震災5年、熊谷育美 故郷・気仙沼を歌い続ける女性シンガー
INTERVIEW

震災5年、熊谷育美 故郷・気仙沼を歌い続ける女性シンガー


記者:木村武雄

撮影:

掲載:16年07月12日

読了時間:約14分

写真には表れない被災地の現状

熊谷育美

熊谷育美

――地元の方々の表情は変わってきていますか?

 水産業と観光業の2本柱でやっている“おもてなしの街”なので本当に賑やかな街なんですよ。港町って感じで。「もう大丈夫なんで来て下さい!」と言ってPRしていますよ。

――港はもう復活したというのも聞きますが。

 ところがですね、5年経って来てみて驚くと思うんですけど、日々まだやっています。まだ建物が建てられないんですね。地盤沈下したりとか、ああいう津波が来ちゃったので街自体の嵩上げ(かさあげ)工事をやっていて、それが終わらないと建物が建てられなかったりするので。自分達の想像以上にまだまだ時間はかかると思います。

――今、土を積んでいる段階なんですね。

 そうですね。かなりの高さの。南三陸町とか行くと大変な事になっていて。陸前高田もそうなんですけど。逆に5年経った今だからこそ見てほしいなという気持ちはありますね。当時来られた方も、来てない方も。「5年でこれか?」っていう風に多分びっくりします。私たちも麻痺していまして、毎日重機の音とかが凄いので5年間でそれに慣れちゃってるんですよね。けど、「5年経って…」ってみんな思うらしいです。

――写真などで見たりはしますが、重機の音までは写真では伝わらないですね…。現地では重機の音が相当騒がしいのですか?

 ガタガタと鳴っていますよ。トラックなんかも凄いですしね。その音の分、それだけの方々が復興事業に携わってくれているところもあると思うんですけど、とにかく全国から来ていますからね。ありがたい事です。

進化し続けたい

熊谷育美

熊谷育美

――熊谷さんは海外コンサートにも出演された過去がありますが、海外で歌う事によって変わった点などはありますか。

 思い出深いのは香港で開催された『アジア・ポップ・ミュージック・フェス』です。その第1回のフェスに参加する予定だったんですが、開催間近で震災があって行く事が出来なかったんです。けれど、翌年に主催者から「是非」という事で迎えて下さったんです。その時には本当にアジア各国の方々にも向けて、自分の故郷の思いとか、震災後にたくさんの方々に支援して頂いたので、そういう感謝の気持ちをお伝えできたというのがすごく大きかったです。

――今後の活動のテーマなどはありますか?

 やはりシンガーソングライターですので、作品を次々と作っていきたいです。ベストアルバムを自分が出せる日が来るとは思っていなかったですね(笑)。7年目にこういった形で出す事ができてすごく嬉しいです。本当に次に向けて、次の作品、という思いがありますね。ライブもそうですし。少しでも成長していきたいと、進化し続けられたらなと思います。

――今後は故郷に限らず、例えば女性の心を歌っていきたいなどそういった事はありますか?

 そうですね。等身大のありのままの自分でいたいというか、自然体で自分の地元で曲を書いてという事には変わらないので、自分は30代になってデビューの時よりは少し大人になれたかなとかありますので、今後自分が書いていく作品が自分でも楽しみだったりします。

――幼少期や青年期に影響を受けた歌手はいますか?

 普段ピアノを弾いて歌うんですけど、女性のシンガーソングライターがやっぱりすごく好きでフィオナ・アップルとか好きですね。あと、男性ですけどベンフォールズに高校生の時にすごく影響を受けたというのが大きいですね。数えたらキリがないですけど、日本のアーティストだったら松任谷由実さんとか、中島みゆきさんとか、そういう「自分の作った作品をずっと歌っている」という女性アーティストにはすごく憧れますね。

――松任谷由実さんも中島みゆきさんも「日本を歌っている」というか、そういった印象を受けるのですが、両名に影響を受けたというところから「故郷を歌う」という思いも強いのでしょうか?

 最近、自分でよく思うのが「陶芸家の方に近い」というか(笑)。自分が作品を作る場所があって、作品が出来たら各地でいろいろやるじゃないですか? 私も自分の作品を作って全国の方々に聞いて頂くという基本的なスタイルはこれからもずっと変わらないと思うので。

――個展みたいな?

 例えばですよ(笑)。陶芸家の方は窯を持ってそこで作るじゃないですか? そういうような感じです。自分も「作品を作る場所」が気仙沼であって。プラス「生きる場所」なんですけど。そこで作った曲を全国、世界の方々に聞いて頂けたら嬉しいですよ。

――震災でより一層そう思うようになりましたか。

 みんなきっとそういう気持ちはあるんじゃないでしょうかね。より愛しくなるというか、大切になるというか。離れている人もそうだと思います。なかなか故郷に帰れない方もいると思いますけど…。「より自分の地元を」という気持ちは大切にしないとなって思っていると思います。

――では改めて、今回のベストアルバム『~Re:Us~』についての想いをお願いします。

 本当に選曲には非常に悩みましたが、これまで応援して下さった方々にとっても、私を知らない方々にとっても、特に知らない方はアルバムを手に取って頂けると「こういう歌を歌っている人なんだ」というのが改めてわかる一枚になっていると思います。ふるさと気仙沼も含めてですけど、1曲づつ是非、歌詞を見ながら聞いて頂けたらと思います。自分が音楽と共に生きてきた軌跡のような一枚になっているので、始まりから終わりまで聞いてほしいです。春夏秋冬いろんな時期に作った曲でもあったりするので、そういう流れでこの一枚を聞いて下されば嬉しいです。

(取材・木村陽仁)

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