SPICY CHOCOLATE「感謝を忘れなければそこに答えがある」レゲエで示す想い
INTERVIEW

SPICY CHOCOLATE

「感謝を忘れなければそこに答えがある」レゲエで示す想い


記者:平吉賢治

撮影:平吉賢治

掲載:20年10月28日

読了時間:約11分

 KATSUYUKIa.k.a.DJ CONTROLER率いるREGGAE SOUND CREWのSPICY CHOCOLATEが、シングル「一度きりの feat. 寿君, APOLLO & RAY」を配信リリースした。本作は寿君、APOLLO、RAYをフィーチャリングし「様々な制約を受ける今の世の中で、一度きりの人生を胸張って誇れるように」という強い願いと決意が込められた楽曲。KATSUYUKIに制作エピソードとともに、今年初の無観客生配信となった『REGGAE JAPAN FESTIVAL'20 presented by 渋谷レゲエ祭』の感触や改めてレゲエという音楽の魅力について話を聞いた。【取材・撮影=平吉賢治】

悔いが残らないよう自分が思う方に舵を切る

――本作を聞いて、音からも歌詞のメッセージからも「頼もしい」という気持ちになりました。

 HIP HOPは韻を気をつけながら歌詞を考えるけど、レゲエもそうで歌詞の言葉に直球が多いですね。だから捉える方もキャッチャーみたいにメッセージをバンバン受け止めてくれて届いているのかなと思います。

――確かに韻を踏んでいる箇所は特にストレートに入ってきます。ところでステイホーム期間はどのようにお過ごしでしたか。

 ほぼやることないじゃないですか。だから、インプットの時間でしたね。本を読んだり映画を観たり、あとはこういう状況にならなければ普段やらないことです。例えばVRのゲームを初めてやってみたけど「こういう世界があるんだ」と思いました。今作もこういう状況だったから初めてリモートで制作しました。作詞やテーマを考えることなど僕も含めて3人のアーティストが参加してくれて、スタッフの何人か計7、8人くらいでオンラインで意見交換したりする過程を4、5回くらい作って最後の段階まで持っていってレコーディングだけ3人と集まった感じです。

 本来はみんな何度か集まって肌感で「こういうことやりたいよね」ってお互い目を見ながら意見を出し合ってきたのが今までのSPICY CHOCOLATEのスタイルだったけど、今回は人に会いづらくなったから初めてオンラインでやりました。

――確かにリモートでのやりとりが多かった時期かと思います。リモートも便利でいいと思いますが、やはりこうして対面でお話しをする空気感は大切だなと改めて感じます。

 本当ですよね。会った方がお互いの感覚がわかるじゃないですか? 作品を作る時も同じでお互いの肌感がわかりますよね。レゲエには「バイブス」と言われている言葉があるんです。バイブスはそれこそフィーリングや感覚で、レゲエはそういった感じ方、感覚を大切にする音楽なんです。だからお互いのバイブスを交換しながらなど、意見交換して歌詞が生まれたりメロディが出てきたりするんです。それをリモートでやったのが斬新で、過去初だったこともあり新鮮でした。

――リモートなどでやりとりする期間中、心境の変化などはありましたか。

 今まで世の中が味わったことのない時間だったから、今後どうなっていくのだろうという恐怖や不安はみんなが持っていると思うんです。そこで、僕らは何ができるんだろうという時に「元気を送りたいな」ということで、元気になれるようなメッセージを込めた歌を作りました。得体の知れない病原菌が世の中に蔓延した時に自分の身がどうなるのかというところで。だから<一度きりのLIFE>というのは、「人生一回しかないから自分達が自分の道を誇っていけるようにこのまま進んで行こうぜ」というのと、「自分達が生きた証を残せるように頑張ろうぜ」みたいなメッセージを込めた感じの曲です。

――曲中の<一度きりのLIFE>というフレーズを受け、改めて人生本当に一度きりなのだなと考えました。そんな一度きりの人生でやらないと後悔することは何だと思いますか。

 「自分がやりたいと思ったこと」だと思います。上手くいかないことなんていっぱいあると思うけど、一回しかないので悔いは残さない方がいいかなと。反省はするべきだと思うし、悔いが残らないように自分が思う方に舵を切った方がいいと僕は思います。

――例えば、自分の人生で決めたことに反対された場合はどうしたらいいでしょう。

 自分が思う方向に行くべきだと思います。もちろんアドバイスしてくれる人にもよると思います。その人がちゃんと正道を歩んできて正しい答えに導いてくれるなら、その人の言葉を絶対に学ぶべきだと思います。そうではなく、やったこともない人、結果も出してないのにアドバイスをしてくる人は世の中にたくさんいると思うんです。だから、ちゃんと自分が思い描いていることに対してアドバイスしてくれる人がその道を歩いてきて、ある程度の結果を出していて、その上で愛情を持って言ってくれるなら大いに受け入れた方がいいと思います。

 何もやらずに何も行動しない、空想だけのようなものは聞かなくていいと思います。自分を信じて自分の道を歩んだ方がいいんじゃないかなって。今作はそういうメッセージも込められている曲です。

――今仰った「聞かないでいい方のアドバイス」をしてくる人の見極め方などはある?

 その人の行動と吐き出す言葉だと思うんです。言うこととやっていることが違う方というのは世の中にたくさんいると思うので。毎日積み重ねている人と、その場だけで言っている人は一目瞭然だと思うので、そこの見極め方かなと。その力も養っていかなくちゃいけないと思うんですけど、全部が全部受け入れるんじゃなく、自分を信じる、自分を大切にするのが一番大事だと思います。

――確かに積み重ねてきた人の言葉は重いと感じます。

 毎日ずっと我慢と努力をしている人の方が重みがありますよね。

間違ってない道を歩んで自分達を誇りたい

――今年の『REGGAE JAPAN FESTIVAL'20 presented by 渋谷レゲエ祭』は特殊な形で開催されましたね。

 今年11回目なんですけど、こういった状況だからお客さんを入れての開催ができなかったんです。毎年ライブに来てもらって、例えばアーティストの汗が飛んだりお客さんがタオルを回してみんなの一体感で盛り上がったり、それってもアーティストとお客さんのグッドバイブスがあるから成り立って、お互いのバイブスの交換をする場所がライブという場だと思うんです。

 今年はコロナ禍で密になれないし、お客さんも入れられないというところでどうしようかと。そこで僕が一番初めに考えたのが、今年は解放しようと。無料でお客さんに観て頂いて、みんなが恐怖と不安を抱いて未来が見えなくなった時期だからこそ僕達アーティストには何ができるんだろうと思った時に、やはり夢や希望をたくさんの人達に送れないかということで、今年は無料にして一人でも多くの人に観てもらって、僕達が発する言葉やメロディで元気になってもらえたらいいなということで、「レゲエで元気を!~All for one~」というテーマを掲げて開催しました。

――感触はいかがでしたか。

 オンラインでやるのは初めてで全然雰囲気が違って大変な部分もありました。お客さんがいれば反応がわかるけどカメラに向かってやることなので普通のライブとは違いますし。あと、通常の「渋谷レゲエ祭」というタイトルではなく、「REGGAE JAPAN FESTIVAL」というタイトルに変えて、アーティストも数十組増やして全部で39組、過去最大の出演者に出演頂いて。大変な時期だからこそ、逆にこっちは押さなきゃいけないなと思って前に押した感じです。

――こういう時期だからこそ頼もしく感じます。

 みなさんに元気を送りたくてやっているのでそう思ってもらえたらありがたいです。

――そのライブで今作「一度きりの feat. 寿君, APOLLO & RAY」が初披露されましたが、フィーチャリングの3アーティストもフェスに出演されていました。今作の制作の着想は?

 まず一番目にきたのが「カラオケで歌ってもらいたい」と。SPICY CHOCOLATEは過去に100曲くらい作っていると思うんですけど、どちらかというと声が高かったり、カラオケだと歌が上手じゃないと歌いづらいかなという曲が多いんです。そのぶんアーティストの方々が自分の全歌唱力を注いでもの凄くいい作品になっているけど、それを一般の方やリスナーの方が簡単に真似できるかと言ったら、ちょっとしづらいかなと。

――歌唱スキルが高いぶん、歌うのが難しいと。

 そうです。でも今回は「カラオケで歌ってもらえるような曲を作りたいよね」というところから相談させてもらったんです。

――確かに、<一度きりのLIFE>という部分など、すぐに歌を覚えられました。

 あとは入りが<たまにはハメ外してもええやん>と、男同士昔からの友達がたまには一緒に肩を並べて飲んで、「ハメを外してもいいよな?」みたいなところから始めて。

――言葉の導入としても入りやすいです。

 そうなんです。そういうのが一つで、二つ目のテーマは自分達が歩んできた道で、間違っていない道を歩んで自分達を誇りたいなという。あとは自分達が生きた証を残したいと。生きた証と言っても、大それたことも残したいですけど、目の前の一つの親切でも僕は生きた証だと思うんです。男として生きた証を何か残せるように頑張ってお互い生きようぜというテーマも込められています。

――目の前の一つの親切でも生きた証、というのはハッとさせられます。

 本当はもっと大偉業を残して次の代まで生きた証を残せるのが男の夢ですけど、みなさんそれぞれあると思うんです。大きなことだけではなく、小さなことでも生きた証だと思うし。

――確かに、昔誰かに言われたちょっとした言葉がずっとポジティブに残るのもそうなのかなと感じます。

 それもその人が「生きた証」です。僕らは曲を作れば残るし、それが生きた証だと思うし、自分がいなくなった時に何が残っているのかなと考えた時に、それ以外にもみなさんがそれぞれ思ってもらって僕らがいるこの日本がよくなってもらえばいいなという想いも根底にはあります。

――本作について「様々な制約を受ける今の世の中で、一度きりの人生を――」とありますが、制約を受けるからこそ生まれてくるものもあるのでしょうか。

 あると思います。レゲエというのはもともとラブ&ピースなんですけど、もう片面にあるのはレベルミュージックと言われて、それは“反逆精神”や“反抗精神”という、何か強いものに対して打ち勝つぞという気持ちが込められて作られているんです。それこそボブ・マーリー(ジャマイカ出身のレゲエミュージシャン)もそうだし、ジャマイカは昔イギリスの植民地で長い間ずっと従わないといけないような環境がずっと長らく続いていて、そういう方達が作った音楽だから「いつか僕達も」という想いを持っていたと思いますし。そういうメッセージが込められているのがレゲエミュージックなんです。

――ロックなどで言ったら“パンクスピリット”のようなところにも通ずる?

 パンクとレゲエは通じるところもあると思います。“メッセージ”という意味ではそうなんですよね。

――なるほど。どちらかというとレゲエはラブ&ピースのイメージが強いと感じていました。

 裏打ちのリズムなどはそれを象徴していますよね。でも反対にレベルミュージックな部分もあって。

――確かにサウンド面でも、レゲエのダブの手法は攻めた感じがあります。

 音で攻めていく感じがあって気持ちいいですよね!

一度きりのLIFE、感謝の心を

――さて、本作の話に戻りますがフィーチャリングに寿君、APOLLOさん、RAYさんが加わっていますが、本作での感触はいかがでしたか。

 みんな気心知れている連中だから「ここ、こうやったらカッコよくなるんじゃないの?」とか、それぞれがよりよくしていく方法をアドバイスしながら制作できたので非常にいい感じに作り上げられたと思います。

――レコーディングは順調に?

 トントンとはいかなかったかな…作詞の部分で詰まったりなど、そういうのはけっこうありました。

――歌詞の<けど、心を殺す事に慣れんな>という部分は刺さるところでした。

 いいところ見ますね(笑)。そこに響いてくれているんだったら本当にありがたいです。

――<心を殺す>という状態、自分では思考停止状態とも捉えていた時期がありまして。

 ありますよね。みなさんあるじゃないですか? 逆にそれで響いてくれたらいいなということでそういう歌詞になっているんです。

――曲も歌詞も、お話もストンと入ってくるものがあります。こういう感覚をなんと言うのでしょうか…。

 それこそ“バイブス”ですよ(笑)。よかったです。

――なるほど(笑)。ところでジャケットについてですが、夜の路地裏のような場所に看板がある描写が印象的ですね。

 “スナック「ずっと」”がありますね。やっぱりカラオケで歌ってもらいたいというのもあって、どういうジャケットがいいかなと。いつもSPICY CHOCOLATEは女性のモデルの方にジャケットになってもらうことが多いんですけど、今回は「今を生きる人への応援歌」というテーマもあったので、「そんな雰囲気を感じられるのがいいね」というところで、このようなジャケットになりました。

――テーマに沿ったデザインなのですね。本作の<一度きりのLIFE>というフレーズの話で思うのですが「なぜ人生は一回しかないのか」と考えることがあります。

 生まれ変わり、来世も前世もあるかもしれないですけど、やっぱり今世で何を残せるか、自分達の道をちゃんと誇れるように頑張って歩いて行きたいですよね。

――もし、もう一度人生があるとしたら何をしますか?

 それはたぶん自分で決められないと思うんです。天が決めると思っているので、天がどういう道を与えてくれるのかなというところですね。自分がどうなりたいかというのは思い通りにいかないと思うから、天道に従うしかないなと思います。

――ちなみに、悩みなどはあるのでしょうか。

 常にあります。「どうやったらもっとよくなるだろう」と常に考えていますし。でも悩みはやっぱりみなさんそれぞれ持っていると思われますし、僕も悩みはあります。

――悩んでネガティブになりすぎた時はどうやって立ち直ればいいでしょうか。

 僕はネガティブになりすぎた時は、趣味として神社をまわるのが好きなので色々な神社に行ってそこにある何百年もそびえ立っている木に触って、自分の悪いものを出させてもらっていいものを吸い込んで帰ってくるというおこないをしています。

――確かに、古い大木から感じる“気”のようなものを感じる時があるような気がします。

 古い木は人生の大先輩じゃないですか? 生命があるものの中で最も長生きしていますし。そこにずっと佇んでいて、何万人、何百万人をそこに立ってずっと見てくれているというのはもの凄いパワーの塊だと思うんです。生命力も凄いし僕は好きなんです。だから何か悩んだりした時は神社に行って心を洗いにいくという。神社と温泉です。結局悩みといっても「何かが足りない」や「何かがほしい」など、欲で悩むことがたぶん多いと思うんです。そういう場合は心を洗いに行って。

 あとは感謝の気持ちですよね。この曲の中にも“感謝を忘れずに”というテーマも入っているんです。普通にご飯が食べられて水も火も使えて当たり前に生活できているけど、当たり前のことに対して感謝できているかと。忙しさや自分の悩み、エゴなど欲望に溺れていっちゃうと感謝が見えなくなっていっちゃって、迷うことによって悩んだり、自分の欲に対しての悩みが出てくると思うんですけど、感謝を忘れずに過ごしていればそこに答えがあると思うんです。

――こういった時代、「未来に向けて何が一番大事か」と最後にお聞きしようと思ったのですが今のが答えだと思いました。

 感謝です。一度きりのLIFE、感謝の心を忘れずに、というところです。

(おわり)

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平吉賢治

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