MISIA「さらに羽ばたくために」集大成の記憶と記録
INTERVIEW

MISIA

「さらに羽ばたくために」集大成の記憶と記録


記者:編集部

撮影:

掲載:17年05月23日

読了時間:約12分

素晴らしいブレ-ンに支えられているんだ

MISIA

 ここで彼女に、ライヴ中の高揚感について訊ねてみた。でも客席で想像するのと実際は、少し差があるようだ。ア-ティストが感じるのは、より多様な高揚感、という気がする。

「それこそ私が衣装チェンジのために袖に引っ込んで、DJパフォ-マンスとなる時も、高揚感は続いてますね。自分もステ-ジの様子を覗きたいから、“早く着替えなきゃ”って時もあるくらいで(笑)。でも、バンドやダンサ-も含め、私のステ-ジはこんなに素晴らしいブレ-ンに支えられているんだということを、私が不在の時こそ、“彼らを見て!”って感じに誇らしく思うんですよね。そして彼らとのバトルも楽しいです。特に『真夜中のHIDE-AND-SEEK』などは、その醍醐味を感じて頂けるんじゃないでしょうか」。

 この曲は延々30分でも演奏して欲しかったと彼女は言うと、“それもやれないことはない”という逞しい答が…。ちなみに音楽における“バトル”とは、互いの引き出しを臨機応変に開けつつ表現を発展させていくことで、優劣を競うというより、観客を熱狂へと誘う共同作業なのだ。彼女が挙げた『真夜中のHIDE-AND-SEEK』では、特に後半のギタリストとの絡みなど最高であり、個人的には60年代に活躍したR&Bの黄金コンビ、アイク&ティナ・ターナーを彷彿させもした。

 バトルといえば、ふたりのダンサ-が左右に分れて、創意溢れたスキルをぶつけ合うダンス・バトルもあり(“Escape2016”のあたり)、また、考えようによっては彼女の導きで客席が歌声で返す“コ-ルアンドレスポンス”にしても、バトルといえばそう言えなくもないのである。

 一方、静かな場面はどうなのだろう。でもそこには、ア-ティストの内面に“燃えたぎるもの”がありそうだ。バラ-ド・セクションの話をしよう。まずそこで弾き語りされるのは「It's just love」なのが、これは彼女にとって、まさに想い出の一曲でもある。

 「人前で初めて弾き語りで歌ったのがこの曲でしたからね。2001年のツア-の時だったんですけど、確かドリカムさんが出てくれたライブだったと思います。今回、それをちょっと思いだしたというか、せっかく約4年ぶりの『THE TOUR OF MISIA』ですし、そうしたこれまでのシ-ンも織り込みたかったので…」

 ただ、久しぶりの場面とはいっても、過去の記憶のネガに、寸分違わず同じ光景が重ね合わせただけではなかった。そう。そこには成長が。

 「確かにあの頃は、弾き語りといっても一曲やるのが精一杯でした。でも今では4~5曲のストックがありますから。そもそも私はその日の会場やお客さんの雰囲気を察して、曲目を変えるア-ティストなんです。曲順も変わります。そのためバンドさんがいつも本番直前まで楽譜とにらめっこしてくれるんですが、“毎回、緊張させるねぇ。ホッとさせてくれないねぇ”と言われたりもする(笑)。でも、そんな相手の立場を、弾き語りするようになって初めて分かったんですよ。歌だけなら、歌詞さえ覚えていれば多少の順番の変更は関係ないけど、弾き語りは口と手が連動するし、段取りもあるので曲順も影響しますからね」。

 ツア-が何本続こうが、「今日がその何分の一のひとつ」とは思わず、常にその日がその日限り、今日しか見に来られない人達へむけての「一分の一である」という意識を忘れないという彼女…。今回のツア-も、もちろんその意識で貫かれ、ここに映像として記録されたように、横浜アリ-ナ最終日(2017年2月5日)を迎えたのだった。

 ところで、“ライブ”が生身のものである以上、そこには本人の想像を越えたハプニングも降って湧いたりもするわけで、しかしそれも含め、その瞬間の、まさに「今のなかにドラマを刻んでいくのが“ライブ”なのだ」と、彼女は常々感じているという。となると、少しその“ハプニング編”に関しても聞いてみたくなるが…。

「ステ-ジの両サイドに、よりお客さんの近くに行けるよう張り出した花道の部分が設けられていたんですけど、嬉しくて近くまで走って行ったら、マイクが突然“ピ-ッ!!”となった瞬間があった。「アレ?」って思ってよくよく考えたら、花道から外れて、客席の中にまで入っちゃってたみたいなんです(笑)。「あれ?」ここ客席だった…みたいに思いつつ、でもそのまま歌っちゃったんですけどね。曲は『つつみ込むように…』の時だったのですが、お客さんの反応が面白かったです。ロング・ト-ンで歌いきる私が、そのファンの方にとっては、まさにすぐ目の前に居たわけですから」。

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