4度目のNHKホール公演。華原の歌唱には気力と感情が溢れていた(撮影・HAJIME)

4度目のNHKホール公演。華原の歌唱には気力と感情が溢れていた(撮影・HAJIME)

 歌手の華原朋美は現在、全国ツアー『TOMOMI KAHARA CONCERT TOUR 2016 ~君がそばで~』を展開中だ。8月27日には、NHKホールで東京公演が開かれた。3000人の観客を前に、アンコールを含む全18曲を熱唱した。歌手活動復帰後、4度目の開催となった同ホールでのこの日の公演は、ストリングスをフィーチャーしたアレンジが多用された、新鮮なものであった。

 MCでは、自身の紆余曲折の歌手人生を振り返り、「確かに人生壮絶でしたけど、いろんな経験をしてよかったなと思うんですよ」と語る姿もあった。その言葉の通り、華原の歌唱には気力と感情が溢れており、様々な事を乗り越えた今こそが彼女の絶頂期であること、且つ、それを更新し続けていることを感じさせるに相応しいものだった。

 そんな華原朋美の「今」が詰まったこの日の夜を以下にレポートする。

華原が表現した今の音

撮影・HAJIME

撮影・HAJIME

 会場となるNHKホールは超満員。ステージ上空にシャンデリア、ステージにはレッドカーペットが配置されている。華原の登場を今かと待っている様子が伺えた。

 いざ開演。可愛いらしいシンセサイザーと力強いベースが効いたSEとともにバックバンドが入場してくる。編成はステージ下手から鍵盤、ドラム、ベース、ギター、ストリングスカルテット。バックバンドとしては珍しい、ヴァイオリン2本、ヴィオラ、チェロによるストリングスカルテットがエレガントなイントロを披露する。美しいハーモニーが終わった瞬間にバンドがイン。

 本日のサポートミュージシャンは、ギター・遠山哲朗、ベース・浜崎賢太、ドラム・藤原佑介、キーボード・宗本康兵、弦楽四重奏・今野均ストリングスとなっている。

 ドレス姿の華原がステージ中央から登場。今夜の1曲目は、華原のデビューアルバムに収録されている「summer visit」から。既に1階席は総立ちで、青・ピンク・赤のサイリウムを振っている。この夜を楽しむ準備は万全だ。歌声は健在で、オーディエンスに左右に手を降らせる。

 続いて、これもまた97年の名曲「Hate tell a lie」と繋げて飛ばしていく。ベースのスラップと歌の合間に入る生ストリングスの合いの手が気持ち良いアレンジだ。発表当時とは違う表情で新鮮だ。コールアンドレスポンスに応答するオーディエンス。サビの早口部分の華原の歌いぶりが印象的であった。また、ギターソロから歌に帰還するところでの照明も素晴らしいスイッチングで同期していてパフォーマンスをサポートしていた。

ストリングスの存在感

撮影・HAJIME

撮影・HAJIME

 3曲目は「たのしく たのしく やさしくね」。またも冒頭部分でストリングスをフィーチャーした伴奏。今日は弦楽隊がかなり存在感を強く示している。「たのしく たのしく やさしくね」のリフレインになると、更に会場のヴァイブスが上がる。華原も手を振って身を乗り出す。「ありがとうございます!」と叫んでエンディングに着地した。

 オーディエンスからは“朋ちゃんコール”が。「華原朋美です。今夜は来てくれてありがとうございます。昨日は10時間くらい寝ました」と“彼女らしい”あどけないMCを挟むも、歌ではまだまだギアを上げていく。

 その後も、伴奏に歌が乗っているというよりも、華原の歌が主導権を握って音楽を進行させていくようにリードしていく。

藤澤ノリマサと見せた深層部

藤澤ノリマサ(撮影・HAJIME)

藤澤ノリマサ(撮影・HAJIME)

 ここで今日一人目のゲストとして藤澤ノリマサが紹介された。フォーマルな紫の上下で登場した彼は2年前に華原のステージを観ていたという。藤澤は最近話題の華原の恋人や音楽のことなどを報道陣さながらに質問していく。その中で華原が語った「確かに人生壮絶でしたけど、いろんな経験をしてほんとによかったなって思うことが最近多いんですよ」という言葉が心に刺さった。

 2人でコラボレーションしたのはミュージカル『レ・ミゼラブル』より「夢やぶれて ‐I DREAMED A DREAM-」。静かなイントロから華原、藤澤とマイクが繋がれる。Bメロから2人で美しいハーモニーをつくっていく。華原は、深い低音から高音までを張り上げる表現力の幅を見せてくれた。これに今の彼女の進化と深化を見た。

 前半はどちらかというとしっとりと聴かせる曲が多めのセットリストだったが、衣装を変えてからの後半戦はアッパーなものだった。先程までは見せなかった、彼女のファンキーな部分を存分に発揮する。バンドも華原と拮抗するように絡み合っていく。

山猿と見せた別の一面

山猿(撮影・HAJIME)

山猿(撮影・HAJIME)

 さらに二人目のゲストが紹介される。シンガーの山猿だ。クレイジーパターンのジャケット姿で登場した彼は軽妙なMCを披露。華原とは公私ともに仲が良い様だ。山猿の楽曲「Happy Days feat.華原朋美」で客演した華原だが、今回はその楽曲をアップデートした「もっとHAPPY DAYS」を2人で歌った。4つ打ちの踊れる曲調だ。いい意味で華原らしくない、この楽曲がとても新鮮に感じられた。Aメロでの2人のマイクリレー。山猿のラップも冴えて、フロアはタイトル通りのハッピーな空気で満ちていく。

 そこからは「畳み掛ける」という言葉がぴったりだった。オーディエンスからは歓声がある。。客席に乱入して、さらなる熱狂を煽る華原。「みんな来てくれてありがとう!」と感謝を届けながら。

 90年代の楽曲も機材やミュージシャンの違いでこんなにも新鮮で“今の音”になるのか、と考えさせられた。その華原はステージが終盤戦に差し掛かるというのに疲れを全く見せない。跳躍するメロディもなんのその。羽が生えたようにメロディを紡ぐ。驚くのはパワフルな歌と体のリラックス具合の対比である。何かに取り憑かれたような歌唱と体幹で取るリズムが絶妙なのだった。

ノーマイクで叫ぶ姿にグッと

撮影・HAJIME

撮影・HAJIME

 NHKホールの音響も素晴らしい。一体感がどんどん増すホール内高まるエネルギーはただ華原に向けられている。

 本編最後に添えられたのは、5月に発売したシングルより「君がそばで」。冒頭はピアノとストリングス、華原で歌い上げていく。ピアノに寄り添う華原のとても愛しい歌声。2コーラス目からバンドが合流、最後は熱量をさらに上げて演奏が盛り上がっていった。深くお辞儀をしてから、華原はステージを後にする。

 その後、ファンの朋ちゃんコールで呼び戻された華原はアンコールを披露した。アンコールからはスクリーンに投影された幻想的なイメージが万華鏡の様で美しい。最後までパワフルな歌声を聴かせてくれた。

 ステージが終わってからも割れんばかりの拍手が贈られる。最後まで感謝を届け伝える華原。「私も頑張りますので、皆もなにがあってもくじけないでね!」とノーマイクで叫ぶ姿にもグッときた。(取材・小池直也)

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