魂を揺さぶる歌と演奏でオーディエンスを魅了した近藤晃央

 シンガーソングライターの近藤晃央が1月29日に、東京・渋谷WWWXで、ワンマンライブ『ONE MAN LIVE 2017「分泌音」』の東京公演をおこなった。今回のライブは、27日の地元・愛知での名古屋公演を含めた2本立て。ワンマンライブとしては、昨年6月の『近藤晃央 2nd ONEMAN TOUR~IRIE LAND~』以来の開催であり、大勢の人たちが期待を胸に会場へ足を運んでいた。昨年11月発売の「涙腺」や昨年4月発売アルバム曲「ビビリーバー」などアンコールを含め全17曲を披露。彼が作り出す心の光と影は脈打つ命の鼓動のようで、それらは時に優しく時に激しさを伴った歌として届けられた。その世界観に心が奪われるようだった――。

鼓動との会話の中から分泌される音楽をお届けします

ONE MAN LIVE 2017「分泌音」

 流れる水の音…ゆっくりと動き出す鼓動…命が胎動してゆく。魂が意識を宿してゆく…心臓の音がゆっくりと一定のリズムを刻んでいく…。

 とても穏やかな幕開けだった。刻み出した命の鼓動。魂へ光を注ぐ眩い輝きを求めようと近藤晃央が「hito she」を歌いだした。優しさを伴った旋律の上で“歌”は、星空のようなキラキラとした光に包まれながら、命を宿しゆっくりと動き出す。なんて生命力を感じさせる幕開けだ。命の誕生を投影したような始まりに視線はズッと釘付けになっていた。

 ゆっくりと鳴り響く鼓動。アコギを手にした近藤は、鼓動の音に乗せ、みずからの心を見据えては、自分自身へ問いかけるように「反射光」を歌いだした。自身の心へ広がり続けるいろんな想いを拾っては、何が正しい答えなのかを導こうとする。醜い感情さえも肯定し、それを光に変えようと模索していく。

 自身の意識へ拳を振りかざすように、みずからの心へ牙を向けながら、近藤は「エーアイ」を気持ちを抉るように突きつけてきた。躍動する演奏、沸き立つ感情。猛る想いをぶつけることで、彼はみずからを鼓舞していた。それは、大きなコスモ(心の宇宙)のうねりの中で、ちっぽけな自分の感情に答えを与えようとしているようだった。

 この日のライブタイトルを、近藤は「分泌音」と名付けていた。彼は今回のライブを通し、自分自身の心との対話を試みているようだった。自分の心臓の鼓動が聞こえるくらいみずからを追い込み、そこで何が生まれるのかを模索していた。

 矛盾した感情の中へ真実を見いだそうと「無表情」を通し、みずからの心の言葉と対話をし続けていた。自問自答を繰り返すその歌声が生きる命を宿していた。その彼の心を触れた人たちの中にも沸き上がる衝動を覚えさせていった。

 物悲しい、どこかダークでメランコリックな旋律が導いたのは「あの娘が嫌い」。心の中のモンスターと向き合いながら、本音と建前の狭間で揺れ動く真実の声を、彼は抑揚を持って歌いかけてきた。その歌はみずからを、様々な人たちの本音をあざ笑う声?? いや、そう聞こえた人ほど、自身も心の中へモンスターを宿してるということか!?

 ギターを掻き鳴らし始まったのが「仮面舞踏会」。スリリングな演奏と強い衝動を携えた歌声が、身体をヒリヒリと掻きむしっていく。衝動と躍動が重なり合ったとき、気持ちは嬉しく踊りだす!!

 その音は、さらに躍動を求めだした。鳴りやまぬ手拍子、野生の如く荒ぶる感情へ逆らうことなく、むしろ沸き上がる興奮を素直に吐き出すように、近藤晃央は「理婦人ナ社会」を突きつけた。剥き出しな想いに触れていると、こちらの感情までバーニングしていく。そのスリリングな演奏が、気持ちを破裂させてゆく…。

 近藤は「自分の内なる鼓動。その鼓動との会話の中から分泌される音楽をお届けします。異なる一つと一つの鼓動が重なりあうことから、新しい一つの鼓動が生まてゆくように…」と優しく語りかけると、愛しき人へ想いを告白するようにバラードの「恋文」を届けた。まるで隠した本心をてらい混じりに告げるようだ。何より、相手へ寄り添うように歌いかけてきた。

自分の心で鳴る音楽を、これからも歌い続けていく

ONE MAN LIVE 2017「分泌音」

 時に矛盾した言葉を投げつけながらも、自分の真実の想いを告白してゆく「HONEY」。優しく、心地好く、たおやかに流れる調べの中、相手の気持ちへ寄り添うことを求めるように歌いかけてゆく。フロアにいる人たちへ歌の掛け合いを求めてゆく様は、それぞれに異なる一つひとつの鼓動とみずからの想いを重ねあわせてゆく行為!? そこから生まれる新しい高揚と衝動と喜びをつかもうとしていく好意!?

 とても心に優しい歌が胸を潤していく。逢いたいのに逢えない。そんなもどかしい感情を。本音とは異なる気持ちさえも時に歌に込めながら、近藤晃央は何が幸福なのかを自分へ問いかけていた。

 熱い手拍子に導かれ、次第に心や身体が躍動を描き出した。「あい」が、ふたたび身体へ熱を注ぎ込んでゆく。そして…。<HEY!×HEY!>と熱いやり取りが沸きだした。突き上がる無数の拳と歓声、そして手拍子。「ビビリーバー」が心に騒ぐ衝動を与えながら、ここから一緒に未来へ歩もうと熱い想いの握手を求めていた。

 なんて激情的でメランコリックなんだ。情熱スパニッシュな「テテ」に触発され、場内には無数のタオルが舞い踊っていた。沸き上がる高揚、この昂る気持ちをぶつけきらないとどうにかなりそうだ。大サビ前の合唱。生きている感覚を味わえていることが、何よりも嬉しかった。

 近藤は「自分の心臓の音がはっきりと聞こえる。分泌される鼓動の音楽を、自分の心で鳴る音楽を、これからも歌い続けていく」と決意を語った。

 激しく叩きつける水の音。一転、ふたたび鼓動はゆっくりと命を刻みだした。矛盾に揺れる心の声さえすべて吐き出し浄化していくように、近藤は大きく優しい歌声と演奏に乗せ「涙腺」を最後に歌いかけてきた。その温かくも雄大な調べに包まれながら、彼はみずからの鼓動と感情をシンクロさせ、魂の限界へ達しようと歌い続けていた。

 心地好くも緩やかなムードを持って、楽しさと笑顔を届けた「わらうた」から始まったアンコール。アコギを掻き鳴らし、心をさらすようにめくるめく情熱のドラマを歌いあげたバラードの「フルール」。

 そして…。「これからも自分の心に問いかけながら歌い続けていく。言葉を超えた心の繋がりを求めていこう」と告げながら「らへん」を朗々と歌いあげていった。その歌声に触れながら、自分もみずからの心の声に問いかけていた。自分の心から分泌する言葉の、どれが本当の声なのかを探るように…。

 まさに、魂を揺さぶられる。何よりも、触れている人たちもみずからの心と対話をしてゆくライブだった。

(取材=長澤智典)

セットリスト

ONE MAN LIVE 2017「分泌音」
1月29日 東京・渋谷WWWX

01.hito she
02.反射光
03.エーアイ
04.無表情
05.あの娘が嫌い
06.仮面舞踏会
07.理婦人ナ社会
08.恋文
09.HONEY
10.幸福論
11.あい
12.ビビリーバー
13.テテ
14.涙腺

ENCORE
En1.わらうた
En2.フルール
En3.らへん

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