デビュー5周年を記念する『+5th Anniversary SPECIAL』アニバーサリーライブを開催したハルカトミユキ(撮影=上山陽介)

 2人組バンドのハルカトミユキが2日、東京・日比谷野外大音楽堂でデビュー5周年を記念する『+5th Anniversary SPECIAL』アニバーサリーライブを開催。日比谷野音は、3年連続での公演をおこなっている彼女たちにとって特別な場所。バンドメンバーとして、最新アルバム『溜息の断面図』のレコーディングメンバーでもある野村陽一郎(Gt)、砂山淳一(Ba)、城戸紘志(Dr)が2人を支える。この日は映画『ゆらり』の主題歌で11月3日に配信リリースされる新曲「手紙」など、アンコールを含め22曲を披露。「夜明けの月」の演奏前にはハルカ(Vo、Gt)が5年間の想いをファンに向けてしたためた手紙を朗読。「いつでもそこにいます。そう、例えば、透明な夜明けの月みたいに」と音楽を通して寄り添っている気持ちを伝えた。

歌を歌いたい、聴きたいと思うことが生きる力

(撮影=上山陽介)

 秋を感じさせる、さわやかな天気のもと、バンドメンバーと一緒にステージに現れたハルカとミユキ(Key、Cho)。「野音、ようこそ! 今日は楽しんでいきましょう!」とハルカが告げ、1曲目は孤独と向き合いながらも希望の光に向かって進もうとする「世界」で始まった。ミユキが会場を煽ると、手を挙げてオーディエンスは応える。

 「今日は5周年のお祭り、お祝いなので。みなさん、夏祭り行きました?」とハルカが問いかけると「えっと…行っていない!」と答えるミユキ。「私も行ってないから、今日はそんな夏の最高の思い出にしたいと思っているので、皆さん一緒に楽しんでください!」とハルカはこの日を特別な日にすることを宣言した。

 そして「新しいアルバムから、楽しい曲、やります!」と紹介されたのは「インスタントラブ」。ミユキが作曲し「自分がやりたいことをやった」と語っていたナンバーだ。ハルカはギターを置いてパフォーマンスする。冒頭にハルカが言った通り明るく軽快な曲だが、ミユキのキーボードの演奏はとても力強い。

 アルバムインタビューでミユキは「ハルカは明るい楽曲に歌詞をのせたときのスピードと言葉遊びみたいなものが本当に早いし、出てくる言葉がすごく面白くて」と話していた。それに対しハルカは「ミユキのポップな側面がくると、私はいい意味で『これぶち壊してやろう』みたいな気持ちになるんですよ(笑)」と言っていて、こういったキラキラしたナンバーでも、お互いの個性がぶつかり合って作りあげた、というのが、ハルカトミユキらしいと感じさせる。

 続いて疾走感あふれる「Sunny,Cloudy」を演奏し、照明がいったん落ちる。あたりはすでに暗くなっていて、その中で胸をかきむしる「Pain」、「ドライアイス」と人の内面に迫る曲が続いた。

 「私たち2人でもともとは結成したので、5周年ということで、2人の曲をちょっとやりたいと思います」とハルカ。デビュー前、初めてレコーディングをした日に3.11の震災があった。彼女はそのときに「歌って何なんだろう?」と考えたという。

 「ずっと思っているのは、歌を歌いたいと思うこととか、歌を聴きたいと思うこと自体が、それで生きる力だし、希望だと思っているから。私はどんなに暗い歌だと、暗い歌詞だと言われようとも、それを聴いてくれる人、聴きたいと思ってくれる人、そのパワー自体が私は希望だと思ってます。それは5年経っても6年経っても、変わらないです」。

 その3月11日にハルカが感じたことが込められていて、唯一タイトルに絶望ということばが入っている「絶望ごっこ」を演奏。後ろのスクリーンにハルカのシルエットが映し出される。<安全な場所でいつも守られているくせに>というやり場のないメッセージが、オーディエンスの心を貫いていくようだった。

「5年間、生きていてくれてありがとう」

(撮影=上山陽介)

 「3度目の野音を見に来てくれて、本当にありがとうございます。もう秋が始まりましたが、まだ私の中では、これが終わるまでは夏は終わらないんだ!」とミユキが力強く叫ぶと「そうだ!」と会場から声がかかり、大きな拍手が送られる。

 「せっかくの5周年スペシャルなので、2人が結成して初めて作った曲を今日はやりたいと思います。本当の本当に初めて作った曲です。小さなライブハウスで誰もいないところで歌っていた曲を、今日こうしてここで聴いてもらえることを、噛み締めながら歌いたいと思います。夏の終わりに『夏のうた』」。

 懐かしさを感じる温かいメロディーは、ハルカトミユキが始まったころの初々しい2人の姿を想像させた。野外の会場なので、カナカナと鳴く虫の声があちらこちらから聞こえるが、その音色さえも曲の中に溶け込んでいく。

 次に演奏したのはアルバム『溜息の断面図』の中で最もじっくり聴かせるナンバー「宝物」。最初はハルカとミユキの演奏からはじまり、途中からドラム、ギター、コントラバスと加わっていく。

 ハルカは座って「新曲をやります」と告げ、11月に公開される映画のために書き下ろした「手紙」を披露。淡い紫のライトがステージを照らし、ハルカのそばにはルームライトが置かれている。流麗なミユキのピアノにのせて、彼女は手紙を手にしながら語りかけるように歌う。

 「拝啓、あれから5年が経ちました」とハルカの朗読が始まる。「5年という時間が長いのか、短いのか、私にはわからないけれど。ねえ、5年間でなにがあったか覚えていますか?」

 ミユキの優しいピアノの音が、ハルカの言葉を包んでいく。「思い出せないでしょう。わたしたちは、なんだかいろいろなことを忘れてしまうんだもの。だけど、忘れることを、希望だと思うよ。どんなにたくさんの時間を過ごしても、覚えていることは、何気ない一瞬だけ。それがたとえば、この瞬間ならいいなって、いつも思っている。5年間ありがとう。5年間、生きていてくれて、ありがとう。どうしても苦しくなったら、たまに思い出してください。しあわせなときは、忘れていてください。いつでもそこにいます。そう、例えば、透明な夜明けの月みたいに」

 ミユキとのハーモニーが美しい「夜明けの月」は、壮大な演奏で会場を飲み込んでいった。

アルバムを経てさらに進化した2人の姿があった

(撮影=上山陽介)

 「かごめ、かごめ」とかすかな声が流れ「わらべうた」へ。エレクトロなサウンドだが、とても生々しさを感じる演奏で、生命力に満ちている。ドラム、ベース、ギターのソロを間にはさんで「近眼のゾンビ」へ。ハルカは手に持った拡声器を通して、退化した感情に蹴りを入れるように強烈なメッセージを繰り出す。さらにミユキは途中でギターを手にしてかき鳴らす。ハルカは拡声器を耳に当てるなど、演奏はもちろんパフォーマンスでもハルカトミユキが持つ攻撃的な面を見せてくれた。

 また「終わりの始まり」では、ステージ後ろのスクリーンにハルカのアップが映し出されて、この曲のMVを連想させる演出を取り入れていた。<崖があっても誰も気が付けない>という最後の言葉は、彼女たちのヒリヒリした音楽の世界を際立たせる。

 「野音で毎回歌わせてもらっている曲、野音でしか歌っていない曲を最後に聴いてください」と「LIFE2」を演奏。歌人ハルカの詞はどれも聴き手の心を強くとらえるが、「LIFE2」の歌詞が後ろのスクリーンに映し出されると、一言一言が研ぎ澄まされていていることがよくわかる。あるがままを受け入れ、<それでも いいさ それだけで いいさ>と全てを肯定するこの曲。ハルカはさきほどのMCで「どんなに暗い歌だと、暗い歌詞だと言われようとも」と話していたが、彼女たちの楽曲をじっくり聴けば聴くほど、その根底には優しい愛がある。それをじっくり心に刻むように、オーディエンスは静かに聴き入っていた。

 アンコールに応えてメンバーが再びステージに現れた。ハルカはさきほど演奏した新曲「手紙」がリリースされること、さらに新しいニュースとして、全国ツアー『溜息の断面図 TOUR 2017-2018 種を蒔く種』が決定したことを発表。10月、11月はアコースティック編成の“種”篇、2018年1月、2月はバンド編成で“花” 篇として各地をまわる。

 最後に演奏したのは「Vanilla」<許せない 許せない 許してあげたい あの頃の僕たちを>というハルカの歌声は、これまで混沌としていた感情を浄化していくように会場いっぱいに響いた。

 バンドメンバーを紹介してあいさつをした後、最後は2人で手を握ってステージに向かって深く礼をする。ステージを去る際、ジャンプして観客に応えるハルカ。そしてミユキは「大好きです! みんな!」と叫んだ。

 3枚目のアルバムを作ることによってさらに大きく前進したという2人。その充実ぶりが十分にわかるステージを届けてくれた。

【取材=桂泉晴名】

セットリスト

01.世界
02.DRAG&HUG
03.伝言ゲーム
04.インスタントラブ
05.Sunny,Cloudy
06.Pain
07.ドライアイス
08.絶望ごっこ
09.夏のうた
10.宝物
11.手紙
12.夜明けの月
13.わらべうた
14.近眼のゾンビ
15.終わりの始まり
16.Stand Up,Baby
17.振り出しに戻る
18.バッドエンドの続きを
19.ニュートンの林檎
20.LIFE2

ENCORE

EN1.種を蒔く人
EN2.Vanilla

作品情報

新曲「手紙」(映画『ゆらり』主題歌)
11.03(fri) 配信スタート
Music Video(short/teaser ver.)公開中!!  https://youtu.be/7X-eKjcv4nk

岡野真也・内山理名W主演作、映画「ゆらり」。
2017年11月4日より池袋シネマ・ロサ他、全国順次公開。

▼映画「ゆらり」公式サイト  http://yurari-movie.com/

ライブ情報

ハルカトミユキ 全国ツアー開催決定!!

■ハルカトミユキ 溜息の断面図 TOUR 2017-2018 種を蒔く~種~
【種】2017年/Acoustic
10月20日 (金) LIVE HOUSE enn 3rd(宮城)
10月22日 (日) 悠日カフェ(栃木)
10月27日 (金) ROOMS(福岡)
10月28日 (土) 南堀江Knave(大阪)
10月29日 (日) SOLE CAFE(京都)
11月4日 (土) BL cafe(愛知)
11月12日 (日) 7th FLOOR(東京)
11月12日 (日) 7th FLOOR(東京)

■ハルカトミユキ 溜息の断面図 TOUR 2017-2018 種を蒔く~花~

【花】2018年/Band
1月13日 (土) 梅田Banana Hall(大阪)
1月14日 (日) APOLLO BASE(愛知)
1月27日 (土) BAYSIS(神奈川)
2月2日 (金) LIQUIDROOM(東京)

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