忌野清志郎と初代ボーカル宮城宗典との2ショット

忌野清志郎と初代ボーカル宮城宗典との2ショット

 ヒルビリーバップスという1980年代に活動したロカビリーバンドがいる。活動を休止して25年以上経った今でも、先輩から後輩へ、親から子へと新しいファンを産み続け、フォロワーが絶えない稀有なバンドだ。

 ヒルビリーバップスのデビューのきっかけは俳優・永瀬正敏のバックバンド探しであった。永瀬が所属していたキティグループは実写映画やアニメ制作から、レコード会社、俳優やミュージシャンを抱えるマネージメント運営まで手掛ける総合エンタメカンパニー。永瀬のバックバンド・メンバーを探していた担当ディレクターとマネージャーは、原宿にイキのいいロカビリーバンドが居るという情報をキャッチしていた。ヒルビリーバップスのライブに接したふたりは演奏の拙さに落胆するも、ボーカリスト宮城宗典の持つカリスマ性とスター性に着目。結局、永瀬バンドへの起用は叶わなかったが、ヒルビリーバップスはキティグループと1985年4月にマネージメント契約を果たす。

 1年間の合宿やリハーサルを経て1986年4月25日にシングル『微熱なキ・ブ・ン』でキティ・レコードよりデビューする。元々は原宿周辺で硬派なロカビリーバンドとして活動してた彼らだが、ボーカルのルックスの甘さからメジャー・デビューを機にレコード会社はアイドル路線へ変更。同年10月には、彼らをメインに据えたレギュラーTV番組「まんまとアイドル」をテレビ朝日の深夜枠でスタートさせるという破格のプロモーションが仕掛けられた。この功あって、徐々に女性ファンを獲得していく。

ボス=忌野清志郎との出会い

ヒルビリー第1期アーティスト写真(初代ボーカル:宮城宗典)

ヒルビリー第1期アーティスト写真(初代ボーカル:宮城宗典)

 しかしヒルビリーバップスが単なるアイドルバンドで終わらなかったのは忌野清志郎との出会いだ。担当ディレクターが、かつてキティ在籍時代のRCサクセションの担当という縁もありメンバーは清志郎と会う。特にボーカルの宮城は「おいらのソウル・ブラザー!」と可愛がられ、なんと清志郎から書きおろしの新曲『バカンス』をプレゼントされる。この曲は1986年7月25日にセカンドシングルとしてリリースされる。真夏をイメージした底抜けに弾けたポップナンバーながら、ロカビリー独特のヒーカップ唄法をもしっかりと組み込まれた『バカンス』は、口うるさい音楽ファンをも唸らせ、硬派な男性ファンを取り込んでいく。こうしてヒルビリーバップスは、男性と女性の両方から支持をされる珍しいポジションのバンドになっていった。

ボーカリスト宮城宗典の急逝でバンドは活動休止へ

 順風満帆な活動を続けてきたバンドに危機が訪れたのはデビュー3年目の1988年3月。同月25日にサード・アルバム『PUBLIC MENU』をリリース、28日には満員の新宿パワーステーションでレコ発ライブを行った翌日の3月29日。ボーカルの宮城宗典が投身自殺を図る。遺書も残されておらず原因は今もっても不明。予定されていた全国ツアーは全てキャンセルされバンドは活動休止を余儀なくされた。5月5日には日比谷野外音楽堂で追悼コンサートが行われメンバーと親交のあった忌野清志郎、仲井戸麗市、バービーボーイズの杏子やMAGUMI(レピッシュ)らが参加。会場周囲には入場できないファンが幾重にも取り囲んだ。翌1989年2月、バンドは二代目ボーカリスト横山裕高を迎え活動を再開するも、2枚のアルバムを発表し1990年5月にヒルビリーバップスは解散した。

そして数々のフォロワーが追随

ヒルビリー第2期アーティスト写真(二代目ボーカル:横山裕高)

ヒルビリー第2期アーティスト写真(二代目ボーカル:横山裕高)

 ポップなメロディとハードなロカビリーサウンドを違和感なく同居させたヒルビリーバップスのスタイルは、活動休止から25年以上経過した現在でもフォロワーが絶えない。原体験世代のみならず、新しいファンまで産み出している。

 ボーカリスト宮城の親友であった俳優の永瀬正敏は映画『男はつらいよ 寅次郎の青春(1992)』の劇中でヒルビリーの曲を歌い、ヒルビリーの楽曲『夢見る頃を過ぎても』を『For the boys…』というタイトルに変え1993年にシングルとして発売。自身も出演したサントリー・カクテルバーのCMソングに起用した。

 影響を受けたアーティストにヒルビリーバップスを挙げる氣志團の綾小路翔は『夢見る頃を過ぎても』というタイトルの同名異曲を書き、自身のライブでもヒルビリー楽曲をカバー。ガールズ・ロックバンドのSCANDALは『夢見る頃を過ぎても』のリニューアル・カバー/アンサー・ソングとして『夢見るつばさ』を2009年にリリース。湘南乃風の若旦那は4月6日にリリースしたアルバムで『ビシバシ純情!(4枚目のシングル)』をカバーした。

デビュー30周年を記念しコンプリート・ベスト発売

 ヒルビリーバップスのデビュー30周年を記念し7月20日に発表されたコンプリート・ベストは、彼らのリリースしたシングルを全て収録。又、従来のベスト盤には収められなかった二代目ボーカリスト横山裕高時代の楽曲も収めた完全盤。CDのエキストラ・トラックには1987年8月5日・6日に広島サンプラザホールで行われたチャリティ・イベントでの『バカンス』のライブ音源に、作者である忌野清志郎のセルフカバー・ヴァージョン。CDのM11に収めれらた『ティーンエイジャー』の仲井戸麗市が歌ったオリジナル・ヴァージョンに盟友・永瀬正敏が『夢見る頃を過ぎても』をカバーした『For the boys… 』といったヒルビリーバップス関連のアーティスト楽曲までをも収録。

 ブックレットにはバンドのリーダーの川上剛が当時の事を思い出しながら語る曲目コメントが収めらている。ちなみにこの川上剛によく似ているボビーなるベーシストが、後に忌野清志郎によく似ている人物の"ZERRY"が率いる覆面バンド、タイマーズのメンバーであった。

 DVDには初DVD化となるバンドのミュージック・ビデオクリップを収録。そしてボーナス・ムービーにはセカンド・アルバム『HILLBILLY THE KID~DOWN THE LINE』発売記念として1987年11月20日に後楽園ホールで行われたライブ映像も収録。これはPA卓に設置されたカメラで撮影されたスタッフの資料用映像。ステージ全体を捉える定点撮影のためアップのシーンこそないが、当時の彼らのライブの熱気が伝わる貴重な映像だ。このコンプリート・ベストは、従来のファンと新しいファン双方を満足させる充実の内容となっている。

 現在、ヒルビリーバップスは二代目ボーカリスト横山裕高にオリジナル・メンバー3人を加えて不定期に活動を続ける。7月23日には羽田国際空港のTIAT SKY HALLにて30周年記念ライブ(チケットは完売)をおこなう。=敬称略=(文・石角隆行/六角堂)

作品情報

CDジャケット写(7月20日発売新譜)

CDジャケット写(7月20日発売新譜)

<ヒルビリーバップス/CD+DVD概要>
タイトル:ヒルビリー・バップス 30th ANNIVERSARY COMPLETE BEST
2016年7月20日発売/CD+DVD:UPCY-7170/3,240円(税込)
歌詞・解説(川上剛/ヒルビリーバップス)付き
発売:ユニバーサルミュージック

▽CD収録曲
01.微熱なキ・ブ・ン(とびきり16才)/02.世紀末少年/03.バカンス/04.激的バーニング・ラブ/05.ビシバシ純情!/06.二人の為の甘いバラード/07.僕たちのピリオド/08.ブレイントリップ A-Go-Go/09.真夜中をつっぱしれ/10.崩れ落ちてゆくサマーナイト/11.ティーンエイジャー/12.You/13.ウェディング・ベルを抱きしめて/14.夢見る頃を過ぎても/15.Dear Friend(Demo Tape Version)/16.OUR SONG/17.G・オーウェルの息子たち
<EXTRA TRACKS>
18.バカンス(LIVE at ALIVE HIROSHIMA '87)/19.BAKANCE(忌野清志郎)/20.ティーンエイジャー(仲井戸麗市)/21.For the boys…[Single Version](永瀬正敏)

▽DVD収録曲
<Music Video Clips>
微熱なキ・ブ・ン(とびきり16才)/バカンス/激的バーニング・ラブ/ビシバシ純情!/僕たちのピリオド~トーク/真夜中をつっぱしれ/世紀末少年/ウェディング・ベルを抱きしめて/バカンス(モノクロVersion)/チャイナタウンでつかまえて/夢見る頃を過ぎても
<Bonus Movie>
1987年11月20日 後楽園ホール・ライブより
激的バーニングラブ/世紀末少年/真夜中をつっぱしれ/5時からのレボリューション/チャイナタウンでつかまえて/ウェディング・ベルを抱きしめて/崩れ落ちてゆくサマーナイト/Summer Time・サマー体育/ティーン・エイジャー/僕たちのピリオド/You/ビシバシ純情!/Crazy Head/Urban Confidencial/ブレイントリップ A-Go-Go/バカンス

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