東山奈央「今までの出会いに感謝」様々な出会いが生み出した音楽の結晶
INTERVIEW

東山奈央


記者:榑林史章

撮影:

掲載:20年08月05日

読了時間:約10分

 声優・歌手の東山奈央が8月5日、キャラクターソングベストアルバム『Special Thanks!』をリリース。声優デビュー10周年を記念した作品で、これまで彼女が歌ってきたキャラクターソング約250曲から厳選して選曲し、Rhodanthe*やワルキューレのユニット曲をソロで歌った新録を含む全25曲を収録。アニバーサリースペシャル盤には、「春擬き」など彼女が出演したアニメの主題歌カバーも収録され、記念碑的な作品となった。感謝の気持ちを込めたと話す今作について、レコーディングのエピソードや楽曲への想いを聞いた。【取材=榑林史章】

今までの出会いやお世話になった方々へのお礼

『Special Thanks!』アニバーサリースペシャル盤

――『Special Thanks!』というタイトルには、どんな気持ちを込めましたか?

 普通に生活しているだけだったら10年ってなんとなく通り過ぎてしまう年月だと思うのですが、こういうお仕事をさせていただいている中で、今までの出会いやお世話になった方々への、お礼を言わせていただくチャンスをいただけたと思っています。改まって「ありがとうございます」と言える機会はなかなかないですから。なので感謝の気持ちを込めさせていただきました。

――リリースが発表された時は、どんな反響がありましたか?

 Twitterなどで収録曲が解禁になった時は、ご無沙汰していた作詞家さんや作曲家さんがコメントをくださって。レコーディング当時の思い出も沿えてツイートしてくださった方もいらして、それを読んで「そんなこともあったな~。懐かしいな~」と、忘れていた思い出を呼び覚まさせていただいたり、私のことを覚えていてくださったんだなって嬉しくなったり…。

 こういう作品って、何年やればとか何周年を迎えれば必ず出せるというものでもないと思うので、一緒に作ってくださったスタッフさんや、レーベルの垣根を越えて協力してくださった関係者のみなさんに、この場をお借りしてお礼を言いたいですね。

――単にキャラクターソングを収録するだけでなく、ユニット曲をソロで新録したものも収録していて、まさしくスペシャルです。当時5人で歌ったものをソロで歌うのは、単純に大変そうだなと思いました。

 セルフカバーで新録、ということを誰かがやっているのを客観的にみていたときは、そこまで大変なことだとは思っていなかったんです。「当時より確実にスキルアップしているわけだから、伸び伸びやればいいだけじゃん!」と思っていて。でも実際に自分のこととなると、やっぱり大変でした(笑)。

 過去を踏襲すべき部分と自分がスキルアップした部分を、良い感じでバランス取って出さなければいけなくて、これはけっこう難しいなと。バランスが崩れると「キャラじゃない」と思われたり、踏襲し過ぎると「前と変わってない」と言われてしまうと思ったし。でも、どうアプローチしても過去と違うものになるだろうとは思いましたし、それを求められている部分もあるだろうと思って。あまりこねくり回さず考え過ぎないようにして、今のベストを尽くして歌えば良いものになるに違いないと思って臨みました。

――『きんいろモザイク』のユニット=Rhodanthe*の「Jumping!!」は、7年前の曲になるわけですが、東山さんが演じた当時の九条カレンの声をイメージしたのですか?

 カレンとはずっと同じ月日を過ごしてきてはいますが、当時のカレンの声を必死に真似するようなことはしませんでした。改めて当時の声を聴き直してみると、声が若い…というか細くて。あれから様々な経験をした今の私の声帯だと、もうちょっと鍛えられて太い声になっているんですよね。「このように成長しました」ということなんです。今の私のカレンはこうで、カレンと一緒に成長した私はこうみたいな。あまり影を追い過ぎることはしませんでした。

――成長が感じられることは、セルフカバーを聴く上での醍醐味でもあると思います。

 そう思ってもらえたら嬉しいです。『きんいろモザイク』と『マクロスΔ』のセルフカバーは、当時のディレクターさんに陣頭指揮を執っていただいて。作品のこともキャラクターのことも、過去の私のことも分かってくださっている方が録ってくださったので、ディレクションも面白かったです。例えば『きんモザ』は、「カレンが久世橋先生をおちょくっている感じで歌ってほしい」というディレクションがあって、当時担当されていたディレクターさんでなければ、そういう形でニュアンスを引き出すことはできなかったと思いますね。わざわざこのために動いてくださったことも、ありがたかったです。

――聴き比べてもらっても面白いですね。

 どちらのバージョンにもいいところがありますし、きっと色々な違いを感じていただけると思います。

ひとことでは言い尽くせない気持ち

――『マクロスΔ』のユニット=ワルキューレの「一度だけの恋なら」も、聴き応えがありました。

 「一度だけの恋なら」はすごくパワー型の曲で、美雲ΔJUNNAちゃんがガツンと歌い上げているものを、レイナΔ東山奈央のウィスパーボイスで歌ったら、肩すかしみたいになってしまうんじゃないかと思って、最初は少し日和って「別の曲にしませんか?」と言ってたんです。でも実際に歌ってみたら、美雲とレイナってお互いにクールな部分を持っているので、そういった意味でこの楽曲のクールさというのは、レイナにとっても親和性が高いのではと気づいて。それで自信を持ってレコーディングに臨むことができました。レイナの「一度だけの恋なら」は、ちょっと色っぽさもある感じと言うか、耳元で語りかけるような感じがあるんじゃないかなと思います。

――そもそもワルキューレの曲は、歌うのが難しいですよね?

 すごく難しかった。ワルキューレの曲はどれも難度が高い上に、「一度だけの恋なら」では、私はずっとハモっていてあまり主旋律を歌っていなかったんです。だからセルフカバーと言いながらも、新曲くらいの気持ちでした。レイナのウィスパーっぽい歌い方はハモリだからこそ成立する歌い方で、それをフルコーラスで歌い続けたら酸欠になるんだなって分かりました(笑)。

――セリフっぽく歌うところもあって、そこは今回のセルフカバーならではの魅力ですね。

 そこは、『マクロスΔ』のディレクターさんのアイデアで、「さすがヒットソング・メイカーだ!」と思いましたね。

――アニバーサリースペシャル盤の特典には、東山さんが出演された作品の主題歌のカバーを3曲新録で収録していて、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』のオープニングテーマ「春擬き」をカバーされています。シリーズ最新作となる『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』の放送も始まりましたが、長く携わっている作品が完結を迎えるのは寂しいですよね。

 まだ、あまり実感が湧いていないですね。でも2期である『続』の時に「原作が完結する時は、アニメもラストまで描けたら良いね」って話をして、現場の士気も高かったんですよね。その時から、いつか最後がくることは分かっていたので、3期となる『完』のお話をいただいた時は「ついにこの時がきた!」みたいな気持ちでした。だから、唐突に終わりを迎えた形ではなくて。

――心の準備はできていたと。

 はい。けっこうできていました。でも大変なんですよ、由比ヶ浜結衣を演じるのって。すごく考えなきゃいけなかったりするので、また結衣たちに会えるのはうれしかったですけど、「また大変な日々が始まるな」と、そっちの覚悟も決めて立ち上がる感じでした。全アフレコが終わった時は、寂しさもあれば「終わった~」みたいなホッとした気持ちもあって、なかなかひとことでは言い尽くせない気持ちでしたね。

 それに『俺ガイル。』シリーズって、実は私の中では一番長く関わらせていただいている作品でもあって、アニメで8年、ドラマCDから数えるともっと前からになるんです。そういう自分の中で特別な作品であることも踏まえて、1曲カバーさせていただきたいと思いました。

――2期のオープニングテーマ「春擬き」を選んだのはどうしてですか?

 単純に「春擬き」という曲が好きだというのもありますし…。結衣を演じていて、1期はコミカルで楽しい作品だという印象だったんですけど、2期からは複雑な人間関係が描かれるようになって、「『俺ガイル。』って実は胸にクるものがあって、楽しいだけの作品じゃないんだ」と気づいたことで、2期が特に印象深かったからというのもあります。

ただのベストアルバムではない豪華な1作

『Special Thanks!』通常盤

――『たまゆら~卒業写真~』主題歌で、坂本真綾さんが歌った「これから」も収録しています。

 『たまゆら』という作品には、私自身も出演させていただいていたんですけど、私はキャラソンを歌ってなくて。でも『たまゆら』からはすごくいろいろな感情をいただいて、いろんな涙を流した作品でもあるんです。『たまゆら』とのご縁を、このアルバムの中に形として残せないかなと思ったのと、「これから」という楽曲がすごく好きだったので、「歌わせていただけないでしょうか」とオファーをさせていただきました。坂本さんご自身も好きな曲として挙げていらして、坂本さんにとっても大切な曲だったと思うので、OKをいただけるのか不安だったんですけど…。こころよくOKをいただけて、嬉しかったです。

――いろんな涙というのは、感動の涙とかですよね。

 そうです。「すごく大変だった」という涙ではなくて(笑)。懐かしい気持ちであふれる涙や、ありがとうやうれしい時の涙、寂しい涙など、いろんな感情が入り交じった涙をたくさん流させていただきました。

 物語の舞台が広島県の竹原市というところなんですけど、竹原に行くと「おかえりなさい」という文字が出迎えてくれるんです。私のふるさとというわけではないけれど、あたたかい気持ちになって、何て言う涙なのか名前はよく分からないけど泣けてきちゃうみたいな。そんな素晴らしい感情をいっぱいもらいました。

――「これから」という曲のエピソードはありますか?

 イントロを聴いただけで泣けてきちゃう曲で、レコーディングの時も気を緩めたら泣いてしまうんじゃないかというくらい、ずっとエモーショナルな気持ちで歌わせていただきました。後日、坂本真綾さんとお会いする機会があったのですが、坂本さんから「歌ってくれてありがとうね」と声をかけてくださって、とても胸がいっぱいになりました。

――そして、『ゆるキャン△』の主題歌で、亜咲花さんが歌った「SHINY DAYS」もカバーしています。

 『ゆるキャン△』は、そもそもキャラクターソングが存在しない作品なんですけど、『へやキャン△』もあったりして、ここ数年いろんな方が楽しんでくださって、とても大きな存在感を放つ作品でもあったので。「SHINY DAYS」は聴いていると身体が勝手に動いてしまうくらい楽しい曲で、自分も歌いたいと思っていたんです。

――踊ったことはあったんですよね。

 亜咲花ちゃんが歌う後ろで、キャストがバックダンサーを務めるのが、イベントではお馴染みの光景になっていて(笑)。振り付けは私が勝手に考えたんですけど、キャストみんなだけでなく、ご本人である亜咲花ちゃんも一緒に踊ってくれるんです。楽しい思い出がいっぱいありますね。

――亜咲花さんの原曲は、ポップなソウルミュージックという感じで。

 亜咲花ちゃんが歌うと、すごくソウルで洋楽っぽい雰囲気になるんですけど、私が歌う「SHINY DAYS」は、それとは別の方向性を目指してみました。『ゆるキャン△』の劇伴作家の立山秋航さんがアレンジをしてくださっていて、めちゃめちゃキャンプっぽい音になりました。劇伴でも使われていた北欧の楽器をいっぱい使ってくださって、本当に今からキャンプを始めたくなるようなサウンドです。私らしく軽やかに歌わせていただきました!

――今作には他にも朗読CDやスペシャルブックも付くなど、本当に豪華な作品になりましたね。

 ただのベストアルバムではない、「すごいものができた!」と思っています。選曲もそうですけど、カバーだったり朗読CDが付いているとか、イラストレーターさんにお祝いイラストを描いていただけたことなど、全部を含めて本当に豪華な1作ができあがりました。ぜひたくさんの方に楽しんで欲しいです。

――そして12月には、『10th アニバーサリーライブ「Special Thanks!フェスティバル」』を開催されますね。

 歌うのは私ひとりですが、いろんなキャラクターを代わる代わるステージに招きまして、フェスの形式でお送りしたいと思っています。こういうキャラソンだけのライブって、きっと一生に一度やるかどうかかくらいだと思うんですけど…。私も一生に一度の機会だと思って臨みたいと思っております。一緒にこのお祭りを楽しみましょう!

(おわり)

作品情報

東山奈央
8月5日発売
キャラクターソングベストアルバム
『Special Thanks!』
アニバーサリースペシャル盤(3CD+スペシャルブック+スペシャルボックス) VTZL-177 5000円+税
通常盤(2CD)
VTCL-60535~60536 3000円+税

<CD収録内容>
「わたしいろダリア」(『きんいろモザイク』)
「進め!金剛型四姉妹」(『艦隊これくしょん -艦これ-』)
「Silent Hacker」(『マクロスΔ』)
「ユメトユメ」(『魔法少女育成計画』)
「ハッピークレセント」(『神のみぞ知るセカイ』)
「Heart Pattern」(『ニセコイ』)
などCD2枚に全25曲を収録

<アニバーサリースペシャル盤特典CD収録内容>
「春擬き」(『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』)
「これから」(『たまゆら~卒業写真~』)
「SHINY DAYS」(『ゆるキャン△』)
朗読劇「夢の軌跡」(水島誠二監督演出)

公演情報

『10th アニバーサリーライブ「Special Thanks!フェスティバル」』
12月5日 東京ガーデンシアター
12月6日 東京ガーデンシアター

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