INTERVIEW

木村花代×吉沢梨絵

2人をも悩ませる難作:ミュージカル『キッド・ヴィクトリー』


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年12月18日

読了時間:約12分

 浅草九劇ミュージカル企画・第一弾『オフ・ブロードウェイミュージカル「キッド・ヴィクトリー」』が26日まで東京台東区の浅草九劇で上演される。米カンザス州の小さな町を舞台に、約1年間の行方不明から家に戻った青年・ルーカスがこの期間に起きたフラッシュバックに苦しみながらも日常を取り戻していこうとする姿を描く。坂口湧久と碧直生がW主演でルーカスを演じる。今回は、ルーカスの母・アイリーンを演じる木村花代、そしてルーカスが心を開く相手エミリー役の吉沢梨絵にインタビュー。元劇団四季所属で舞台経験も豊富な2人をもってしても「難しい」と悩ませる作品。どのような思いで臨んでいるのか。※取材は稽古期間中に実施。【取材・撮影=木村武雄】

それぞれ解釈が異なる作品

――吉沢さんとの再会、どうですか。

木村花代 嬉しかったです。一緒に取材すると聞いて「めっちゃ嬉しい!」って。今は違うキャストで別々にお稽古しているので、会えないと思っていたんです。すれ違うこともなかったので、舞台稽古まで会えないか、もししたら千秋楽終わっても会えないかもと思っていたら、こうして会えて嬉しいです。

――今回の役どころと、作品のテーマ性はどう思いましたか。

木村花代 とにかく「お客様とディスカッションしたいね」という話をすごくしているんです。役どころは、母親というシンプルな設定ですが、私自身今までやってきた母親像とは違うので、新たな挑戦ではあるかなと。この作品はとにかく難しくて。でも噛めば噛むほど味が出るので多くの方に観ていただきたいです。

 テーマ性については、観たお客様に逆に教えていただきたいなって。初演は見ていないんですが、この作品を通してお稽古していた時に、作品が持つメッセージを知りたいと思いました。分からないという意味ではなくて、すごく多面的で観る人の数だけ解釈があるかなと思うので感想を頂きたいなって。

 私が良いシーンだなと思っても、すごく冷酷なシーンに見えたという人もいたんです。解釈が全然違っていて面白いなと。役者としても多面的に演じていけるような深みがもっともっとあったらいいなと思うような作品です。

――吉沢さんはどうですか。

吉沢梨絵 テーマ性で思うのは、普通なら行方不明から戻ってきたら「良かったね」で終わると思うんですけど、この作品は「本当にそれで良かったのかな?」からスタートするんです。世間的にもそこで一段落するというか、その人たちへの関心は薄くなると思うんですけど、ニュースで顔も有名になって、その後、果たして元の生活に戻れて「幸せに暮らしましたとさ」となるのか。それがこの話のテーマみたいになっているのかなと。簡単な話ではなくどんどんハマっていって。なんでこの話を作ろうと思ったのか作者にすごく聞いてみたいです。私のなかではまだまだスッキリしていないんですけど、問題定義という意味ではドカンとしているなと。

 そんななかエミリーは、心の救いになるというか、家に帰って来てから元通りにはなれそうにもない主人公の心の拠り所になる役柄なので、空気感というか…。自分が今役作りで難しいなと思っているのはその居かた。少し息苦しくなっている人たちが、ふと心を開きたくなる人ってどういう人だろうと。単純に、気にしてなくて、あっけらかんとしているところから自分は入っていったんですけど、それにプラスしたいなと。エミリー自身も悩みがあって、最初は、何で自分が主役の物語じゃないのに、エミリーはこんなに自分の話をするんだろうと思ったんですけど、それが後々になって、お互い傷を持っているという共通感が世代や性別も超えて繋がるというか、ルーカスが自分という存在自体もエミリーの支えになっているという関わり合い方があるのかなって。ルーカスの母・アイリーンとエミリーは年齢も近いんですけど、全く違う生き方をしているというところにも、エミリーとしての存在理由があると思いました。たぶん千秋楽が終わっても考えが続くから、是非終わった後に、作り手と観客が関係なく入り混じってアフタートークしたいですね。

木村花代 母親って一般的には子供の味方。でも、ルーカスにとっては他人が味方で、親は敵になっているというところや、思いの食い違いが切ないし苦しい。でも当たり前にあることで、愛してないとか、お互いを頼ってないわけじゃないけど、心の隔たりみたいなのができて、近ければ近いほどそういうものができやすく、他人だからこそ打ち明けられるのかもしれない。その辺もアイリーンとエミリーは対称的に描かれていて、しかも若い女の子ではないというところの作り方も面白いです。

――それぞれの目線で見ると見える景色も立場が変わってくる。

木村花代 そう。誰に視点を置くかで変わってくるんですよ。お父さんからの見方も全然変わってきますし。

多面性を作るのは“中身”

――木村さん、多面的でいたいとお話しされていましたが、前後の芝居によってもその見え方が変わってきますよね。多面的に見せるにはどのようにしようと思っていますか。

木村花代 技術的な話になりますが、生身の人間を出していく、簡単に言うとお芝居をしないということになります。今まで生きてきたことが出れば多面的になると思うんです。私もいろいろと経験してきて、それがうまく役とリンクして、それがいろんな所でいろんな色が出てきたりする。この人はこういうイメージと括ってお芝居すると、すごく薄っぺらいものになると思っていて、人間ってそれぞれがいろんな面を持っているからそこを細かく人や物事に対してビビットに舞台の上で生きていくことができたらきっと多面的に見えると思います。たぶん見せようと計算したら違ってくると思いますし、でもある程度計算は必要かもしれないし。役者としてもすごく難しいですね。

――表面では見えない中身の部分ですよね。

木村花代 その部分をどれだけ深く持てるかで、この作品はすごく変わってくるというのを2回通して分かったところで、逆に今は怖いなって思っています。本当に脚本家に聞きたい。

――そういう意味では、吉沢さんが空気感を出していきたいとおっしゃったことにも重なりますね。

吉沢梨絵 演劇って、ある人がいて、出来事を経て変わっていく、そういう変化を観ていくものですが、大事なのはその人物のベースがちゃんとお客様の中に置けているかということだと思います。空気感というのはまさにそうで、そういう滲み出ているものがちゃんと渡せていないと、そもそもエミリーがどういう人なのかとか、こういう人だと思ったのに、こう裏切られたという、そういう展開自体も作れない。お芝居って本当に難しくて、お客様がエミリーやアイリーンの人物像を認識していく、それは序盤の序盤だけど、その人たちが何年も生きてきて、ここだけ特別な事をした、そういうことを理解してもらうのはすごく難しいなって思います。

木村花代 日常の話ではあるんですよね。いかに自然に日常を過ごせるのかっていうところも勝負になってくるかなと思います。

吉沢梨絵 演出家も言っていたけど、すごく小さな空間でやるお芝居だし、自分というものからあまり離さずにキャラクターを作って下さいと言われて。

木村花代 え!それ私言われてない。なんでみんなに言ってくれないんだろう(笑)

吉沢梨絵 もしかしたらその組に合った話をしているんだと思いますよ。エミリーという役と私の空気感で使える部分は多分にあるかなといま話していて思いますし。それを使うんだけど、読んでいると「えっ違うじゃん」という感覚もすごくあるから、面白いんだけど「もっと読まなきゃ」と思わせてくれる作品です。

吉沢梨絵×木村花代

1ミリでも共通点があったら役を手繰り寄せられる

――役がいずれ自分になっていくので、受け入れないといけないと思うんですけど、共感できないところはどう納得させていくんですか。

吉沢梨絵 それは花さんに聞きたい!

木村花代 アイリーンは共感できないことだらけなんですよ。でも、その人を愛するとか、理解しようとすること、支配欲というのは、母親じゃなくても誰でも持っていると思うんです。この役をやってから、すごく世間のお母さんを見ています。子供に怒っているお母さんとか、どういう心理なんだろうとか、傍から見ていると、些細な事なんだけどすごい剣幕で怒る方もいて。本人にとっては、こうでなければいけないという像があるのかなって。私の場合は観察するしかないので。

吉沢梨絵 花さんは、何の抵抗もなく、吸収することができる方ですもんね。この役はそうなんだと思ったらゴクゴク飲み込める人だなと思う。だから劇団四季の時も、色んな役をやられていて。そういう方は役に対する変な壁が何もないというか。

木村花代 自分自身は、役に対してこうでなければならないというのがないですね。役と自分の共感ポイントを探していくんです。1ミリでも1個でもあったら、自分の中では勝ち。今はその1個を探し当てられたかな、まだもうちょっとかなと何となく手掛かりは掴めているようなイメージはあります。

吉沢梨絵 テレビとは違って、舞台は自分で演出家的な視点を持っておかないといけないかなと思います。俯瞰してエミリーを見なきゃいけない感じがあって、そのなかで自分がどうのっていうよりも「そこにそぐっていない?」と思うセリフがたまにあるんです。作った方がいる場合だと「実はこうで」と言われて納得することもあって。

木村花代 でも絶対意味があってそのセリフがあるはずだから。

吉沢梨絵 そうなんです。役を演じてみて、このセリフは不自然と思う時は作家や演出家も含めて話し合うことはあるんです。理解を深める為に思い悩む時もあります。例えば、エミリーは自分の事をいっぱい話しますが、この物語を伝えるのにそこまで言う必要があったのか初めは悩んで…でも自分が抱えている具体的な悩みをルーカスに吐露する事で、彼女にとってはルーカスが頼れる存在に、そしてお互いが救い救われる関係になっていく。そういう深い部分でのつながりをお客様に置きたかったのかなと今は思います。それと音楽がとても素晴らしくて救ってくれるんです。

木村花代 後半の音楽の作り方がすごく面白くない? アイリーンのナンバーからビックナンバーがボンボン続くから。ソロがどんどん続くんですよ。面白い作り方だなって。全部が良い曲ばかり。

観客の目が劇中の世間の目に

――小劇場でお客さんの顔が見える中で物語がどう変わってくのかなと。そこも楽しみですね。

木村花代 母親のアイリーンからすると、観客の目が世間の目に見えるのかなって思います。すごく世間の目を気にするお母さんなので、そこもストレスになってきたりすると思うんです。皆さん生きていて、人の目を絶対意識して生きているじゃないですか。そういうところでの共感はしてもらえるかもしれないし、役者としてそれを強みに、逆手にとって演じられるかなって思いました。

 本だけ読んでも怖くて、息子に対しての敵みたいな書かれ方をしていて、エミリーのほうが味方っていう。実際は絶対そうじゃないですよね。そこが書かれていない分、そこをどれだけ、さっきの多面的というのも含めて、表現できるかが勝負なんです。「ひどいお母さんだったね」とただ思われてしまったら失敗だなと。「お母さんも切ないよね」ってなるとギリセーフかなと。ルーカスにとっては「よき理解者ではない」と映らないといけないのでそこが多面的ということなのかなと思うんです。

――観客が世間の目になるということでは、周りの声に敏感なアイリーンの視点で考えた場合とても怖い場になりますよね。それを演じている木村さんの心情は相当きついものになるんじゃないかなと。

木村花代 初演でも父親・ジョセフ役を演じられた(森田)浩平さんが「これ疲れるんだよ」っていつもおっしゃるんですよね。でもそれは役者として十二分に楽しみたいと思います。

――その役をずっと演じていて、抜ける時はいつなんですか。

木村花代 私は結構すぐ抜けます(笑)

――吉沢さんがお話しされていた、客観的に飲み込める方だと言っていたので、納得という感じなんですが、どうですか。

吉沢梨絵 演目や役によりますが、今回は本に引きずられているというか、本の事をずっと考えています。なんでこの本作ろうと思ったんだろうって。こんなに悩んだことがないんです。

木村花代 でも、始まりが「めでたしめでたしじゃないんだよ」っていうのは人間の本質を描こうとしているのかな。本当にあった事件を題材にしているのであれば、そういう人たちの傷を分かってほしいというメッセージなのかな。

吉沢梨絵 私は「今でも考えている」というのは伝えたい。観たら「観てなかった世界には戻れません」って言いたい!

木村花代 接することがない事実に向き合うということだもんね。何とかの扉を開けちゃったみたいな感じですね。

――何回も観ることによって、捉え方も変わっていくかもしれないですね。

吉沢梨絵 何回も観たくなる人もいるかもしれないし、もうちょっとという人もいるかもしれないけど、その人たちにとっても、ずっと残る話じゃないかな。

コロナ禍で改めて感じた演劇の魅力

――さてエンタメ業界、特に舞台やミュージカルは、コロナ禍で大きな打撃を受けました。これを経て、改めて舞台ができて、考え方が変わったとか、今のエンタメ業界をどう思っていますか。

吉沢梨絵 自分の可能性が分からないところで、何ができるのかと考えた時に、歌えてお芝居が出来てというところから、劇団四季に拾ってもらえて、演劇が楽しいと思いながらも、一日一日をちゃんとやらなきゃいけないという日々を約7年間過ごしたので、やれなくなって、また舞台をやることができたり、観に行った時にすごく感じたのは、お客様が声を出せないとか、規制がある中、拍手することしかできないんだけど、とんでもないエネルギーを観客席で味わったんです。その時に本当に必要な文化だなと改めて思いました。

 できることが規制されている中で、お客様が私たちに何かを渡そうとしていて、元気をもらっているんだよみたいな。「need」(必要)なんだって。お客様も観に行けなかった時に、感じてらしたかもしれないんですけど、やっても観ても感じて、私にとってすごく必要な事だったんだと思いました。この作品は、お芝居じゃないと分からない世界に連れて行ってくれるというものの最たるところにあると思っていて、自分は目に見えない感動を生む職業だけど、特殊な期間を頂いて、それはもっと必要なものだったんだと自覚してやろうと思いました。

木村花代 私たちも再開は待っていたけど、お客様もそんなに待っていて下さっていたんだと、ひしひしと感じましたし、エネルギーを逆にお客様から頂いたというのはすごくありました。まだ不安なニュースが流れる中で、落ち込んでいる方もいると思うんです。一番に淘汰されるものなんだけど一番人間が生きていく上でなきゃいけないものは、エンタメなんだなと改めて気付かせていただいたので、これを体現出来て、お客様が必要として下さっているのであれば、いつまでもステージ上には立っていたいと思いました。自分だけの人生じゃなかったんだなって、ひっくるめて人の人生をまるごと変えちゃっているという責任感みたいなものありますし、私たちにしかできない癒しや救い、元気、パワーがあるんだなと思ったので、劇場が特別な空間になった感じです。

 今まではステージにいるのが当たり前だったけど、劇場に行こうと思って下さった勇気にも感謝していますし、それにプラスアルファー何かが乗っかるというのがあるので。世界が大変になっているので、今までとは一緒とはいかないので、時代が変化すると共に自分も変化して生きていかなきゃなと思いました。演劇を愛して下さる方に、これを機に恩返しが出来たらいいなと思います。配信もありますけど、生身の舞台に勝るものはないと思うし、劇場は危ないと言われているからこそ、きちんとしている場所でもあるので、安心して来て下ったらいいかなと思います。

――コロナ禍で一年ぶりにミュージカルを観に行ったあの時の感動を思い出しましたね。感情のやり取りをしているというのが、「これだよな」「「やっぱりいいな」って。

吉沢梨絵 それがより強くなりましたね。特殊な期間だったけど、すごく大事な事を味わわせていただいたと思いますね。

(おわり)

*公演情報
オフ・ブロードウェイ ミュージカル 『キッド・ヴィクトリー』
Music&Book John Kander  Lyrics&Book Greg Pierce
2021年12月15日(水) ~12月26日(日)
会場:東京・浅草九劇
チケット情報
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/kid-victory/
カンフェティ:https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=64377&
一般お申込みフォーム:x.gd/eEFjz
オンライン生配信(25日17:00回のみ、26日13:00回のみ):https://live.paskip.jp/ticket?bcid=_aD3XqHjWgZTACtXHICDxQ

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