『反田恭平 ピアノ・リサイタル2017』の初日公演(撮影=青柳聡)

 ピアニストの反田恭平が8日、神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホールで全国縦断ツアー『反田恭平 ピアノ・リサイタル2017』の初日公演をおこなった。反田はクラシック音楽界の大きな期待が集まる22歳の若手ピアニスト。7月から9月にかけて全13公演がおこなわれる。今回のツアーは、ファンから集まったリクエストを踏まえたものと、反田が自身で選曲したものの2種のプログラムが用意されているが、川崎で演奏されたものは前者。反田は、多彩な表現を駆使して約2時間に及ぶプログラムで観客を魅了し続けた。その公演の模様を以下にレポートする。

ドラマティックに丁寧に演奏

(撮影=青柳聡)

 360度観客席に囲まれたステージに設置された、1台のピアノが何とも言えない存在感を発している。開演時間になると静寂に包まれ、反田が登場すると大きな拍手が起きた。ギッという反田が椅子を引く音が響いて、ステージが始まる。

 最初に演奏されたのは、『A.スクリャービン:幻想曲 Op.28』。低音部中心の導入から演奏が始まった。様子をうかがう様な滑り出しから、ダイナミクスを上げていく反田。ゆらゆら揺れるような展開では、センチメンタルな一面を除かせ、軽やかに進んでいく。一打一打を打ち込む様な仕草にも感情が現れていた。

 左手が目まぐるしく動く部分も、精確さを欠くことなく、ドラマティックかつ丁寧に弾きこなしていく。突然変わる音量のコントロールも見事で、エンディングは若干勿体ぶりながら、余韻を最後まで楽しめるかの様に着地した。

 反田は一度退場し、再度登場。大きな拍手が送られてから『C.ドビュッシー:喜びの島』を演奏。繊細なトリル奏法(2つの音を交互に細かく弾く)を中心に展開していった。あまりベースが鳴らない導入は前曲と好対照。

 続いては『C.ドビュッシー:ベルガマスク組曲より第3曲「月の光」』。あまりにも有名な楽曲。1音1音を確かめる様に、綺麗な音を響かしていく。全方位から眺めているオーディエンスもステージ上の反田に釘付けだった。

 そしてそれまでの静寂を切り裂くように軽快に走り出す。プログラム前半の最後は『R.シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化 Op.2』だった。力強いリズムと交互にくるメロウな展開の対比は優雅さを感じさせる。激しい右手の動きもぶれる事なく、明瞭な音を聴かせる反田。生き物が這うかのようなメロディラインや、繊細なタッチの中でも一瞬で立ち上がる音の圧力に驚かされた。

 ピアノ1台というミニマルな空間の中で、反田は楽章毎の表情を作り上げていく。4階席まで満員となった観客たちはスポットライトの下、たった一人ピアノに向かう反田にただ圧倒されていた。

 楽章間で手と額の汗を拭い、フィナーレへと上り詰める反田。小刻みなフレーズから流れるようなシーンへ、ただただ美しかった。テンションの浮き沈みを巧みに使い分けながら、反田は徐々に終幕へとなだれ込んでいく。そして最後の解決部分を叩くように弾き抜いて、右手を離すと、瞬間的に割れんばかりの拍手が起こった。ここで休憩が挟まれる。

F.ショパンの調べをダイナミックに

(撮影=青柳聡)

 音量的メリハリのある『F.ショパン:4つのマズルカ Op.10』の「第10番 変ロ長調 作品 17-1」から第2部がスタート。エンディングで軽く手を振り上げてから、メランコリックな展開が印象的な「第11番 ホ短調 作品 17-2」へと繋げる。音数少なめに聴かせた。続く「第12番 変イ長調 作品 17-3」は、シックな滑り出しから突然ダイナミクスが上がるロマンティックな演出。シルキーな細かい右手も印象的であった。

 ふっと消えるエンディングから「第13番 イ短調 作品 17-4」へ。静かな雰囲気の中で綺麗なメロディが映える。淡々とした中で反田の体が揺れ、楽曲に入り込んでいる様子が伝わってきた。滲んだ様な音が響いて演奏がエンディングへ。

 そして、ここからが今夜の山場だ。ほぼ間を置かずに反田は『F.ショパン:12の練習曲」の全楽章を演奏していく。まずは「第1曲 ハ長調 Op.10-1」。きらきら光る様な旋律で始まった。ピアノの端から端まで反田の指が踊る。「第2曲 イ短調 Op.10-2」になると、粒の立ったきめ細やかな半音階(音が半音で上がったり下がったりする)で観客を魅了した。

 「第3曲 ホ長調 Op.10-3」では牧歌的ながら、センチメンタルなメロディが心に染み込んでいく。中盤の不穏な雰囲気のパートもしっかり聴かせて、最後はゆっくりとペダルから足を離した。そして、不意を突くドライブ感のあるタッチで「第4曲 嬰ハ短調 Op.10-4」に移行。反田がロックミュージシャンの様に首を振って演奏するシーンもあった。

 その後、反田は「第5曲 変ト長調 Op.10-5」、「第6曲 変ホ短調 Op.10-6」を挟んでから、「第7曲 ハ長調 Op.10-7」で陰鬱なムードを作り出すと、さらに「第8曲 ヘ長調 Op.10-8」へと流れて行く。右手が定型のフレーズを繰り返しながら、左手でストーリーを展開させるという、従来とは逆の発想のこの曲だが余裕を持って披露した。会場は美しい音色のとりこだ。

 さらに、反田はシックに聴かせる「第9曲 ヘ短調 Op.10-9」、中盤からの激しい展開もしっかり弾き抜いた「第10曲 変イ長調 Op.10-10」、右手と左手のコンビネーションによって紡がれた音の塊に心を奪われた「第11曲 変ホ長調 Op.10-11」と快走。そして最終楽章である「第12曲 ハ短調 Op.10-12」。聴き馴染みのある楽曲で大団円に持ち込んでいった。演奏は最後まで安定感を保ったまま終止する。

 反田はアンコールにもしっかり応えた。楽曲は『献呈(シューマン/リスト編曲)』。反田はアンコールに相応しく、体を揺らしながら、ダイナミックな演奏を披露。大きな拍手が起こった。反田は360度、丁寧に頭を下げてから退場した。

(取材=小池直也)

セットリスト

・第1部

1.A.スクリャービン:幻想曲 Op.28
2.C.ドビュッシー:喜びの島
3.C.ドビュッシー:ベルガマスク組曲 第3曲「月の光」
4.R.シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化 Op.26

第1曲 アレグロ 変ロ長調
第2曲 ロマンス ト短調
第3曲 スケルツィーノ 変ロ長調
第4曲 間奏曲 変ホ短調
第5曲 フィナーレ 変ロ長調

・第2部

1.F.ショパン:4つのマズルカ Op.17

第10番 変ロ長調 作品 10-1
第11番 ホ短調 作品 10-2
第12番 変イ長調 作品 10-3
第13番 イ短調 作品 10-4

2.F.ショパン:12の練習曲 Op.10

第1曲 ハ長調 Op.10-1
第2曲 イ短調 Op.10-2
第3曲 ホ長調 Op.10-3
第4曲 嬰ハ短調 Op.10-4
第5曲 変ト長調 Op.10-5
第6曲 変ホ短調 Op.10-6
第7曲 ハ長調 Op.10-7
第8曲 ヘ長調 Op.10-8
第9曲 ヘ短調 Op.10-9
第10曲 変イ長調 Op.10-10
第11曲 変ホ長調 Op.10-11
第12曲 ハ短調 Op.10-12

・アンコール

献呈(シューマン/リスト編曲)

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