INTERVIEW

奥平大兼

役者として向き合い続けた2年 変化の兆しがあった『マイスモールランド』


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:22年05月18日

読了時間:約6分

 映画賞で新人賞4冠を達成した映画『MOTEHR マザー』以降、話題作への出演が続く奥平大兼。まさに破竹の勢いと言えるが、この2年は役者として向き合い続けてきた大切な期間だった。なかでも考え方を大きく変えるきっかけとなったオーディションがあった。「したいお芝居を突っ走ってやってしまったんです。自分がやりたいようにやるというのはもちろん大事ですが、作品として見た場合に成り立たないというか、その時に最低限合わせることは必要だということに気付かされました」

 それから1年が経ち今年、日本テレビ系情報番組『ZIP!』内で放送された朝ドラマ『サヨウナラのその前に Fantastic 31 Days』で火曜日の主人公に抜擢。更に同局Zドラマ『卒業式に、神谷詩子がいない』でメイン出演した。特に高校生6人の青春群像劇『卒業式に、神谷詩子がいない』では5人の同世代と掛け合う、自身初の体験。「同世代が多くいるなかでお芝居するのはあまりなかった経験で、それぞれの人物像を把握しつつも大事にしたのは全体のバランスでした」

 豪華キャスト陣が揃ったドラマ『恋する母たち』や『ネメシス』など、先輩の胸を借りながら目の前の役に向き合ってきた時とは異なり、全体を捉え相手の芝居を受けて応じる総合力が求められてきている。それは奥平への期待度の高さと役者としての成長の証でもある。そして映画『マイスモールランド』は、転機とも言えるそのオーディション後の昨年5月に撮影したもので、役者としての変化の兆しが見られる。

 そもそも『マイスモールランド』は、『MOTEHR マザー』以来の映画だ。在留資格を失い、普通の高校生としての日常が奪われてしまった17歳の在日クルド人の主人公サーリャ(嵐莉菜)が、理不尽な社会と向き合いながら自分の居場所を探し成長していく物語。世界三大映画祭の一つ『第72回ベルリン国際映画祭』で日本作品として初めて「アムネスティ国際映画賞」から特別表彰を受けた。

 サーリャを演じる嵐莉菜は撮影当時17歳で本作が映画初出演。デビュー作『MOTEHR マザー』の時の自分を見るような感覚もあったはずだ。そして演じた聡太はサーリャが心を開く相手でもある。芝居を受ける身として奥平の存在は重要だったはずだ。自身は照れ隠しのように「強く意識することはなかった」と言うが、川和田恵真監督は完成披露舞台挨拶で「サーリャの複雑さを受け止める演技、サーリャの思いを聞く役割として、奥平さんが持っている素朴さやフラットさがすごく大事になると思いました」と信頼を寄せていたことを明かしている。

 また、聡太はサーリャを通してクルド人文化や現状を知っていく役どころ。リアリティを求めるため、川和田監督とも相談し事前にクルド人の現状などの情報は入れず、その時に知り感じたことを表現するように心がけた。「これまでも事前に演技プランは立てないように臨んできましたが、ここまで何も準備しないで臨んだのは初めてでした。不安もありましたが楽しかったです」

 そうして生まれたリアリティのある芝居。奥平自身はどのような思いで臨んだのか。ここからは一問一答。

奥平大兼

奥平大兼

リアルな芝居

――印象的だったシーンはありますか?

 思い出に残っているのは、橋の下でサーリャが想いを明かすシーンです。台本に沿ってのお芝居でしたので、莉菜さんはどう来るんだろうと。莉菜さんのお芝居、感情の度合いによって聡太の反応も変わってくるのですごく楽しみでした。

――相手がいるなかでお芝居ですが、どう心掛けましたか?

 台本は読んで目を通しますが、相手のセリフは覚えないようにしました。僕が言った何個か先に僕のセリフがあるという感覚で覚えていて、そのシーンが来るまで相手がどういうセリフを言うのか分からない状態で臨むようにしました。そうすることでこういう事を相手が言ったから僕がこういうセリフを言うんだということをリアルに知れるんです。相手のセリフを覚えていないからこそ相手の話をよく聞こうとしますし、返すセリフもちゃんと思いが乗った言葉として伝えることができると思うんです。

――表情とかもそういうことなんですか。

 特別イメージはしていないです。というよりもあまり覚えていなくて。

――作り込んでいないですからね。でも役者としての力量が問われますね。

 なので先輩の方々はすごいと思います。みんながこういうやり方をしているとは思わないんですけど、自分なりのやり方を見つけてやっているわけですから。僕は「これが完璧なやり方か」と言われたらまだ分からないので、そういうのを見つけている方はすごいなと思います。

奥平大兼

奥平大兼

嵐莉菜の芝居に説得力

――これまでの作品の多くは周りに先輩達がいましたが、今回は奥平さんが先輩という立場ですが、その辺はどうでしたか。

 全然考えていなかったです。僕はまだ2年も経っていなかったですし、先輩と言えるような立場ではなくて。ただ莉菜さんは今回初めてでしたし、ほんの少し先輩の身として助けたいという思いはありました。でも莉菜さんが演技がすごく上手だったのでびっくりしました。僕のデビュー時は、何も考えていないでやっていたので、それに比べて莉菜さんはちゃんと考えて全体を見てやっていました。

――嵐さん自身、役柄がご自身と重なる部分もあったというお話をされていたので、リアルなお芝居をされていたと思うんです。それを受ける側としてどうでしたか?

 莉菜さんが役に入り込むとおっしゃっていたのですごいなと思いました。みんなお芝居のやり方が違うので、自分が劣っているとかそういうことではなく、僕はお芝居に入り込むという感覚がなくて。今振り返ってみて、莉菜さんのあのシーンは入り込んでいたんだと思うと、やっぱり説得力を感じますし、悲しいシーンであればあるほど、聡太に与える影響も大きくて。それを一番最初からできていたのはすごいと思いますし、素直に尊敬しています。

聡太を演じる奥平大兼(C)2022「マイスモールランド」製作委員会

大事な作品に

――『卒業式に、神谷詩子がいない』のインタビューで「全体のバランスを考えた」というお話されていて、あるオーディションで「自分だけの芝居をやっていたらダメだ」と気付いたとも話されていました。

 そのオーディション自体は、『マイスモールランド』よりも前に開催されたものでした。そのオーディションで、一緒にお芝居する人との温度差や会話のテンポを意識しないといけないということに気付けました。『マイスモールランド』はほぼ莉菜さんとの掛け合いだったのでそこまで意識はしていませんでしたが、もしかしたら潜在的に影響されていたかもしれないです。

――『MOTEHR マザー』の時は分からないまま演じていたところもあったと思いますが、今こうして振り返ってみてどうですか。

 逆に『マイスモールランド』ではすごく考えすぎてしまいました。先ほどの話にもありましたが、そのオーディション以降、お芝居について深く考えていて悩むこともありました。その前に『ネメシス』などのドラマが続いていて、2年ぶりの映画となった時にどうすればいいのか分からなくて、変に考え過ぎてしまったんです。一番最初は『MOTEHR マザー』と全く真逆のことをしていました。でも途中からこれではだめだと思い、いい意味で何も考えないようにしてやりました。

――ということは先ほどの相手のセリフも覚えないようにしたというのもそこからですか?

 そうです。なので自分自身にとっても大事な作品になりました。

――その大事な作品が、「アムネスティ国際映画賞」特別表彰を受けたのはどう思いますか?

 すごく嬉しかったです! 一人でも多くの方に見て頂きたい映画ですので、この評価をきっかけに知ってもらえるのはすごく良い機会だと思いました! 本当に感謝しています。

(おわり)

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