アンサンブルはもっと楽しい
――完全オリジナル作品も視野に入ってきていますか?
まだ分からないです。今作を出した理由はさっき言った理由もあるけど、普通の歌モノの10曲入りの作品を出すモチベーションが熟していないんじゃないかな、というのが一番大きな理由かなと思います。2014年に『THE MOMENT』を出したんですけど、あれはまだ歌や色んな部分の表現を自分の中で試行錯誤している気がしますね。
歌を歌いたい、歌モノを作りたいという気持ちもありますけど、何しろ今はCDが売れないので。良いものを作れば作るほど損をする時代ですから。良いものを作るには制作費がかかる訳で。
――『SEA IS A LADY』当時の制作費はどのくらいだったのでしょうか?
2500万円くらいかけましたね。今は500万円くらいかな。
――当時とは全然違うんですね…。
何で、500万円で作れるかというとこのスタジオがあるからなんです。
――自身のスタジオですね。外部のスタジオを使用するとなると一気に1000万円クラスの制作費になると。
うん。だって、今はアルバムを作るのに500万円かける人もいないもの。もしかしたら若いアーティストは200万円くらいで作っているんじゃないかな…。
――今の若い楽器プレイヤーの音を聴いてどう感じますか?
器楽演奏という部分に関しては、今作は若い方には新鮮に感じると思います。スタジオプレイヤーという本当の職人さんたちが真剣に作っている作品なので、熱量が違って聴こえると思うんです。例えばピアノを弾きながら歌を歌う人とか、ああいう人達を見ていて思うのは“ソロ志向”が多いという事なんです。
僕から見たら、ソロプレイヤーの集合体なんです。だから“バンド”という風にやっていても「俺が、俺が」という感じなので、相手の音を聴いてアンサンブルをするという環境で育っていない。だから、若い人たちの音を聴いていてもスタンドプレーにしか聴こえないんです。
――スタンドプレーですか。
昔はプレイヤーを呼んで、楽譜を渡されて「こういう風にやってくれ」と言われて初見でもそう弾ける人が凄い人だったんです。今の若い人達に演歌か何かの現場で楽譜を渡して「こういう風に弾いて」と言っても、たぶん出来ないと思います。そこが圧倒的に違うよね。一定の技術があるという事が全ての音楽に通用するという訳ではなくて。
そういう現場がどんどん少なくなっているし、そういう教育も少なくなってきているから、何を求めているかというより、スタンドプレーに面白みを求めている気がします。それはそれで楽しいんでしょうけど、「アンサンブルはもっと楽しいよ」という事が言いたいですね。
――テクニックはかなり向上した感はあります。
僕がいつも思うのは、「凄いな」とは思うんですけど、感動はしないんですよね。ズシっとはこないというか…。でも、「52ND STREET」でフリューゲルホルン奏者の仁井田(ひとみ)さんは年齢が20代なんですけど、一発目のソロを聴いた時「化け物だな」と思いました。凄く良いなと。音が良いし“来る”んですよ。「いい勉強してきてるね!」と唸ってしまいましたね。
――音色も含めて?
そう。管楽器って人によって音色が違うんですよ。「音が良い」というのは簡単に聞こえるかもしれないですけど、実は深くて難しい。
――角松さんが他の方の演奏を判断する時に重要視する点はやはり音色?
“ここ”(胸を叩く)に来るかどうかです。
――“ハート”でしょうか。
そう。どんなに上手い人でも来ない人は来ないし、チョロっと弾いただけで「ウワッ」ってなる人もいるし。そういうのは、たぶん素人でも分かると思います。“来る”ものはやはり長く聴けますよね。演奏家として人気と不人気、好むと好まざるというのは別れると思いますけど、長い年月残っている人は説得力があります。
――今作で一番聴いて欲しい点は?
ギターの表現力ですね。バランス的にギターが前に出てきているのでね。聴き直してみたら、前の作品はギターが小さいと思いました。それは自信がなかったからなのですが。それで新しいのを聴いてみると、「そうだよな。こうあるべきだよな」という風に自分の中でもギターの表現の仕方とか、トーン、エンジニアリングも含めてそう思いました。そこは割とマニアックな部分だったりもしますけどね。
――そのマインドがアルバムからも伝わってきます。
良い季節になって時間のある時に、車なんかでこれをかけた時に四の五の言わずに聴いてみてくれと思います。ギターがどうの、音がどうの、というよりも「あの時こういう時代がありました。こういうものを作りました。角松敏生は今もやっています」と。
ちょっと違った形や軽い形でやり直す人が多いんですけど、そういう事でやっていないんですよ。もっとブラッシュアップしてやってやる、という思いで作っているんです。“攻めのセルフカバー”をする人ってあまりいないと思うんですよね。だからそこを楽しんでもらいたいなと思います。
(取材=村上順一/撮影=桂 伸也)
作品情報
『SEA IS A LADY 2017』 2017年5月10日 RELEASE 収録曲 01. WAY TO THE SHORE 02. SEA LINE 03. NIGHT SIGHT OF PORT ISLAND 04. SUNSET OF MICRO BEACH 05. Ryoko!! 06. Summer Babe 07. 52ND STREET 08. MIDSUMMER DRIVIN’ 09. LOVIN’ YOU 10. Evening Skyline (新曲) 11. OSHI-TAO-SHITAI 初回生産限定盤 【初回限定盤・特典Blu-ray収録曲】 |
ライブ情報
TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 “SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3”〜SEA IS A LADY〜
2017/6/9(金)北海道・わくわくホリデーホール 2017/6/11(日)福島・いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール 2017/6/17(土)新潟県民会館 2017/6/18(日)富山県民会館 2017/6/23(金)広島JMSアステールプラザ 大ホール 2017/6/25(日)岡山・倉敷市芸文館 2017/6/30(金)東京・中野サンプラザ 2017/7/1(土)東京・中野サンプラザ 2017/9/15(金)福岡市民会館 2017/9/17(日)大阪・オリックス劇場 2017/9/18(月・祝)サンポートホール高松 大ホール 2017/9/20(水)愛知県芸術劇場 大ホール |