INTERVIEW

黒木瞳

「笑顔」が原動力。4年ぶり監督作
十二単衣を着た悪魔


記者:鴇田 崇

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掲載:20年11月05日

読了時間:約8分

 女優の黒木瞳が『嫌な女』(16)以来4年ぶりに監督した、映画『十二単衣を着た悪魔』が11月6日(金)に公開となる。フリーターで自信を失っているネガティブ男子の主人公が、突如「源氏物語」の世界の中へタイムスリップ。平安時代で美しい弘徽殿女御に出会い、次第に変わっていく姿を描く異世界トリップエンターテインメントとなっている。脚本家・小説家の内館牧子の原作を2012年の初版時から愛読していた黒木監督は、原作へリスペクトを捧げながらも独自の視点も丁寧に入れ込み、長年の映画化への思いを見事に実現している。

 平安時代の優美なセットや煌びやかな十二単衣など、映画的スケールで展開するめくるめく映像美も見ものだが、音楽・山下康介、雅楽監修に東儀秀樹、そして主題歌にはOKAMOTO’Sが「History」を書き下ろすなど、音楽面でのこだわりも見逃せない本作。「History」の収録スタジオにまで足を運ぶほどの情熱で作り上げた映画『十二単衣を着た悪魔』について、そして思い出の一曲として、映画監督デビュー作当時の竹内まりやとのエピソードについて、黒木監督に話を聞いた。【取材=鴇田崇】

4年ぶりの監督、手を挙げた理由

――今回は4年ぶりに監督されたということで、どういう想いで『十二単衣を着た悪魔』を撮ろうと思いましたか?

 内館牧子さんの「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」を刊行当初に読み、とても面白くて感動したんです。その感動は常に胸にありつつ、すぐ映画化に向けて動いてはいなかったのですが、1本目の『嫌な女』を撮った後、この作品を観てくださったネスレさんのご依頼でショートムービーを一本撮り、その時になんとなく自分の好きな作品を映画にしてお客さまに観ていただけるということがわたしにもできるんだって、ほのかな希望みたいなものが芽生えたんですね。そういう時に今回のお話が出てきたので、監督をやらせていただけないかと申し出をしました。

――映画化にあたり、内館牧子さんのリクエストはありましたか?

 内館さんは、「よくあんなに難しい原作をアナタ映画にしようと思ったわね」とおっしゃっていました(笑)。実は『終わった人』という内館さんの作品に出演させていただいた時にもお会いしていて、わたしの映像化したいという気持ちをご存じだったとは思うのですが。

――原作ではどこに一番惹かれたのですか?

 弘徽殿(こきでん)のセリフには、女性として個々の琴線にふれる言葉がたくさんありました。雷(らい)が現代に戻った後、平安時代の言葉のままで。それは映画では短いのですが、原作では戻った後も長く描かれているので、そこがツボでした。忘れもしない最初は車の中で読んでいて、雷が平安時代にどっぷりハマッていることが可笑しくて可笑しくて、車の中なので笑いたくても笑えないからお腹が苦しくて(笑)。だから実際に映画化の際は、その可笑しさのニュアンスを、ちょっとでも残せたらと思っていました。もちろん雷の成長物語であり、弘徽殿の凛とした女性像というものにも共感しましたので、楽しみ方はたくさんあると思いました。

――弘徽殿はすごく魅力的な女性ですよね。現代で言うと、たとえば前にどんどん出ていく起業家の女性たちも魅力ですが、監督は弘徽殿のどこに魅力を感じましたか?

 ラジオの番組で現代のさまざまな女性の起業家の方たちとお会いするのですが、みなさんものすごくチャレンジヤーなんですよね。勝気だし、失うものは何もないというスタンスで成功なさっているので、たしかに、魅力的な生き方の方々は、たくさんいらっしゃいます。弘徽殿女御は、帝の第一夫人という立場もあり、息子を帝にしたという野心と志があります。弘徽殿は、母としての子どもへの愛、帝とは対立はできないので精一杯の闘志みたいなもの、そういう想いがあるのでしょう。

 負けて得を取るではないですが、そういう女性の起業家の方も、弘徽殿にもとても共感できるし、そういう女性でありたいなと自分でも思います。

――弘徽殿女御役の三吉彩花さんには、どのように演技指導されたのですか?

 クランクインする前からマンツーマンでお芝居を一緒に作りました。わたしがイメージする弘徽殿女御像がありましたので、セリフの言い方、言い回し、わたしが女優として培ってきたノウハウみたいなもの、そういういろいろなものを踏まえて準備しました。始まってからもお芝居の稽古をしていたのですが、撮影をして数日経ってみたら、ご自身の弘徽殿を持って突き破っていったという感じで、すごく頼もしかった。いい弘徽殿女御になったと思います。うれしいですし、わたし自身も彼女のセリフに諭されてうなずいています(笑)。

ロックしか頭になかった

黒木瞳

――また、主題歌がOKAMOTO’Sの「History」ということで、ロックでいこうと決めていたそうですが、それはなぜですか?

 どうしてなんでしょう(笑)。理由はないと言いますか、ロックしか頭になかったんですよね。弘徽殿にクラシックは合わない、雅楽でもない。何かなと思った時に、命を賭けたロック! みたいな、ほとばしる血潮みたいなイメージでしたね。彼女が登場するシーンは絶対ロックでいこうと思っていました。ひらめきですね。

――スタジオにも行かれたそうですね。

 OKAMOTO’Sさんの楽曲でいくことになって、ショウさんにつないだ映像を観ていただいたら、「History」という曲を書いてくださったので、それを演奏する日にスタジオにおじゃましました。いろいろな人たちの歴史がつまっている内容で、イメージそのままでしたね。

――何かリクエストはしましたか?

 「BROTHER」という曲があって“ライライライ”って言うのですが、それはもう雷ちゃんの曲ですよね(笑)。どこかでライライ言ってほしいなあとはリクエストはしました。そうしたら入れてくれました(笑)。

 主題歌はすごく大事なものなので、ロックというオーダーを既成のものではなく、書き下ろしでOKAMOTO’Sさんが作ってくださったので、すごくうれしいです。

――ちなみに聴くと元気が出る音楽や、思い出の一曲などはありますか?

 一本目の映画『嫌な女』を撮った時に竹内まりやさんの「いのちの歌」が主題歌だったのですが、それは自分の映画に使わせていただきたいと、まりやさんに直談判したんです。その時は初めての映画の監督でしたので、めげそうになったり、家に帰れば自分の不出来に毎日泣いたりしていたので、毎日「いのちの歌」を聞きました。お父さん、お母さんに感謝する歌ですし、まりやさん自身も昨年40周年を迎えられて、やっと自分も「いのちの歌」で父や母にありがとうが言えたと去年おっしゃっていたんです。そういう意味でも「いのちの歌」は、私にとっての最高の一曲です。

――普段の仕事に加えて監督業も始まると、私生活にも影響が出そうですが、時間の使い方などに変化はありましたか?

 演じている時は別人になっているのですが、人の集中力ってそうそう持たないので、切り替えが必要だと思うんです。だから家に戻ったら、役のことは一切考えない。セリフを覚えたり準備をすることは別ですが、なるべく切り替えて自分に戻るようにして、撮影現場でまた集中してボルテージを上げていく。

 監督の時の場合は反対に、起きている時間ずっと考えています。そうでないと間に合わないから。期間中は、そのことしか考えていないですね。もう台本と一緒に寝ているような、寝ても冷めても作品ことしか考えていないので、一番大きな違いはゲームができないこと(笑)。普段はゲームをしてリフレッシュするのですが、監督の時は一切できないですね。ゲームができるかできないか、時間の使い方の一番の違いはそこですね(笑)。

――インスタグラムも好評と聞いていますが、多忙ななかで美を保っていける秘訣は何でしょうか?

 それは、日頃から特別なことはしていなくて、先日も一年ぶりにエステに行ったくらいです。でも「何もやってないんです」と言うと、みなさんウソだっておっしゃるけれど、そうじゃないんですよ(笑)。でも、この作品の中にもあるように、若い人には負ければいいと。いつまでもその立場には立っていられない。時代っていうものは動いていく。老いは誰にでも来るから負けていいのというセリフを弘徽殿女御が言いますが、わたしもそう思うんです。だから、こういう年齢になって若作りをしたり、若い人と競い合ったりすると、はたから見ていると痛い時があると思うんです。でもちゃんと自分の立場や状況を受け入れて、年齢と向き合うことが素敵なんです、と内館さんは書いているわけです。だから、すごく勇気が出るんです。自分も本当に、そうでありたいと。だからあえて言うのであれば、自分もそうでありたいという意識、ということになるでしょうか。

原動力はお客様の笑顔

――今回、改めて監督業をしてみていかがでしたか?

 反省点は多々ありますし、もっとできたかなという思いもあります。ただ、あの時の自分にしかできない感性で撮っていたので、その時にできることを全身全霊でやらせていただきました。

 向いている向いていないという話で言うと、1回目を撮った時に「編集したのですか?」「音楽はどなたが入れましたか?」と、いろいろなことを質問されて、「いやいや全部自分でやりました」とお答えしたことがありましたが、すべての過程をやらせていただいて分かったことは、クリエイティブな作業は意外と自分の性に合っているなと思いました。そういう意味では、好きか嫌いかで言うと、好きです(笑)。

――その原動力はどこから?

 もともと長くエンターテインメントの世界におりますので、お客様が笑顔になってくださるというこが、最初の原動力でした。それは一貫して変わってないと思いますね。

――女優、監督などのほか、最近では『インクレディブル・ファミリー』再びイラスティガールを声優を務めるなど、幅広く仕事をされていますが、今後新たにやりたいことはありますか?

 イラスティガールは気合いを入れてやっています(笑)。趣味としてはタップはずっと続けていて、子どもたちに教えたりもしているんです。何というわけではないのですが、人のお役に立てるようなことはしていたいと思っています。

――早くも次の作品を観たいとも思いますが、いかがですか?

 そういう野心があるということではないのですが、ご縁を一番大事にしているところでコロナの時代になり、自分の人生はどうなっていくのだろうかなど、いろいろなことを考えますよね。世の中どうなっていくのだろうかとか。映画を撮ることは大変なのですが、またもしご縁がうまれたら、あの苦労を味わってみたいと思う時があります。性に合っているんでしょうね(笑)。

タイトル:『十二単衣を着た悪魔』
公開表記:11月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開
(C) 2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー
制作・配給:キノフィルムズ

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