中井友望が、現在公開中の映画『炎上する君』(ふくだももこ監督)に出演している。西加奈子氏による同名短編小説が原作で、東京・高円寺を舞台に、何度も現実に絶望する2人の女性が、奇怪な「炎上する男」を探すなかで社会の価値に強要されず「自分らしく生きる」姿を見出していく物語。2人の女性、梨田と浜中をうらじぬのとファーストサマーウイカが演じる。ふくだももこ監督作は『ずっと独身でいるつもり?』以来の出演となる中井は本作で、バンドメンバーによる無自覚なラベリングに傷つき店を飛び出す女性トモを演じている。この出来事がきっかけで梨田と浜中に気付きを与え、そして自身も変わっていく役どころだ。もともと思ったことをうまく言葉にできる性格ではなく、高校時代は不登校にもなった中井だが女優デビュー後は充実した撮影の日々を送っているという。なかでも本作は「浄化される気分だった」と語っており特別な作品ともいえる。自身はどのような思いで臨んだのか。【取材・撮影=木村武雄】
演じることへの意識の変化
――ここ数年は多くの話題作に出演されていますが、どのように過ごされてきましたか?
自信がついたと思ったら不安になったり、また自信がついたりと、その繰り返しです。もちろん作品に入るのは楽しいですし、いい経験になると目の前がすごく明るくなるんですけど、作品がない期間だとだんだんと暗くなってしまうんです。
――ではご自身にとって作品は「光」なんですね。
そうです。作品と向き合うなかで苦労もありますが、終わった時に寂しさやすごく楽しかったと思えることが多かったです。特に今年に入ってからはお芝居をして楽しいと思える瞬間が多くて、ちゃんと楽しめるようになったんだと思いました。
――楽しいと思える瞬間というのは相手とのお芝居とか?
相手とのやり取りもそうですし、自分の範疇(はんちゅう)を超える感情が出てきたときとか、こうしようと頭で考えているだけじゃなくて無意識に心が揺さぶられたりした瞬間がすごく楽しいです。

中井友望
――役には普段どう向き合っていますか?ルーティンがあって、ここ数年変わってきたとか?
お芝居を始めた当時は不安で緊張もしていたので、セリフや自分が発することばかり考えてしまっていました。セリフが合っていることに越したことはないんですけど、現場で目の前の方と対峙して素直に感情も言葉も出せるようになることが大事だなと思え、それからは良い意味でセリフをきっちり覚えないようにしました。
――セリフに縛られ過ぎないのはいい事ですね。それに気付けた作品はあったんですか?
『サーチライト-遊星散歩-』という初の主演作品を昨年2月に撮ったんですけど、主人公を演じるので私の気持ちが軸に物語が動くじゃないですか?その時に、その役としてこのセリフは言いにくいなと、「こう動いて欲しい」という監督の指示があっても何回やっても動けなくて、その時に「演じるというのは頭で考えるのではなくて体や感情なんだ」とすごく感じたんです。それで監督に「役の心情としてはこのセリフは言いにくいので変えていいですか?」と言ったら「全然いいよ!」と言って下さって。そのやりとりのときに、今まで監督や周りの大人たちは怖い存在と思っていたものが、そうではないことに気付けたんです。私の伝えたことを受け入れてくれて、その体験が大きかったです。
――何か以前インタビューした時よりも、見た目も雰囲気もそうですが、大人になったと感じますね。
2年くらい経てば大人になりますよね(笑)。
――(笑)少し余裕が出たのかなと。
それは私自身もすごくそう思います。2、3年前に会った方に最近会うと「ちゃんとしゃべるようになったね」とか、「よく笑うようになったね」と言ってくれる方が多くて。そんなに意識してないんですけど、勝手に大人になっているのかなって思います(笑)。

中井友望
ラストシーンの舞台裏
――その『サーチライト-遊星散歩-』の撮影は、『炎上する君』の前後どちらですか?
『サーチライト-遊星散歩-』は2月で、『炎上する君』は5月でした。
――では『炎上する君』での撮影では、向き合い方も心情も変わった状態で臨めた?
めっちゃ楽しい撮影でした!
――演じたトモという人物は、作品では人となりや過去などは描かれていませんが、どういう風にアプローチされようとしましたか?
本読みの時に、このバンドメンバー4人はどう出会ったのか、このキャラクターはこうだよねという話をふくだ監督と大まかにしました。その事以外はそんなに考えたり作ったりしなかったです。

中井友望
――クランクインはどのシーンから撮影されましたか?
銭湯でのラストシーンです。過程がないまま最初に最後のシーンを撮ったので難しかったです。バンドメンバーとの話し合いの後、高架下で梨田(演・うらじぬの)に「君は何も悪くない!」と声をかけてもらうんですけど、トモにとってはすごく大事な言葉で、撮影としてはそれをまだ言われていないなかだったので、ふくだ監督が考えて下さって、銭湯の現場でうらじさんがそのセリフを言ってくれたんです。その一言で役に入れて、自分でもすごくいいシーンが撮れたと思っています。実は、ラストシーンは何回か撮ったんです。でも最初はあまり納得がいかなくて。そうしたらふくだ監督が「友望、どう?納得いかないならもう一回やろうか?」と言って下さって、それがすごく嬉しかったです。
――ふくだ監督は寄り添って作って下さるんですね。
寄り添ってくれたと思っています。
――もともとのふくだ監督の印象は?
初めてお会いしたのは3、4年前で、そこからずっとふくだ監督の作品に出たいと思っていましたし、作品自体もそうですけど、ふくだ監督という人間がすごく好きです。映画に出れたのは嬉しいですし、そもそもふくだ監督に出会えたことが嬉しいです。それを同じ熱量で返してくれますし、人のことを思う力がすごくある方だなと思います。

中井友望
よく知っている感情だった
――今回の役柄も含めて自分の役割はどの辺だったと思いましたか?
誰かの言葉に傷つけられて、誰かの言葉に救われる。それをすごく分かりやすくどちらも描いている人物だなと思ったので、言われた言葉を素直に受け止めるようにしていました。
――居酒屋のシーンはどういうふうに段取りを組んで撮影したんですか。本読みの時はどういう感じだったんですか。
本読みの時からあんな感じでした。一人ひとり刺さる嫌な言葉を言うんですけど、全然悪気がない人物もいるし、偏見な意見を言われることもあるし。もともと台本にあったセリフを「きつすぎないですか?もっとやわらかく言えないかな」という話をすごくしました。劇中では嫌な人達に映ってますけど、そういうふうに考えて下さったりしました。

中井友望
――中井さんは映画の舞台挨拶となると、少し恥ずかしがっているような感じがあるじゃないですか?(笑)
恥ずかしいです(笑)
――内にこもっているような感じがするんですけど、映画ではそれが何十倍もあって。内に込める演技が素晴らしいなと思っているんですけど、居酒屋のシーンってまさにそれで、やりやすいとかはありましたか?
よく知っている感情だからやりやすいという言葉があっているのかは分からないですけど、この感情よく知っているなと思うので、他の人よりは表現できるんじゃないかなと思っていました。
――よく知っている感情というのは、芸能活動を始める前の学生時代を含めて?
そうです。
――もしかしたらそれまでの経験というのは今に活かされていて、浄化されている感じがありますか。
あります。今回の話は最後に浄化される物語じゃないですか。その物語の中に入ると、私自身がちゃんと浄化された気がして。何回この映画を観ても元気になれます。
――俳優としてのターニングポイントは『サーチライト-遊星散歩-』ですが、個人としてはどうですか。浄化していく比率でいうと今どれくらいですか。
完全に吹っ切れる事はないと思います。根底にそれがあるから、お芝居したいなとか俳優になりたいなとか映画好きだなと思ったので、それをずっと持ち続けています。ただ見方が変わりました。21歳くらいまではそこばっかり見ていたんです。辛い方と幸せな方があったら、辛い方ばかり見ていたけど、見方を変えたら割合は変わらなくても生きやすくなりました。でもそれは西加奈子さんの本に出会ってから、考え方や見方が変わりました。
――この先ご自身にとって明るい未来が広がっている感じですか。
そう信じたいです。日によってすごく不安な日もありますけど、前向きな日もあるし。そっちを信じていようと思うようになりました。

中井友望
(おわり)
ヘアメイク:横山雷志郎
スタイリスト:粟野多美子
☆衣装(グリーンの衣装)
ワンピース
¥31900 kotohayokozawa/ON TOKYO SHOWROOM
イヤリング ¥14300 TALPA/SUSU PRESS
(問い合わせ先)
SUSU PRESS
03-6821-7739
ON TOKYO SHOWROOM
03-6427-1640