INTERVIEW

中井友望

初主演作でみせた“憑依的熱演”「私と果歩の境目が分からなかった」:サーチライト-遊星散歩-


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:23年10月19日

読了時間:約7分

 中井友望が映画『サーチライト-遊星散歩-』(平波亘監督)で初主演を務めた。本作はささやかな暮らしを望んだ女子高生の青春黙示録。中井は、一見普通の女子高生だが、病を患った母と苦しい生活を余儀なくされ、禁断の「JK散歩」に踏み入れてしまう主人公の果歩を演じる。『炎上する君』での取材では、先に撮影した『サーチライト-遊星散歩-』が自身の考えを大きく変えるきっかけになり、その後の作品にも良い影響が出ていると明かしていた。いわば次のステージに立ったターニングポイントと言える作品で、無意識のなかで演じられた「憑依の熱演」を見せた作品だ。彼女自身も台本を読んだ段階で「演じられるという根拠のない自信があった」とも語っている。彼女自身は果歩というキャラクターをどう解釈したのか。【取材・撮影=木村武雄】

©2023 「サーチライト-遊星散歩-」製作委員会

やれるという自信

©2023 「サーチライト-遊星散歩-」製作委員会

――『サーチライト-遊星散歩-』は転機になった作品と話していましたが、撮影は大変でしたか?

 しんどいと思うシーンは多かったかもしれませんが、すごくやりがいを感じる作品でした。主演と聞いた時は不安よりも喜びの方が大きかったです。もちろん葛藤を抱えた役なので覚悟は必要でしたが、自分でもよく分からない自信がありました。やれると思いましたし、やりたいと思いました。

――『炎上する君』で演じたトモ役も葛藤している役柄で、そのキャラクターが持っている感情は、自身にも馴染みのあるものだったので演じやすかったと話されていましたが、今回も同じ?

 馴染みのある感情はありました。

――果歩は本当にツラい気持ちを背負っていて、その感情に馴染みがあるということは中井さんご自身も高校時代は相当ツラかったのかと思ってしまったのですが…。

 そんなことはないです。果歩が置かれているような環境ではなかったですし、果歩のツラさと私が経験したツラさは比べることでもないと思っていますので。ただ、気の持ち方や感情、考え方は似たところはあったかもしれないです。

――すべてが一致するわけではないけど、重なる感情を入り口に手繰り寄せた感じですか?

 そうですね。

中井友望

中井友望

自然と果歩に

――クランクインを迎えるまでに本読みや衣装合わせがありますが、平波監督とどうディスカッションされましたか?

 平波監督とは細かい話はしませんでした。ただ、果歩の愚かさを肯定したいと言われ、私も同じことを思っていて。台本を読んだ時に果歩は全然可哀そうじゃないと思ったんです。選んだ選択肢は間違っていたかもしれないけど彼女自身は弱くないんです。それは果歩には守りたいものがあって、それに対する強い気持ちがあったから。可哀そうという言葉では片づけられないものを見せたい、という共通認識が平波監督とありました。

――物語の後半になると果歩の深層心理が見えてきますが、それまでは色んな思いが複雑に絡み合っていて。母のことがあって自分はしっかりしないといけない、でも本当は甘えたいとか。様々な感情を持っておかないといけないですし、それが場面場面で大きくなったり小さくなったりする。演じる時もそれは意識されましたか?

 複雑なもの全てをひっくるめて、果歩にとって何が一番なのかを考えることは意識しました。やっぱりお母さんと一緒にいたいというのが一番にあると思ったので、軸としてお母さんという存在をすごく意識しました。ただ、果歩とお母さんの関係性を作るために、お母さん・貴子役の安藤(聖)さんと積極的にコミュニケーションを取ったかと言われたらそうではないです。でもそれが良かったのかなって思います。

――順撮りではないですよね?大変だったと思いますが、心情の持っていき方とかはどうされましたか?

 それが一番難しかったです。逆に私が知りたいぐらいです(笑)何かを意識して演じるほど器用ではないので、なんとか必死にやっていた感じです。

――心情のバランスも?

 それもいい意味で考えていなかったです。

――カメラが回っていないときも果歩になり切っていたんですね。

 自分との境目はどこにあったか?と聞かれたら分からないです。逆に言えば切り替えられないから、共演者の方やスタッフの方と密にコミュニケーションを取ってしまうと果歩から切り離されてしまう感覚があったので、あえてしゃべり過ぎない方がいいかなって思っていました。

中井友望

中井友望

感情の決壊

――果歩は感情を内に込めていて、顔では平静を装うとしているけど、でもその感情が沸点に達して爆発する時があります。そのシーンはどう臨んだんですか?

 そのシーンも頭で考えてどうということはありませんでした。逆に考えなくても出来たのはこの作品が初めてでした。感情が出る印象的なシーンが2つあって、演じる上でいずれも大切な存在が目の前にいたことがすごく大きかったのかなって思います。

――引き出されたんですね。

 引き出してもらいましたし、感情をぶつけても大丈夫だと思ったのかもしれないです。

――信頼を寄せていたいんですね。そのシーンは、事前に流れの説明はあっと思うんですけど、ほぼ一発撮りですよね。

 そうですね。それも平波監督のおかげかもしれないです。何回も撮るものではないことをすごく感じて下さっていたので、最初の一回を大事にしてくれましたし、私もそこでって思っていたので。

――冒頭のファミレスでの泣きそうな表情は自発的ですか。

 自発的です。細かい演出は全部任せてもらっていた気がします。

――クランクインのシーンは?

 そのファミレスの中でした。

――果歩の人となりが描いていない最初のシーン、しかも何か事件が起こるわけでもない。上野輝之(演・山脇辰哉)の何気ない言葉を受けて涙目になる姿から何か重いものを抱えていることが感じられました。そう考えるとその時点で果歩になれていたんですね。

 わりと最初からお芝居をしている感覚はありませんでした。特にお母さんとのシーンはすごく果歩だった気がします。お母さんといるときのシーンの後の撮影でも心のどこかにお母さんがいましたし。

――家のシーンは撮影期間中のどのへんにあたるんですか。

 真ん中くらいです。

――家のシーンはまとめて撮っていると思いますが、逆に感情が溜めやすかったのかもしれないですね。

 そうかもしれないです。

――クランクアップはどのシーンですか?

 ホテルでのシーンでした。すごく溜め込んでいた上での最後だったので良かったと思います。ただ果歩は心の拠り所がないわけじゃないので、一人でどうしようもなくツラいという感情にはならなかったです。そこは保っていられたのかもしれないです。

中井友望

中井友望

自分を保つ柱

――最初に果歩は「弱くない」と話されていましたが、強い芯のようなものがないと流されてしまいますよね。演じていても作品がツラいものになると負の感情に流されてしまう。中井さん自身、強い芯、いわば軸を保つためにしていることはなんですか?

 逆に一人でいることです。人が入ってくると…。この話も上野君が入ってきたことによって果歩の弱さが出てしまって。自分一人なら立っていられるのに、差し伸べられると今まで保っていたバランスが一気に崩れそうになってしまう。だから壁を作るんだろうし、誰かと親しくなればなるほど人って弱くなっていくのかなって思います。果歩みたいな子は弱さを一瞬でも見せたらそこから全部崩れてしまう不安定さがあるので、最後の上野君にぶつけるシーンを撮るまでは割と一人で全部どうにかしようと思っていたと思います。だから平波監督にもあんまり話に行かなかったりして。今思えばそうだったと思います。

――クランクアップしてご自身も楽になった?

 すごくスッキリとした終わり方でした。

――平波監督に「この感情ではこのセリフは言えないです」って言ったのはどの場面ですか。

 ふとしたところなんですけど、スーパーの店員さんとしゃべるところです。果歩は外に対して言葉数が少ないので、ちょっとした言葉が果歩じゃなくて中井友望に近いものの方がやりやすかったんです。「うん」とか「でも」とか「じゃあ」とか自分に近いほうがやりやすかったので、それは果歩としてというよりも自分が言いやすい言葉であったほうがって思ったのかもしれないです。

――提案して受け入れてくれたことで「今まで監督や周りの大人たちは怖い存在と思っていたものが、そうではないことに気付けた」とも話さていましたね。そのシーンは家でのお母さんとのシーンの前ですか?

 最初の方だったと思います。

――最初の時点で中井さん自身が監督、スタッフに心を開いていた、信頼を寄せていたとも言えそうですね。改めてこの作品はご自身にとってどういう経験になりましたか。

 すごく大切で、私にとって一番いい形の初主演作が撮れたと思います。もちろんスタッフ、共演者のみなさんのおかげで、感謝しています。

中井友望

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(おわり)

ヘアメイク :SHIO
スタイリスト:粟野多美子

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