坂本龍一が山田洋次監督作で復帰「ぼくは本当に幸せ」
中咽頭がんを患い治療を続けていた音楽家の坂本龍一(63)が、12月12日公開の山田洋次監督映画『母と暮せば』(松竹配給)の音楽を手掛けることがわかった。坂本にとっては復帰後最初の作品となり、山田監督とは初タッグとなる。主演を務めるのは吉永小百合。坂本は「このような大作が、病気からの復帰後第1弾の仕事なのですから、ぼくは本当に幸せ者です」とコメントしている。
■吉永小百合、二宮和也、黒木華
映画は、1948年8月9日、長崎で助産婦として暮らす母のもとへ、3年前に原爆で亡くしたはずの息子がひょっこり現れる。楽しかった思い出話や、残していった恋人の話をして過ごす2人の日々を描く。
作家・井上ひさしさんが、広島を舞台に描いた『父と暮せば』と対になる作品を、長崎を舞台につくりたいと発言していたことを井上さんの三女・麻矢さんを通じて知った山田監督が、終戦70年となる今年、その井上さんの想いに捧げ映画化にのぞむ。
キャストは、母・伸子役に吉永小百合、息子の浩二役に二宮和也、浩二の恋人・町子役に黒木華。
■吉永小百合が引き合わせ
今作の企画が立ち上がってすぐに、山田監督から坂本の名前が挙がったようだ。映画音楽の仕事をオファーしたところ、『男はつらいよ』シリーズの大ファンだという坂本もすぐさま快諾した。
企画が立ち上がって間もない2014年4月、山田監督は吉永小百合とともに東京芸術劇場で行われた坂本のコンサートを訪れた。吉永はライフワークとしている原爆詩の朗読で坂本がピアノ伴奏を担当するなど、坂本とは親交があり、このコンサートで山田監督に坂本を紹介したことが今回の話のきっかけ。吉永が2人をつなぐのに一役買ったかたちとなった。
その吉永小百合は「昨年の4月、山田監督とご一緒に坂本さんのコンサートに伺いました。坂本さんが『母と暮せば』の音楽を創って下さることになって、嬉しくて嬉しくて舞い上がっています」と述べている。
本作は4月下旬から7月中旬までの約2カ月半におよぶ撮影を終え、秋の完成に向け、現在ポストプロダクション中だという。
■ぼくは本当に幸せ者
坂本は以下の通りにコメントを寄せている。
『寅さん』映画は、歳をとるほどに味わい深く感じられます。最近などはタイトルバックの江戸川が見えるだけで、涙目になってしまいます。もう帰ってくることのない昭和の日本への郷愁でしょうか。小津安二郎や成瀬巳喜男の映画にも共通のものを感じます。
その山田洋次監督から、次回作の音楽を頼まれました。しかも吉永小百合さんが同席しています。この2人に何かを頼まれて断れる日本人がいるでしょうか。そして内容は井上ひさしさんの『父と暮せば』へのオマージュとして呼応するように、長崎が舞台となっています。核のない世界を望んでいるぼくとしては、これはやるしかありません。
このような大作が、病気からの復帰後第1弾の仕事なのですから、ぼくは本当に幸せ者です。
■本当に嬉しかった
山田洋次監督も以下の通りに語っている。
『母と暮せば』の企画を発想したとき先ずぼくの念頭にあったのは、主役は吉永小百合、音楽は坂本龍一、このお2人しか考えられないということでした。最初に吉永さんの承諾を得てそのあと、彼女と二人でコンサート中の坂本龍一さんの楽屋に押しかけ口づてで企画を話しました。
彼の口から快い承諾の返事を聞いたときは本当に嬉しかったものです。坂本龍一さんと組んで仕事をするのは長年の夢でした。ぼくの頭の中にはすでに坂本龍一の美しい音楽が鳴り始めています。
■昨年7月に中喉頭がんを公表
坂本は昨年7月に、中喉頭がんであることを公表。6月上旬に喉の違和感を感じ、診察を受けた結果、先のがんであることが判明。その年のスケジュールは全てキャンセルし、滞在先である米国ニューヨークで治療に専念するとしていた。