何が言いたいのかわからない
――どこか過去の自分を引き継ぎながらも「前に進んでいくんだ」という気概を感じさせてくれるイントロだなと思いました。さて、今作のリード曲にもなっている「東京タワー」は追い詰められた中で出来た曲とのことですが、何があったんですか。
曲作りが上手くいかなくて。曲は出来るんですけど、カワムラさんをはじめ第三者の人に伝わらない言葉が詰まってしまっていたのか、どの曲も届かない状態が続いていました。自分の中にも焦りが出てきて、全てが上手く行かなくなって…。曲を書いても書いても全然ダメで。
――ご自身では納得されていた曲だったんですか。
自分では納得できていた曲だったんです。なので、それが届かない、何が言いたいのかわからないと言われてしまって…。いつもは歌詞を受け止めてもらえて、そんなことなかったんですけど。9月頃だったと思うんですけど、「ダメだ」と言われた打ち合わせの後に、無意識に車で東京タワーに向かっていました。世の中にはLEDの真っ白な明かりが多いなかで、東京タワーは朱色で車に乗っていても、何回見ても「わあ~」となるんです。
――東京タワーって不思議な魅力がありますよね。サビの表現力が凄まじいなと思ったのですが、レコーディングはどのような気持ちで臨んだのでしょうか。
あまり入り込みすぎると感情がブワッとなってしまって、別のものが伝わってしまうんです。でも、エンジニアさんも含めて目指すべきところがみんな見えていたので、気持ちよく歌えました。
――そうだったんですね…。でも、無事に曲のOKが出て良かったですね。
「東京タワー」は、もうどうしようもない気持ちを、そのまま書いたのが良かったのかなと思います。提出したとき、この曲に自信があったのかどうかも覚えてはいないんですけど。あと、いつも歌詞は解決策があるけどこの曲は解決はしていないんです。でも、それが本当のことで、今の気持ちを歌うしかないなと。そう思いながら書いた曲が通ったので、やっぱりそういうことなんだなと実感しました。
――そういえばこの曲はエレキギターが入ってますが、Emiさんの曲では珍しいなと思いました。
アコースティックな木にこだわっていたので確かにそうですね。この曲は弾き語りでカワムラさんに渡したと思うんですけど、こういうアレンジにして欲しいとイメージが近い曲を送りました。いつもは言葉で伝えてお任せしちゃうんですけど、渡した曲がエレキギターの曲だったので挑戦してみようとなりました。懐かしさと今感をギリギリのところを攻めたアレンジになっています。
――また、「ふふ」は社会的に大きな問題となっている虐待をテーマに書かれた一曲ですが、どこを切り取ろうと思いましたか。
虐待問題と関わっている団体、社会福祉法人子どもの虐待防止センターさんやオレンジリボンさんなどに伺ってお話を聞きました。その中で「自分が虐待しているかも知れないけど、どうしたらいいかわからない」、「虐待しそうなんですけどどうしよう」、「私、子育てが無理かも」と助けを求める声があることを知りました。
まだ助けを求めて来る方は良いんですけど、実際その時の親はSOSを出せる状態ではないと聞いた時に、親のことを書こうか、子どものことを書こうかすごく悩みました。でも、私はどちらの立場ではないので、SOSを出せる環境を作るにはどうしたら良いのかと考えました。フィンランドはそういった事が起こる前にケアをする活動に力を入れていると知って。
例えば「この子はかわいくない」と思いながら電車に乗っていて、隣のおばちゃんとかが「可愛いね」と声を掛ければ「えっ、うちの子可愛いの?」と考え方が変わる方もいるみたいなんです。その一言で変わるんだなとわかって、その一言を言える人に自分たちがなろうよという曲にしました。
――ちょっとしたことでも救いになるんですね。作詞、作曲はカワムラさんとの共作になっていますが、どのように制作されたんですか。
カワムラさんにも団体への訪問を一緒に回っていただいたので、この曲は一緒に作りましょうとなりました。歌詞は大まかに最初書いて、それを2人で合わせながら、伝わりやすい言葉を探していきました。曲はカワムラさんにコード進行を考えていただいて、セッションしながらメロディをつけていきました。本当に一から全部一緒に作り上げた感じです。
――すごくシリアスな問題なのですが「ふふ」というタイトルが緩和してくれていて。
この曲はタイトルから出来た曲なんです。この言葉が見つかった時は「これだ!」とすごく嬉しかったです。オレンジリボンさんのポスターを見た時に、みんながニコニコ笑っていて、それを思い出しました。ハッキリとわからないタイトルもいいなって。
――最後にデビュー4周年を迎えて5年目に突入しましたが、Emiさんのこれからの使命は何だと思いますか。
自分が自分らしく生きることを見つけることかなと思います。今もそういうお仕事につかせていただいていますが、沢山の人に曲を聴いてもらったり、言葉を届ける職業につかせてもらったからこそ、人が最後を迎える時に「この人らしかったな」と思ってもらえるように、一つひとつ進めることかなと思って。人に何かを届ける仕事だけど、自分らしくいることで良い曲が生まれると思うので、自分らしく生きることが、今の私の使命なのかなと思います。
(おわり)