていうのをSPICY CHOCOLATEの中では表現を出来たらなって僕は思っていました。
――HAN-KUNさんはご自身の中でもグループがあって、ソロでもおやりになっていて。SPICY CHOCOLATEさんの中では、どのような可能性が引き出せると思っていますか?
HAN-KUN 今回のテーマで書き出した告白っていう事も、グループでも挑戦はするし、俺たちなり作品にしてきたけど、どちらかと言えば告白って言うよりかは恋愛とかかな。でもやっぱ、どこか真っすぐというか…、回りくどくなっちゃうし、素直に伝えられない。同じことでも、俺たちの場合は何か意地張って好きって言えなかったり。「好き」ってはっきりと言えないから、その言葉を<ギュッ>という表現にしてみたり、というのが俺たちにはあって。
しかも、俺たちが表現する歌詞の世界では、「2人の時間」のなかでも良くないことにフォーカスする事が凄く多いかもしれない。上手くいっていないときでも、そこを経たからこそ大切さに気づけたっていう気持ちは、皆で話し合って出来上がる作品が多いかなって思って。
でも、今回の作品もそうだけど、KATSUYUKIくんの作品って、すごく好き、会いたい、離れたくない、みたいに真っ直ぐで。このテーマの裏に隠されたメッセージみたいなものもあるかもしれないけど、俺が思うにKATSUYUKIくんの作品って裏がないっていうか。凄くKATSUYUKIくんの人間性が出てるかなっていうか。こう「好きだ」みたいな、「遊ぼうぜ」みたいな。
KATSUYUKI 「飲もうぜ!」みたいな(笑)。
HAN-KUN 「断んな! オス!」みたいな(笑)。そういう、すげーシンプルな事だと思うんで。そういう所が大きな違いかな。
3つの物語
――BENIさんは出来上がった歌詞やデモを聴いた時、どういう印象を受けましたか。
BENI 凄くピュアな気持ちに戻れたというか。歌も自然と…。歌っていてそういうモードになるような歌詞なので。声も普段の自分の作品とは少し違うトーンというか。みんながピュアって言っていたのかな? レコーディングでもテイクをいっぱい録ったんですけど、このテイクが一番ピュアだねって選ばれて。それって歌詞だったり、歌詞にはまっているメロディーが引き出してくれた声のトーンなんじゃないかなって思って。それはきっと今回の楽曲ならではのモノが生まれた気がしました。
――こうした一面もあるんだなと改めて気づかされた点はありますか?
BENI 具体的なシチュエーションや、ストーリーを描いている曲でもあるので、例えば私の歌うパートの歌詞に<二人が並ぶと兄弟みたいだねって言われて悔しい>というのがあるけど、確かにそれって、そうえばそうだったなっみたいな。
KATSUYUKI 蘇った?(笑)
BENI そう! 蘇って、あの時あんな事を言われて嫌だったなとか。本当にフラッシュバックをリアルでしちゃうような。凄くストレートな歌詞だから。そういう風に歌い方も自然に変わりましたね。
――歌い方が変わったと話していましたが、BENIさんのパートに<大切な友達だって>というのがあって。<だって>のところが感情が入っているという印象を受けたのですが、それはもともとのラインとしてあったのかなと。
HAN-KUN 感情が高ぶっているんじゃないですかね(笑)。
BENI 高ぶりましたよそれは(笑)。
――それぞれの特長や役割が見事にはまったと感じるのですが、歌い方のディレクションはされたのですか?
KATSUYUKI 歌い方に関していえば、何テイクかは録りましたね。でもそんなに注文はつけてないです。歌っていたなかで、こういう風にしてみてとか、ああいうのはどう? というのはありましたけど、基本は「ピュアに歌ってください」というぐらいでした。
――ある俳優さんにインタビューしたときに「涙を流す行為も、感情が高ぶってどうにもならない時に涙が溢れるので、涙の奥には表に出ない感情がある」ということを話されていました。そういう表に出ていない感情が、この歌にも感じました。
KATSUYUKI もちろん、アーティストさんに曲を入れてもらうときは皆さんそれぞれに感情を入れて歌ってもらっているので感情はたくさん入っていると思います。この曲に関しては、「君のことが好きだったんだ」という告白ソングで、ピュアな心、本当に好きだったんだという心を抱いてもらいながらも、それぞれボイシングしてもらったので。そういう想いが伝わって嬉しいです。
――オフィシャル動画インタビューでHAN-KUNさんも「内にこもっている感情を表現したかった」と話していますよね。
HAN-KUN そうですね。今、おっしゃって頂いたのでいうと、この作品には、「君」と「僕」がいて、更には「僕の心の声」という3つの声があるとおもうんですけど、僕がやらせてもらっているのはその「僕の心の声」で、内側の「葛藤」を表現しているパート。
だから最初の<嘘つけない 嘘つけない>のを繰り返しているのも、その「葛藤」を自分に、自問自答じゃないですけど、自分に言い聞かせて、自己解決して、それを勇気に変えて、言葉にして、相手に伝えようっていうところまでにいく、内側の物語を描いているというか、そういう角度でも聴いてもらえたらまた違った見え方ができるんじゃないかなと思います。
――BENIさんはSueyoshiさんが相手役というか「表の相手役」ですが、聴いたときにどういう印象を受けましたか。
BENI 出来上がってから初めて彼の声が入ったバージョンを聴いたんですけど、本当にSueyoshiくんもそうですし、HAN-KUNと私と3人の声が本当に、それぞれ違うカラーとして出ていて。
全然違う場所の、年齢男女問わず、色んな人達の中にある、きっと誰もが共通する言いたいのに言えないとか。伝えたいのに伝えられない悔しさとか、もやもやを代弁するイメージだったので、それが面白く、違う観点から表現されていて。
本当にこの曲を聴いた誰もが何かしら感じる、そうだったなとか、頑張って言おうとかというふうになれる、本当に良いバランスの楽曲が出来たなって思いました。
――オフィシャル動画インタビューでもBENIさんはこの曲について「皆が共感できる」と話していましたね。
BENI 思い返してそういう時あったのか、と思うこともそうですし…。やっぱりときめく気持ちって年齢とか関係ないじゃないですか。テレビ画面の向こうの人を見て可愛いってキュンとなったり。何か気持ちを照れくさくて伝えられないっていうのは、きっと、ずっと…。私もそういうのいまだにありますし。だから共感というか、何か心に伝わるものは絶対にあると思うんです。
それぞれの恋とは
――SPICY CHOCOLATEとして様々な恋愛ソングを提供されてきましたが、ずばり聞きます。恋とは何でしょうか。
KATSUYUKI 恋はBENIちゃんが言っていたみたいに「ときめく」こと。この人、何か素敵だな、魅力的だなって。男女沢山いるなかで、特定の人と出会いときめくっていうのはやっぱり素敵な事だと思う。それが恋だし。その人に対して自分の想いを伝えられるか、その人と結ばれるか、幸せになれるか、そのきっかけが恋だと思います。
――その恋をSPICY CHOCOLATEの楽曲としてどう落とし込んでいますか?
KATSUYUKI そういう人たちに対して、何か後押しできる曲だったり、「私好きって言ってみようかしら」とか、この人と一緒に幸せになって日常の何気ないモノを幸せと感じられるようにとか。何かそういう今から未来に向けて、出会いと、男女間、恋と愛と幸せ…最終的に僕は、皆が幸せになってもらいたい。そのきっかけ作りが曲だと思う。
――BENIさんはどうですか? 恋や愛は。
KATSUYUKI そもそも英語で恋ってなんていうんだろう。
BENI …ない。今、言おうと思ったんですけど、LOVEはLOVEだし、恋ってさっきおっしゃったように、恋は愛へと育つものかなって思いますね。きっかけであってその最初のときめく瞬間、期間、それがどういう風に流れ、どういう風に愛に育っていくかはその人によって違うんですけど。
HAN-KUN そう思ったら恋し合ってるって言わないですよね。愛し合ってるですもんね。だから恋が実ったときに愛に変わると思う。恋した人と恋し合えたときに愛と呼ぶみたいな事ですよね。だから…何が言いたいですかね、俺(笑)。
BENI 恋ってやっぱり一方通行なのかな。
HAN-KUN そうかも。恋は一方通行。片思いというか、一方通行の時の事を恋って言うんですかね。好きになってるときの。
KATSUYUKI でも両方、心なんだよね。漢字的には心が入っているということなんで、ハートなんですかね。今、話していて再認識できました。恋って英語もないもんね。
BENI ないと思います。LIKEとLOVE? でもちょっと違う。
KATSUYUKI 好きと恋はまた違うもんね。
BENI LIKEは友達にでも「LIKE YOU」って言えるし。
KATSUYUKI 独特な表現なのかもしれないですね。
――BENIさんは先月発売されたご自身の『COVERS THE CITY』で、日本語楽曲を英語訳にしたそうですが、そのインタビューの中で、英語に当てはまる言葉がない時はそれに近い表現になるように気を付けたと話されていましたが、今の話もそれに通じますか。
BENI そもそもですけど、恋と同じように告白もないんですよね。何か別の言葉で気持ちを伝えるという表現になっちゃう。誰もが認知している「告白」というワードは日本語独特だと思います。
KATSUYUKI 恋も告白も英語には変えられないと。
BENI もしこの作品を『COVERS―』として、私がカバーするとしたら凄く苦戦すると思います。何かがっちりはまる恋チックな告白というワードがきっと日本語でしかないから。見つからないかもしれないです。
――歌い方も変わってきますよね。
BENI そうですよね。自然にストレートなものになってくるというか。凄く秘めた、喉元まで来てるのに出せないっていうこの感情の溜め込んでる感じが出ないかもしれないですね。
――HAN-KUNさんにとって愛と恋とは。
HAN-KUN ちょっとわかんないですけど、歌詞にするとしたら絵具みたいな感じ。何か好きな人がいなかったりとか、付き合ってる人がいなかったりとか、誰かパートナーがいないときにそれはそれで楽しいけど、ちょっとグレーに感じる。空も、誰か好きな人が見つかっただけで明るくなるじゃないですか。自分の好きなように何か塗れるっていうか。
別に曇って白って決まってねーしみたいな。それぐらい自由に上がるって言い方すると安いですけど、何か純粋にハッピーになるから縛りなく、自分の感情をさらけ出せるというか。なんか別に恋が成就してる訳じゃないし、うまくいってる訳じゃないんだけも毎日が凄く楽しくなる。凄く好きなように毎日を彩れるのかなって感じがします。
――今もときめいたりとかもあるんですか。
HAN-KUN あります。
――それは恋とか愛ではなく?
HAN-KUN そうですね。新しい文化に触れたりとか、初めていく国とかもそうだし。感じます。すげー好きだって思う音楽とか、曲に出会えたときがやっぱ常にときめいている。刺激がめっちゃあるし。
――お三方も海外に行かれた経験があって、海外から見た日本はどう思いますか?
KATSUYUKI 僕が思うのは、それぞれの文化とかカルチャーがいっぱいあって、その国々によってそれぞれ違うと思うんですけど、僕はやっぱ思うのは、日本から外に行って、日本人として恥ずかしい行為はしちゃいけないなって。
――別のインタビューで日本の良さを伝えていきたいと話されていましたね。
KATSUYUKI 日本の良さもそうですね。自分たちが普段生活していないその国に行ってるので、まずはよその国のルールや、考え方に入ってから「日本はこういう国なんだよ」というふうに伝えていかないと、やっぱぎくしゃくしちゃう。そういったときに日本人として何か、こう良くいたいなって。僕の変なモラルのない行動で、日本人ってそんなんなんだって思われないようにしないといけないなって海外に行ったときに、そういうふうに思いました。
――音楽で考えた場合の違いはありますか。KATSUYUKIさんは、SPICY CHOCOLATEとして「THE REGGAE POWER」が第57回グラミー賞の最優秀レゲエ・アルバムにノミネートされる偉業を成し遂げています。世界の音楽として認められていますが。
KATSUYUKI 音楽は国境を越えるので、リズムの上に乗っけちゃえばみんな音で楽しむっていう事なので。そこは全く感じないです。
――日本語は海外からすると少し難しい言語だと思うのですが、それをどういうふうに海外に落とし込むかがテーマになるような。
KATSUYUKI 難しいですよね、それは。でも、グルーヴ感やバイブス、リズムが一番手っ取り早いんじゃないですかね。内容というよりも。僕らも海外のスペイン語の曲を細かくわかるかって言ったらわかんないし、それがタイ語だったり中国語だったり、英語にしてもじゃあ細かくまで全部理解できるかっていったら出来ない。けど、何かこの曲、リズムがかっこいいよねとか、この歌い方かっこいいよねとか、この音色が良いよねっていうのはそういう事だと思うんですよ。そこが僕らがやってる音楽なんだなって。
――HAN-KUNさんは昨年、渡米されて、ニューヨークやジャマイカなどに行かれていたそうですが、そこでの経験はプラスになりましたか?
HAN-KUN もちろん、凄く刺激になりました。短い期間だったんですけど、トニーダード・トバコという所にもいったけど、自分の中でそこは凄く刺激的で。めちゃくちゃ好きになったんですよ、そこの国の音楽が。恋したんですよ、それこそ。もろ楽しかったですね。
――過去のインタビューで「お客さんのニーズを考えることはエゴだということに気が付いた」という話をされていましたが、海外に行ったことでこの考え方になったのでしょうか。
HAN-KUN そこで音楽をやってることが既に楽しいから。これまでも、お客さんを楽しませたいって思っていたんだけど、いつしか「楽しませよう」、「楽しませなきゃいけない」「こうすれば楽しむだろう」みたいに考えていて、本当は相手の感覚だから、その人その人が自分で「楽しい」と決める空間なのに、自分が「こうしたら楽しいんだ」っていう自分のエゴをぶつけちゃっていて。
そもそも「これが楽しい」っていうのが分かっていたら、このゲーム自体が楽しくないし、そんな事わかる訳ないし。だけど、こういう仕事を長くやっていくと、何となく自分の決めつけが生まれちゃって。こういう事が喜んでくれるだろうっていうエゴが発生しちゃってたのかなって。
トニーダード・トバコに行って全く触れてこなかったジャンルに飛び込んだ時に、ただ単に楽しくて。踊って楽しくて、一緒に歌っていて楽しくて。こっち側とかあっち側とか関係なく「本当に楽しい」という感覚に戻れて。ピュアな、それこそ純愛に戻れて。それを持って帰ってこれた事によって、音楽をすることが本当に楽しくなりました。
――この曲はピュアですけど、そのときと同じような感覚に近いですか。
HAN-KUN そうですね。自分が音楽を始めるきっかけになったのは純粋に、その衝撃、好きだっていうふうに思えた真っすぐな想いだったと思うんで、この曲は恋愛観ですけど、まさにそういうところだと思います。素直に言っちゃうぐらいときめいちゃった感じの曲なんだと思います。
――改めて、感じ方はリスナーにとってそれぞれですが、アルバム全体を通してリスナーにこういうふうに聴いて欲しいなというのはありますか。
KATSUYUKI 聴いてもらえる人たちの元気とか、勇気とかそういうのを与えられたりとか、心が洗われたりとか、そういうきっかけになってもらえたらいいなって僕は思って作品を作っているので、そういうふうにハッピーになってもらえたらいいなって思います。
SPICYが恋愛ソングを作るわけ
――ところでレゲエミュージックですが、90年代に初めてレゲエに触れる機会がありまして、当時、まことしやかに言われていたのが、レゲエの特長である裏打ち「ツッタン、ツッタン」というリズムは、レゲエが生まれたジャマイカの一部地域でラジオの電波状況が悪くて、途切れ途切れに曲が聴こえたことが背景にあるということでした。
HAN-KUN ラジオの周波数や電波状況が悪いから「バン、バン」と音が切れて「ツッタン、ツッタン」で聴こえる…、たぶん、それは違うと思います(笑)。でも、ちょっとだけそういうことに近い説があって、普通にギター弾いてたんですけどテープディレイがそういう風に「ンチャ、ンチャ」と少し遅れを生んで、それで裏打ちが生まれたという説もあるんで。そういう話が回りまわってそうなったかもしれないですね。
――深くなりますが、その裏打ちのリズムはなぜ心地良く感じるんでしょうかね。
HAN-KUN ジャズの人たちはバックビート、例えばこんな感じに(実際に手を叩いてゆったりとしたBPM)で踊る。だから踊れる音になるって言ってバックビードが大事だっていうふうになったんだと思う。(実際に手を早く叩いて早いBPM)これじゃ踊れねーだろうと。これはレゲエと同じ事が言えるのかなって。
――ヒップホップよりも先にレゲエが先に生まれたんですよね。
HAN-KUN 正確なことはわからないですけど、ターンテーブルを使ってDJイングっていうんですかね、その走りが、レゲエの本場・ジャマイカの人がやったプレイが世界に流れて、というふうに聞きました。
――先ほどKATSUYUKIさんの話で「ハッピー」という言葉がありましたが、もともとレゲエはレベルミュージックでしたよね。それはヒップホップもそうですが、それをあえて恋愛として作っていくのは何か意図があるんでしょうか。
KATSUYUKI レベルミュージックとラブミュージックがあって、もちろん反逆・反骨精神だけじゃ成り立たないじゃないですか。そこに仲間との友情だったり、愛情だったりがないと戦えない。何か大きいものと戦うのもただ戦うだけじゃ。1人で戦うわけにもいかないし。そこには家族だったり信頼できる仲間が必要で、その時に何が必要かって考えたら絶対に愛だと。愛ってついて回るものだし。
――確かに恨み妬みが根本にある反骨精神だけでは、例え勝ち取ったとしても、また憎みが生まれるだけですもんね。KATSUYUKIさんが仰った通り、愛がないとダメですよね。
KATSUYUKI ダメですよね。だからレゲエも最初の方は、ただ反骨精神のことを歌っているだけじゃなく、やっぱり愛のことをちゃんと歌っている名曲も沢山ありますし。そこにたどり着くまで僕らも時間はかかった。やっぱり最初の頃は、反逆・反骨精神の方に、人なんか関係ねーよって、権力なんか関係ねーよって感じだったんですけどだんだん、家族の大切さ、周りに支えてくれる人の大切さを感じられるようになって、だんだん愛の表現をするようになってきて、SPICY CHOCOLATEのテーマも内容も変わってきて今に至っているって感じです。
――ジャパニーズレゲエの環境もこの数十年で変わってきました。
KATSUYUKI ジャパニーズレゲエって言っても出来たのが20数年ぐらい、その前まではレゲエっていうのは日本で浸透していなくて、ワールドミュージックの一つでしかなかった。ここ数年でそういうのが細分化されて、ヒップホップであれレゲエであれ日本でもよやく認められるようになってきたかなと。
僕らはその時代から一色淡一にされていた時代から戦ってきてるので、HAN-KUNもそうだし。ようやくレゲエっていうのが、世の中に日本の中で認められるようになって僕たちのやってる音楽も気に入ってもらえるようになってきて、良かったなって思ってます。
――そう考えても感慨深いですね。
KATSUYUKI そうですね。時間はかかりましたけど。やっていてよかった。やってたことは間違ってなかったなって。
――最後にBENIさんHAN-KUNさん今回のアルバムについてお願いします。
BENI 告白しましょう(笑)。
HAN-KUN 全く一緒だった(笑)。ビビるわー。
KATSUYUKI そこじゃあ、ハモってくれよ(笑)。
一同 爆笑