『アルバム レコ発 3days』最終公演のもよう(撮影=上山陽介)

 今年デビュー5周年を迎える2人組バンド「ハルカトミユキ」が6月30日、東京・SHIBUYA CLUB QUATTROで『アルバム レコ発 3days』最終公演を開催した。6月28日にリリースしたアルバム『溜息の断面図』の発売日に合わせて開催された3日連続公演。1日目にSHIBUYA WWW X でtacicaと、2日目はSHIBUYA WWWでperidotsと、3日目はきのこ帝国を迎えたツーマンライブであり、ニューアルバムの曲をいち早く披露した。情感あふれる歌声と情熱的な演奏で熱い夜を演出。今回は最終日、きのこ帝国とのライブをレポートする。

同世代の絆、きのこ帝国

きのこ帝国(撮影=上山陽介)

 ツーマン最終日、最初のステージはきのこ帝国。水色のライトに照らされたステージに現れた4人。幻想的な「FLOWER GIRL」からこの日のステージをスタート。繊細で浮遊感のある佐藤千亜妃(Vo、Gt)の歌声が響き渡る。曲はゆったりとしたテンポから、次第に激しさを増していきオーディエンスもその世界観に酔いしれていた。そして、谷口滋昭(Ba)のメランコリックなベースから始まるアルバム『愛のゆくえ』収録曲「MOON WALK」や、会場に設置されたミラーボールが回る中で、ダンスナンバー「LAST DANCE」を演奏。

 ライブ中盤、佐藤がハルカトミユキの新譜についても言及、「すごい盤がまた来たなと思っていて。ハルカちゃんの詞の世界がまた更新されているというか、深いところまで行っている」と絶賛した。さらに、ハルカの歌声に磨きがかかったこと、また今回ミユキがたくさん曲を書くことによってアルバムが多彩になっていて、この作品からいろいろなこと感じたと語り、「同世代としても、1シンガーとしてもすごく尊敬している2人組なので、これからも仲良くしてもらえたらなと思っております」と同世代の仲間にメッセージを送った。

 ライブ後半には、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の主題歌となった「愛のゆくえ」を演奏。映画のストーリーに沿って母が亡くなり、残された家族の視点で書かれたというこの曲では、無垢な佐藤の歌声が切なさを際立たせる。ラストは音のシャワーを浴びせるようなギターサウンドが印象的な「東京」で締めくくり、あふれんばかりの情熱がほとばしるステージを見せた。

東京でのツーマンをやっと実現できた

ハルカ(Vo、Gt)(撮影=上山陽介)

 水中にいるような感覚をもたらすSEが流れる中、バンドメンバー、そしてミユキ(Key、Cho)とハルカ(Vo、Gt)がステージに登場。「ハルカトミユキです。今日は一緒に楽しんでいきましょう」と挨拶し、ニューアルバム1曲目の「わらべうた」からスタート。骨太なロックサウンドをミユキのキーボードがエレクトリカルに彩る。

 そして「2マン3days、3日目。今日も最後までよろしくお願いします」と告げて、軽やかなメロディにのせて自分の孤独と向き合うような言葉を紡ぐ「世界」へ。それまで何かに立ち向かうように厳しさを帯びた表情を見せていたハルカだが、歌う中で柔らかな笑顔へと変わっていく。ステージに向かって手を伸ばすオーディエンスに対して、ハルカは「クアトロ全員、一緒に歌ってください」呼びかけ、シンガロングで会場の一体感が高まる。

 MCでは「ずっとツーマンをやりたかったのですが、東京では一度もできなくて。やっとこうしてレコ発という、こんなすばらしい、めでたい日にツーマンさせてもらえて、本当に光栄です」と喜びを語った。

 次に演奏したのは、緊張感あふれるドラムから始まる「Pain」。ハルカとミユキの2人のぴったり寄り添うハーモニーは、愛しい人に向けてのやり場のない思いを描いた歌詞をていねいに表現していく。続いて披露された2ndミニアルバム『LIFE』に収録されている「春の雨」では、ギターを置いて歌に集中するハルカ。涼やかなボーカルを響かせながら、歌声だけでなく、表情の変化や細やかな仕草でも曲の世界を伝えた。舞台女優として経験を積んだ彼女だからこそ、多彩な表現ができるのだと感じさせた。

 中盤のMCで、今日の対バン相手であるきのこ帝国との出会いをハルカが語る。池袋の小さなライブハウスで初めてライブを見て、ボーカルの佐藤千亜妃を「なんてきれいな男の子なんだろう」と思ったこと。また、彼女たちと最初に会ったのは6年以上前だったが、自分たちも年代的にすっかり大人になったことを振り返った。

 そして「大人だからと言って割り切れないこともいっぱいあって、だけど子どもみたいに甘えることもできなくて。心のよりどころみたいなものがなくなって、すごくつらい瞬間がここ数年、最近よくあって。それをそのまま描いた歌です」と紹介したのは、バラード曲「宝物」。<行かないで 急がなくたっていい 時がくるまで気づかないような宝物がある>と魂を込めて歌うハルカ。

 そんなハルカのリアルな呼吸を感じながら、包み込むようにピアノを奏でるミユキ。思わず人がいるのを忘れさせてしまうほど歌の世界に引きこんでいき、オーディエンスは2人の引力に静まりかえる。余韻に浸った後、夢からさめたようにフロアから拍手が沸き起こった。

 ハルカは「今回の『溜息の断面図』というアルバムで、当初からずっとやりたかったことがやっとできた、本当に嘘のないアルバムが作れたと思っています。その中から1曲、本当にいいたいことを詰め込んだ1曲をやりたいと思います」と告げ、今回のアルバムで最初にミユキが作曲し、ハルカが「こういうことをやってもいいんだ」と、自分の気持ちを開放するきかっけとなったナンバー「終わりの始まり」を披露。ベースのループから始まるこの曲は、まるでフツフツとマグマが湧いてきて、ギターがサイレンのように響き渡り、サビで火山が爆発するように一気に感情が開放される。そんな圧倒的な演奏に、オーディエンスは大きな歓声で応えた。

あなたの怒りをぶつけてほしい

ミユキ(Key、Cho)(撮影=上山陽介)

 ここまでMCのなかったミユキが、オーディエンスに語りかける。「アルバムの作品で、私は言葉にできない怒りを音に詰め込んだので、今日はあなたの怒りを私たちにぜひ、ぶつけてもらいたいんですが、ぶつけてくれますか?」飼いならされて、自分の意思を持てなくなる愚かさに決別することを歌った曲「Stand Up, Baby」。

 ハルカとミユキ、そして野村陽一郎(Gt)、砂山淳一(Ba)、城戸紘志(Dr)の5人の音がぶつかり合いながらも、どんどんテンションを上げ高まっていく。バンドにあこがれて始めたというハルカトミユキだが、このライブではバンドとして1つの塊となっていて、何よりも音で強く結ばれていることを感じさせた。

 「振り出しに戻る」でミユキは「もっともっと」とフロアに向かってクラップを促し、髪を振り乱してヘドバンしながらキーボードを奏でる。「最後の歌です」とハルカはギターをかき鳴らす。疾走感あふれる「ニュートンの林檎」でオーディエンスは力の限りステージに向かって叫び、ボルテージの上がったまま本編は終了した。

 アンコールを受け、再びメンバーがステージに。そして、バンドメンバーを紹介。「今回のアルバムは、このバンドメンバーですべてレコーディングしました」と説明し、アルバム制作の話題へと移る。「(野村)陽一郎さんが厳しくて、結構しごかれながら、たくさん曲を書いたんですが、どんどんボツにされながら、それでも必死に作ったアルバムです」と説明するハルカに「はい」と大きくうなずくミユキ。2人の苦労に対して、「今回、ハルカの書いてくる歌詞が本当にすごくパワーを持っていて。その歌詞をのっける器としてのメロディという意味で、歌詞に耐えるだけの器をどうしても2人に生んで欲しかった」と野村はその意図を語る。最終的には40曲くらいをボツにしたという。そんな状況で残った12曲だからこそ、どの曲も他に埋もれない強い力を持っているのだろう。

 またハルカはツーマン最終日に登場してくれたきのこ帝国に対し「ジャンルとかを飛び越えて、きのこ帝国は今の音楽シーンに、同じ年代にいてくれて、本当によかったって思っている。本当にありがとうと思える存在です。勝手に戦友のように思っています」とメッセージを送る。

 「最後に1曲やらせてもらいます」と告げて、鐘の音が響きわたり2ndアルバム『LOVELESS/ARTLESS』収録の「奇跡を祈ることはもうしない」をプレイ。

 9月には日比谷野外音楽堂でのライブが控えているハルカトミユキ。今回演奏されなかった曲も含め、野外という環境でニューアルバム曲がどんな景色を見せてくれるのか期待したい。(取材=桂泉晴名)

セットリスト

01.わらべうた
02.世界
03.ドライアイス
04.Pain
05.春の雨
06.宝物(2人弾き語り)
07.終わりの始まり
08.Stand Up,Baby
09.振り出しに戻る
10.ニュートンの林檎

ENCORE

EN.奇跡を祈ることはもうしない

【LIVE情報】

+5th Anniversary SPECIAL
9.2(土) 日比谷野外大音楽堂
open 17:15 / start 18:00
info:DISK GARAGE 050-5533-0888
チケット発売中

■メモリアルチケット限定指定席(特典付) 3500円(税込)
*特典:ケース入オリジナルチケット/当日引換
*限定指定席は規定枚数に達し次第販売終了いたします。
■自由席 3000円(税込)
*小学生以下入場無料。ただし、指定席でお席が必要な場合はチケットが必要。

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