ライブツアー『TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 "SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3"〜SEA IS A LADY〜』を開催

 ミュージシャンの角松敏生が6月30日に、東京・中野サンプラザで、ライブツアー『TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 "SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3"〜SEA IS A LADY〜』の東京公演を開催。翌7月1日同会場公演まで全国で15公演をおこなった。5月にリリースした『SEA IS A LADY 2017』の楽曲を中心に19曲を披露。トロピカルなサウンドから、アーバンな音まで自由自在な演奏で観客を魅了した。

 2016年にはデビュー35周年を迎え、その大きな節目を示した角松。2016年末に同会場でおこなったライブでは、新たなアルバムを2017年に発表する旨を宣言、そしてこの5月には予告通り、1987年に発表したギターインストゥルメンタル・アルバムを作り直し、新作としてリリースしたアルバム『SEA IS A LADY 2017』を発表。「完全再現をするつもりは最初からなかった」「『昔のファン』を『新しいファン』にしたい」と本メディアのインタビューでも語っている通り、強い意欲をもって作ったこのアルバムを引っ提げてのツアー。その強い想いを感じ取るに十二分のステージだった。

何かのジャンルに括ってしまうには惜しい

角松敏生

 ステージスタートの時間を10分ほど過ぎたころ、照明はゆっくりと落ちていき、やがてステージが薄暗く青いライトに照らされ、深い海の中にいるような感覚を想起させた。その感覚を増長するかのように、SEとして響くシンセサイザーの音が、その風景をさらに色濃く彩った。そしてこの日のバンドメンバーが1人、また1人と観衆の拍手に迎えられ、ステージに現れる。そして白のパンツにオレンジのTシャツ、そして黄色のジャケット姿の角松が、最後にステージに現れた。

 16ビートのリズムに合わせたギターのカッティング音に合わせて、ステージはゆっくりとスタートした。トロピカルな雰囲気さえ感じるリズム、明るくメジャーな調整に、どこかクールな隠し味を含むハーモニー、そしてゆったりと大人な雰囲気を感じさせるギターのメロディ。オープニングナンバーのタイトル「WAY TO THE SHORE」そのままに、まるで南国の美しい海に隣接する海岸を、風を感じながら歩いているような、至福の時が流れる。

 前半は『SEA IS A LADY 2017』に収録された楽曲を中心に「AIJIN」「LOVIN' YOU」「アマヌサの海」などを加えた楽曲で進行、まるで高級リゾートのビーチでのバカンスを楽しむようなリッチな空気で会場は満たされ、観客ひとり一人の気持ちを豊かにしていった。

 「楽しくてしょうがない」と語っているようにも見える、あふれる笑顔でギターをつま弾く角松。時にはエレクトリック・アコースティックギターに持ち替え、さらにアダルトな雰囲気を演出しながら、要所で自身のサウンドの神髄とばかりにエモーショナルなボーカルを聴かせる。ここで聴かれたサウンドは、インストゥルメンタルによる演奏ジャンルの中でも、クロスオーバー/スムーズジャズと呼ばれるジャンルの印象に近いが、そのプレイの端々には、角松を中心に凄腕ミュージシャンそれぞれが持つミュージシャン魂を感じさせる。エモーショナルな覇気が感じられ、何かのジャンルに括ってしまうには惜しいと思わせた。

引導するような「力」を確かに感じさせるもの

 自身が「焼き直しではない、一から作り直したもの。そして前作を超えるもの」と語る今回の新作『SEA IS A LADY 2017』。ここまで披露されたその至極の空間は、その言葉が確かなものだと裏付けるものとなっており、いかに角松がこの作品に掛けた思いが強いものだったかを明確にするものだった。

 中盤のステージでは、角松が大好きなサックスプレーヤーと言うトム・スコット(米サックス奏者。グラミー賞を3度受賞している)のナンバー「STREET BEAT」を演奏。そして角松の未発表曲「MIDTOWN」、そして今回のアルバムに収録されている「52ND STREET」と、これまでのトロピカルな雰囲気から一転し、アーバンな雰囲気を醸し出すファンキーでブルージーな空気が会場を支配する。またここでは、今回のアルバムで彼が初めてチャレンジしたというレスポールモデルのギターを持つ姿が見られた。ストラトタイプのギターでスタイリッシュな雰囲気を見せる、彼の姿とは違ったレアな光景だが、それにもましてレスポール独自のフロントピックアップの暖かい音によるファットなメロディが、角松のサウンドに新たな色を加えていた。

 さらにゴスペルのクワイア隊を招いての「Get Back to the Love」と、リッチな歌の響きが、さらに聴く者の心を満たしていく。かつて自身が米・ニューヨークに暮らしていた際、ゴスペルという音楽に触れたエピソードとともに、角松は「音楽には力がある」と語った。この日ステージで角松が見せた様々な世界、風景は人々の気持ちを豊かに、そして楽園の方向へ引導するような「力」を、確かに感じさせていた。そして終盤へ。ラストは米国のウェストコースト風の明るくファンキーなサウンドが心地よい雰囲気を作る「MIDSUMMER DRIVIN'」で盛大にステージを締め括った。

角松の音楽の新たな可能性

ライブのもよう

 そしてアンコールには、「このツアーで最長のプレー」をおこなったインスト・ロックナンバー「OSHI-TAO-SHITAI」。まさに凄腕のミュージシャン一人ひとりの個性が十二分に発揮されたそれぞれのソロ、そしてそのソロに素早く反応しインタープレーを見せる周囲のバックアップと、文字通り「最高のプレー」が披露され、一人のソロが終わり、キメの箇所が披露されるたびにフロアからは大きな拍手が起こり、彼らのプレーを称えていた。

 そして2度のアンコールにも答え再びステージに現れた角松らは、再度クワイア隊をステージに呼び戻し、「TAKE YOU TO THE SKY HIGH」でこの日のステージを締めくくった。

 同曲では会場が皆笑顔に包まれ、文字通りに「高みに連れて行ってくれる」ような晴れやかな気分になったステージだった。一方で、このライブの6日前、ピアノの小林信吾が病気を理由に7月をもって角松のライブツアーから外れることが発表された。

 ライブ中では角松が近年音楽パッケージのビジネス的不振から、冗談を交えながらも音楽界の先行きを心配するような発言もあった。もちろん、確かに近年は音楽を発信していくことは厳しい時代でもあり、ポジティブな気持ちを持ち続けることも難しい時でもある。

 しかし、この日「Get Back to the Love」をプレーする前に、角松が語った「音楽には力がある」というコメント、その上で披露されたこの日のステージには、確信したものこそが出せる、喜びに満ち溢れた音があった。そしてその思いは、この日全てのプレーに波及していたようにも見えた。角松の音楽には力があり、かつ今の時代に存在する大きな意味がある。それは今もなお挑戦を続ける角松の、新たな可能性とも見えた。

(取材=桂 伸也)

セットリスト

『TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 "SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3"〜SEA IS A LADY〜』
2017年 6月30日  中野サンプラザ

01. WAY TO THE SHORE(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)
02. SEA LINE(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)
03. NIGHT SIGHT OF PORT ISLAND(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)
04. AIJIN(2002年 アルバム『INCARNATIO』収録)
05. SUNSET OF MICRO BEACH(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)
06. LOVIN' YOU(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)
07. A Widow on the Shore(1983年 アルバム『ON THE CITY SHORE』収録)
08. アマヌサの海(2002年 アルバム『INCARNATIO』収録)
09. STREET BEAT(TOM SCOTT COVER)
10. MIDTOWN(未発表曲)
11. 52ND STREET(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)
12. Get Back to the Love(2014年 アルバム『THE MOMENT』収録)
13. Summer Babe(1981年 アルバム『SEA BREEZE』収録)
14. BEAMS(2003年 アルバム『Summer 4 Rhythm』収録)
15. All'n All(2003年 アルバム『Summer 4 Rhythm』収録)
16. MIDSUMMER DRIVIN'(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)

encore

E01. OSHI-TAO-SHITAI(2017年 アルバム『SEA IS A LADY 2017』収録)

2nd encore

E02. PARASAIL(1990年 シングル『PARASAIL』収録)
E03. TAKE YOU TO THE SKY HIGH(1983年 『ON THE CITY SHORE』収録)

ライブ情報

TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 “SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3”~SEA IS A LADY~

9月15日 福岡市民会館
9月17日 大阪・オリックス劇場
9月18日 サンポートホール高松
9月20日 愛知芸術文化センター
全席指定 8500円(税込)※全公演共通

■「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2017 “in OTODAMA" ~SEA IS A LADY~」
8月3日 開場17:00/開演18:00
8月4日 開場17:00/開演18:00
会場:OTODAMA SEA STUDIO(神奈川県三浦市・三浦海岸)

■SPC 20th Anniversary event 
TOSHIKI KADOMATSU Presents LIVE 2017 「W Face 〜 ノグチアツシ・安来のおじ〜」
2017年9月29日 吉祥寺STAR PINE'S CAFE
「OZI★NIGHT !」Guest:ノグチアツシ open / 18:30 start / 19:30
2017年9月30日 吉祥寺STAR PINE'S CAFE
「ATSUSHI★NIGHT !」Guest:安来のおじ open / 17:30 start / 18:30
全席自由 6000円(税込・整理番号付・DRINK別)2日間通しチケット 11000円(税込・整理番号付・DRINK別)

■Toshiki Kadomatsu ODAKYU SOUND EXPRESS 10th anniversary SPECIAL LIVE
10月15日 開場17:00 開演17:30
10月14日 開場17:00 開演17:30
会場:下北沢 GARDEN
全自由:4500円(1D別)

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)