パンクロック界のレジェンド、SAが10月19日に、アルバム『WAO!!!!』をリリースする。長年にわたりインディーズシーンで活躍を続け、今年1月にメジャーを選択。気骨と気概溢れる彼らのサウンドは多くのミュージシャンに影響を与えてきた。そして、今作は彼らにとってメジャーでリリースする初のオリジナルフルアルバムとなる。全国ツアー『START ALL OVER AGAIN, NOW! 2016』が終わった今年4月頃から楽曲制作を始めた。今だから出来たというリアリティ溢れる歌詞に、ギミックなしの等身大のサウンド。全曲書き下ろしの最新のSAサウンド11曲が意気揚々と収められている。「新しいフィールドで勝負をかける」、そんな決意表明とも言える1枚だ。前回のインタビューは今年7月、ボーカルのTAISEIとギターのNAOKIに、SA初の日比谷野音公演を中心に聞いた。そして、今回は、アルバム曲の制作裏話だけでなく、パンクロックとは何か、音楽を始めたきっかけなど、多岐に渡り話がおよんだ。
ジェスチャーが出来る言葉をタイトルに
――前回のインタビューから2カ月半ほどが経ちますが、この間、どのように過ごされていましたか。
NAOKI がっつりとアルバムのプリプロからレコーディングだね。
TAISEI そうだね。レコーディングに突入する時だったから、その中で完成して自分達の中で思い描いていた形になれたという点では、今はピーハツだね。
――アルバムタイトルの『WAO!!!!』は最初から決まっていたのですか?
TAISEI レコーディング中に、タイトルを決めようという話になった時に、何か意味合いを持たない感じのものにしたいなというのがあって、今までは自分達の意思表示として、意味合いを持たせたタイトルだったんだけど、今回は晴れ晴れとした“ピーハツ”な気持ちだから、そういうものを「ジェスチャーが出来る言葉をタイトルにしようよ」というのがあって。
NAOKI 「あんまり意味はないよ」というのはあったよね。何かインパクトのあるものにしようよってね。
TAISEI 例えば、アルバムの中の1曲をタイトルにしちゃうと、それがメインみたいになっちゃうのは嫌だなというのはあるね。
――その曲だけがメディアでかかるというお決まりのパターンになってしまい兼ねませんが、『WAO!!!!』のように作品を総称したタイトルだと、どれがリードトラックにあたるかというのもありますね。
TAISEI やっぱりそれくらい今回は11曲全部に自信を持ってやっている訳だから、『WAO!!!!』というアルバムの良い作品達という風にしたいなとは思ったね。
――アルバムレコーディングはいつ頃からおこなっていたのでしょうか?
NAOKI 7月7日の七夕の日から始めて…。スケジュールの都合で飛び石で録ってたんだけど、完パケしたのは8月の終わりだもん。けっこう時間をかけましたよ。
――曲作りは常にやられているのでしょうか?
NAOKI いや全然。前回のツアー『START ALL OVER AGAIN, NOW! 2016』が終わった4月17日以降に全部書き下ろしました。
――早いですね。
TAISEI 集中すると早いんだよね。
――基本的に曲は「書くぞ!」と決めてから書くスタイルでしょうか?
TAISEI そうだね。どっちかというと「やるか」という風になって書く事が多いね。
NAOKI ツアーなどを並行しながらの楽曲制作は出来ないもんな? 肉体的に疲れてヘロヘロになって東京に帰ってきて…。ツアーの時はツアーの事だけを考えてコンディション作りをしているから、曲はツアー終わってからだね。
――その時は引きこもって作曲に集中する感じなのでしょうか?
TAISEI けっこうそういう感じにはなることが多いね。でも、「さて作るぞ!」と取りかかってもそんなには出来ないもので、意外にメロディとかは録り溜めたりもしているんだけど、外を歩いている時とか身体を動かしている時に湧いてくる事が多いね。歌詞とかも。自問自答しながら歩いていたりすると、おのずと答えが出て、それが歌詞になったりもするけどね。
――自問自答されてるんですか?
TAISEI けっこうするね。「俺はどうなんだ?」とかさ。
NAOKI 「老いるとはどういう事か」とか、この歳になってくると普通に考えるよね。親兄弟の事を考えたりとか、そういう事が多いんだよ。それなり自分の立ち位置を考えながら、どうあるべきかとかね。
――老いることにネガティブな人もいると思うのですが、悪いことではないですよね?
NAOKI 健康であれば老いるということは良いことだと思うよ。知識もついているはずだしね。
――ちなみにもっと進んで「なぜ生きているのか?」というテーマに対してはどのような考えお持ちですか?
NAOKI 生きているからしょうがねえなと(笑)。生きていて目の前に立ちはだかる問題をどう考えようかなという事でしょうね。
――自問自答の中から歌や歌詞が生まれてくるとのことですが、今作でそれが特に出ている曲は?
TAISEI 例えば「誰が為の人生だ」という曲もそうだけど、そういう「何で自分は音楽をやっているんだろう」とか「何の為にやっているのか」とかを、そんなにヘヴィな感じではなくて思った時に、「自分の人生を自分で楽しくやらなければ意味が無いな」というのを考えたりもしたね。その中で今までの自分の人生の中で断片的に切り取ったシーンがある訳だし、それはおのずと聴き手や今生きている皆もそう思っているんじゃないかなと思ったりね。
――先ほどの「何で音楽をやっているのか」という自問の答えが見えてきた部分は?
TAISEI どうだろうね…。結局すごく単純な答え、「音楽を作って歌ってステージに立つ事が好きなんだ」という事に辿り着く訳なんだよ。「コレが好きなんだな」というね。だけど人生って、来年50歳なんだけど、そこまでいくまでに例えば30代、そろそろロックで人生が台無しだ、じゃないんだけど、「俺は本当にこれをこのままやっていていいのかな?」とか思う時が来てたりしたし、だけどここまで来たらそうなるよ。「俺、これしか出来ねえな」とか。
NAOKI まあ、不惑だよね。もう惑いはないという“不惑の歳”に突入するんだね。
――音楽ではない道に進もうと思った時もあったのでしょうか?
TAISEI 「まだ間に合う」という気持ちになった事はあった。
NAOKI それでバイトをやっている時代もあったし。お互いに何にもやっていない時期もあるんですよ。この30数年の中で。でもバンドもやっていない時に「どうすんのかな」と思うことがあったんだけど、やっぱり沸々とやりたくなるっていうか…。結局帰ってくるんだよね。
辞めようというか…。辞める結果になる事があるんですよ。メジャー契約をしていて、契約が切れるとか干されるとか。そうしたら明日から給料が出ないからバイトに行くんですよ。もうヨゴレの仕事でも何でもいいからやるんです。でも、あえて何となく汗をかく事も最初はいいんだよね。「たまに違う環境で働くのもいいね」と思うんだけど、1年が経ったら「やっぱりまずいな」と自分の中で思い出すんだよね。
――やはり仕事が終わって家に帰ってきて楽器を持つと「音楽がやりたい」という思いが強くなる感じですか?
NAOKI どのバンドにも所属していなかった時期が1年程あるんだけど、たぶんその時期が一番ギターを弾いてたもん。それまではスケジュールの中で明日もライブ、また明日もライブ、となっているからギターに触ろうともしないんだよね。それが仕事になっていた部分もあるし。それが無くなってからはもう、やっぱりこっちが一番恋しい存在なんだなって思えたんだろうね。それが30歳を回った先くらいだったからね。
「お前の人生はこんな事やってたんだな」って公開日記だもん(笑)
――SAはレコーディングで1曲を録るのに時間を掛ける方ですか?
NAOKI そんなには掛けないね。大体テイク3、4で終わりだもん。
TAISEI 「何回録っても同じだろ?」という世界だから。ロックってそんなもんですよ。
――やはりファーストテイクが良かったりしますか?
TAISEI だいたい2テイク目かな。
NAOKI それで、どんどん慣れてきたら上手くなってきてしまって面白みが減るとかね。
TAISEI 「槍もて弓もて」は、僕らもう上手く録れちゃうのよ。それをいかに上手くない感じでやるかという「ギリギリの所でやろうぜ」という感じ。
――逆に難しいですね。
NAOKI 「ちょっとやんちゃに演奏してみようぜ」とか。
TAISEI そうそう。でもそっちの方がロックンロールっぽいなという。そういう所の挑戦もあったりとかね。
――そういう流れで1、2テイク目がやんちゃさ加減が出ていると。
NAOKI “やみくも感”があった方がいいんですよ。2テイクくらいやったら、次のテイクでは「さっきとは違う事を」と考えている自分がいるから、もうヤメた方がいいんだよね。そこに余裕が生まれている。
TAISEI それの逆もあるんだけどね。「もっと上手くやろう」とか「徹底的に作り込んだものにしようよ」という事もあって、そういう中の振り幅というのはSAを長くやっているだけあって、それこそそういう事もやれるバンドになってきているんだよね。
――デモはTAISEIさんが作ったものをベースに?
TAISEI 最初に俺が打ち込んだものをみんなで聴いてコピーして、それからプリプロに入ると。
――全パートを打ち込んでくるのですか?
TAISEI そうだね、俺はけっこう作り込んだデモテープを持ってくるね。
NAOKI あとは尺を足したり引いたりをリハでサイズ感を決めてどんどんと。今回は贅沢にプリプロがやれたからさ。
――キーボードのパートが入っている曲もたくさんありますが、これもTAISEIさんが「こんな感じ」と提案するわけですね。
TAISEI 「はじめてのバラード」に関しては最初、ナオキちゃんがギターでバラードを持ってきたものに「コレを入れた方がいいんじゃない?」という感じで。これには、オルガンが欲しいね、とか。
NAOKI 歌詞のある中で背景が見えてくるから。歌詞に合うアレンジをしていくんです。大きく変わる事もありますよ。歌詞の内容によってアプローチも変わるから、演奏する気持ちまで変わるしね。
――ちなみに今作の中で一番変化した曲は?
TAISEI 今話してた「はじめてのバラード」は随分変わったね。
NAOKI 最初はでっかいイメージでバラードを書いていたんだけど、パーソナルな歌詞の世界を作っていく中で「だったらこの大きいのは必要ないよな」って。
TAISEI もうちょっと“部屋感”というかね。
――歌詞のイメージはどういった状況下で生まれたのでしょうか。
TAISEI これは、SAを15年やってきてバラードというものも何曲かは重要な要素ではあるんだけど、その中で来年50歳になる時に、そろそろパーソナルなラブソングを歌って良い時期に来たのかなと思って。それは、SAが「俺達とお前達」というところではなくて、「俺とお前」の部分を、他のメンバーとも共有できてきている円熟した歳になってきたのかなという。だから今は歌えるなと。
――時も重要になってきたということですね。
TAISEI 重要になっていると思うね。今だから歌えるなという。曲って面白いもので、その歳になればなったなりの言葉のニュアンスになるんだよね。「お前らかかってこいや!」でも、50代手前の「かかってこい」と30代中盤のそれとは、同じワードだけどやっぱり違うものになっていて、言葉も成長するんだなと凄く感じる。「今のその気持ち」だなと。60歳になっても70歳になっても恥ずかしくない歌を作りたいなというのが常に僕らにはあって、70歳でも「GET UP! WARRIORS」と歌える人でいたいというのがあるんだよね。それはノスタルジーではなくて70代なりの“GET UP!”であるべきだし。そういうものの音楽の作り方を考えているから、おのずと年齢がいけばいく程、若い頃の言葉がまた違う意味で自分なりに刺さるような気がするんだよね。
――言葉も成長するんですね。ちなみに“言霊”というのは存在すると思いますか?
NAOKI 本当に自分の中から絞り出してきたものっていうのは、そういうものじゃないのかなと思う。聴き手がどうかわからないんだけど、言霊もあれば音魂もあるからさ、俺らが弾いていてグッと“ゾーン”に入ってやっている瞬間ってあるんですよ。そこにはやっぱり音魂が宿っているんだと思う。だから歌詞だって、自分で震えるくらいの詞が出てきた時ってそこには言霊が存在しているんだなって思うよね。
――それが聴き手に届けば、それはまた言葉としても変わってくるんでしょうね。
NAOKI 受け手は不特定多数の人間の中で、たぶん、その時代毎で詞を読めば“また解釈が変わる”というのも言葉の持つ性質みたいなものだからね。
――こういった取材などで、歌詞や言葉について詳しく聞かれたりするのは照れくさい部分もありますか?
TAISEI いや全然。もう、自分の人生の切り売りだからさ、もう恥をかいているみたいなもんじゃん?「お前の人生はこんな事やっていたんだな」って、公開日記だもん(笑)。
NAOKI はははは!
――“公開日記”と言われると、また生々しさの出方が変わりますね。
TAISEI たぶん、それがないとやっている意味がないかなって。
――でも、どうしてもオブラートに包みたくなる時ってありませんか。
TAISEI そうなる人っているでしょ? でも俺はそれヤメたんだよね。
NAOKI フィクションでいたいか、ノンフィクションでいたいか、というのもあるだろうしね。
――フィクションでいたい、という時もありますか?
TAISEI それはもうSAの初期にあったんじゃないかな。それを俺らがやったのは英語とのチャンポン(混ぜこぜ)であったり、そういう事かもしれないね。照れ隠しというか。
――英語とのチャンポンが照れ隠しだったりしたんですね。
TAISEI もうやっぱり「ロックは英語ノリでいかなければいけない」みたいな、それはある意味“照れ”でしょう。
NAOKI 核心を見せないのはな。
――裏を返せば、英語の発音がロックに合うからというわけではなく?
TAISEI そういう世界なんじゃないの?「〜エヴリデイ!」とか「〜サタディナイッ!」の方が何か格好良く、映るのかな? という。やっぱり恥ずかしいよ、日本語で歌う事とか、自分の人生を切り売りする事って。いつだって格好が良い人って見られたいけど、そんないつもいつも格好が良い人なんていないんだから。
業界用語を使っていた最後の世代
――1曲目の「ピーハツグンバツ WACKY NIGHT」の“ピーハツグンバツ”も、こういう言い方は懐かしいなと(笑)。
TAISEI これはねえ、シャレで「ピーハツ」と言っていたら自分らがウケて、そのままね(笑)。
NAOKI 俺らってさあ、こういう業界用語を使っていた最後の世代だから、わりとバカみたいに使っちゃうんですよ。
――こういった“業界用語”を普段から使いますか?
TAISEI 「ツェーマン」ぐらい?(編注=ツェーマン=1万、“ツェー”はドイツ語の読みの「C」を指し、ドレミ〜音階「CDE〜」の一番目にあたる為、「ツェー=1」となる)
NAOKI もう出ちゃうんだよ。「ツェーマン」やら「デーマン」やら「チャンネー」とか「シースー」(編注=寿司、お姉ちゃん)とか、言っちゃうんだよ…!
TAISEI 「シースー、チャンネー」は俺は言わねえよ?(笑)
NAOKI いや、自分だって言うじゃん!「チャンネーがよ…!」って。
TAISEI ソリンガタンドス(編注=ガソリンスタンド)とか?
NAOKI わかんねえよ! そこまでいくと(笑)。
――その業界用語の感じをあえて1曲目に持ってきたのがSAらしいなと(笑)。NAOKIさんのブログでも「ピーハツ」とありましたね。
NAOKI 今それ推してますよ(笑)。発信していかないと!
――「ピーハツグンバツ WACKY NIGHT」をアルバムの頭にもってきた意図は?
TAISEI SAというのはだんだん自分達が開いていったんだと思うんだよね。開いて「入って来いよ」という気持ちになるんだ。昔は閉じていたと思うんだよ。自分らで壁を作ってパンク、テリトリー、というのがあったのかもしれないけど、その壁って自分達を守る壁でもあるけど、自分達の棺桶にもなったりする訳で、それはやっぱり開かないとって思ったんだよね。そういう気持ちになったらライブは凄く気持ち良くなったし、お客さんみんなが笑顔になったし、新しい奴らが簡単に入って来れるようになって、そうなった時にもう「ピーハツでしょ?」というね。残りの人生ハッピーで行きたいじゃん? というのがあったから、これはもう一発目でしょうとね。曲も陽気だし。
――曲調もハッピーだし、語感がいいですよね。“ピーハツ”という。
TAISEI ピーハツ、グンバツ、ね。“グンバツ”は何だかわかる?
――「抜群」ですよね?
TAISEI そうだよね。まだ大丈夫だね(笑)。
NAOKI ハッハハハ!
――だいたいはわかりますね(笑)。“イケドン”は?
TAISEI これは「いけいけどんどん」。
――略しただけなんですね(笑)。
TAISEI “イケドン”いいよね。「壁ドン」じゃないよって(笑)。
NAOKI 本当に俺らは勝手にそういうワードを作るね。すぐそういうの言っちゃうんだよ。
――こういうのは楽屋で生まれたりするのですか?
NAOKI もうどこでも無責任にこぼれている。それが面白い時に「これは使える!」となるのよ。
インタビュー後篇:蔑まれる事が快感に…それがパンク、SA 若い世代には新鮮な音楽
(取材・村上順一/撮影・冨田味我)