ジャンルレスな演奏活動で国内外で活躍するヴァイオリニストの石川綾子が30日、CDデビュー10周年を記念したアルバム『AYAKO TIMES』をリリースした。ギタリストの鳥山雄司、チェリストの伊藤修平をアレンジャーに迎え、シンガーの藤澤ノリマサと声優で歌手の鈴木みのりがゲスト参加。ショパン、ラヴェル、ベートーベンなどクラシックの名曲とSuchmos「STAY TUNE」、RADWINPS「グランドエスケープ」などをマッシュアップさせたアルバムに仕上がった。インタビューではCDデビューしてからの10年間を振り返りながら、「駆け抜けた10年間があるからこそ出せるアルバム」だと語る『AYAKO TIMES』に込めた想い、10年先の未来についてなど、多岐にわたり話を聞いた。
この10年間を振り返って
――このたびはCDデビュー10周年おめでとうございます。10周年を迎えたお気持ちを教えてください。
ありがとうございます! 皆さまのお陰で、10周年を迎えることが出来ました。3歳からずっとヴァイオリンと共に人生を歩んできて、”この日からデビューです!” という日がなかったので、正直「まだ10年・・!」という気持ちもありますが(笑)。こうして改めて節目を皆さまと迎えられる事を、とても嬉しく思います。皆さまと作り上げてきた素敵な10年間に感謝しています。
――その10年間は長く感じましたか? 短く感じましたか?
どちらでしょう・・!?(笑) ヴァイオリンを始めた時からの時間を考えるとあっという間にも感じますが、この10年だけを切り取って考えると、たくさんの思い出が詰まった、濃くて素敵な時間でした。
10年前の私の夢は、「全国色々なところで石川綾子のコンサートを開催させていただくこと」だったのですが、ありがたい事にその夢が叶い、日本全国様々な場所でコンサートを行わせていただきました。そのような経験を積ませていただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
――その中で特に思い出深い出来事を教えてください。
やはり私の中では、コンサートが人生の中心になって生きてきたように思います。たくさんのコンサートを行わせていただき、それが何よりの思い出です。コンサートの中で印象深いのは・・、今パッと浮かんだのが、アルバム『ANIME CLASSIC』の発売記念コンサートですね!オープニングが振り落としで始まる演出があり、その時ももちろん感動しましたが、今振り返っても「ヴァイオリンコンサートで振り落としで始まるなんて!?」と意外性にわくわくします。当時コンサートを作り上げてくださったチームがすごく素敵な演出を考えてくださって、とても感謝しています。ぜひまた振り落としで登場したいですね!(笑)
――そのコンサートではバンドスタイルにチャレンジされていましたが、バンドで演奏された時はいかがでしたか?
バンドスタイルで演奏させていただくという経験がほとんど無かったので、とても良い経験となりました。元々は、ギタリストの木島靖夫さんのご紹介で、「あやバンド」という名で初めてバンド編成を経験させていただいた事がバンドスタイルに挑戦するキッカケでした。今は色々な楽器編成でコンサートを作り上げていて、演奏できる楽曲の幅が広がりとても楽しいです。
昔から、クラシックの世界の「伴奏者」という呼び方に、少し違和感を感じていました。海外でも「accompanist(伴奏する人)」と呼ぶので、もちろん一般的な呼び方ではあるのですが、私自身がステージに求めるものは、少し違うなと感じていました。ヴァイオリニストとピアニスト、ベーシスト、ギタリスト・・、という風に同じアーティストと共に、コンサートを作っていく事に喜びを感じました。
――10年間、様々なジャンルの曲も演奏されていましたね。
ありがたいことに、CDデビュー以来毎年アルバムをリリースさせていただき、ファンの方々の支えによって新しい曲にもどんどん挑戦させていただき、様々なジャンルの曲のレパートリーが増えていきました。同様にライフワークとなっている動画投稿もとても大きかったですね。毎週のように動画をアップすることがきっかけで、様々な演奏方法や作品にも出逢えました。この動画投稿をきっかけに、ヴァイオリンの世界を広げられたような気もしています。10年前、一番最初にYouTubeに投稿したときは、映像なしで音だけを投稿していたんです。その後ライブ映像を投稿するようになり、そしてニコニコ動画と出会いました。
――注目のきっかけとなったニコニコ動画にはどのような思い出がありますか?
ニコニコ動画とは出会えて本当に良かったと思います。今までの良かった出会いのベスト10に入ります。(笑)ニコニコがきっかけでボカロとも出会えました。同時期にニコ生(ニコニコ動画内での生放送)もスタートしました。最初は何を喋って良いのか全く分からないまま始めたのですが、その中で視聴者の皆さまがコメントで手取り足取りニコニコ動画の全てを教えてくださり(笑)、一緒になって私の活動を支えてくれた、そんな始まりでした。色々なジャンルの楽曲もリクエストしてくださって、演奏のレパートーリーも増やしてくださいました。たくさんの“初めてのこと”を、ファンの皆様と共有できた事が幸せでした。
――そんな中、初音ミクの消失が大ヒットしましたね!
初めはなんだか自分のことではないように感じていました。アップ直後、周りの方々から「動画の再生数が凄い事になってるよ!」と連絡をいただきましたが、そもそも再生回数がどれ位だと凄いのかも分からず(笑)、注目していただいているという事にあまり実感が湧きませんでした。その翌日、スタッフさんから「コンサートのチケットが一夜にして即完しました!」と連絡をいただき、本当に驚いたのを覚えています!
何よりも嬉しかったことは、動画をきっかけに実際にコンサート会場に足を運んでくださり、応援してくださる方々に直接お会いできた事です。アニメやボカロが好きで、動画をきっかけに石川綾子に興味を持っていただいた方にも「絶対にヴァイオリンを好きになってもらいたい!」思いました。
コンサート会場に実際にお越しいただく事は、とてもパワーがいる事と思います。そのお気持ちが本当に嬉しくて、「せっかく出逢ってくださったからには、心からお楽しみいただきたい・・!」と心底思いました。
――動画をきっかけに、きゃりーぱみゅぱみゅさんとも共演されていましたね。
きゃりーぱみゅぱみゅさんとの共演のきっかけは、「にんじゃりばんばん」の演奏動画を投稿した時に見つけてくださったことです。横浜アリーナの公演にゲストとして呼んでくださり、「花のヴァイオリニスト」として出演させていただき、本当に夢のような時間を過ごさせていただきました。その後もTVなどにも呼んでくださり、素敵なご縁をいただきました。実はこの横浜アリーナ公演の当日には、自身の大切なクラシックのコンサートも開催していて、全く違うコンサートを1日で経験できたというのは、今後の大きな力になりました。
CDデビューから現在までの様々な出来事
――そんな楽しい事もたくさんあったと思いますが、逆にこの10年間で辛かった出来事はありますか?
一番辛かった事は、ハードスケジュールで腕を痛めてしまったことです。毎週コンサートがある中で、毎公演、「このコンサートが最後になるかもしれない。この演奏を最後に腕が折れても悔いはない」という覚悟を持ちながら、最後だと思って全力を尽くして演奏していました。そんな腕を痛めてしまった辛い時期も、温かいファンの方々の支えがあり、乗り越える事ができました。はっきりと言った訳ではないのに、あやファミの方々は気づいてくれていましたね...。あやファミは、いつもそっと優しく支えてくださいます。
――ファンの皆様を「あやファミ」と呼ばれていますが、その由来は?
元々、ニコニコ生放送の番組中に「いつも応援してくださる温かいみなさまの事を、親しみのある呼び方で呼びたいね」というお話になり、ファンのみなさまと相談して決めたんです。家族のように、あたたかい仲間という意味で、「あやファミ」という名前ができました! そして、その後「AYAFAMI」という公式ファンクラブが出来ました。
あやファミの皆さまは、言葉にできない色々なことも、全部分かってくださっていて...。あやファミの前では、弱音も吐いたりもします。何よりも大切にしたいと思います。自慢のファンの方々です。大好きなあやファミです!
――10年間で一番成長したことは何ですか?
10年前は、とにかく無我夢中で、「何か違う...」という少しの違和感を感じている時でも、「とにかく立ち止まる事なく走り続けなきゃ...」という気持ちでいっぱいでした。これが成長かどうかは分からないのですが、今はちょっとだけ立ち止まる勇気が生まれたと思います。演奏面で言うと、体を見つめ直したり、基本を見直したり...立ち止まって時間を取る事って勇気がいる事ですが、「立ち止まってもいいんだよ」とファンの方々に教えてもらえたのだと思います。
――逆にここだけは変わっていない! という部分はありますか?
スタッフさんもファンの皆さまも同じ事を仰ると思いますが(笑)、“全力演奏”なところだと思います!正直私自身は自分が“全力演奏”だと10年前まで気が付いていなかったのですが、周りに頻繁に言われ認識しました。(笑)10年経った今でも全く変わらないです。本気で本番に挑み、その時の自分自身が持っているものを全力で出し尽くす。そうしたらきっと、聴き手の心に熱い想いが届くと信じています。
コンサートといえば、中国ツアーの最終日に、公演が終わったあと全てを出し切って倒れたこともあります・・。(笑)ひとつひとつのコンサート、全力で突っ走るところは、これからも変わらないと思います!
『AYAKO TIMES』に込めた想い
――そんな10年間を経て、本日ついにアルバムが発売になりましたね。どのようなお気持ちですか?
この10周年を記念するアルバムをリリースする事ができ、嬉しいです。今までの駆け抜けた10年間があるからこそ出せるアルバムだと思います。そして、このアルバムの制作をきっかけに、一度立ち止まり、これからの音楽性を見つめ直すキッカケをくれた一枚でもあります。
――アルバムタイトル『AYAKO TIMES』の由来を教えてください。
このアルバムには、二つの意味が込められています。一つ目は、10年間の歴史・時を表現する「時間“TIME”」です。そして二つ目は、「掛け算“TIMES”」の意味です。初ソロアルバム『AYAKO』をリリースして以来10年間、関わってくださった全ての方々との「掛け算“TIMES”」により、素敵なケミストリーが生まれました。そして、いままでもこれからもジャンルの壁をなくせるような、色々な「掛け算“TIMES”」をしてジャンルレスな活動をしたいという想いも込めています。
――今回、ギタリストの鳥山雄司さんがアレンジャーとして参加されています。鳥山さんのとのコラボレーションはいかがでしたか?
今回鳥山さんとご一緒に音楽制作を行わせていただき、沢山のことを学ばせていただき、感謝しています。今までにないアルバム作品になったと思います。たとえば、アルバムに収録されているM7「Liar」は共同作品です。アコースティックなアンサンブルならどんな音楽になるかな、と二人で作り上げていきました。鳥山さんとでなければ生まれなかった曲です。心から感謝の気持ちでいっぱいです。
――どのような部分を一番学べたと思いますか?
一番は、クリエイティビティの素晴らしさだと思います。今回のアルバムはマッシュアップ曲とオリジナル曲で構成されていますが、今までは原曲のアレンジを大切にしたいという想いが強く、カバー曲を動画やアルバム作品などで演奏する際は原曲アレンジを重視させて頂くのが多かったんです。ですが、今回はマッシュアップがテーマという事で、どんどん新しい作品が生まれました。ひとつひとつ、全く違うクリエイティビティが込められた作品になり、今までとはガラリと印象が違う曲ばかりです。今回は3曲オリジナル曲が入っているのですが、そちらも初めてで嬉しいです。これからもどんどん、オリジナル曲を作曲していきたいと思います。
――演奏方法や曲のイメージも変わりましたか?
今までのアルバムは石川綾子らしい全力演奏が多かったのですが、今回のアルバムでは、聴き手に委ねるような、良い意味でリラックスして聞けるような楽曲に仕上がっています。リスナーの皆様の生活に寄り添えるようなアルバムであってほしいなと思います。
――2曲の書き下ろし楽曲「A Mother's Song -無償の愛-」と「Crying Violin」について教えてください。
まず1曲目、「A Mother's Song -無償の愛-」は聖母マリア様をイメージして作曲させていただきました。この10年間、ファンの方々からいただいた無償の愛がまさにマリアさまのイメージです。無償の愛とはなかなか難しいもので、人は良い時ばかりでなく落ちているときもあります。そして、そんな時に支えてくれるのが無償の愛。そんな愛を沢山感じさせていただいて、この曲ができました。
最初は低い音域で温かく、母が我が子を宝物のように抱き抱えているイメージ。そして途中バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」が入っています。また、この曲を作る時に、絶対にアーメン終止(キリスト教曲の最後の「アーメン」の部分によく使われる進行)を使用したいと思っていました。アーメン終止を入れる事で、聖母マリア様を表現しました。
そしてもう1曲の「Crying Violin」は、ヴァイオリンの為の曲、というテーマで作曲させていただきました。今までですとヴァイオリンはメロディ楽器なので、ボーカルとしてイメージしても違和感が無いように作曲をしていましたが、この曲はヴァイオリンだからこその鳴き方を表現して作曲しました。「A Mother's Song -無償の愛-」は楽器を弾かず譜面と鉛筆だけで作曲しましたが、逆にこの曲は最初から最後までヴァイオリン一本でメロディを作り上げたヴァイオリンのための楽曲です。
――今回のアルバムでは初めてヴォーカリストをゲストとしてフィーチャーしていますが、ご一緒してみていかがでしたか?
とても光栄で、嬉しく思っております。藤澤ノリマサさんにはM3「Erlkonig × Bolero」(Erlkonigのoは正式にはウムラウト付き)でシューベルトの魔王を歌唱していただきました。私には「デビルズアヤコ」という愛称がありますので(笑)、ノリマサさんの魔王とデビルの演奏でぜひコラボできたらいいなと思っています! ノリマサさんの歌声は、コンサートホールでも響きわたってすごく素敵だと思います。よりいっそうドラマチックな曲になりそうです。そして、ポップオペラというジャンルの垣根を超えた素敵なご活動にとても共感しています。
そして、鈴木みのりさんには、M8「Grand Escape × Sonata No.8 」のグランドエスケープを歌唱していただきました。みのりさんには、とにかくとても癒されました・・! スタジオにいらっしゃるだけで空気が澄むようなイメージで、可愛らしくお花のような方です。グランドエスケーブでは、透明感のある歌声が曲ととてもマッチしていて、そこにヴァイオリンでのベートーベンのSonata No.8を絡める事ができて、すごく素敵なマッシュアップとなりました。素晴らしいアーティストの方々とご一緒させていただき、とても幸せに思っています。
これからの10年
――この先の10年はどんな10年にしたいですか?
実はこの10周年に、すごくミラクルなことがたくさん起こっているのですが、そのうちのひとつに、楽器があります。日本ヴァイオリン様のご好意により、ストラディバリウスを愛用させていただける事となりました! 光栄で、身に余る幸福で喜びに震えています。
今回のアルバム制作がきっかけで、自分がこれから表現したい事を改めて考えさせていただいたのですが、ストラディバリウスをきっかけにしてヴァイオリンの魅力を何かもっともっとお伝えできるはず、と心から考えることができました。これもすべて、いつも支えてくださっている方々のお陰です。
これからの10年間、私自身「自分が表現したい事」を大切にしながら大好きなヴァイオリンとますます真摯に向き合い、楽器の魅力をひとりでも多くの方にお伝えできるヴァイオリニストを目指したいと思います。
ジャンルレスな活動も勿論継続です! 子供の頃から、私には「あなたを眠らせないコンサートをする」という目標がありましたが、今でもそれはずっと私の目標としてあります。楽しくて心に響くコンサートをこれからもずっと続けて、ヴァイオリンの可能性をもっともっと広げて壁をなくせる演奏活動をしていきたいと思います。そして同じように、クラシックヴァイオリンのあたたかい魅力も多くの方に伝えていきたいと思っております。
――生まれ変わったら、もう一度ヴァイオリニスとしての人生を歩みたいですか?
こちらは、「はい!」と答えたい気持ちでいっぱいですが・・(笑)、多分もし生まれ変わってまたヴァイオリンを弾いたら、絶対にまた人生をかけて一生弾き続けると思いますので(笑)、次生まれ変わったら違うことにも心を奪われてみたいな! とも思います。
――そして、そんな10周年を記念11月14日(土)に東京・紀尾井ホールにてコンサートが開催されますね。
アルバム『AYAKO TIMES』の曲をはじめ、今までの10年間の中でも特に思い入れの深い大切な曲を演奏させていただく予定です。とても久々にコンサートホールで演奏させていただくので、今から待ち遠しくてたまりません。そして、今回のコンサートでは、ストラディバリウスが初披露となりますので、生のストラディバリウスの音色もぜひお楽しみください。
また、藤澤ノリマサさんがゲスト出演してくださる事になり、とってもワクワクしています! 今回は、ピアノ、ギター、ベース、パーカッションという豪華な編成でお送りする予定です。こちらの編成ならどんなジャンルの演奏もできますので、幅広い演奏を大信頼のメンバーと共にお届けしたいと思います。
――最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
いつも応援してくれている方、お一人お一人のおかげで10周年を迎えることができました。本当に、心からの感謝の気持ちでいっぱいです。皆さまが温かく支えてくださることが、どのくらい私のパワーになっているか、言葉では言い表せないほどです...。これからも音楽でご恩返しができますよう、大好きなヴァイオリンを心を込めて、全力で! 演奏させていただきますので、これからもよろしくお願いいたします。
――ありがとうございました!
(おわり)