早見優×Night Tempo、“リエディット”で魅せる昭和ポップスの深化
INTERVIEW

早見優×Night Tempo

“リエディット”で魅せる昭和ポップスの深化


記者:村上順一

撮影:

掲載:23年07月19日

読了時間:約13分

 韓国人プロデューサー/DJのNight Tempoが7月19日、早見優の「COMPLEX BREAK OUT」と「BEAT LOVER」をオフィシャル・リエディットした『早見優 – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』を7インチ・アナログ盤(限定盤)と配信でリリース。昭和ポップスを令和にアップデートする『昭和グルーヴ』シリーズ第18弾に早見優の楽曲をセレクトし、オリジナルとはまた一味違ったリミックスが施され、楽曲の新たな一面を提示した。MusicVoiceでは、Night Tempoと早見優の2人にインタビューを実施。Night Tempoが本作をリエディットするにあたり心掛けていたこと、そして、早見優に当時の制作を振り返ってもらいながら、昭和ポップスの本質に迫った。

今の人たちが新しい曲として聴けるようにしたいと思った

『早見優 ‒ Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』ジャケ写

――お2人はどんなきっかけで知りあったのでしょうか。

早見優 これが面白い繋がりなんですけど、私がある雑誌のインタビューを受けて、そのときインタビューして下さった記者の方が、前日にNight Tempoさんを取材をされていました。Night Tempoさんが私と会いたいという伝言を聞いて、私もNight Tempoさんの音楽が大好きだったので、メッセージを送りました。そこで今度ライブがあると聞いて、観に行かせていただいたのが始まりです。

――早見さんから連絡をとられたんですね! さて、Night Tempoさんは、なぜ「COMPLEX BREAK OUT」と「BEAT LOVER」、この2曲を選曲されたのでしょうか。「夏色のナンシー」を選ばれなかったのは意外でした。

Night Tempo 僕は「夏色のナンシー」はあまり知らなかったんです。自分の好みで音楽を聴いていたので、早見さんの当時の活動のことはよく知らなかったので、後から追いかけていく中で色々知りました。早見さんの80年代後期の曲から入ったから、自分の中では今回の2曲は馴染みがあって、すごくおしゃれだなと思いました。あと、「夏色のナンシー」は、やはり定番過ぎるというのもありました。例えば早見さんと一緒にイベントに出れるとなったとき、定番曲ではなく、新しいことをした方が楽しいんじゃないかなと思いました。

――「COMPLEX BREAK OUT」はアルバム『WHO'S GONNA COME?』収録曲で、隠れた名曲ですよね。

早見優 タケカワユキヒデさんのプロデュースで、ボーカルのディレクションもしてくださいました。この曲はまさにタケカワさんが作ってくださった楽曲で、アルバムの中でも特にファンキーな感じの曲でしたね。

――今回どういうイメージでリエディットしようと考えていたのでしょうか。

Night Tempo 僕は通常、元の素材を残してリエディットするんですけど、今回は未来のことを考えて、ステージを想像しながら作ったので、早見さんと2人で楽しめるリミックスにしたいと思いました。これまでの音源ではオケは作らなかったのですが、この曲はオケも自分で打ち込みました。原曲とはまた違う解釈で元々ある曲だけど、今の人たちが新しい曲として聴けるようにしたいと思いました。

――早見さんは今回リエディットされた楽曲を聴いていかがでした?

早見優 「COMPLEX BREAK OUT」はもちろんですが、私は「BEAT LOVER」が特に新鮮でした。最初のギターの入り方とかChicのギタリスト、ナイル・ロジャースを彷彿とさせます。そして、原曲よりちょっとテンポを落としているのですが、それによってグルーヴ感がでて、新曲のような新しい感覚で聴いていました。

――歌を録り直したのでは? と思うくらい印象が変わりました。

Night Tempo 元々のオケはもう少しテンポが速い曲だけど、雰囲気がファンキーだったので、ちょっと音色が変わるだけでも変化があります。そして、早見さんの声がすごくファンキーで魅力的なんです。

早見優 Night Tempoさんは「夏色のナンシー」の頃より、80年代後期の声がすごく好きだと言ってくれるんです。あの時期はアーティストとしての路線を色々試みていた時期だったと思います。当時の歌が好きと言ってくれる人が、もっと沢山いてくれれば良かったのにと思います(笑)。

――当時、この2曲を制作していた時のことは覚えていますか。

早見優 すごく楽しかったことを覚えています。「夏色のナンシー」とか「誘惑光線・クラッ!」をリリースした時期はけっこう忙しくて、出来上がった楽曲をレコーディングするという感じでした。タケカワさんプロデュースの時はどんな歌を歌いたい、こんなアルバムのコンセプトにしよう、とか打ち合わせから参加させていただいていたので、それまでとは関わり方が違いました。あと、印象に残っているのは、当時ファルセットは苦手意識があったのですが、タケカワさんは「ここでファルセットを使ってみようよ」と提案してくださったり、レコーディングも挑戦があり楽しかったです。

アジア人のカラーが入っていてすごく聴きやすかった

――日本のポップスは少なからずUSやUKサウンドから影響を受けていると思うのですが、それを基盤にしながらも日本独特の雰囲気があると感じています。Night Tempoさんから見た、日本の音楽、昭和ポップスはどのように映っていますか。

Night Tempo 昭和の音楽にはジャンルが沢山あって、当時欧米からの音楽の流入が日本は早かったので、それを日本のプロデューサーさんたちが研究して作っていたと思うのですが、同じジャンルでも日本人の手に掛かると、繊細になって音もキレイになる印象があります。欧米はおそらく勘で作っているけど、日本はそれを勉強して作っているといった違いがあると思いました。

Night Tempo

早見優 Night Tempoさんは何歳の時に昭和ポップスと出会ったの?

Night Tempo 始めて聴いたのは小学校2年生から3年生頃なんですけど、本格的に聴き始めたのは、中学生よりもっと後でした。

早見優 その時、韓国で流行っていた音楽はどんな楽曲?

Night Tempo アメリカのオールドポップとかカーペンターズとか流行ってました。小学校2年生から3年生頃は欧米のディスコ、その後にヒップホップが流行りました。韓国にソ・テジさんというシンガーがいるのですが、ソ・テジさんがヒップホップを韓国で流行らせたんです。

――韓国ではカセットテープも流行っていたとお聞きしています。

Night Tempo 90年代中頃にカセットテープが流行りました。日本では80年代末頃からはアナログ盤の生産が落ちて、シングルCDに変わっていった時期で、韓国はその頃にカセットテープが流行り始めて、日本の中古のポータブルカセットプレーヤーが韓国にたくさん流れてきました。家の近くにチョンゲチョンという街があるのですが、そこは日本で言うところの秋葉原みたいな感じで、道端で商品を広げて販売していました。当時の韓国には家電量販店のようなものはなかったので、僕の幼い頃はそういった市場で電化製品を買うのが当たり前でした。

――ポータブルプレーヤーで音楽を聴いていたんですね。

Night Tempo でも、僕が初めて日本の曲を聴いたのはポータブルCDプレーヤーでした。僕はカセットプレーヤーが欲しかったけど、父にお願いしたら、ポータブルCDプレーヤーを買ってきてしまって。最終的にはポータブルカセットプレーヤーを買ってもらいました。周りではカセットテープが流行っていて、子どもは流行っているものが欲しいから、最初はCDはいらないと思ったのですが、聴きたい曲がCDに入っていたので、なんだかんだで使ってました。

早見優 昭和ポップスのどんなところがNight Tempoさんのハートを掴んだのでしょう?

Night Tempo 僕が子どもの頃、父がハイファイな物を買っていて、そのレコードの中にイタロ・ディスコがあったのでよく聴いてました。日本ではユーロビートと言われていたと思いますが、Winkさんや中山美穂さん、そして早見さんもユーロビートが基盤にあったので、自分に馴染みがある曲調に加えて、アジア人のカラーが入っていたので、すごく聴きやすかったです。欧米より昭和ポップスの方が僕は性に合っていたんだと思います。

――日本語の歌詞はどんな風に感じてました?

Night Tempo 僕は5〜6年前まで、日本語は何を言ってるのかわからなかったです。でも海外の音楽など音楽を聴いていて、英語など言葉がわからなくても鼻歌で真似したりするじゃないですか。それと一緒の感覚で、そうやって日本語を徐々に覚えていきました。

早見優 私はK-POPが好きで、ここ3年くらいずっと聴いてるけど、全然言葉は覚えられない(笑)。

Night Tempo 僕、そういうの得意なんです。駄目なことも多いんですけど、ものによってはコツを掴むことができて、大体ある程度までは習得できます。サラリーマンを10年以上やっていたので、受け入れて学ぶというのが自然でした。 例えば言葉だったら会話をして学んでいきますが、僕はプログラマーだったので、パソコンと会話をしてました。パソコンの言葉を理解するのと比べると、人の言葉の方が理解しやすいです。

――すごいですね! そのプログラマーとしての経験が音楽制作にも役に立っているんですか?

Night Tempo パソコンでできることは何でもできそう、といった根拠のない自信はありました。

――最初に音楽の制作を始めた時はどのような機材でやられていたのでしょうか。

Night Tempo パソコンのみでしたし、今もパソコンのみで制作しています。楽器は何も弾けないので、全部マウスで打ち込んでいきます。

――マウスのみだと時間かかりません?

Night Tempo もう慣れちゃいました。僕はコツコツやるのが好きで飽きずにやれます。日本の音楽もカセットテープ収集も飽きずにずっとやっていますから。逆に物事を好きになること自体がちょっと難しいんです。一度好きになったらずっと好きなんですけど、なぜこれをやらなければいけないのか? というのを考えてしまいます。でも、そこが解けてしまえばずっと好きになれます。

――カセットテープがお好きとのことですが、アナログレコードはまた違うんですか?

Night Tempo アナログレコードは大きいから場所を取るんですよね。僕はシンプルに小さいものが好きなんです。あと、カセットテープはプレーヤーだけしっかり管理していれば割と大丈夫なんですけど、レコードはホコリの問題もありますし、針圧調整の具合で音が変わってしまったり大変なので、カセットテープが好きというのもあります。

――「BEAT LOVER」はアナログとしてのシングル盤最後の作品だったようです。早見さん、アナログにはどんな印象ありますか?

早見優 私はレコードで育ったので、針を落とした時のプツプツという音が特に好きでしたね。ジャケットなど、1つのアート作品として、ディレクターさん、カメラマンさん、マネージャーさんたちとどんな作品にしようか考えるのがすごく楽しかったです。CDになってちょっとアートワークが小さくなってからは、表現できるものが決まっちゃうよね、という話をしていたのはなんとなく記憶にあります。

――ご自身の曲もアナログで聴かれたりも?

早見優 デビューしてからは忙しすぎて、レコードで聴くよりもカセットテープの方が多かったかもしれない。例えば仮歌が入ったデモはカセットテープだったので、移動中にポータブルプレーヤーで聴いて、レコーティングスタジオで歌うといった流れでした。そうそう、アナログと言えば、私の娘は今21歳なんですけど、アナログレコードが欲しいと言ってます。今回、7インチのアナログ盤でもリリースされるので、すごく喜んでました。

フューチャーファンクから派生したNight Tempoを定着させたい

――お2人はライブもやられてますが、今どんなやりがいを感じていますか?

早見優 今回のパンデミックで、私はファンの皆さんとずっと会えてなかったので、いま会いたくてしょうがないです。同じ空間で音楽を共有できる素晴らしさは、ライブに変わるものはなかなかないと思っています。いまライブはすごく楽しみにしていることの一つなんです。

早見優

Night Tempo 制作の方に興味があったので、実はそれほどライブに興味はありませんでした。自分が作った音楽を聴いてもらうためにDJをやっていて、アンダーグラウンドで2、3 年くらいやりましたが、 そろそろそういう活動もいいかな...と思っていました。ただ転機があって、日本の会社と契約して『フジロック』に初めて出演したんです。その時にこんなにもみんなが喜んでくれるんだと知って、自分がちゃんとお仕事がやれていることを、確認できる場所としてステージはいいなと思いました。なので、自分が高まる場所というよりは、検証をする場所として考えています。

早見優 去年の夏に初めてライブを拝見した時も、お客さんはみんな若い方なのに昭和の曲がかかるとすごく盛り上がっていて、私はその現象がとても面白かったです。

――音楽としての完成度が高いので、年代関係なく楽しめるんですよね。さて、『昭和グルーヴ』というプロジェクトも18作目。見えてきたものや発見したことはありますか。

Night Tempo ラフな音楽に対して、理解が深まってきたと少しずつ感じています。僕は日本の音楽を素材として使っているけど、最初はそのサウンドに慣れないという方も非常に多かったんです。日本の方は音をキレイする、とにかく声が前に出るようにすることが多いんです。フランスやドイツの音楽を聴くと、すごく音がダーティーなんですよね。ボーカルレコーディングもラフだったり。

早見優 ダーティーというのはどういう意味合いで?

Night Tempo 僕の感覚では、ボーカルの声が小さくなって、ビートがメインになったり、音をカッティングしてどんどん重ねたりすることです。僕は日本の方のために音楽を作るというよりは、僕の好きな日本の音楽を、僕が届けたい場所に届けたいと思ってるので、世界中で聴いてもらえたらと思いながら作っています。日本では、ここまで加工する必要があるのかという意見も多かったのですが、最近は聴いてくれる方が、当時とくらべると10倍くらい増えたと思いますし、やっと理解し合えてきたと感じています。

――Night Tempoさんはフューチャーファンクというジャンルでやられてると思いますが、このフューチャーファンクはどんな変化をしていきそうすか?

Night Tempo フューチャーファンクというのは、ジャンルというよりもシティポップというキーワードと同じような括り近いです。フューチャーファンクと言っても、ヒップホップっぽいものやヴェイパーウェイブっぽいものもあったり、そこからもっとビート感が強くなるとフューチャーファンクになるといったイメージです。僕は今後、渋谷系とかそのあたりの音楽も混ぜて、フューチャーファンクから派生したNight Tempoを定着させたいと考えています。

――ジャンルとしてNight Tempoを作るみたいな。

Night Tempo 音を聴いたら、Night Tempoだとわかるようにしたいです。

――早見さん、今後の音楽としての展望はありますか。

早見優 コロナ禍の3年間、ライブも延期や中止になっていたので、音楽をもっともっとやりたいなという気持ちはすごく強くなりました。「夏色のナンシー」は大好きで、代表曲として皆さんに認識していただいているのですが、新しいものにも挑戦していきたいです。作詞もしてみたいし、 曲はちょっと作れないと思うけど、歌も新しいものを発表していけたらと思っています。

Night Tempo 僕が曲を作りますよ!

早見優 えっ、作ってくれるの! では、お願いします(笑)。

――もしリクエストできるとしたら、早見さんがNight Tempoさんにリエディットしてほしい、ご自身の楽曲はありますか?

早見優 私はNight Tempoさんのリエディットを聴き始めた時と、今回の『昭和グルーヴ』では印象が変わってきているような気がしていて、よりオーガニックな感じがしています。そういう風に考えると何がいいかなあ? うーん、考えておきますね(笑)。でも、「夏色のナンシー」はリエディットをするのは難しいと思うんですよね。

Night Tempo 「夏色のナンシー」はそのままでいいと思います。

早見優 うん、前にもそんな話したよね。今回「BEAT LOVER」を聴いて、本当に素晴らしいリエディットをしていただいたなと思いました。もちろん、オリジナルのアレンジも大好きなんですけど、このテンポ感で生まれたグルーヴがすごくいいなと思って。ですので、私が20代の頃のNight Tempoさんが好きな後期の曲、例えば「GET UP」や「ハートは戻らない」をリエディットした物を聴いてみたいです。

(おわり)

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事