意表を突くオープニング

弾き語る姿でもファンを魅了

弾き語る姿でもファンを魅了

 そうした想いを観客と共有した後、その“要塞”にメンバーが集まる。拍手を浴びながら、タキシード姿でゆっくりと歩を進める角松。中央に立つと右手でハットを取り頭を下げる。と同時にどこからともなく大歓声が飛び交う。その歓声、視線は、アリーナ席の中央に設けられた正方形の特設リフトステージに向けられている。そう、メインステージにいるのは偽物で、こちらが本物の角松。意表を突く登場に驚いた歓声だった。

 カラフルなシャツにピンクのパンツという装いの角松はニヤリと笑みを浮かべ、高さ3メートル程まで上昇したリフトステージで「これからもずっと」を歌う。周年公演はこうして、してやったりのサプライズで幕を開けた。2階席のファンはほぼ同じ目線、1階席は見上げる格好で角松を見る。その頭上で白光が煌々と輝くなか、爽やかな表情で歌う角松は、ひとり一人の観客に届けるように目線を送り、そして手を振った。

 ニクい演出で観客を喜ばせると、曲終りにステージを降りて、2階席袖に設けられた通路を伝ってメインステージへと移動する。その道中はインストが流れ、観客から求められるハイタッチにも応えた。“所定の位置”で今一度深々と頭を下げると、アコギを構えて再び一礼。インストを止めて短く挨拶する。「みなさん、こんばんは。角松敏生です」。本編はここからがスタートと言わんばかりに3曲目は「Statin’」。

「SEA BREEZE」を完全に再現

角松はアコギのほかにもエレキも奏でた

角松はアコギのほかにもエレキも奏でた

 この日のライブは「ACT-1」と「ACT-2」の2部構成で展開された。演奏前には角松のユーモアたっぷりの解説が入るなど“楽曲の背景を訪ねて角松音楽を知る”授業さながらの“プログラム”は時間の経過を感じさせなかった。ただ、6時間半にもおよぶ長丁場。角松も途中のMCで「既に後悔をし始めています。時間との闘い。マラソンみたいにランナーを沿道で見守る様に」と自身をマラソンランナーに見立てるほどの過酷なステージ。

 その折り返しまでの前半「ACT-1」では、「色んな世代にも広がった」と今年3月に発売され、初週売上1万枚を超えたアルバム『SEA BREEZE 2016』の収録曲を曲順そのままに再現。89年発売当時のアナログマルチテープをアーカイブし、当時の音源を活かしつつ、角松自身の歌を再録音。「最高のミュージシャンが演奏しているのに僕だけがそこに達していなくて。当時よりも高まった歌唱力で録り直したかった」という思いで作られた作品で、自然と『SEA BREEZE 2016』を再現する格好となった。

 「もちろんこの作品を表現するにはこの人は欠かせません」と、当時レコーディングドラマーだった村上を迎え入れた。器用でダイナミックな玉田・山本のドリミングに対して、軽快でありながらもアダルティな村上のドラム裁きが絶妙なグルーヴを生み出し、そこに乗る各パートの音色によって華やかな音像を作りあげた。現代に蘇る音源、そして当時の描写はここに更新され、色あせない爽やかな風を送り込んだ。

 「レコードを裏返してB面に針を落とします」と語って披露したB面1曲目、本編12曲目「YOKOHAMA Twilight Time」は全ての楽器が一斉に鳴り響く強烈な音像に、観客も圧倒されながらもその迫力に心を躍らせた。そして、角松の歌声は優しく爽やかでありながらも、この高揚感に満たされて時折ソウルフルに。その歌声はサックスと絡み、更にセクシーさが増した。

 『SEA BREEZE』収録の全8曲を披露すると会場は割れんばかりの拍手。「さあ行きますか!」と85年リリースのシングル「初恋」を歌い、「ACT-1」は終了。出演者全員がステージ前に横並びになって角松が「こういうのも珍しいけど、以上のメンバーでお届けします」と一笑いを入れてステージを後にした。

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