大切なものを大切にしたい
――飯田さんは、歌詞の内容を理解したうえで毎回歌入れに臨む形でしょうか?
飯田瑞規 三島からの説明はとくにはなくて。俺は俺なりの歌詞の解釈があって、その想いを持って毎回歌っている。だから、インタビュー中に彼の言った発言から初めてその意味を知ることもあるくらい。だけど、それでいいとも思っているんです。
cinema staffの歌詞って分類するなら「共感する歌詞」と「抽象的な歌詞」の二種類があるように、その人によっていろんな捉え方が生まれてゆくところに面白さがある。中でも抽象的な歌詞は、自分なりに考えることでいろんな解釈が見えるように、どんどん想像の間口を広げてくれる。だから、自分なりに解釈したうえで三島の書いてきた曲を歌っていける。ただし、自分なりに解釈を深めたくて、その意味を聴くときもあります。
今回で言うなら、「souvenir」に出てくる<バージニア>とはどういう意味なのかと思って彼に聴いたら、「それは人の名前だ」と言われ納得した。だから聴く人たちも、そうやって自分なりに感じ、想像を膨らませてもらえたらなと思います。
――その解釈や答えが何であれ、歌う以上は自分なりに明確な想いは必要なことです。
飯田瑞規 自分自身がcinema staffの曲を歌う以上、それは大切なことなんです。今回の『熱源』というアルバムについても、自分は「大切なものを大切にしたいよね」という曲たちを詰め込んだ作品として捉え、そう歌っていった。もちろん、それは自分自身の考えであって、それぞれに聴いて受け止めた気持ちが正解だし、それでいいんだと思っているんです。
――辻さんも、歌詞にインスパイアを受けてギターを弾くことも多いですか?
辻友貴 cinema staffは曲先行で作っているようにデモ音源からインスパイアを受けてというのが大半ですけど、歌詞からギターのイメージが沸くときもあるように、そこは曲によってマチマチです。
今回のアルバムで言うなら、最後に収録した「僕たち」のギターは、歌詞からインスパイアを受けて弾いた演奏です。実はこの曲、三島と久野が学生時代にcinema staffとは異なるバンドで演奏していた楽曲なんです。
久野洋平 「僕たちの持っている音楽的な方向性はcinema staffに合うな」とは昔から思っていたんです。ただし、ずっと思っていたわけではなく、『熱源』というアルバムを作っていく中、「このアルパムに似合う表情だからやりたいな」と思い出し、「アルバムの方向性的にも形にするなら今しかない」と提案した曲でした。
三島想平 結果的にそうなりましたね。古い曲だから最初は抵抗もあったけど、改めてやってみたら腑に堕ちたところがありましたから。ただし、歌詞は書き直しているんです。もともとしっかりとした歌詞があったわけじゃなかったので、アルバムの最後を飾るに相応しい歌詞に書き直しています。
――アルバムの最後を締め括る意識を持って「僕たち」は制作したんですね。
三島想平 昔演奏していたときもライブの最後の曲として演っていたし、実質7分くらいはある大曲というか、厚みのあるスケールでかい楽曲という印象が昔からあったように、最後に収録するイメージしかなかったんです。
飯田瑞規 シューゲイズしていく楽曲なんで。(編注=ノイズギターなどが轟音で鳴り響くサウンドスタイル。バンドではMy Bloody Valentineなどが有名)
一文字も無駄のない完璧な歌詞だと思います
――「僕たち」のような壮大な楽曲があるからこそ、その対極にある「熱源」や「pulse」が際立つ熱を放つ曲としてアルバムの中から響いてくるんだなとも感じました。『熱源』というアルバムには、ホント感情の沸き立つ歌を数多く収録している印象を覚えます。
三島想平 このアルバムは20代最後の録音物になるからこそ、中途半端な作品には絶対にしたくない気持ちがすごく大きかった。もうこの歳になると、普通に生きてれば29歳も30歳も違いってそんなに無いんですよ。ただし、作品に於いてとなるとそこは異なるんです。
――そこは気になります。
三島想平 自分らの好きなバンドたちが作りあげたアルバムの中、そのバンドにとって重要な位置を占める作品って、世代の変わり目に作りあげたアルバムが多い印象を覚えるんです。自分たちだって20代にしか出来ないことって絶対にあるし、それを意識して制作していった20代最後の作品として恥じないものを作りあげる、そういう潔い作品に『熱源』というアルバムをしていきたかった。そうやってみずからハードルを上げたことで、そのハードルを超える作品を作りあげられたなとも思っている。
飯田瑞規 メンバーみんな15歳からバンドを始めているように、30歳になると人生の半分はバンドを演ってきた計算になる。自分に関しては、27歳や28歳頃のほうが、大人になりきれてないけど子供でもないという狭間感を覚えていました。30歳になること自体はワクワクしているように、歳のことを悩んでいた時期は越しましたね。それよりも30代を飾る年に格好いいアルバムを作れたのが嬉しいことなんです。
――アルバムに『el golazo』という楽曲を収録しています。この歌詞に記した内容ってサッカーのことですよね。
三島想平 僕がサッカー好きなことから生まれました。
飯田瑞規 シリアスな流れの中へ、遊び心を持った曲がいきなり出てくるとビックリしますよね。こういうウィットに富んだシュールな歌もcinema staffの持ち味にしているところ。『el golazo』の歌詞は、一文字も無駄のない完璧な歌詞だと思います。
三島想平 全曲暑苦しいよりも、こういうテンションの軽いライトな曲がアルバムの中に入っているのもいいなと思います。