ベストアルバム「best+ 2009-2015」全曲レビュー

彼らの生き様そのものが反映された、FACT最初で最後のベストアルバム「best+ 2009-2015」

 今年11月に解散したロックバンドのFACTが去る11月11日に、ベストアルバム『best+ 2009-2015』をリリースした。本作には、2009年発売のメジャーデビュー第1弾作『FACT』以降、6枚のアルバムからメンバー各々がセレクトした18曲に、新曲「look away」「choices」の2曲を加えた全20曲が収録されている。

 FACTは1999年に結成以来、既成観念にとらわれない独特のサウンドと、音楽シーン自体をバージョンアップさせた楽曲構成、そして、メンバー全員がボーカルを担当するなど、攻めの姿勢で国内外の第一線で活躍してきた。ハードコア、スラッシュメタル、スクリーモ、ハードパンク、そしてエレクトロニカやダンスミュージックなどの要素を多彩に使い、様々なアプローチでバンドの音楽性を進化させ、大きな支持を集めた。

 00年代、ラウド・ロックの先駆者としてシーンを駆け抜け、目下、バンド絶頂という状態での“解散発表”。バンドとして最高の状態で発表された自身初のベストアルバム『best+ 2009-2015』は、FACTの軌跡と新曲が収められた“最後の作品”となる。全20曲、その内容を全曲紹介していこう。(文・平吉賢治)

全曲レビュー

 ▽01.look away
 本作品に収められた書き下ろしの新曲。ハードコアなサウンドと2バスのスラッシュビートが存分に味わえる「正にFACT!」といったラウド&スラッシュなナンバー。オーディエンスに投げかける“問い”の様なリリックが意味深だ。

 ▽02.choices
 こちらも本作発表の新譜。トリッキーなメロディラインのギターリフとヘヴィネスな“ギターの壁”。そして疾走するボーカル重唱。FACTのオリジナリティが光るアンサンブルに、逞しくも美麗なコーラスへの展開。まるで「オリジナルアルバムの1曲目」を飾る様な、そんな前向きな楽曲にも聴こえる。解散を表明したFACTのこれからの未来を感じさせる一曲。

 ▽03.paradox
 ドラム&ベースのダブアプローチから機関銃の様なビートへ。2009年発表の『FACT』収録。エレクトロサウンド、曲中のめまぐるしいビート展開など、ロックを根底から再構築し自身のサウンドとして仕上げられた、FACT「実力派」を物語る会心作。

 ▽04.a fact of life
 思い切りエモいFACTの代表曲「a fact of life」は、彼らの魅力が全て詰まっていると言っても決して過言ではないだろう。“Thanks for the memory that doesn't fade in my heart”-「この心には今も色褪せない思い出」というメッセージが胸に突き刺さる。オリジナルアルバム『FACT』収録。

 ▽05.purple eyes
 こちらも『FACT』収録のナンバー。BPM200超えの高速ビート上で放たれるシャウト、メンバー全員のコーラスに包まれる最終展開部、わずか2分で走り抜ける「purple eyes」の疾走感にライブで身震いすら覚えたオーディエンスは数多く存在する。

 ▽06.rise
 アルバム『Fact』のラストを飾った「rise」。この楽曲はライブでも積極的に演奏されていた。スピーカー左右に振られ、密にパート分けされた生々しくもクリアに録音されたギターのサウンドは必聴。曲構成からアンサンブル、ビートの変化、ブレイク、コーラスの展開まで、隅々まで秀逸なバランスのアレンジが行き届いた良曲だ。

 ▽07.hate induces hate
 憎しみの感情の背景に潜む、人間の本質をスラッシュメタル・サウンドで弾劾する。その真実を高らかに叫ぶ。「どうすべきか」それをFACTサウンドに乗せて咆哮する。メジャー2枚目のスタジオ・アルバム『In the blink of an eye』収録。2010年発表。

 ▽08.slip of the lip
 ライブではモッシュ、ダイヴ、クラウドサーフ必至の激アツナンバー。オーディエンスからの支持も高いFACTの代表曲のひとつ。噛み付く様な切れ味のトリプルギター・アンサンブルでガンガンに攻め、絡み付くシャウトとコーラスハーモニーで包み、ボルテージ全開のキック連打で鼓動を牽引する、正に“FACT”といった隙のないアンセム。アルバム『In the blink of an eye』収録。

 ▽09.sunset
 アルバム『In the blink of an eye』から。FACTのサウンドについて、ギターが「ピロピロ鳴ってる」という比喩を目にする事があるが、正にこの「sunset」のリードプレイを聴くと「これか!」と納得頂けるだろう。「ピロピロ」と(ヘロヘロか?)と文字にすると少々頼りないが、この楽曲を聴くとそのサウンドが如何にクールであるかが体現出来るだろう。

 ▽10.the shadow of envy
 メタルサウンドがイントロからオーディエンスを歓迎する。その激情のメタルサウンドと対比する禅問答の様なシンプルな詞、過ぎ去っていく様な2分33秒。FACTの個性が際立って表面化した一曲だ。2011年発表ミニアルバム『Eat Your Words』収録。

 ▽11.error
 シンプルなテーマフレーズと共にドライブ感全開のグルーヴで弾ける「error」。楽曲の持つ「緩急」とメランコリックな歌詞が絶妙に絡み合い、中間部のさりげないブレイクビーツ的アプローチの小技が光る。こちらも『Eat Your Words』収録。

 ▽12.FOSS
 ポップな音色のイントロからメロコア感溢れるビートに流れるスピード・エモコアナンバー。ラストの合唱パートはFACTの真骨頂。レガートなそのコーラスは、所構わずつい口ずさんでしまう魅力がある。メジャー3枚目スタジオ・アルバム『burundanga』の1曲目収録。

 ▽13.drag
 ジャンクなサウンドからの頭打ち強拍、そして変則ビートで疾走するという反則級のパンクナンバー。燃え盛るデス・ボイスの中、激流と共に終了する流れがメチャクチャ気持ちいい。2014年発表『WITNESS』収録。

 ▽14.witness
 「傍観者」に投げかける「憤慨」。強迫的なベースラインから始まる緊張感のあるアンサンブルが“FACT”のメッセージとして投げかけられる。収録されているスタジオアルバム『WITNESS』のタイトルナンバー。そのジャケットを象徴する様な一曲だ。

 ▽15.ape
 エスニックな太鼓のリズム、どこかアカデミックなメロディから始まる「ape」。ライヴではHiro(Vo)が脇に抱えた鼓を叩くイントロの光景が定番だった。グラインドコアで攻めてジャジーにブレイク、ユニゾンのリフ、6重奏のコーラス。どこまでも“FACTらしい”トラック。『WITNESS』収録。

 ▽16.miles away
 高速バスドラとステレオディレイの幻惑サウンド。ヴォーカル・インからは一転してストレート。スタジオアルバムとして収録されている『WITNESS』の中でも最も変化球的なトリッキー・チューン。それでいてリリックはド直球。FACT楽曲の中でも「通好み」なニクいナンバーだ。

 ▽17.disclosure
 問答無用のハードコア・スラッシュナンバー「disclosure」は、ライヴではコール&レスポンスが確実に鳴り響いた鮮度抜群の楽曲。1人で音源再生をして自宅で聴いても、イヤホンで聴いても、数千数万のオーディエンスが伴う「ライヴの臨場感」が即座に味わえるだろう。アルバム『WITNESS』収録。

 ▽18.the way down
 2015年発表『KTHEAT』収録。極限まで落としたチューニングで迫り来るヘヴィ・チューン。その重厚なサウンド上で踊るリードギターとポップなボーカルは正にFACTならでは。高速ビートが主体のFACT楽曲だが、「the way down」は縦ノリのミドルテンポ。ライヴでは重宝されたナンバーだ。

 ▽19.wait
 1分35秒と本作最短の曲。攻めて、攻めて、攻めて、さらに攻める、散弾銃の暴発的楽曲。怒濤のFACTサウンドの洪水。特筆すべき点は、歌詞があまりにも深い。1分半というこの短い時間の歌詞など一言二言で事足りる場合が多いのだが、本楽曲「wait」が高速で叩き付けるリリックはあまりにも深い。こちらも『KTHEAT』収録。

 ▽20.over
 ゆったりとしたギターストローク。メロディを奏でる第二導入。そしてFACTとしては珍しい「3連符」からのセクション転換。後半では鉄琴が鳴り響くなど、意外とも言えるが「どこまでも一辺倒でないFACT」のアプローチが楽しめる一曲。『KTHEAT』収録。

あとがき

 16年の活動を経て自身初のワンマンツアー『FACT "KTHEAT" JAPAN TOUR 2015』を終演させ、本作『best+ 2009-2015』のリリースをもってFACTは活動を終了する。細かな事はさておき、FACTとはどんなバンドかと言うと、「日本にこんなバンドいたのか!?」その一言ではないだろうか。

 その最終アクションは本作「best+ 2009-2015」である。マスタリングには、世界最高と言われグラミー・アーティストを数多く手掛けるTed Jensenを迎えた会心作だ。ベスト盤という形で彼らの軌跡、「Fact(真実)の生き様」を耳で確認する事が出来る。そして、2枚組仕様に付属のDVDには、ラスト・ツアーの大阪公演本編を全て収録。DVD映像で彼らの最後の勇姿を確認する事が出来る。

 日本の音楽シーンにFACTあり――、アルバム『best+ 2009-2015』は、そんなFACTの生き様、そしてFACTと共に時代を生きたオーディエンスの意思を感じる事が出来る一枚だ。

FACTベストアルバム「best+ 2009-2015」

[CD+DVD]
・オリジナル盤発売日:2015年11月11日
[CD]
01 look away
New Song!!
02 choices
New Song!!
03 paradox
04 a fact of life
05 purple eyes
06 rise
07 hate induces hate
08 slip of the lip
09 sunset
10 the shadow of envy
11 error
12 FOSS
13 drag
14 witness
15 ape
16 miles away
17 disclosure
18 the way down
19 wait
20 over

[DVD]
ラスト・ツアー「FACT”KTHEAT”JAPAN TOUR 2015」の大阪公演のライブ本編を収録

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