西川大貴×桑原あい、日本人らしさとは ミュージカルで向き合い見えたもの
INTERVIEW

西川大貴×桑原あい、日本人らしさとは ミュージカルで向き合い見えたもの


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年11月14日

読了時間:約14分

一音一音の責任感、人格を宿す音楽

――そのなかで今回は「日本人のための日本語で書かれたミュージカル作品」とコンセプトを掲げています。

西川大貴 「日本発」としていますが、何も無理やり日本らしくしよう、日本っぽい言葉を選ぼうとか、和の要素が感じる楽曲ばかりにしているわけでもないんです。もともと私たちは海外に憧れていると思うし、それが日本人であるとも思います。そうして海外から取り入れたものを日本ナイズして独自のものにしていくのが得意な日本。例えば最近、竹内まりやさんの「プラスチック・ラブ」がすごく海外でヒットしましたよね。竹内まりやさんに限らず日本の音楽が海外でも認められていて、もともと洋楽だったものが日本ナイズされ、そこにオリエンタルさが生まれて「面白い」と評価されていて。日本人というアイデンティティをもって普通に良い作品を作る。だからあえて日本らしく、日本人だけでやるという発想は一切なくて。むしろミュージカルはもともと海外のものだからそれを排除すること自体が不自然。スーパーバイザーとしてダレン(・ヤップ)を招き、海外からの視点で、自分たちとは違った角度から意見をもらうのも当然の流れというか。

――そのなかでなぜ70年代や80年代をフィーチャーしたのですか?

西川大貴 作品名「ボクの時代」に込めていて、歌詞にも「妙な閉塞感」と出てきますが、今の日本はそういう感じだと思うんです。少なくともあらゆる意味で劇場に関わっている人間やレコードを買ったりできる方は明日の食べる物がない、という状況ではない。けれども世界には妙な閉塞感が漂っていて、それは何なんだろうと。作品の主人公からすると漠然と輝いて見える70年代、80年代。その時代は音楽だけをとっても元気だった。では、今の時代を数十年経った後に「ボクの時代」として胸を張れるのだろうか、と。そういうところにテーマを置きました。

 そのテーマのもとで醸し出す音楽は、今の色とオールドスタイル、スタンダード、あるいは海外への憧れでもいいと思いますが、その憧れと現実、今と昔をうまく交差するようであってほしい。本もそう書いています。振付の加賀谷くんもオールドスタイルのジャズダンスも現代のヒップホップダンスも踊れる。桑原あいも今昔を知っている。そこに変に線を引くのではなく、ミクスチャーで作っていけたらと。

――そうしたなかで音楽はどう作ったのですか? 当時の流行も取り入れて?

桑原あい そういうのを意識して取り入れてしまうと別物になってしまうと思うので、意識的にはしていないです。

西川大貴 「香る」という表現が近いです。

桑原あい そうそう。これは一例ですが、ジャズミュージシャンの先輩がよく「昭和は良かったよね」って言うんです。ツアー中の車のなかは昭和の話で盛り上がる。「ディスコやクラブも楽しかったし、CDは売れたし。あいちゃん平成生まれだから知らないもんね」と言われるんです。それは悔しいですけど仕方ない(笑)。映像などで昭和の音楽を知ろうとしたけど生きてないので限界があります。だけど気づいたのは、特に昔の海外音楽はシンプルな作りになっているものが多かった。今流行っている日本の音楽は、入り組んでいるものが多い。何が伝えたいかを明確に伝えるには、シンプルさというのは必要なんです。私がクインシー・ジョーンズをリスペクトしているのは、そういうシンプルさの中に光る一音一音への責任感を感じるからです。
 
 今の時代は、ないものがないほど良い時代。でも、ものが溢れてぐちゃぐちゃしているようにも感じます。それは音楽もそうですが、時代の変化なので無視はできません。ミュージカル音楽が普通の音楽と違うところは、主人公の背景を映し出さないといけない。尚且つ良い意味でそれを邪魔しないといけないし、邪魔をしてはいけない。単なる物語の背景を映し出すだけのものになってはいけない。その中で、何をどうやったら何が伝わるかをクリアにして、いらないものものを削ぎ落としていかないと、何もかもがぼやけてしまうんです。音楽のグルーヴ感、ドライブ感の変化もとても大事ですしね。

 ダレンさんから言われたことで嬉しかったのは「すごくキャッチーだ」ということ。キャッチーなことは世界共通ですごく大事なことです。反対にハッとしたのは「日本人はバラードが好きだよね」と言われたこと。私がバラードではないと思ったものがダレンさんにはバラードに聴こえていて。それはカルチャーや考え方の違いからくるものだと思います。西川さんが最初に言っていた日本人と海外の人の言動の違いにも似ている。わたしはドイツに滞在したりアメリカに何度も行ったりしていますが、その時にいつも感じるのは海外の人は一つ一つが分かりやすい。そりゃ日本の表現方法とは違います。世界共通で主人公の心情変化を表現するためにはどうしたらいいか、ということをダレンさんからたくさん教えていただきました。

西川大貴 桑原さんが言った「邪魔しちゃいけないし、邪魔しないといけない」というのはすごく良い言葉。音楽には人格があると思います。たとえば演じていて、シリアスで叙情的な曲を歌いたい心境だったとします。そのなかで心情とは違う音楽が流れると、そこに展開が起きます。ストーリーが進むといってもいい。そんな風に演者の気持ちを無理矢理変えさせるために邪魔をしないといけない曲もある。一方、演者が思う感情をそのまま推し進めるために邪魔をしてはいけない曲もある。それが面白いところで、音楽が全て俳優に寄り添っていると退屈なミュージカルになってしまいます。それが音楽に人格があるという意味です。

――演者だけでなく、観客に与える印象も変わってきますね。音色が変わるだけでだいぶ異なってくる。

桑原あい そうそう。お客様にどれだけこの場面を音楽込みで深読みさせるかとか、どれだけイマジネーションを与えることができるかとか、そこが面白い。

桑原あい、西川大貴

桑原あい、西川大貴

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桑原あい、西川大貴
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