原点は路上ライブ ダイスケ、人に寄り添う「君にかける魔法」
INTERVIEW

原点は路上ライブ ダイスケ、人に寄り添う「君にかける魔法」


記者:木村武雄

撮影:

掲載:16年03月02日

読了時間:約22分

自身を変えた『ZIP!』

――『ZIP!』で全国を回った活動はご自身にどのような影響を与えましたか。

 大きな影響を受けています! 僕は人と付き合うのが得意じゃなくて。どちらかというと自分から何事も挑戦をしていくようなタイプではなく、“インドア派”というか。そういう意味では自分の殻に閉じこもっていたかもしれないですね。でも『ZIP!』で2年間毎日、全く知らない町に行って、初めましての人達と出会って、「人と触れ合う事で得られるもの」がいっぱいあるという事や、「人と触れ合って初めて自分を認めてもらえるんだな」という事もわかった。見た事がない景色や、いろんな職業、経験をしている人達と話したりして、それはもう財産になりましたね。“世界が広がった”じゃないですけど、まだまだ自分が知らない事もいっぱいあるし、もっともっとこの世界に居るたくさんの人達に僕の事を知ってもらいたいなっていう気持ちになりました。

ダイスケ

ダイスケ

――「内側に入り込むタイプの人」だと、それが逆に押しつぶされそうになったりとかもありそうですが?

 それはありましたね。最初の頃はやっぱり不安が大きくて、しかもデビューしてすぐ『ZIP!』が決まったので、TV出演なんて今まで経験した事がなかったし、TVの前で喋る事も緊張するし。毎日ロケをして翌日にはオンエアされて、毎週一回は「失敗してはいけない生中継」みたいのがあって…。不安というか、それこそ“怖かった”。逃げたいなと思った瞬間もあったんですけど、その“怖さ”よりも得るものの方が大きいなとわかった時に、徐々に慣れていって。最初の1カ月くらいはしんどかったですね。

――知らない土地で過ごす時など最初は寂しいものですが、経験や日を重ねていくと、何かを越える瞬間があるかと思います。スポーツでも、楽器でもこれまで出来なかったことが急にできるようになったり。ダイスケさんは『ZIP!』の時もそういう瞬間はあったのでしょうか。

 ありました。僕の場合は最初の1カ月が本当に慣れなかったんですけど、「ひとつ、ロケを無事に終えられた!」とか「ひとつ、生中継を乗り越えられた!」とか、そのひとつひとつを乗り越えられた事が、ちょっとずつ自信に変わっていってという感じですね。後は本当に「人の優しさ」がすごかったですね。

 『ZIP!』のロケって、全部アポを取ってないんですよ。そのときのスタッフさんは『進め!電波少年』(編注=数々のアポ無し企画で1990年代に人気を博した伝説のバラエティ番組)のスタッフさんでして、けっこう体当たりで「よし! あそこの漁師に当たってこい!」とか(笑)。例えば、ある漁師さんが、「何勝手に入ってきてんだこの野郎!」みたいな感じで本当に怖かったんですけど、「イヤあの、旅をしてまして、色々とお話を聞きたいんですよ…」と、きちんと向き合ってみると、「そうなのか…? じゃあイイよ、魚食わしてやるからこっち来いよ」と誘ってくれるんです。その部分がオンエアで使われるかという事より、僕たちよそ者に「じゃあ食わせてやるよ」と言ってくれるということが嬉しくて。「本当においしいから」と言われて「おいしいですね!」と返すと「そうだろ?」となって。ひとつ打ち解けて、“人と人とが繋がっていく”という事を繰り返していって慣れていったところがありますね。

ストリートライブでの経験がファンへの原点

――ストリートライブにも似た所が?

 似ていましたね。路上ライブも本当にシビアで、ライブハウスで歌うときは、みんなお金払って来ているからちゃんと聴いてくれるんですけど、ストリートだと「うるさい」「邪魔だ」と思う人もいるだろうし。本当にシビアなのは、ちょっと立ち止まってくれたけど、歌い始めたら去っていく人とか。「ああホント辛いな」とか思っていましたけど、それも“人と人”で、やっぱり聴いてくれない人が多い中でも、寒い中とか足を止めて僕の曲を1曲聴いてくれて、「何か僕の事をひとつ理解してくれたのかな」と思って繋がっていくという事を考えると、『ZIP!』に近しいものがあったかもしれないですね。自分の心を開く一つのカギにはなったかもしれないですね。

――『ZIP!』をやり始めた頃はまだ、路上ライブの経験が重なっているとは気付かなかった?

 また別物だったと思ったので、気付いてなかったですね。

ダイスケ

ダイスケ

――だけど、後々に繋がっていく?

 そうですね。ストリートライブは自分のホームタウンだったり、自分の世界の範疇だったんですけど。それでも行くまでは「行きたくないなあ」とかありましたけどね。でも、塾や習い事みたいに、行ってしまえば楽しいのはわかってるんですが、行くまでが嫌だというか、怖いと言いますか。でも、その中に飛び込んで得るものは大きいから、ストリートライブも『ZIP!』も何年も続いたんだと思います。

――ストリートライブは最初から大勢の人が観てくれた訳ではない?

 全然ですね。もう1人も止まらない。最初は人前で歌うのが怖いので、八王子から2駅離れた人気の無い駅に行くんです。でもそこでもまだ出来なくて。じゃあどうしようと思って、駅からさらに50メートルくらい離れた駐輪場で最初は歌ってたんです。怖かったから、あえてそこで。ただ、「歌いたい」という欲求はあったんですけどね。たまに自転車を停めにくる人に向けて歌うみたいな(笑)。すごく小さいライブでしたね。

――そこで徐々に慣れていって?

 そう、たまに立ち止ってくれる人いるんですよ。それで少し度胸をつけて、駐輪場からまた50メートルほど移り、人っ気の無い駅前に行ってライブをやる事に慣れたら今度は八王子駅に。最終的には八王子駅をメインに活動していたんです。毎週金曜日の夕方の時間帯が僕のライブの時間だったんですけど、そこではけっこう「暗黙のルール」みたいのがありまして、八王子のストリートは“先輩”がいっぱいいるんですよ。「先輩と同じ日はあんまりやっちゃいけない」とか、「邪魔しちゃいけない」という事ですね。先輩はだいたい土曜日とか日曜日の“イイ時”に演奏するから、金曜日はじゃあ僕がやろう、みたいな。で、特にそう決まったという訳ではないのですが、金曜日の夕方は暗黙で「僕がやってる日」みたいになってました。

――聴き手である八王子の市民は温かいですか?

 人によりけりですけど、温かいと思います。ストリートライブは毎週やるという事に意味があると思ってまして。「あの人またやってるな」となれば、ちょっとでも自分の事を覚えてくれるじゃないですか。八王子は学生の街でもあるので、徐々に学生さんが止まってくれるようになったりとか、会社帰りの人が止まってくれるようになったりとか。

 僕、本当にコミュニケーション能力が皆無なんですけど、やはり自分を知ってもらわない限り音楽なんか聴いてもらえないから、ストリートライブが終わった後に1時間とか“座談会”みたいにビニールシート的なのを邪魔にならない所に敷いて、100ショップで買ったようなお菓子を置いて「ご自由にどうぞ」と置いて(笑)。高校生とかが輪になって「どうなん? 恋とかしてるの?」「そうなんスよー!」なんて話をして。「ダイスケさんの歌に共感したんですよー!」なんて言ってくれたりして、「それで立ち止ってくれたんだ!」という風に、そうやって意見を交換したりとかしました。

――聴いてくる人と直接話しをするのは大変貴重な事ですね。

 貴重ですし、周りから見たら変な絵面だったでしょうね。

――人が立ち止って聴いてくれるように他にも工夫したりしましたか?

 夏だったら、横に荷物置き場を作っておいたり。冬だったら使い捨てカイロを配ってましたね。毛布も敷いたりして。あとは友達みたいになったお客さんがスタッフをやってくれましたね。「どの曲で何人が立ち止った」とか、「どの曲で人が去っていった」とか、リサーチ的にメモってニーズ調査してもらったり。そういう事しないと、ストリートで足を止めてくれるってなかなか無いんですよ。

――ニーズ調査というとマーケティング的ですが、もともとそこには精通をしていた?

 全然やらないですね。もうそういう感覚はストリートからです。僕はどっちかと言ったら計画性がない方なので、いざ立ってみて「ああ、あれが足りないな」といった感じです。

――計画性のある方ではないかと思っていました。大学では何を専攻されてましたか。

 「メディア学部」という学部です。音響やマスメディアなど色々ありました。僕は勉強するよりギターを弾いていたタイプなので、「計画性」はないですね…。トライ&エラーでいろいろやってます。

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事