過去との挑戦、角松敏生 30年後の“今”に掲示するセルフカバー
INTERVIEW

角松敏生

過去との挑戦、30年後の“今”に掲示するセルフカバー


記者:村上順一

撮影:

掲載:17年06月12日

読了時間:約19分

角松敏生

 ミュージシャンの角松敏生が先月10日に、ギターインストゥルメンタル・アルバム『SEA IS A LADY 2017』をリリースした。1987年にリリースした同作品を、アレンジは変更せず、ほぼオリジナルのままに再レコーディング。アルバムを完全再現するつもりは最初からなかったと、過去の音源を使用した「Ryoko!!」だけではなく、新曲「Evening Skyline」なども収録した。10年ほど前からインストアルバムを求めるファンの声もあり、作品化への構想を考えていた。自身においても、ギタリストとして納得していなかった同作を、録り直したいと考えもあって、制作に着手。「LOVIN’ YOU」ではレスポールギターを使用し、新たなトーンへの意欲も見せている。アルバム制作の経緯、レスポールギターの歴史、現代のミュージシャンの印象など作品から彼の音楽に対する想いなどを聞いた。

完全再現をするつもりは最初からなかった

――1987年にリリースされた『SEA IS A LADY』を録り直されたという経緯ですが、「ギタープレイに納得がいっていなかった」とライナーノーツに書かれていました。具体的にはどのあたりでしょうか?

 1987年の頃はギタリストとして自信があった訳ではなかったんです。そこそこ弾けましたけど、歌い手がギターだけのアルバムを作るという意外性、それから当時の夏季商品というイメージの限定、フュージョンムーブメントが下火になってきた所に出したというニッチな作品という事、それらトータルのコンセプトプロダクションです。ギターは弾いていますけど、当時の音源はおいしい所だけ弾いています。

――当時は、まさか角松さんがインストアルバムをリリースしたというのは、意外でした。

 それで思ったよりも売れてしまったので、僕は歌もギターも両方やりますけど、ギターはサブで「ただ好きだったからこういうのを出しました」という所があって。だから、これはまずいという事で、次の年に『LEGACY OF YOU』というインストアルバムを出して、突き詰めていなかった事をしっかりとやりました。そのアルバムで溜飲(りゅういん)を下げて「ハイ、もうおしまい」という感じでピンポンダッシュしたみたいな経緯です。

――『LEGACY OF YOU』で納得されたわけですね。

 『SEA IS A LADY』は当時、作品としては商品価値があるものだったんじゃないかなと思います。その点は良かったなと思うけど、それでツアーをやろうという話になり、シンガーソングライターとして歌で食ってきた訳だから、据わりが悪かった。その時は自分の中で歌もまだ発展途上だったし。ただ、トータルとして売れていったという事は事実ですが、自分のスキルに関して、人には言えないけど自分では甚だ納得していない事がたくさんあった20代でした。

――歌の転機としてはいつ頃だったのでしょうか?

 1990年代になって『ALL IS VANITY』というアルバムを出した時に海外で録音しまして。ラリー・カールトン(米国のギタリスト、作曲家)などと一緒にやって、たいそうな作品になったんですけど、その時のエンジニアに歌を褒められた時ですね。

 TOTOとかを手がけてグラミー賞を穫ったエンジニアで。凄く気難しい人で、最初はこっちを小馬鹿にしているような感じだったんですけど、ボーカル録りが終わったテープを聴いたら「お前凄いな」と言ってくれて。それくらいから自信が持てたのかな。デビューをして10年が経っていましたけど。

――角松さんにとって当時のギターとは。

 それまではどこか試行錯誤があったんですよね。ギターは歌よりも劣っていて、ツアーをやった時も、歌もようやく何となくという時に、ギターだけで歌わずに弾いているというのが、もの凄く苦痛でした。もちろん、そういう風には見せませんでしたけど。歌だったら楽しめるのに、ギターをメインでやると言った割には自分が全然楽しめてなかったという記憶があります。

 でも、当時はやり直すという気はありませんでした。やり直せるとも思っていませんでしたし…。今は当時よりもギターを楽しめている自分がいるので、ゆくゆくはインストアルバムを作ってもいいのかな、とは思っていましたが、時代的にインストがセールス的に魅力的かといったら疑問ですしね。売れるものでもないから趣味の作品になるかな、と思っていて。

――インスト作品はセールスという面では難しいところです。

 どこかのタイミングでインスト作品をやってもいいけど、メーカーが納得しないだろうなと思っていて、出すとしても企画物のインディーズだろうな、と思っていました。亡くなったベーシストの青木智仁さんと「青木さんとまたガッツリとインストを作りたいね」と言って、色んな構想を話していました。でも彼が亡くなってしまったので、その熱も冷めて棚上げになっていて。

――でも年月を経て、また向き合う時が来たというわけですね。

 じゃあ何で今回やったかというと、昨年、アナログマルチトラックを使った『SEA BREEZE 2016』をリリースしましたが、あれはアナログマルチトラックが偶然見つかったからやっただけで、やろうと計画していた訳ではないです。

 最初は「35周年だしリマスター盤みたいのを出しますか?」という、わりとゆるい感じで話していました。結局は大人の事情で出せなかったのですが、「別にいいんじゃない? ベスト盤出さなくても横浜アリーナが成功すればいいし」という感じではありました。それで、たまたま見つかったアナログマルチトラックを使って『SEA BREEZE 2016』を出すという事になって。

――まさかインスト作品がくるとは想像していませんでした。

 僕はツアーのメンバーでCDを作るというモットーがあって、2017年のツアーメンバーは歌モノもできなくはないのですが、コーラスの関係などで少し制約があったということもあり、もっと自由に作りたかったという経緯があります。

――昨年末のライブでそういうお話をされていましたね。

 メーカーに話したら反対されると思っていたんですけど(笑)。「インスト面白いじゃないですか」と言うので、じゃあ10年前からファンの方々にも言われていたし、インストをフィーチャリングしたツアー、作品をやろうと思ったわけです。

 『SEA IS A LADY』をリメイクして、溜飲を下げつつも、何曲か歌モノや新曲も収録しようと思いました。つまり完全再現をするつもりは最初からなかったんです。基本的なイメージは一緒だけど、もっと作品全体をブラッシュアップして膨らましたものを作ろうと思いました。

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