近藤晃央、未来の道標となった東京公演[1]

未来への道標をみるようだった近藤晃央のツアー東京公演

 シンガーソングライターの近藤晃央が18日、都内で、3年ぶりとなるツアー『近藤晃央 2nd ONEMAN TOUR~IRIE LAND~』のセミファイナル公演をおこなった。デビュー4年目を迎える、3年ぶりとなるアルバム『アイリー』を引っ提げて大阪、福岡、東京、名古屋と巡った。ファイナル前夜の東京公演では「正直この3年間、音楽活動がうまくいかない事もあった。けれど大事な事を学んだ」とこれまでの歩みで得た確信の意を伝えた。壁にぶつかり迷い抜いた先にたどり着いて生まれた楽曲。それは自身を投影しながらも観客に寄り添う道標でもあった。この日届けた想い、そして楽曲は観客を勇気づけた。

 繊細でいて不器用、生真面目で情熱的、清楚な井出立ちながらも感情を素直にぶつける。とても人間的だ。多彩な心を持つ“近藤晃央”を投影させたのが今作の『アイリー』であり、媒介せず、ダイレクトに伝えたのが本ツアーだった。作品が手紙ならば、ライブは目と目を合わせて対峙する場だ。言葉が過ぎても足りなくともその表情から察することができる。それが彼のライブの醍醐味である。

 東京の舞台となったのは、キャバレーの佇まいが残るライブハウス「東京キネマ倶楽部」。主役がスポットの光を一点に浴びる踊り場を下るとステージがある。アーチ状の柵を備えた二階席はステージを囲うような作りで、1階席を覗ける。場内は暖色のライトがほんわりと辺りを照らすだけで薄暗く、BGMとして流れている楽曲も西洋の歌劇をおもわせる。さながらオペラハウスにでもいるようだ。

情感を宿すように奏でた近藤晃央

情感を宿すように奏でた近藤晃央

 そうした空間のなかで、踊り場から登場した近藤は、ゆったりとした足取りでステージ中央に立つ。貴族の礼に従うように胸の高さで腕を折り曲げゆっくりと頭を下げると、青く照らされるカーテンを背後に拡声器を持って歌い始めた。「グラデーションフライ」。激しさとダークさを伴った楽曲で観客の心を浮き立たせると、アコギを構えての2曲目「あい」で寄り添い、彼の心の中に誘い込んだ。

 この日の公演は、様々な思いや音楽を詰め込んだ『アイリー』の世界観のように時に激しく、時に優しく、近藤の多彩な表情と楽曲が覗けた。彼は、振り幅の広い音楽が同居するアルバムを「テーマパーク」と例えた。それを再現するように楽曲を並べた。そして、近藤は、複雑に絡み合う心情を隠すことなく音楽に乗せた。それはあたかも観客の心に寄り添うために、自らの壁を取り払っているようで、パフォーマンスも楽曲もとても素直だった。

 3曲目「かわいいひと」のように優しく歌い上げたかと思えば、4曲目「あの娘が嫌い」ではエレキを担いでリズミカルに奏で、ペテン師のような一面も見せる。一方、8曲目「六月三日」は壮大でいて力強かった。自然と体から力がみなぎってくるように、エネルギーに満ちていた。また、幼い姪の言葉から着想した「なんのおと?」はコミカル。リコーダー演奏が幼い頃を思い起こさせ、振り付けも心を躍らせた。コールアンドレスポンスも決まり、気づけば音楽を純粋に楽しんでいた幼少時代を回想させていた。

 曲間にもドラマがあった。11曲目「仮面舞踏会」では、虫の鳴き声が響く中、宮殿と思われる廊下を歩く足音が反響。息を切らせ、身をひそめる人物がステージに浮かび上がるようだった。ファンキーなサウンドの12曲目「ブラックナイトタウン」前も、映画のワンシーンの様に地を這うサウンドが徘徊し、囁くような声が消えそうに響く。その流れからのピアノソロがそれを優雅にさせ、同曲へと誘った。

近藤晃央から発せられる歌声は観客の心に寄り添うようだった

近藤晃央から発せられる歌声は観客の心に寄り添うようだった

 終盤を迎え、「アゲアゲだけど着いてこられるか!」と叫んで披露した13曲目「ビビリーバー」は、ハードロックなサウンドが疾走する。歪むギター、荒々しくも幾つものの音を矢継ぎ早に放つピアノやベース、ドラム。観客も高揚させ、そのまま送られた「テテ」で昇華した。このままハイテンションサウンドで終焉を迎えると思いきや、最後に届けたのは1曲目「グラデーションフライ」を想起させる「心情呼吸」。冬を過ごして、三寒四温の早春、そして新緑の初夏、夏、秋、再び冬を過ぎて春を迎えるように、この2曲に挟まれた楽曲たちは、彼の四季、あるいは、メジャーデビュー翌年から今日までの葛藤、人生をみえているようだった。

 アンコールで届けたのは「東京にぴったり」と、内村友美(from.lalalarks)をゲストに招いての「トーキョーライト」、そして、幼少期の自身に宛てた“手紙”「月光鉄道」。特に「月光鉄道」は、観客の人生に寄り添うように華やかで背中を押した。

 そして、最後、近藤は1階席に降りると、観客席の中央に輪を作り、キャンドルをその境界線に配置して、アコギ1本、マイクを通さずにダイレクトに「ともしび~いのちのうた~」を歌い上げた。これまでの楽曲たちとは一線を画し、心から放たれる歌。両膝を抱えて座りながら彼を見つめる観客は、張りつめる空気感に固唾を呑み、心を震わせ、近藤の歌声、アコギの音色に浸った。涙を流すものもいた。歌い上げた近藤は最後に「有難うございました」と囁くように語り掛け、この公演に幕を下ろした。

 近藤はライブのMCで自身の想いを包み隠さずに語っていた。幼少期はひきこもりだったこと。メジャーデビューしたものの、迷いがあり、音楽活動が上手くいかなかったこともあったこと。しかし、こうも語っていた。

 「あのとき、白黒つけずに、とりあえずやっていこうと思った。今になって、何のためにもがいたのか、何のために苦しんだのか、その答えが見つかった気がする。ネガティブな気持ちはこの先もあると思う。だけど、なぜネガティブに思うのか。それはやりたいことを達成したいと思ってもできないから、なぜできないんだろうと思ってしまうから。でも、それはやりたいことがあるという証拠。届けたいという証拠。だからこれまでもやって来られた」

 迷いしき先に見えるのは確信。近藤はこのツアーに明日を見たはずである。同じく、観客もまた明日への光を感じたはずである。この日の夜に届けられたむき出しの感情と音楽は、煌々と道標を照らす月の役割を果たしたことであろう。向かう上野の夜に上る月を見てそう思うのであった。(取材・木村陽仁)

セットリスト

01.グラデーションフライ
02.あい
03.かわいいひと
04.あの娘が嫌い
05.理婦人ナ社会
06.らへん
07.恋文
08.六月三日
09.なんのおと?
10.わらうた
11.仮面舞踏会 ~バラードバージョン~
12.ブラックナイトタウン
13.ビビリーバー
14.テテ
15.心情呼吸

ENCORE

EN01.トーキョーライト
EN02.月光鉄道
EN03.ともしび ~いのちのうた~

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