INTERVIEW

日下このみ

NMB48から振付師に転身「アイドルをやっていたから直感的にわかる」


記者:村上順一

写真:野木原晃一

掲載:22年09月22日

読了時間:約7分

 元NMB48の日下このみが、現在振り付けの指導などで活動の場を広げている。2011年にNMB48のオーディションに合格し、2012年に3期生としてお披露目し活動を開始。在籍時からラストアイドルの振り付けも担当した。2019年に卒業し、振付師としての才能を開花させ、ゼロイチファミリア所属アイドルの振付指導にあたっている。インタビューでは、「新しい自分の価値を作ってもらった」と話す日下に、アイドルから転身を遂げるまでの経緯から、指導者としての心得など、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

アイドルをやっていたから直感的にわかる

日下このみ(撮影=野木原晃一)

――日下さんは、寝るのがお好きだとお聞きしたのですか、最近は睡眠はしっかり取れていますか。

 バタバタしている時は、3日間連続3時間くらいしか睡眠を取れない時もあり、その時はもう泣きそうでした。NMB48時代もミュージック・ビデオの撮影の前日に楽曲が届いて、振りを考えなければいけない時は、徹夜してやっていたこともあったのですが、今の方がキツく感じることがあります。

 アイドル現役の時は「これをやって下さい」と言われた通り、スケジュールに合わせてやるだけだったのですが、今はフリーランスなので、自分で連絡をしたり、スケジュールを調整しなければいけないんです。その責任感と制作の締切に追い込まれるプレッシャーで、当時よりも今の方がハードに感じています。

――2019年にNMB48を卒業されて、2年間は引きこもっていたとのことですが、どんなことをされていたんですか。

 実際引きこもっていた期間は5カ月くらいでした。流石にこのままではダメだと思ったので、熱海の旅館でバイトしてました。ただ、色々模索中だったので、生きている感覚は正直あまりなかったんです。それまでがすごく忙しかったので、ギャップがありました。物理的にも引きこもっていましたけど、心が引きこもりのような感じでした。

――ダンスの指導をするようになったきっかけは?

 “48グループ”で活動している間に、私のことを知ってくださっていたスタッフさんからお話をいただきました。「こういうグループが振り付け師を探しているんですけど、どうですか?」みたいな。人と人との繋がり、ご縁があって今に至るので、フリーランスだからこそ、こういった繋がりは本当にありがたいです。

――指導するというのは昔から考えていたことですか。

 いえ、全然考えたことはなかったです。東京に来てから最初にお仕事させていただいたのが、ゼロイチファミリアさんのアイドルで、1曲振り付けをさせていただきました。その時に指導力をかってくださって、そこから他のグループもお願いしていただけるようになりました。新しい自分の価値を作っていただいたといいますか、自分ではそういうことができるとは思っていなかったんです。意識はしていなかったけど、おそらく現役時代に自然と学んでいたんだなと思いました。アイドルをやっていたから直感的にわかるみたいな感覚でした。例えばライブの時に「お客さんを見ないとダメだよ」という言葉一つとっても、説得力があると言っていただけて。

――それは日下さんも現役時代に言われたことがあったり?

 いえ、私は言われたことはなかったです。というのもそんなに序列が恵まれた場所ではなかったので、自分が試行錯誤して得たものを、今みんなに伝えています。

――そうなんですね。ちなみに日下さんから見て、今のアイドルは昔と比べると求められるものは違ったりしますか。

 グループのコンセプトにもよりますが、昔の方が個人戦で今の方が団体感がある印象です。なので1人ひとりの個性をしっかり出してあげないと、グループにいる「1人」で終わってしまうので、その子にしかない個性を引き出せるように意識しています。

――個性を伸ばすとなると、一人ひとりを観察することになりますが、大変ですよね?

 めちゃくちゃ観察します。ひとつ気をつけているのはあまりメンバーとの距離を縮め過ぎると、言わなきゃいけないことが言えなくなったり、見えなくなることもあるので、敢えて距離は取るようにしています。冷静な目線でみて伝えられるように距離感は大事にしています。

――日下さんが指導されている高嶺のなでしこが『TOKYO IDOL FESTIVAL 2022』でデビューしましたが、そのステージを見ていかがでした?

 オーディションから携わらせていただいているので、それは貴重な体験でした。それぞれが熱を持ってやっているので、レッスン中も集中力もあるし、未完成な瞬間は今しか見れないので、貴重な体験が出来たとステージを観て思いました。ここから上がって行く姿を見れると思うと、やりがいもありますし、見えることも沢山あるなと思いました。

――未完成の美学みたいなものもあって。

 特にアイドルにはあると思います。出来ていないからこそ応援したくなる。ダンスがすごく上手いから人気が出る、可愛いから一番になれるかと言ったらそういうわけでもないんです。それがアイドルの面白さなんじゃないかなと実感しています。私は過去に個性を見失いそうになったことがあったので、みんなには自分の個性を見失わないで欲しいなと思いました。

――日下さんが、個性を見失いそうになったのは、どんな時だったんですか。

 物事が上手くいき始めてからですね。メディアにちょっと出れるようになって来た時に、自分が思っていることと、周りから求められることにギャップがあって、どうしたらいいのかわからなくなってしまったんです。自分を信じることも大事だけど、言われたことをやるのも大事だなとか思ったり。それでわからなくなってしまい、けっこう悩みました。

――今、指導されているアイドルの方々は、日下さんに相談できるから心強いですね。

 でも、それも難しいところがあります。もちろん悩みを聞いてアドバイスをしてあげたいけど、その事務所さんやグループの方向性があるので、私の発言でややこしくしてしまうこともあるかもしれないんです。それは慎重にならなければいけないところなんだなと思いました。あとは、自分で頑張って考えた方が良いこともあって、何でもかんでも助言すればいいということでもなかったり。

いま追求していることは指導力

(C)#ババババンビ製作委員会

――バランスが難しいんですね。ダンスを指導するにあたって大切にしていることは?

 ただ振り付けを踊って、アイドルの型にハマるのではなくて、その楽曲をどう表現するか、どういう気持ちでその振り付けを動かして行くのかを大切にしています。それによってその子の良さが際立ったり、色が付いていくと思うので、その子らしさを大事にしています。決まった振り付けでも、表情と動き方で全然印象が変わってくるんです。

――物事には動機が必要ということもよくお聞きするのですが、日下さんもそこは意識されて。

 はい。特に物語性のある振り付けは、動機が重要になってきます。動機がないと見た時に薄くなってしまうんです。可愛い曲でもそれはあって、何となく可愛いからという理由だけでやってしまいがちなんですけど、ちゃんと意味を持ってやれるように伝えています。

――日下さんから見て、この子は伸びるなと思う人はどんな人ですか。

 負けず嫌いな子です。プライドが高いのではなくて、何か言われて「何くそ」と思える人は伸びる傾向にあると思います。そういった子は逆境に打ち勝てるんですよ。そこはめちゃくちゃ必要なところだと思います。

――日下さんもそういうタイプ?

(C)高嶺のなでしこ

 そうです。私はそれで上手くいきました。基本、それはダメ、それは良くない、それはしてほしくない、という意見に対して歯向かってきた人間なので(笑)。子どもだったからというのもあるんですけど、私は「こっちの方がいい!」と貫くことは大事でした。目をギラギラさせて、感情を出してくれる子の方が、「そのまま行けー」という気持ちになります。

――そんな日下さんが、いま追求されていることは?

 指導力ですね。色んな子がいるので、しっかり見て判断していきたいです。言葉の選び方や言い回しなど勉強して、探りつつ実践しています。

――どんな風に勉強されているんですか。

 心理学に詳しい方から教えていただいたりしています。人間は感情でキャッチするじゃないですか。こう言われて、こう思った、みたいなのが心に残ったりするので、それをなるべくプラスにできるように、会話力を鍛えています。

――最後に日下さんの活動の原動力は?

 私は「こうなりたい!」という理想が細かくあります。こういう風に思われる人間になりたいとか、こんな生活がしたいとか。それらがあることで、私は頑張れるので、自分の理想が原動力になっています。

(おわり)

ヘアメイク/小田愛永

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