シンガーソングライターの近藤晃央(こんどう・あきひさ)が9月13日に、最新シングル「存在照明」をリリースする。今年、メジャーデビュー5周年を迎えた。自分には才能がないと考える時期もあったと話す。しかし、少しずつ自信を付けて活動してきた。今作は「自分の中に『意志』さえあれぱ、そこには常に明かりが灯っていく」ということを実感した気持ちを込めたという。初回盤にはシンガーソングライターとして初めて書いた「めぐり」を収録。彼のアーティストとしての名刺のような作品になった。9月23日にはZepp Diver City Tokyoを舞台にデビュー5周年を記念したライブもおこなう。彼にとって5周年とは? 最新シングルに込めた想いとともに話を聞いた。
5周年はあっという間
――近藤晃央さんは、9月にデビュー5周年を迎えます。振り返っていかかでしょうか?
あまり振り返る機会には…なっていないですかね(笑)。もしかしたら、10年になると違うのかも知れないけど、5周年だと、振り返るほど過去の記憶でもなくて、すべてがまだつい最近のような感覚がありますから。だから、5周年とは言っても、キャッチコピーとして使っている感覚のほうが大きいかも知れないです。
「5周年を迎えるのに、何もやらないのは勿体ないよね」という、まわりの声から始まっていることなので。6周年や7周年だとやらないようなことも、区切りの数字となる5周年だから出来ることもある。それで僕も、5周年という言葉に乗っかるという感覚です。
――この5年間というのは、つまり近藤晃央さん自身とても忙しく過ごしてきた感覚?
最初の2年間は作品のリリースペースが異常に早かったので、正直追いつかなかった部分もありました。楽曲に関しては、デビュー前からいろいろ用意していたのでそこは大丈夫でしたが、最初の2年間はお正月しか休みがなかった。だから、ずっと動いていた記憶しかないです。
あと、その間に(ヒットの)波に乗れるか、どうかも大きかったですね。当時の自分は、その場その場をいかにこなしていくかが最優先で。でも、この世界は結果を求められる。正直、そこに対応していくほど心の余裕はなかったですし、それに伴った成果も、その2年間の中では出せなかった。
もちろん、活動が後退していたわけではないです。ただ、まわりが期待するほどの成果を出せてはいなかった。その辺で「自分は才能ないな」「自分には向いてない」と思った時期もありました。
――でもこの世界は、何が正解か決めつけられないですよね。
そうですよね。正直、今でも自分には向いてないなと思っています。音楽が大好きだし、音楽の仕事をしたいと思っていますけど、表に立つことが向いているか向いてないかで考えたら、向いてないなと思ったりもします。
――それは、コンポーザー(作曲家)として力は発揮したいけど、表舞台には出たくないということでしょうか?
デビューした当時から、その気持ちでした。今は、メディア側にも応援してくれる人たちがいてくれるので、その人たちと一緒に何かをやりたい気持ちを持っているので、メディアに出ることも嫌ではないのですけど。当時は、本当に顔も出したくない気持ちでした。
――当時は、その辺りに強いジレンマを覚えていた?
近藤晃央の活動と言っても、僕の考えることがすべてでなければ、まわりの人たちが考えてくれることだってある。今は、そこの照らし合わせが出来ますが、以前はそこが上手く出来なかったのでしょうね。
向上心がなくなったら音楽を辞める
――9月23日にはZepp Diver City Tokyoで5周年記念ライブ「KAIKAKI」があります。ご自身が「開花期」を迎えているからこそ名付けた言葉なのでしょうか?
言葉自体はあっているのですが、その言葉を名付けた理由は、ライブ当日にみなさんに言うつもりなので、今はまだ話しませんけど。
――ライブを通して直接ファンと触れ合ってきたのも、未来に向かう上での大きなモチベーションになっているのでは?
そのライブ活動も、デビュー当初はほとんどやっていなかったです。僕の場合、バンドサウンドの楽曲が圧倒的に多かったのですが。いざライブをやるとなると、支えてくれるメンバーも必要だし、いろいろ経費もかかってくるじゃないですか。でも、最初からそれをやるには環境的にハードルが高すぎた。
じゃあ、アコースティックな弾き語りでライブを演るとなっても、弾き語り前提で作った楽曲が少なかったから、デビュー当初はそれほどライブ活動をやっていなかったです。
その後ライブ活動も始めましたが、そのためにメンバーを固定してバンドのようにしていったり、楽曲もすべてライブアレンジをしてと、そこはいろんなこだわりを持ってやっていましたね。
――そのこだわりが、近藤晃央さんの持ち味でもありますよね。
自分にとって良かったのが、自らの思う通りに表現出来たこと。自分の思う通りに音源やライブ制作をできていたところはありました。特に、ここ2年くらいは表現する上ではやりやすい環境にいます。中身に関しては、完全に任せてもらえているので、やっていて楽しいです。
――でも、以前から楽しくなかったわけではないですよね?
以前は、自分以外の人がやりたいことに自分を合わせたり、持ち味を付け加えたりという面もありました。だけど今は、最初から全部自分でハンドリングしていける。そういう面で、より楽しくなってきたのだと思います。
――「売れる音楽」と「自ら追求したい音楽」との捉えに違和感を覚えることも多いのでしょうか?
例えば、「音楽で生活出来ればいいや」というスタンスで活動を始めたら、僕は辞めちゃうと思う。何故なら、向上心が無くなるから。向上心がなくなったら、踏み止まることさえ出来なくなると思っています。
今でも音楽は表現していて楽しいし、音楽活動を辞めたいとも思わないけど。かと言って、永遠にやっていたいとも思わない。そこは、「終わりがあるからすごく楽しく思える」みたいな感覚でやっている面がありますからね。
精神的なタイム感
――楽曲を聴きながら感じているのが、いろんな物事に対して自問自答したり、さまざまな矛盾に対して葛藤を覚えているのかな、ということです。
自問自答は、決して好きな行為ではないです。ただ、物事を判断する基準は自分にしかないのも事実…。
――最新シングルの表題歌「存在照明」はいつ頃できたのですか?
もう1年くらい前になるのかな。もともとは、アニメのオープニングテーマを書き下ろすために作り始めた楽曲です。結果、話は流れて、ストックにまわしていた楽曲です。
作っていた当初は、テーマが明確に決まっていて、その題材と自分を照らし合わせながら歌詞を書いていました。しかも、タイアップする作品も曲調も結構イケイケだったから、そこへ歌詞のテイストも合わせていました。
――確かに、とても疾走感のある楽曲ですね。
この楽曲を作っていたのが、2ndアルバム『アイリー』を発売する直前の時期で。当時の自分自身がとても前向きだったのでしょうね。僕の場合、アニメのタイアップ話をいただいた時は、まずテレビで流れる1分半サイズで楽曲を作ります。だから、この楽曲も1コーラスで完結したまま、眠らせていました。
それを再び完成させようとしたのも、今回、5周年シングルを出そうとなったときにこの楽曲がいいなと思ったからです。そこから、当時の勢いを今の自分で受け継いだまま、楽曲を作りあげて。最初の1分半と、それ以降では精神的なタイム感が微妙に違っていたりもする。でも、そこが面白さでもあります。
――1番の歌詞は、最初に作ったものを活かしている?
当時は、アニメとの関連性の中で「これは使って欲しい」というワードや表現があったので、それは取り除きました。ただ、当時からタイトルは「存在照明」と名付けていて、そこは受け継いでいます。だから、1番の歌詞が「奮い立つ」形なら、2番は「奮い立たせている」感じの表現になっています。その微妙な立ち位置の違いも、面白さかも知れません。
――その当時と今とでは、多少気持ちのモードにも変化が出ているということですね。
最初に書いた時期のほうが、今よりもがむしゃらだったと思います。
挑戦者であることを変えないスタンス
――「存在照明」の歌詞に綴られている<光への向かい方>も、表現の上での捉え方の違いが出ているのかな、と感じました。
同じ人間が書いているので、極端に変わることはないのですが、1年前の自分の歌詞を心強く感じたりはしますね。今の自分よりも、この当時の自分のほうが頼もしく思えたり、良い意味で当時の想いに引っ張ってもらいながら歌詞を書けたところはあると思います。
――「存在証明」ではなく「存在照明」、そのタイトルがいいですね。
歌詞の序盤でも光を求めているように、最初から存在を証明するよりも、自分の存在に明かりを灯したかった。自分にとって「光」とは目指すものではなくて、目指そうとする意志のことを指した言葉です。
僕自身が、目的や自信を見失いやすい人というか。「僕は何処を目指していたんだっげ?」「僕、一体何が出来るんだっけ?」と分からなくなったりもすれば、人に何かを言われて自信を失くしたり、自分を否定されて、信じられなくなったりすることも多いです。でも同時に、今の自分が持っている自信は、小さな自信をコツコツと積み重ねて得たもの。
だから、その自信は、人に何か言われようが、それで失くすことはない。見失うことはあっても、失くすことは決してない。そう思えたときに、自分の中に「意志」さえあれぱ、そこには常に明かりが灯っていく。そう思えたことを曲には書き記しました。
――自分の心が動くきっかけや動機、それが自分を突き動かす光になっていると。
そうかも知れないですね。「生きてくことの目標は何?」と聞かれても、特に答えは出てこないですが、「音楽をやってく上での目標は何?」と聞かれたら、俺にとってそれは「生きていくこと」なんですよね。
僕は自分のことを敗者だと思っていて。勝負に負けているなと。でも、敗者は敗者なりのビジョンを持たないといけない。歌詞には<戦いに敗れた不成功者と戦いを拒んだ不失敗者>と書いたのですけど。まさに、それこそが自分自身だなぁと思っていて。
僕は不成功者ではあるけど、不失敗者ではない。自分の中に不成功者という結論が出ているということは、いわゆる挑戦者であることを変えないというスタンスなんですね。挑戦者である限りは、勝者と敗者の両方になれる可能性を持っている。ぶっちゃけると、どっちに転んでもいいのですが。そのスタンスを、僕はまだ持ち続けられている。その意識が自分にとっては大事なことで。正直、10周年のビジョンは見えないけど、もうちょっと音楽活動は続けられるなと思えているみたいな…。
人の心をえぐったのなら表現者としては成功
――「ベッドインフレームアウト」は、「女性視点からのセックス」をテーマに制作したと聞きました。
この楽曲、演奏へ参加したのも、俺以外は全員女性です。女性視点の歌、だからメンバーも全員女性の方へお願いをしました。
――女性ミュージシャンの方々は、この歌詞をどんな風に受け止めていたのでしょうか?
結構、重たい気持ちで受け止めて、それを演奏に反映してくれていましたね。でも、結果的に男性も心に汗をかくような、冷や汗を流すような楽曲にもなったなと思います。
――男女両方の視点で「都合のいい関係」の中にある心の本質をついていますからね。
そう。ただ、僕はこの曲を聞いて救われて欲しいとはまったく思っていなくて。結局、こういう環境に身を置いたのも、その恋の関係は「盲目」以外の何ものでもないというか。ここに記した関係は、たとえ人が「不幸だ」と言おうが、「それでも自分たちは幸せなんだ」と貫き通した結果だと思います。
その人たちを第三者が救うなんて難しい。こういうことって、自分で気づくか気づかないか、信じるか信じないかだけのことだと思う。そこに2人だけの幸せを感じているのか、不幸せも覚えているのか…。ただただ、2人の関係の現実を突きつけている曲です。
――かなりシビアに現実を突きつけていますね。
僕は、音楽を通して人の背中を押したいとか、前向きになって欲しいとはあまり思っていなくて。むしろ、その歌が絶望へ導くものだって構わない。音楽って、必ずしも人の背中を押すためのものではないし、俺はそうじゃない意識で音楽と向き合っています。
「存在照明」に関しては、人の背中を押せるかも知れない。結果的に誰かの背中を押せているのであれば、それはいいことだと思います。実際、そういう想いを胸に作った楽曲でもあります。だけど、そういうのは楽曲単位でおこなうことであって、音楽活動すべてにおいて「人の背中を押すためにやっているか?」と言うと、決してそんなことはない。一人の表現者として捉えるなら、人が「二度と聴きたくない」と思える楽曲を作ることだって、僕は大きな意味があると思っていて。
なぜなら、その理由が何であれ、その曲が人の心を動かしたということだから。その感情がプラスであれ、マイナスであれ、人の心をえぐったのなら、それは表現者として成功ということですからね。
一つになれないのになろうとする想い
――もう1曲「ひとつになれないことを僕らはいずれ知ってゆくよ」を収録していますが、この曲についてはいかがですか?
サビに記した想いを歌いたくて、最初にその部分が出来上がりました。あとは、そのまわりに見えてくる風景を切り取りながら、メロディにはまりのいい言葉を書き連ねていったかたちです。だから、韻を踏んでいる言葉が多かったりもする。
この歌、タイトルには「ひとつになれないことを僕らはいずれ知ってゆくよ」と記しながら、一つになれないのになろうとしてゆく想いを書いていて。そういう矛盾点も含め、サビで伝えたい想いを際立たせるため、それ以外の言葉を情景描写のように書き記しています。
――「初回盤」のボーナストラックに、近藤さんがシンガーソングライターとして初めて制作した「めぐり」を収録した理由はあるのでしょうか。
制作するにあたり、「5周年の今、作る楽曲と同時に、活動を始めた頃に作った楽曲も一緒に並べて収録したい」という話をいただいたことがきっかけでした。僕は古い楽曲を入れるのは、正直好きではないです。理由は、ソングライティングの能力が当時と今とでは違うからです。だから、当初は自分ではあまり乗り気ではなかったのですが。いざ並べてみたら、いろんなことを比べることが出来て面白いなとは思いましたね。
――楽曲自体、とてもシンプルに制作していますよね。
近藤晃央として楽曲を作り始めた当初は、バンドサウンドではなくアコギでの弾き語りを前提にした楽曲を作っていたので。今でこそ、その楽曲に合う楽器をいろいろ構築していけば良いという考えですが、あの頃はアコギで演奏することを前提に楽曲を作っていた。つまり、昔と今とでは楽曲の作り方が根本から違っているんですね。だから、過去と今の曲を並べることで、余計にその違いを自分でも楽しめるのかも知れない。
――ファンは楽曲のどの部分に共感や共鳴を覚えていると思いますか?
全員がそうではないと思いますが、すごくピュアな人よりは、どこか影のある人が多いと思います。それこそ、自分のことを偽善者だと思っていたり、様々な角度から物事を考え過ぎてしまうあまり、空気は読めるけど自分の居場所を失くしていたり。そこは、少し僕と似ているのかも。要は、似た者同士が集まっているのでしょうね。
――その似た者どうしの集まりが、Zepp Diver City Tokyoという大きな舞台にまで広がりました。
本当はね、この日で一旦休止しようかなと考えていて。結果、そうじゃなくなったのだけど(笑)。もともとは、5周年で近藤晃央というプロジェクトを一旦終わらせて、また新しい別のプロジェクトを始めようと考えていて。でも、まだ続けたいなと思ったし、実際にZepp Diver City Tokyoのワンマン以降もスケジュールを入れているので、近藤晃央というプロジェクトはこれからも続けていくのですが。
――改めて、今の近藤さんにとってどんな1枚になったでしょうか?
もともとはミニアルバムを作るつもりでした。結果、シングルという形にはなりましたけど。実際に出来上がった作品を聞いていると、ミニアルバム並のボリュームを感じる作品になりました。本当にいろんなタイプの楽曲を収録できました。ある種、僕のアーティストとしての名刺みたいな作品になったと思います。まだまだ出来ることはあるなとも思いました。
【取材=長澤智典/撮影=編集部】
作品情報メジャーデビュー5 周年記念シングル「存在照明」 【初回生産限定盤 (CD+DVD)2000円(tax in.)BVCL-827~828】 DVD 収録内容 【通常盤(CD のみ)1300円(tax in.)BVCL-829】 ライブ情報近藤晃央5th Anniversary Live 「KAIKAKI」 9月23日(土)16:00開場/17:00開演 ※チケット一般発売中! |