ツアー中、何度も目にした氷室の笑顔

ツアー中、何度も目にした氷室の笑顔

爽快だったラスト曲「B・BLUE」

 やりきった――。そうともとれる万感の笑みを浮かべた氷室はマイクを置いた。その瞬間に全ては終わったと思った。メンバーがステージを離れたが、その後もエンドロールが流れない。まさか…。トリプルアンコールだ。

 三度登場した氷室は「SEX&CLASH&ROCK’N’ROLL」を歌い、バンドメンバーを紹介していく。各メンバーがソロを奏で、観客に最後の挨拶をする。ファンキーでダンサブルなナンバーが終わり、最後に届けたのはまさかのBOØWYの「B・BLUE」。意表を突く選曲。BOØWYの『LAST GIGS』の最初に披露された楽曲だった。

 東京初日でも披露されたが、その時は「The Sun Also Rises」「魂を抱いてくれ」の後に届けられたこともあり、切なさが強く漂っていた。しかし、この日の最終公演でラストを飾った同曲は爽やかだった。

 頭を激しく振るYTのリズムワークは最後も疾走した。笑顔の氷室。本ツアー何度も見た、ステージ前でのDAITAのギターソロ。タイトでパワフルなドラムと色鮮やかな音色のシンセサイザーがそれを押し上げる。百戦錬磨の楽器隊が作り出すグルーヴ、氷室がそれに乗り、観客もアグレシッブに盛り上がる。その循環が相乗効果を生んだ。この瞬間を焼き付けようと目一杯の歓声で楽しむ観客。

 とても最後だと思えないパフォーマンスだった。きっと明日もライブをしてくれるのではないかと思えるほどだった。しかし、エンドロールは無情にもその夢を儚くとも散らせた。悲しみがこみ上げてくる。本編中は氷室もメンバーも、ファンも悲しみを一切感じさせなかっただけに、反動は大きい。

 氷室の万感の笑顔。圧巻のグルーヴがなければもっと悲しかっただろう。辛いが希望は感じられた。氷室がMCで示した創作意欲も観客に光を与えた。

 氷室は何度も「湿っぽくなるのは嫌だから楽しもう」と言っていた。「B・BLUE」の歌詞にある「ON THE WING WITH BROKEN HEART もう一度笑ってよ」。ここに前向きなメッセージがあったのではないか。

氷室とは何か

 氷室京介とは何か――。その答えは各公演にあった。そして、観客それぞれの心の中でも出ていることであろう。氷室は福岡公演でこうも語っていた。「不器用で武骨な俺が35年やって来られたのはスタッフや皆のおかげ。1つのことをアホみたいに一生懸命にやることもいいことだと思ってやってきた」。日本のロック界、音楽界において今は薄らいでいる「生き様」が示されたツアーだったことに変わりはない。

 最後に、大阪2日目公演で話した氷室のMCを紹介したい。

 「一昨年の52本のツアーで、オーラス前の周南公演で、今後はステージはやらないと話した。その後の1年半、どうしてそうなったのか気にしていた人もいたと思う。15年前から体力とギリギリのところで走ってきて、そろそろ限界かなと。音楽界の先輩には本当に申し訳ない。尊敬する坂本龍一さんもガンを克服して映画サントラもおやりになった。憧れの矢沢永吉さんも。素晴らしい先輩達に申し訳ない。プロとして良い日と悪い日があるのは情けない。しかし、ライブ活動を休止することについて勘違いしないでほしいのはプライドではなく、自尊心ではなく、ミュージシャンとしての矜恃なので」

◇ ◇ ◇

 『LAST GIGS』が終り、早くも1週間が経ちました。今でも頭に、あの時の歌声やフレーズ、サウンドが鳴り響いています。目を閉じて浮かぶのは氷室の笑顔。はっきりと涙を見せたのは、東京初日の1度だけだったということも関係しているでしょう。そして、今でも体は欲しています。もう1度聴きたい。もう1度叫びたい。小媒体は、関係者のご厚意もあり、本ツアー全公演を観覧し、記事にしてきました。読者様の反響がなければ続けられなかったとも思っています。ここに感謝の意を表します。有難うございました。(取材・木村陽仁、村上順一)

セットリスト

KYOSUKE HIMURO LAST GIGS
2016.05.23 TOKYO DOME

1.DREAMIN’
2.RUNAWAY TRAIN
3.BLUE VACATION
4.TO THE HIGHWAY
5.BABY ACTION
6.ROUGE OF GRAY
7.WELCOME TO THE TWILIGHT
8.MISS MYSTERY LADY
9.“16”
10.IF YOU WANT
11.LOVER’S DAY
12.CLOUDY HEART
13.LOVE & GAME
14.PARACHUTE
15.BANG THE BEAT
16.WARRIORS
17.NATIVE STRANGER
18.ONLY YOU
19.RENDEZ-VOUZ
20.BEAT SWEET
21.PLASTIC BOMB
22.WILD AT NIGHT
23.WILD ROMANCE
24.ANGEL
Encore-1
25.The Sun Also Rises
26.魂を抱いてくれ
27.IN THE NUDE
28.JELOUSYを眠らせて
29.NO.N.Y.
Encore-2
30.VIRGIN BEAT
31.KISS ME
32.ROXY
33.SUMMER GAME
Encore-3
34.SEX&CLASH&ROCK’N’ROLL
35.B・BLUE

KYOSUKE HIMURO LAST GIGS

4月23日(土) 京セラドーム大阪
4月24日(日) 京セラドーム大阪
4月29日(金) ナゴヤドーム
5月14日(土) 福岡ヤフオクドーム
5月21日(土) 東京ドーム
5月22日(日) 東京ドーム
5月23日(月) 東京ドーム

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