前編では、2人の出会いの経緯や、互いの表題曲である「クリスマスチキン」についての制作秘話、更にはクリスマスへの印象ついて語って頂いた。後編は、互いの収録曲である「涙腺」(近藤晃央)、「スノウドーム」(ダイスケ)などに寄せる思いや制作秘話について話を聞いた。そこから浮かび上がってきたのは、相反する2人の性格は曲作りにも反映され、それは特色・個性となって曲それぞれに別の輝きを放っていることだった。
キャラクター性をきれいに裏切れるようなもの
――今作は「クリスマスチキン」と、お互いのCDだけに入るコラボ曲が2曲、さらにソロ曲が収録されていますね。
近藤晃央 「クリスマスチキン」がフィフティ・フィフティで、「操り人形劇」は僕が9、ダイスケが1。「類人猿」がダイスケが9、僕が1、というくらいの割合です。
――難しい割合ですね(笑)。
近藤晃央 「1」という割合はサビの部分の作曲を一緒にやったという感じです。歌詞と他のメロディはそれぞれが作るという。
――近藤さんの「涙腺」「クリスマスチキン」「操り人形劇」という3曲の流れはパンチがありますね。
近藤晃央 今回はコラボ企画という事で、自分の曲がまず1曲目に入っていて、お互いの割合が半々くらいの曲が2曲目に入っていて、3曲目は自分の割合が強いコラボ曲なので、どちらかと言うとダイスケがやりそうにない事というのを僕は意識して、ダイスケは僕がやりそうにない事を意識していったんです。「操り人形劇」は自分主導、フィフティ・フィフティの「クリスマスチキン」よりも自分の色が濃くなる訳だから、そこに招き入れるという感じのコンセプトなんです。
ダイスケ 「操り人形劇」の歌詞やメロディは、俺には全く浮かばない彼独自の世界観なんです。アコギで参加したんですけど刺激的でしたね…。
――アコギのパートはダイスケさんが全て弾いたのですか?
ダイスケ そうなんです。イントロのスパニッシュギターから弾かせてもらっています。歌詞には、僕がなかなか使わない言葉があるんです。普段「デッド」なんて叫んだ事ないですもん(笑)。
近藤晃央 わざと汚い言葉をチョイスしているのは、言わせたかったというのもあるんです。
ダイスケ コラボの醍醐味だなと。
近藤晃央 ダイスケの“太陽”みたいなキャラクター性をきれいに裏切れるようなものにしたくて。
――逆もありますか?
ダイスケ そうですね。彼はクールなイメージがあるので、ちょっとはっちゃけてもらいたいなと思って「類人猿」のようなアッパーチューンを作ったんです。
――「類人猿」というテーマからして近藤さんのイメージとは違いますね(笑)。
近藤晃央 2人でサビだけ作っている時、適当に歌っている歌詞が「猿がどうのこうの」という感じでした(笑)。
――「ワオ!」などもイメージと遠いですね。
ダイスケ 彼は「ワオ!」が本当に上手いんですよ! 普段言わないイメージなんですけど。すごくロックな「ワオ!」で近ちゃんと合ってました。
近藤晃央 初めて言いましたね。
――スパニッシュ系のギタープレイは難しくないでしょうか?
ダイスケ 滅茶苦茶難しかったですね…。
――「操り人形劇」のイントロはガットギターですか?
ダイスケ あれは実はアコースティックギターなんです。ちょっとガットギターっぽく聴こえるんですけど、バリバリのオールド・ギブソンなんです。
近藤晃央 なぜかその後にガットギターを買っていたよね。
ダイスケ その前に買っておけば良かったよね(笑)。「操り人形劇」に関しては9割を近ちゃんが作っていて、レコーディングは彼がディレクションをするんです。まあ厳しいんです。
――歌に関して?
ダイスケ 「そこ、ピッチ外してるよ」とか「もうちょっと合わせに来て」とか。本当に誰よりも細かくこだわるんです。
――プロデューサー気質なんですかね。
ダイスケ それは感じましたね。
――歌い手として、やはりピッチは誰よりも厳しくなりますか?
近藤晃央 どうなんだろうね?
ダイスケ めっちゃ厳しかったですけどね。けっこう近ちゃんは目指す所が高いんだろうなと思いました。ニュアンスとかピッチが彼のなかである程度決まっていて、そこにヒットしなかったら…。
近藤晃央 「お前使えねえ」と(笑)。
ダイスケ 「この野郎しっかりしろ! 声出てないから少し休め!」と、そんな事を言われたような(笑)。逆に、「類人猿」の時は僕がビシビシ言いましたけどね。
近藤晃央 「ビシビシ」という程じゃなかったですけどね(笑)。
ダイスケ 親しきなかの「ビシビシ」だからね。
近藤晃央 まあ、性格の違いでしょうね。
ダイスケ トークバックの近ちゃんの声が怖いんですよ。
近藤晃央 「いいと思うよー(棒読み)」と言って(笑)。
ダイスケ 本当に良かったのかな?と…(笑)。
――お互いの歌をディレクションし合うというのはどうでしたか?
ダイスケ 新鮮でした。コラボならではというか。
近藤晃央 自分のディレクションはもちろんやるけど、人のというのはなかなか…。文字間など、同じメロディでも歌い方が違うと聴こえ方も変わってくるので、アレンジした訳でもなく「普通に歌ったらそうなる」という所が違うんですよね。
歌に注ぐエネルギーが違う
――1曲目の「涙腺」はどういった心境から生まれた曲でしょうか?
近藤晃央 これは9月中旬に作った曲なんですけど、何曲か同時に作っていた中でシングルカットする曲をという事で、先に編成を決めていてピアノ、アコギ、ストリングスのみの楽曲を作るという事を決めたんです。メロディが出来た後にとにかく歌詞が出来なくて。このまま断念して違う曲になるかなみたいな感じも途中まであったんです。結果、最初に書こうとしたものとは全然違うものになっちゃったんです。
最初はもっと暗いテーマで、「暗過ぎるだろ」という所で光を見いだせずにいたんです。たまたまその出来ない時期に、身近に「ひたすら耐えて溜め込むタイプ」の人がいたんです。その人の話を聞いてみると、「心配させたくないから周りに何も言わない」というような事を言ってたんです。それで「それは逆じゃないかな?」と思ったんです。
そういう身近な人にこそ負担をかけていいし、身近な人にこそ心配をかけていいし、という風に。距離の遠い人に対してだったら、迷惑をかけないようにと思うかもしれないけど、「身近にいる人には迷惑をかけてもいいのにな」と思ったんです。それを自分自身と重ねながら、そういう所に気がついて、そこからやっと歌詞が進んでいったんです。
――それまでは近藤さん自身も「身近な人にも迷惑をかけたくないな」と?
近藤晃央 そんな事は考えてもいなかったですね。ただ、その話になった時に、それはそうじゃないかもな、と思ったんです。誰にも心配をかけないように笑っていられるように、とか「作り笑い」じゃないですけど、むしろ本当に笑えるようになるんだったら、堪えたりしているよりは、むしろ1回崩壊してしまった方が結果的に笑えるまでの距離が短いんじゃないかなと、ただそれだけなんです。“涙を流す笑顔の歌”みたいな、そういうニュアンスで書き始めました。
――出来た曲を聴いてダイスケさんはどう思いましたか?
ダイスケ 僕の事を歌っているのかなと思ったくらい、歌詞が刺さったというか…。
近藤晃央 はははは!
ダイスケ 僕もけっこう内に篭るタイプで、悩んだらなかなか道を切り開けないんです。「次の人生でいい事あるかな…」と思っちゃうタイプなんです。
――次の人生ですか?
ダイスケ 来世では、みたいな。歌詞にもあるように「生まれ変わりたい よりも 生きて変えたい」という所とか聴いて「がんばろう!」と思いましたね(笑)。
――来世よりも“今”ですね。
ダイスケ ライブでやるのが楽しみですね。シンプルなアレンジをそのままやるのか、はたまたバンドでやるのかとか。
――まだそこは未定なのですか?
近藤晃央 もともとはハンドマイクでやりたいと思って作っていた曲なんです。
――それはなぜ?
近藤晃央 単純に、歌に注ぐエネルギーが違うんです。
――ダイスケさんもその感覚はわかりますか?
ダイスケ 僕はまたちょっと変わってくるかもしれないですね。僕はギターがあった方が昂りやすいですし。そこはアーティストそれぞれでしょうね。
近藤晃央 あと曲にもよるかもね。
――「涙腺」に関してはハンドマイクでやる方がエネルギーが伝わると?
近藤晃央 そうですね。シンプルな楽器構成にしたかったのは、他に表現できるものが色々あるからというのがありますね。前のツアーでもハンドマイクでやったりしたんですけど、演奏だけではなくて、手の動きなどで表情を持たせられるんです。そういう動きを空間として作りたかったんです。
スノードームのインストラクター
――ダイスケさんの表題曲「スノウドーム」はどういった心境で書かれたのでしょうか?
ダイスケ これは冬のラブソングみたいな曲を書きたいなと思っていたんです。僕はけっこう女々しくて、自分の過去の恋愛を思い返した時に鮮明に覚えているタイプなんですよ。
近藤晃央 フォルダ分けみたいな感じで?
ダイスケ そう。フォルダ別に覚えていて、初デートはどこで待ち合わせて、その子がどんな色の服を着ていたりとか。
近藤晃央 服の色まで覚えてるの? 気持ち悪っ!(笑)。
ダイスケ もちろん気持ち悪いんだよそれは(笑)。その記憶を鮮明には覚えているけど、その彼女にはもう会える訳ではないし、昔に戻れる訳でもないし…。それがスノードームに似ているなと思ったんです。凄く綺麗で、なかには世界があるんですけど、絶対触る事は出来なくて、ずっとその場面だけを繰り返しているのがスノードームじゃないですか?
――確かにそうですね。
ダイスケ 「これは俺の心のフォルダ分けと一緒だ…」と思ってスノードームに興味が湧いたんです。それでテーマにして曲を書こうと思ったんです。
――スノードームは持っているんですか?
ダイスケ 結果を先に言うと、スノードームのインストラクターの資格を取りました。
――そういうのがあるんですか?
ダイスケ スノードームを作る事やその歴史を教えたりする先生の資格があるんです。テーマをスノードームにしようと思った時に、「あの小さな世界には色んなものが閉じ込められているんだろうな」と興味が湧いて勉強を始めて「スノウドーム」という曲を書きながらインストラクターの資格を取ったんです。
近藤晃央 そして、来年1月から「ダイスケ・スノードーム教室」が開かれると。
ダイスケ そうそう。生徒さん集めてね。
近藤晃央 月謝8000円でね。
ダイスケ 商売だね(笑)。いやいや、開かないよ!
――スノードームは奥が深いのですね。
ダイスケ そうですね。国によっても色が全然違いますし、色んなタイプがあるんです。単純に自分の思い出を見ているような感じがしたんです。でも、それには触れられないという切なさをスノードームから感じたんです。歌詞を書く為にスノードームのインストラクターの資格を取ったと言っても過言ではないですね。
――切なさの正体は分かりましたか?
ダイスケ う〜ん、分からないですけど、たくさんのスノードームに触れ合う事によって、様々な思い出があるように色んな世界があって面白いなと思いました。
――近藤さんは「スノウドーム」を聴いてどう思いました?
近藤晃央 最初にタイトルを聞いて、曲を聴くまではもっと明るい曲だと思っていたんです。多分それは僕らがスノードームに対して思っているイメージなんでしょうね。僕はどちらかというとダイスケの暗めな曲が好きなんです。今までのシングルカットのアッパーな良い曲もたくさんありますけど、僕はダイスケの悲しい感じの曲が好きなんです。
正にそこにハマった曲だし、スノードームという“閉じ込められた世界観”にしがみついていきたい曲なのかなと思ったんですけど、聴き終わった時に、むしろそこから自分を切り離したいという曲だったんです。ただ切ない、というのではなく、歌のパワーも凄くあって前向きな曲に聴こえましたね。
ダイスケ 「もしかしたら昔を引きずっているのかもしれない」と作っていて思いましたね。
――けっこう引きずるタイプなのですか?
ダイスケ 引きずるというよりも、思い出を大事にし過ぎちゃうのかもしれません。
近藤晃央 ちなみにスノードームは開けたらどうなるの?
ダイスケ 色んなタイプのスノードームがあるんだけど、モノによっては開けて水を交換出来るのもあるね。でも開けられないものが多いね。
――「スノウドーム」はダイスケさんの決意表明的な歌?
ダイスケ そうですね(笑)。「スノウドーム」を作っていて凄く迷ったんですよ。結果、最後の最後まで思い出から抜けられない歌詞にしようか、そこから一歩踏み出したいという歌詞にしようか、けっこうギリギリまで悩んだんです。でも“抜け出したい”というのが僕の本音なんでしょうね…。それこそ“今を生きたい”というか。
――「涙腺」とつながる所がありますね。
近藤晃央 フォルダ分け?
ダイスケ そこじゃない(笑)。“今を変えたい”というところ。
――近藤さんとダイスケさんは、けっこう相反する部分がありますね。
ダイスケ たぶん、性格とか価値観とかは相反すると思うんです。
近藤晃央 人間的には全然真逆のタイプだと思います。
ダイスケ だからこそ、リスペクト出来る部分が多いのかなと。自分には無いものを持っているというか。
――お互いに羨ましいと思う部分はありますか?
ダイスケ 尊敬する部分はあります。近ちゃんはセルフプロデュースが凄く上手いのと、何でも思った事を口に出来る所も。ありのままを生きられているのだろうなと思うんです。だからこそ、「生まれ変わりたい よりも 生きて変えたい」という言葉が出て来るんでしょうけど。
近藤晃央 本当に思った事をペラペラと言ってしまうので、ダイスケも被害者だと思うんですよ。
ダイスケ 被害者ではないよ(笑)。だからこそ、大事な相談があった時などに彼は嘘はつかないから、信頼出来るんです。
――近藤さんはどうでしょうか?
近藤晃央 ダイスケは本当に裏が無いので、空気を読んだり、優しさだったりと、それは才能だと思うんです。俺はそこまで優しくできないし、物腰が柔らかすぎてダイスケは時に悩んでいるのかもしれないけど、物腰が柔らかいからこそ人に伝わりやすい事もあると思うんです。
本当は文句が言いたいんだけど、文句として言うと伝わりにくいから、優しく言って、本当に言いたかった事が伝わるというか。そういう柔らかさや優しさというのは、ただ羨ましいなというだけではなくて、それは男としても社会人としても必要だなと思います。
――お2人は凄く良い関係だと思います。最後に2マンライブに向けての意気込みをお願いします。
ダイスケ 今までやってきた2マンライブは、個々で順番に音楽を届けるというものだったんですけど、今回の2マンは近藤ダイスケとして…。
――混ざってます!(笑)
ダイスケ 言ってしまえば近藤ダイスケですよ!
近藤晃央 僕の所に嫁に来たみたいになってるから(笑)。
ダイスケ 「近藤晃央×ダイスケ」というアーティストで作り上げる一つのライブ!もうワンマンライブに近いようなイベントにしたいと思っています。近藤くんのお客さんも僕のお客さんも、垣根なしに皆が楽しめるような、ただの2マンライブにはしたくないなという事で今色々と計画しています。
近藤晃央 通常の2マンライブとは明らかに違ったものにしたいと思っていまして、同じバックバンドでやるので、セットチェンジも無いし常に2人がいる状況なんです。ぶっちゃけ、1曲ずつ回していっても出来る状況でやるので、棲み分けを作らず混ぜていきたいなと思っています。せっかく季節感のあるタイミングでライブをやるので、出来る限りは聴くだけでない楽しみも追求できたらいいなと思います。
(取材・村上順一)
作品情報
【近藤晃央「涙腺/クリスマスチキン feat. ダイスケ」】
11月23日発売
▽収録曲
M-1「涙腺」
M-2「クリスマスチキン feat. ダイスケ」
M-3「操り人形劇 feat. ダイスケ」
▽初回生産限定盤A
CD+DVD 2000円 (税込) BVCL-758~759
特典DVD:「近藤晃央 2nd ONEMAN TOUR〜IRIE LAND〜」東京公演から6曲のライブ映像を収録。
「グラデーションフライ」
「かわいいひと」
「理婦人ナ社会」
「らへん」
「ビビリーバー」
「テテ」
▽初回生産限定盤B
CD+DVD 1800円 (税込) BVCL-760~761
「涙腺」 「クリスマスチキン feat.ダイスケ 」Music Video2曲
「 レコーディングメイキングムービー」
「ジャケット & アーティスト写真撮影メイキングムービー」
「ミュージックビデオメイキングムービー」収録
▽通常盤
CDのみ 1300円 (税込) BVCL-762
通常盤のみBonus Trackとして「恋文 -plugless ver.-」収録
【ダイスケ「スノウドーム / クリスマスチキン feat. 近藤晃央」】
11月30日発売
▽収録曲
M-1「スノウドーム」
M-2「クリスマスチキン feat.近藤晃央」
M-3「類人猿 feat. 近藤晃央」
▽初仕様付期間生産限定盤A
CD+DVD 1700円 (税込) ESCL4770~4771
特典DVD:「スノウドーム」Music Video+「スノウドーム」メイキング映像
▽初仕様付期間生産限定盤B
CD+DVD 1700円 (税込) ESCL4772~4773
特典DVD:「クリスマスチキン feat.近藤晃央」Music Video+「クリスマスチキン feat.近藤晃央」メイキング映像
ライブ情報
【近藤晃央×ダイスケ2マンライブ】
チキン達のクリスマス ~近藤晃央×ダイスケ クリスマス2マンライブ~
12/22(木) 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
開場18:30 開演19:00
12/25(日) 心斎橋SOMA
開場16:30 開演17:00
前売:4500円+ドリンク代 10/29(土)~一般発売
【近藤晃央・ライブ情報】
ONE MAN LIVE 2017『分泌音』
2017/1/27(金)名古屋・E.L.L
開場18:30 開演19:00
2017/1/29(日) 東京・Shibuya WWWX
開場16:00 開演17:00
前売:4500円+ドリンク代 10/29(土)~一般発売
【ダイスケ・ライブ情報】
5th Anniversary Tour 2017 No You No Live ~A NEW DEPARTURE~
2017/3/17(金)名古屋・ell.FITS ALL
開場18:30 開演19:00
2017/3/19(日)大阪・ROCKTOWN
開場16:30 開演17:00
2017/3/26(日)東京・WWWX
開場16:00 開演17:00
チケット料金:前売り4500円(税込み/ドリンク代別) 全席自由 12/3(土)~一般発売