背中でギターを奏でる和嶋慎治(Gt.Vo)(撮影・ほりたよしか)

背中でギターを奏でる和嶋慎治(Gt.Vo)(撮影・ほりたよしか)

 3ピースロックバンドの人間椅子が19日、東京・赤阪BLITZで全国ツアー『怪談 そして死とエロス-~リリース記念ワンマンツアー』のファイナル公演をおこなった。2月にリリースした通算19枚目となるオリジナルアルバム『怪談 そして死とエロス』を引っ提げ、全国15カ所をまわった。この日は、新譜からの楽曲を中心に全18曲、2時間以上にわたり、新譜“怪談”をテーマにした人間椅子独特の世界観で魅了した。また、既に決まっている4月17日のEX THEATER ROPPONGIでの追加公演に加えて、戸川純とのツーマンライブが6月15日に新宿LOFTで開催することが発表された。

ファイナルは「雪女」で幕開け

 アスファルトを濡らす昨晩から降り続いた雨は上がり、消えかける雲は夕陽の光を浴びて薄いオレンジ色を反射していた。通常ならばそれは希望も感じるところだが、この日に限っては、新譜の世界観の一端を表す様に、片端にある地獄を映し出しているようだった。一方のファンは、人間椅子から放たれる生身の音楽、いわば「生」に触れるこの公演に期待を寄せ、開場間もなくしてからゾロゾロと長蛇の列を作り、20分後には数百メートル離れた最寄りの赤坂駅まで続いていた。

 その列は開演前には消え、場内はあふれ出そうなほどの観客の数。まさに、すし詰め状態だ。定刻から程なくして、メンバー3人が登場すると同時に拍手喝采。SEの「此岸御詠歌」が流れる中、早くも熱気が会場を包み込む。サウンドチェックは既にスタッフによっておこなわれてはいたが、自身で再度入念におこなう様子は、音に対する並々ならぬこだわりを伺わせた。

ベースを奏でる鈴木研一(Ba.Vo)(撮影・ほりたよしか)

ベースを奏でる鈴木研一(Ba.Vo)(撮影・ほりたよしか)

 ライブは「雪女」で幕を開けた。和嶋慎治(Gt.Vo)の歪んだギターの猛吹雪がマーシャルアンプから放出され、会場はギターの吹雪に飲み込まれた。鈴木研一(Ba.Vo)のベースがうねるベースラインで吹雪の間を縫う。ナカジマノブ(Dr.Vo)のツーバスが腹部に響く。続けざまに、鈴木がリードボーカルを取る「地獄の球宴」。左手に位置するスタンドマイクを離れると、鈴木はステージ中央で不敵に笑いながらベースを奏でる。

 ここで最初のMC。鈴木が「全国15カ所も回ってきたのに、やっぱり何回か、歌詞を間違ってしまいました」と正直な告白をすると、会場は笑いに包まれ、和やかな雰囲気に。これを受けて、和嶋が「気づかなかったから、大丈夫ですよ。私はなんとか間違えませんでした」とフォローとも、自慢ともつかない返しに会場は拍手喝采。

「スラッシュみたいに上手くなりたい」レスポールを購入

 続けて和嶋と鈴木の故郷の話になり「青森弘前市の桜祭りの見世物小屋が素晴らしくてですね、女の人が生肉とか食うんですよ。オジー(オズボーン)ですか!って。そんな見世物小屋の歌です」と言って、始まったのは「眠り男」。観客はバスドラの響きと合わせて拳を上げる。そのまま「遺言状放送」を演奏、序盤から会場のボルテージは上がりっぱなしだ。

 ここで和嶋がギターをトレードマークのギブソンSGから金色に輝くレスポールに替えた。鈴木がそのことに触れると、和嶋は両手を挙げ「私、レスポール買いました~!(米バンド、Guns N’ Rosesの)スラッシュさんみたいにギター上手くなりたいなぁ、と思いまして」と話すと、Guns N’ Rosesのヒット曲である「Sweet Child O' Mine」の冒頭を演奏。「これはいい曲ですね~、我々にはない、メジャーコードがいっぱい使われている」と和嶋ならではの曲解説をおこない、観客からは感服の声も聞こえた。

 新譜から「三途の河」、続いて「マダム・エドワルダ」を演奏。壮厳なサビに、観客は拳をあげながら恍惚としたようす。買ったばかりのレスポールのギターソロも、きめ細かく粒立ったトーンで赤坂BLITZに響き渡った。

 ステージが暗転し、ナカジマが上半身裸になると、会場から「アニキ~!」と掛け声が。これにマッスルポーズで応えるナカジマ。再びSGを携え戻った和嶋が高校生のときにアブダクションされた(UFOに誘拐された)という、驚くべき話を打ち明けた。

 「あのとき、気が付いたら部屋の角で膝を抱えて怯えていたんです。鈴木くんに言わせると、それはただ寝ぼけてただけだそうですが、あれから作る曲調がガラリと変わりまして。フォークで“みさこさんの曲”とか書いてたのに、いきなり“マリアが首を吊る”みたいな世界に…」、鈴木が「もともとビートルズとか好きだったもんなあ、でもその頃、キングクリムゾンにはまってたでしょ。その影響なんじゃないの」とあくまで宇宙人の話を、否定気味に返すと「えっ?そっち?…そっか」と和嶋も最後は変に納得した様子。

 『怪談 そして死とエロス』のリードトラックである「恐怖の大王」が始まると、会場はどよめいた。サビで観客が拳を突き上げる。スリーピースとは思えない分厚いサウンドで、更に和嶋のSGのギターソロが映え、最後はナカジマのドラが華を添える。

 人間椅子は長年のバンド活動の中で浮き沈みを味わった。バンド自身の中でオズフェスにも出演し“再デビュー”と位置づける2013年。その年の思い入れのある楽曲だというMCを受けて「黒百合日記」、そして畳み掛けるように「冥土喫茶」、「黒猫」と披露。鈴木も和嶋もステージを縦横無尽に駆け回り、鈴木が「和嶋の死神のギターを見てくれ~!」と叫ぶと和嶋はSGを持ち上げ、ジミ・ヘンドリクスのように歯を使いギターソロをプレイ。サウンド面だけではなく、ド派手なパフォーマンスでも魅せてくれた。

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