東山奈央「水をやることを楽しみたい」結果という花を咲かせる為のこだわり
INTERVIEW

東山奈央「水をやることを楽しみたい」結果という花を咲かせる為のこだわり


記者:榑林史章

撮影:

掲載:20年02月05日

読了時間:約12分

 声優で歌手の東山奈央が2月5日、声優デビュー10周年記念企画の第一弾として4thシングル「歩いていこう!」をリリース。同曲は本人も桜井美景役で出演するTVアニメ『恋する小惑星』のOPテーマで、シングルには他にも多彩なカップリング曲を収録し、これまでの声優としてのキャリアを活かした歌い方ではなく、「引き算の歌い方」をしたと話す。歌手としての今後を期待させる、ひと回り成長した歌声が印象に残るシングルとなった。これまでの活動を振り返ってもらいつつ、新たな可能性を感じさせる今作について話を聞いた。【取材=榑林史章】

我を出し過ぎない引き算の歌い方

「歩いていこう!」通常盤

――声優デビュー10周年記念企画の第一弾ということになりますが、どんな曲になりましたか?

 とても前向きな優しい歌詞で、新たなスタートを切ろうとしている人に寄り添える曲になったと思います。

――「歩いていこう!」はシンガーソングライターの川嶋あいさんの作詞作曲で、川嶋さんはTVアニメ『月がきれい』のテーマソングとして東山さんが歌った「イマココ」と「月がきれい」の作詞作曲も担当されていましたね。

 川嶋さんが書かれる歌詞はどんな人にも響く、普遍性があります。なので今回の曲も、どんな環境でどんな気持ちでどんなタイミングで聴いても、自分にしっくりくる歌詞が必ずどこかに散りばめられています。だからこそ最初に歌詞を読んだ時は、どういう風にアプローチをすれば良いか悩みました。向かう先の振り幅が広いので、あまり自分で答えを導き出し過ぎると、聴いてくださる方の捉え方が制限されてしまう感じがしたので、自分の表現をあまり色濃く付けるよりもプレーンな感じで、みなさんのフィルターで曲を受け取ってもらうほうが良いと思って歌いました。

 ともすれば歌い方が素朴になりすぎて、聴き劣りしてもいけないので、伝えるべきところは伝えるという感じで、とても試行錯誤しました。今回のシングルは「歩いていこう!」に限らず、どの曲も味が濃すぎないと言うか、引き算の歌い方をした曲が多いです。我を出し過ぎず、言葉を立て過ぎないと言うか。

――大人の一歩引いた表現という感じですね。

 そうかもしれません。今までは、極端なことを言えば「どれだけ盛れるか」みたいな感覚だったと思います。この例えが的確かどうか分かりませんけど、今までは写真加工アプリで肌つやを輝かせて明るさを調整して、いかにきれいに見せるかというアプローチでした。特徴を際立たせて、良いところをどんどんプッシュするみたいな考えです。それが今回は、何でもないカメラで加工しなくても良いように、美しく撮れるように心がけたという感じです。でも決して前者が悪いわけではなくて、きっと前者は、声優としてキャラクターの色を付ける作業をしてきたことを、ソロの音楽活動に活かしたものだったと思うんです。今回は、それとはまたちょっと違ったアプローチを見つけたという感じですね。

――ソロ歌手として活動して来て、東山さん自身の声や歌い方が明確になって、そこに自信が持てるようになったんでしょうね。

 はい。今までも、アルバムのような聴き応えのあるシングルを作りたいと思ってきて。そうすると楽曲はいろんな方向性になるので、自分が表現できるのかどうかは一端置いておいて、曲をどこまで極端に振り切れるかということを考えてきました。だから歌い方や声色で、曲の特徴を強く出していけるように、自分自身の等身大の声や表現の枠組みから、ちょっとはみ出したくらいのところで歌っていたところがあって。今回はそうではなく、全部私の中心のほうで歌っているシングルという感覚です。

――2曲目の「Last season」からも、それは感じられますね。良い意味で、すごく力が抜けていて。

 抜き方も考えだすと色々あって。例えば力が抜けているけどクセもあって耳に残るような、いわゆるアンニュイな感じもあると思います。ですが今回は、本当にスッと脱力するようにリラックスして歌うのが良いなと思って、輪郭をぼやかしていくような感じで歌いました。

――ウィスパーっぽい感じもあって。今までの東山さんの歌声にはなかった感じだったので、とても新鮮に聴くことが出来ました。それに明確にどの季節を歌っているというわけではない、その曖昧な感じが、曲のふんわりとした感じとも合っていて。

 例えば歌詞に<真夏の空のようで 真冬の雪のようで>と出てきて、「どっちやねん!」って思うじゃないですか(笑)。そういう良い意味での主張の曖昧さが、この曲の良さなんじゃないかと思っています。掴み所がなくて、心に空虚感を感じさせて、この主人公は幸せなのかどうか分からないんですよね。歩き出しているようにも思うし、過去に思いを馳せてまだ立ち止まっているような感じもあるし。夢に一度敗れている感があって。でも私はあえて答えを出さずに歌って、そこは聴き手に委ねながら、決して無責任な曲にはならないように気をつけました。

――ライブで歌ったら、どんな感じになるんでしょうね。

 没入感がすごいと思います。エアリーな感じに包み込まれると言うか。淡い光に溶け込んでいくような感じかなって。それは、ボーカルを二重にしているからというのもあると思っていて、そういう録り方も今回初めてやらせていただきました。

――2回歌って、それを1つに重ねるやり方。いわゆるダブルというやつですね。

 ダブルです。最初はその予定ではなかったんですけど、途中でふと「全部二重に重ねたらもっと雰囲気が出て良くなると思うんですよね」と提案したんですね。ディレクターさんからは「さすがに全部はくどくなるんじゃない?」って言われたんですけど、「でも試しにやってみましょうよ」と言って、やってみたらディレクターさんも「良いね!」と言ってくれて。こういうその場のアイデアで、楽曲が出来上がっていくのは楽しいですよね。

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