ツアー最終公演で熱唱するNakamuraEmi(撮影・岩澤高雄)

 シンガーソングライターのNakamuraEmiが6月1日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで、全国ツアー『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4 ~Release Tour 2017~』の最終公演をおこなった。『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』を引っ提げての本ツアーは4月に始まり、前半をアコギ伴奏、後半をバンド編成で巡ってきた。11公演目にしてファイナルのこの日は、辻本美博(カルメラ、Sax)やかなす(HEY-SMITH、Tb)、加納りな(Glo)がゲストで参加、華を添えた。

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 所狭しと身を重ねる観客の姿。開演10分前。終演2時間半前。そわそわとした空気が流れていた。しかし、この日は一部で、管楽器や鍵盤打楽器も加わる豪華バンド編成。日常生活をラップに乗せて歌うNakamuraEmiの言葉は、ソウルやファンクの心地良いリズムの上で生き生きと跳ねていた。

「Rebirth」で幕開け

NakamuraEmi

NakamuraEmi(撮影・岩澤高雄)

 開演時間を少し過ぎたところでフロアの明かりがゆっくりと落とされる。メンバーがステージに現れると、大歓声と拍手が送られる。その“祝声”のなかでNakamuraEmiが登場する。照れ臭そうに足早に袖から出て来て深々と頭を下げる。人柄はデビュー前と変わらない。

 音楽家としての成長はみても、驕らずの姿勢は当時のまま。その意思は、最初に披露した曲に表れていた。「Rebirth」。ラップを歌ってみたいと思い、それを初めて取り入れたのがこの曲。いわば音楽人生を変えた曲だ。当時の想いを忘れまいと言わんばかりに、想いを投影した言葉の数々を矢継ぎ早に届けていく。踊る言葉に触発されるように演奏も跳ねる。「ファイナル、リキッドルーム!」と歌詞をこう変えて煽れば大歓声。こうしたムードのなかでツアーファイナルは始まった。

感情を解き放つように

カワムラヒロシ

カワムラヒロシ(撮影・岩澤高雄)

 3曲目「スケボーマン」からはいつも通りのNakamuraEmiによる“前説”が入った。「男性の決意を女性目線で描いた」と説明した同曲は、しっとりとした曲調がまた歌詞の情景を浮かび上がらせた。音と言葉は観客それぞれの人生に浸透していく。一方の4曲目「使命」は奮い立たせるようにラップでまくしたてる。こうした起伏のある曲は、観客の、日常は蓋をしている悲しみや怒り、寂しさといった感情を解き放たせているようだった。

 他方、MCでは彼女の人柄が表れていた。4曲目を終えて、超満員となったフロアを見渡すと声を震わせながら「すごいですね!」と感慨に触れる。感謝の言葉を挟み「今日はいろんな方が集まってくれていると思うので、せっかくこうして一緒に同じ時間を過ごせるので、最後は皆で笑顔になって帰ってもらえたら嬉しい。一緒に良い時間を過ごしましょう」と伝えた。

辻本美博(カルメラ)とかなす(HEY-SMITH)が華やかに

辻本美博、かなすに挟まれ歌うNakamuraEmi(撮影・岩澤高雄)

 再び感謝の言葉を送ってからメンバー紹介。カワムラヒロシ(Gt)、豊福勝幸(Ba)、TOMO KANNO(Dr)、大塚雄士(Per)。ニューヨークで活動していたTOMOをはじめとした先鋭によるバックバンドだ。疾走感のあるアコギの乾いた音色。心地良いグルーヴを導くドラムは時折、ワイヤーブラシを使ってシンバルの音を波紋を広げるように響かせる。一般的なライブよりも音が際立ったベースは曲ごとにコントラバスを使い分け鼓動を弾かせる。多彩な音色を作り上げるパーカッションの“職人芸”は音で様々な背景描写を浮かび上がらせた。そして、彼女の歌声と歌詞は、脈打つ血液に一瞬にして溶け込み、活力を与えさせた。

 こうした陣容のなかでテンポよく進んでいく曲。アーティスト名の表記を漢字からアルファベットに変えた当時の思い入れの曲「晴人」では、ゲストとして、サックスの辻本美博(カルメラ)とトロンボーンのかなす(HEY-SMITH)が演奏に参加。トロンボーンがゆったりとした音色で導けば、サックスが軽快な音で彩を加えていくとともに、タメも使って観客の心を躍らせる。

愉快「ハワイと日本」

TOMO KANNO

TOMO KANNO(撮影・岩澤高雄)

 再び、5人編成に戻ってからの「ヒマワリが咲く予定」ではライティングが世界観を作りあげた。彼女を挟んで左右から光放つ2つの円状のライトは、まるでヒマワリの花の様に四方八方に輝く。また、転調するメロディやシンセ、雷のような音も季節を表現する。歌終わりにうなだれる彼女の姿もそれを投影させていた。

 日常の生活を歌うのが彼女の真骨頂。次の曲では遊び心も加わった。米ハワイに一人旅した悪戦苦闘の日々を綴った「ハワイと日本」。旅をイメージさせるため、彼女はカメラを首からぶら下げ、海の音を鳴らすオーシャンドラムを片手にその場で足踏み。靴の音がまるで歩いているかのように響く。タッタッタッタッ――、その音にやがて歌声が重なり、楽器が加わる。陽気なリズムのなかで乗る歌詞はまさに「旅行あるある」。思わず「そうそう、そうだよね」と相槌をしたくなる言葉が並んだ。

 その後に届けたのは、悩みに悩みぬいて作り上げたという、『笑ゥせぇるすまんNEW』の主題歌「Don‘t」。アニメの主人公・喪黒福造のモノマネを披露する茶目っ気をみせつつも、ファンクのノリでしっかりとその世界観を広げた。

加納りなと満天の星空の下

NakamuraEmi

NakamuraEmi(撮影・岩澤高雄)

 「ボブ・ディラン」では、グロッケンシュピールの加納りなを呼び込んだ。鉄琴の一種である同楽器の音色は伸びやかで、一音を打てば清らかな残響がどこまでも続く。その空気感はまるで満天の星空の下にいるようだった。そのなかで混じり気のない歌声を響く。息吹のあるこうした曲に観客の心は洗われているようだった。

 5人編成に戻り、支えてくれている人々への感謝を綴った「メジャーデビュー」を歌い上げる。ステージで起きた手拍子は次第に観客へと広がる。ギターのみだったコーラスは、絆を確かめるように最後はメンバー全員で。

 暖かい空気感のなかで、本編最後は「YAMABIKO」。これまで聴き入っていた観客は感情むき出しに声を張り上げて大合唱。その合唱が奏者の心を刺激させて、更に音を弾ませた。そうした相乗効果を得た曲はどこまでも勢いがあり、大盛況のまま本編を終えた。

セッションが生んだ笑顔

大塚雄士

大塚雄士(撮影・岩澤高雄)

 余韻に浸ることなくアンコールを求める手拍子が鳴り響く。程なくしてメンバーが登場。ここでも足早にステージに戻ってくる彼女。再びお礼の言葉を述べてからまずは「モチベーション」。そして、今宵のゲストを再び招き入れて大円団のなかで「女子達」を届けた。軽快なリズムの上で、ダイナミック且つ豊かに歌い上げる。音と言葉が生き物のように弾み、体が「ゾクッ」とするようなグルーヴを作り出す。そのうえでセッションが始まった。

 まずはパーカッションとベースが順にソロを披露。その後はサックスとトロンボーンによるセッション。高鳴る興奮のなかで次はグロッケンシュペールとアコギのセッション。相反するサウンドで互いに刺激し合う。異種格闘技戦を見ているように釘付けになる観客は割れんばかりの拍手と歓喜の声を挙げる。その興奮が頂点に達したところでドラムソロが繋ぐ。最後はNakamuraEmiがスキャットのように歌をあげる。

豊福勝幸

豊福勝幸(撮影・岩澤高雄)

 とてつもない熱狂のなかで終演。興奮に満ちた会場は大歓声に包まれていた。そのなかで満足の表情を浮かべ頭を下げる彼女。彼女は冒頭で「笑顔になって帰ってくれたら」と言っていたが、観客もなぜか満足を通り越して達成感に満ち溢れているような満面の笑顔をみせていた。

 2時間半で15曲。人生に投影させた1曲1曲には物語があり、濃厚な時間だった。そして、音楽のあり方の原点にも触れているようでもあった。メンバー、観客、スタッフと味わったこの日の感動もまた、彼女の楽曲の一部となり、語り継がれていくだろう。

(取材=木村陽仁)

セットリスト

M1.Rebirth
M2.I
M3.スケボーマン
M4.使命
M5.大人の言うことを聞け
M6.晴人 with sax辻本美博(カルメラ)and tromboneかなす(HEY-SMITH)
M7.ヒマワリが咲く予定
M8.ハワイと日本
M9.Don’t
M10.ボブ・ディラン with grockenshipel加納りな
M11.めしあがれ
M12.メジャーデビュー
M13.YAMABIKO
~Encore~
M14.モチベーション
M15.女子達 with sax辻本美博(カルメラ) and tromboneかなす(HEY-SMITH) and grockenshipel加納りな
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