情景を映し出す立体音

18世紀の欧州時代をも想像させた音色

18世紀の欧州時代をも想像させた音色

 後半はリストの楽曲がホールを踊った。超絶技巧練習曲8番「狩り」のスタインウェイは戦火を駆け抜ける名馬の如く、雷鳴を轟かせ力強く疾走していく。めまぐるしく放たれる音はホールの中央で立体的に浮かび上がり、電気を帯びた低音と重なることで強烈なパルスを生みだし、それはやがて時空をも超えて、楽曲が生まれた当時の欧州、街並みや建物、人などの情景を映し出しているかのようだった。

 そして、「スペイン狂詩曲」での高音の連弾は、無数の白い鳥が空へ飛び立っていくようでもあった。噴水までもが音によって浮かび上がり、まさにスペイン広場が鮮明に表れていた。「コンソレーション[慰め]第3番」は、まさに夢を見ているかのように優雅であった。力強い音色は時に、吐息の様に優しく、時に女性の指先のように繊細だ。音が重なっては消え、重なっては消え、それを繰り返していき、ゆったりと流れる時間を紡いでいく。一方の「村の居酒屋での踊り」は低音が刺激的に轟いた。

演奏を終え、“愛車”に手を置き感無量の反田恭平

演奏を終え、“愛車”に手を置き感無量の反田恭平

 この日の反田は、リストが込めた曲への思いと音に対峙して、従順しつつも反発した。そのぶつかりあいが現代に壮大な世界観を作り上げていた。想像を絶する技巧、そして圧巻のスタインウェイの音色に敬意を表するように、終演後も拍手は収まらなかった。反田はその音に応えて、何度も再登場して一礼をした。全身全霊で届けたことが反田の震える手からうかがえた。これまでに見たこともない凄まじい拍手喝さいを浴びた21歳の青年はこれを今後どのように消化していくのだろう。そう思えたほど未知の空間が広がっていた。

 カーテン・コールで再びステージに現れた反田の表情は21歳の青年に戻っていた。頭を二度三度ペコペコ下げた笑顔に、観客からは親しみを込めた拍手が降り注いでいた。(取材・木村陽仁)

プログラム(サントリーホール、1月23日)

J.S.バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ
モーツァルト:ピアノ ソナタ第3番 K.281
バラキレフ:東洋風幻想曲「イスラメイ」
-休憩
リスト:超絶技巧練習曲より第8番「狩り」S.139
リスト:スペイン狂詩曲 S.254
リスト:コンソレーション[慰め]第3番 S.172
リスト:メフィスト・ワルツ 第1番「村の居酒屋での踊り」S.514
-アンコール
シューマン =リスト:献呈
ビゼー=ホロヴィッツ「カルメン幻想曲」

リサイタル情報

▽8月30日・31日・9月1日
東京・浜離宮朝日ホール

コンサート情報

▽3月6日
サンデーブランチ クラシック 反田恭平/ピアノ&上野耕平/サクソフォン
東京・渋谷 リビングルームカフェ

▽3月11日
バーシェ・トリオ コンサート
北海道・ないえコンチェルトホール

▽3月20日
ぱんだウインド・オーケストラCD発売記念コンサート
東京・東京藝術大学奏楽堂

▽3月21日
爆クラ! presents ジェフ・ミルズ × 東京フィルハーモニー交響楽団
クラシック体感系 時間、音響、そして、宇宙を踊れ!?
東京・Bunkamura オーチャードホール

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