ハルカトミユキ「自分が救われたかった」葛藤から導き出した答え
INTERVIEW

ハルカトミユキ

「自分が救われたかった」葛藤から導き出した答え


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:21年09月01日

読了時間:約9分

 ハルカトミユキが8月25日、通算4枚目となるニューアルバム『明日は晴れるよ』をリリースした。ハルカトミユキは2012年にインディーズデビュー。2枚のEPをリリースし、その後2013年11月に1stフルアルバム『シアノタイプ』でメジャーデビュー。2019年5月には初のベストアルバム『BEST 2012-2019』をリリース。2020年6月に4th EP「最愛の不要品」をリリースしコンスタントに作品を発表してきた。ニューアルバム『明日は晴れるよ』は曲を聴いている人に寄り添って「歌っている自分たちも戦っているから、一緒に頑張ろう!」という気持ちを込めた作品で、ハルカトミユキの音楽性の幅をさらに広げた1枚に仕上がった。インタビューでは「自分が救われたかった」と話す2人にアルバム制作で考えていたことなど、多岐に亘り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

希望を歌いたい

『明日は晴れるよ』ジャケ写

――『明日は晴れるよ』は明るいアルバムになりましたね。

ハルカ コロナ禍ということもあり、アルバムを作るとすればきっと「怒り」をテーマとした作品になるんじゃないかなと思っていました。でも、そうならなかったのはみんなが落ち込んでいる時に怒りではないなと思って。『溜息の断面図』でそういった感情は書き切った感がありましたし、わかりやすく希望を歌いたい、という気持ちになれたんです。

ミユキ 昨年は自分と向き合うことも多くなり、人と接する機会もなくなっていくにつれ、自分の感情もなくなっていくような感覚がありました。その中で今回、制作スタッフが一新したんですけど、ハルカトミユキでラブソングや応援歌を作ったらどうなるのかという提案があって、私もその案にすごく興味がわきました。

――自分と向き合って変化があったんですね。

ミユキ 人と話さなくなると自分だけが不安を抱えているんじゃないか、とか考えるようになり、もはや「怒り」をテーマにする気力もなくなり、自分が救われるような曲を作りたい、自然とそういう気持ちになっていきました。余談なんですけど、コロナ禍になる前に断捨離でテレビを処分してしまったんです。ニュースなどはパソコンで調べれば良いかなと思ったんですけど、人と話さなくなった事で、調べることもあまりしなくなって、テレビ捨てなければ良かったと後悔してます(笑)。

ハルカ ミユキはテレビを観てないから、みんなが知っていることを知らないんです。ずっと「コロナ禍」のことを「コロナ渦」と言っていて...。

ミユキ 音声で聞いてないから、ずっと「渦」だと勘違いしていて(笑)。

――(笑)。ミュージシャンとしてコロナ禍で不安もありましたよね?

ハルカ はい。ライブも出来なかったし、アルバムを作れるのかというのも不透明だったので、私たちって何をしているんだろう、という気持ちになりました。最初はステイホームでみんな同じだったので、そうでもなかったのですが、周りが徐々に動き出してから、だんだん私の気持ちが落ちてしまって...。その中で考えたのがどんなことでも良いからお客さんとコミュニケーションを取りたいと思い、ミユキや事務所に相談したんです。そこからやっと動き出せるようになって、ミユキと同じように私も自分が救われたかったというのはありました。

――1曲目の「RAINY」はラブソングですが、どのような曲になりましたか。

ハルカ ラブソングを意識的に書いてみようと思ったことがこれまでほとんどなくて。女性目線のリアルなラブソングは書いたことがなかったので、今回の作り方がすごく新鮮でした。この曲が出来てから他の曲も短期間で作ったのですが、一気に書けました。天気に関する言葉がどの曲にも散りばめられていて、今は雨が降っているけど、いつかは絶対晴れるよと、自分たちもそうだしみんなにも「大丈夫だよ」と、ラブソングとしても応援歌としても明日は晴れるよ、ということが言いたかったので、1曲目にしたというのもあります。

――ミユキさんから見て、ハルカさんの書くラブソングはどのように写りましたか。

ミユキ これまでも私の中ではラブソングだと感じる曲はいくつかありました。でも、今までは僕という一人称で中性的な感じで表現していたのですが、「鳴らない電話」は僕と表現されていますが、すごく女性的に書かれていたり、対象となる人物が明確に描かれているのはこれまでとは違うと感じました。なので歌詞がすごくわかりやすくなっていて。

カラオケでみんなに歌って欲しい

ハルカトミユキ

――今作はすごくポップなアルバムだと思うんですけど、これまではあまりポップスというものに興味は薄かった?

ハルカ 知らず知らずに避けていたところがあったかも知れません。でも今回はメッセージがより伝わる方法はないかと考えて、ポップな方向に気持ちが向かいました。

――過去には音楽性で担当の方と揉めたこともあったみたいですね。

ハルカ 当時のディレクターさんとぶつかりましたね。よく曲が暗いとか、歌詞についても言われたりして、私もそれに反発して(笑)。でも、今ならそのディレクターさんがやりたかったこともわかる気がしています。

――ポップスもいいなと思えたきっかけは?

ハルカ 先程もお話したコロナ禍で考えた事が大きかったです。音楽をやめようか、事務所にもずっといられるのか、など色んな事を考えました。その中で今のレーベルの方とお話ししていた時に、カラオケでもっと歌ってもらうにはどうしたらいいのか、という話題になって。私もデビュー当初からカラオケでみんなに歌って欲しいと思っていたのですが、当時の私たちの曲はカラオケで気軽に歌ってもらうには難しい曲ばかりで。そこで自己矛盾を感じて、ならばカラオケで歌えるように作ればいいんじゃないかと思ったんです。だからといって作りたくないものを作るのではなく、自分が作りたいものの中で導き出した答えでした。

――過去のインタビューで「人に興味があまりない」とお話ししていましたが、その心境にも変化が?

ハルカ 当時と比べたらちょっとは変わったかもしれないです。どの時代も私は届くと思って曲は書いていました。私のように腹を割って人と話すのが得意ではない人や、感情表現が豊かでどんな人とでも盛り上がれる人、悲しい時に泣いたりできる人ばかりではないんです。会社に勤めている方も言いたいことはあるけれどそれを飲み込んで生きている人の方が多くて。社会的には声が大きい人の方が通ってしまう傾向があって、それが現実じゃないですか。本当はグッと堪えて我慢している人が見えないところに沢山いると思っていて、そこに対して歌いたかったので、ちょっと毒を吐いたり、後ろ向きなことを言ってみたりしていて。

 でも、音楽だったらこういうことを言ってもいい、発散してもいいんだ、ということを当時は伝えたかったんです。当時はそれを言葉でうまく説明できなくて、ディレクターさんとぶつかって。自分の考えを抑え込んで空元気で歌わなければいけないのか、という葛藤がありました。根本的には変わっていないんですけど、今ならもっとわかりやすくできるかもしれないと思っていて、人とのコミュニケーションの取り方も昔よりも成長したんじゃないかと思っています。

――ミユキさんもカラオケというのは共通認識としてある?

ミユキ もともとハルカに誘われるがままに音楽をやっていて、楽しいという気持ちで活動していて。途中からハルカがスランプになってしまい、私も曲を書くようになりました。そこから作品をリリースする度に半々の割合で曲を担当しているんですけど、私の場合は初期衝動のまま曲を書いている感じもあって、カラオケを意識したことはないんです。でも、「17才」という曲がアニメのタイアップだったこともあり、まずはハルカが歌いやすい曲というのが大前提としてあるなかで、「皆さんに歌ってもらいたい」という想いも生まれました。

――作曲を始めてから月日が経ちましたが、ご自身のスタイルが出来たと感じていますか。

ミユキ 今回、ラブソングと応援歌、そこに天気の要素も入れるというコンセプトがあって、それぞれのカラーが出た曲が収録出来たと感じています。なので、今回アルバムのために作った曲は全て余す事なく入っていて。バリエーションもあって、それはカラーがしっかりあるからできた事なのかなと思っています。

――その中で挑戦だった曲も?

ミユキ 私の中で「鳴らない電話」は挑戦でした。シティポップの要素もある楽曲で、今チャートにもけっこう多く見られるジャンルということもあり、聴いてもらいやすい環境だと思うんです。でも、その反面埋もれてしまう懸念もあるのですが敢えて挑戦してみたい曲調でした。編曲をしていただいた安原兵衛さんはデビューからアレンジして頂いていて、ハルカトミユキのことをよく知ってくれています。安原さんとの作業は、私がアレンジしたものやリファレンスの音源をもとにブラッシュアップしてもらう感じでアレンジしていただいているので、ある程度ゴールが見えています。

――安原さんに加えて新たに坂本裕介さんと江畑兵衛さんが参加されていますね。

ミユキ 初めてお二人にアレンジしていただいたんですけど、初めてということもあってどんな仕上がりになるのかワクワクしてました。お任せするところはお任せして、J-POPとして成立させるためにはどうしたら良いのか、というのを軸に考えていただいたんですけど、戻ってくる音源を聴くのがすごく楽しかったです。

ユーミンを沢山聴いた

ハルカトミユキ

――アレンジで「あの場所で」という曲に子どもの声、街の雑踏がSEとして入っているのが印象的でした。

ハルカ この曲だけアルバムを制作するちょっと前に作っていた曲で、他の曲と時系列が違うんです。なので、アルバムのテーマもなくて、井上陽水さんをイメージしたフォーキーな曲を作りたいと思って制作した曲でした。なので、言葉を詰めて語りっぽく歌ってみたりしていて。歌詞は自分の幼い頃の記憶、公園で遊んでいた時のことを思い出したり、大人になって後悔している事を綴った曲でもあるので、最後に子どもたちの声を入れたら、より楽曲が印象的な物になるなと思いいれました。

――どこか、人が亡くなる瞬間といいますか、走馬灯のような要素も感じたのですが。

ハルカ 誰かが亡くなって書いた曲ではないのですが、大切な人がいなくなってしまう、あの時なぜ伝える事ができなかったんだろうという後悔みたいなものは、幼い自分とリンクして、あの時だからこそ言えたこととか含めて書いたところもあります。

――ハルカさんはどんな挑戦がありましたか。

ハルカ 私は歌詞です。今回作詞をするにあたってユーミン(松任谷由実)さんを沢山聴きました。これまでも70年代、80年代の楽曲、中島みゆきさんや吉田拓郎さんも大好きで聴いていました。でも、その中でユーミンさんはまた違った感覚があって。もちろん以前からユーミンさんの音楽も聴いていましたがより意識して聴いてみると、こういうところが人の心を掴むんだ!というのがわかって。加えてMr.Childrenさんの歌詞も熟読しました。尖っている歌詞もあれば、生々しいリアルな歌詞もあることを知って。こんなにも他のアーティストの歌詞を読み解いたことはなかったのですが、良い要素を取り入れたかったんです。

――その要素が出た歌詞を挙げるとしたら?

ハルカ 「鳴らない電話」の<浮かれたピアスをゆっくりと外し ポケットに突っ込んで 握ってた>のところは私の中ではユーミンさんを感じさせるフレーズになったなと思っていて。敢えて女性的な心情を具体的な物に落とし込んでみました。おそらくユーミンさんだったらそれをわざと落として行ったりすると思うんですけど、ユーミンさんの歌詞だと、それが誇張された表現だったとしても恋愛中だとやってしまう可能性もあるなと思えるんです。

――さて、リリースツアーも9月11日の名古屋を皮切りに行われますがどんなライブになりそうですか。

ハルカ ツアーはバンド編成ではなく2人で行います。CD音源よりも言葉が伝わるライブになるんじゃないかなと思います。コロナの影響もまだまだあるので密集してできるわけではないので、だからこそ歌詞がより届いたら良いなという気持ちでツアーを回り、最後には「晴れるよ」、ということを感じてもらえるライブにしたいです。

ミユキ アルバム『明日は晴れるよ』はバンドアレンジですが、今回のライブでは2人で出来るアレンジになるので、またアルバムとは別の世界観で楽しんでもらえるんじゃないかなと思っています。楽しみにしていて下さい!

(おわり)

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村上順一
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