西川大貴×桑原あい、日本人らしさとは ミュージカルで向き合い見えたもの
INTERVIEW

西川大貴×桑原あい、日本人らしさとは ミュージカルで向き合い見えたもの


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年11月14日

読了時間:約14分

 俳優の西川大貴が脚本・演出、ジャズピアニストの桑原あいが音楽を担当するミュージカル『(愛おしき) ボクの時代』が11月15日から開催するプレビュー公演を経て、11月30日~12月15日にDDD 青山クロスシアターで本公演が上演される。海外戯曲では表現しきれない、ありのままの日本人の姿を映し出すため「日本人のための日本語で書かれたミュージカル作品」の制作に挑む。作品やクリエイターを「育む」ことを視野に入れた企画で、今後、大劇場で上演されることも見込んだトライアウト公演、作品創りにとことん探求する作品だ。スーパーバイジング・ディレクターにダレン・ヤップ、振付師には加賀谷一肇を招いた。16年以上の付き合いになる西川と桑原が温めてきた構想で、本作を制作するにあたり日本人らしさの一つに「海外文化を取り入れるミクスチャー」があると考えた。物語、音楽ともにそれを意識した作りで進めている。実験的な要素も含まれる彼らが提示するミュージカルとはどのようなものなのか。【取材・撮影=木村武雄】

日本の良さは「ミックス」された文化

――稽古中は台本や演出の分析をされているそうですね。

西川大貴 ミュージカルでは最初から動きを付けて稽古することは多いですが、同じセリフでも役者によって考え方や言葉の捉え方がバラバラなので、今回は一つ一つ分析していこうと思いました。クリエイターとしての脳は僕と、音楽の桑原あい、振付の加賀谷くんの3つしかないので、逆に役者から意見をもらうと「そういうつもりで書いていないけどそういう解釈があるんだ、むしろそっちの方が面白いかも」という発見もあって。そういう分析をみんなでしています。

――それぞれの価値観や経験が違うからどうしても解釈にバラつきは出てきますね。しかも今回は様々なジャンルからキャストが集まっていて。

西川大貴 そうです。しかも、みんなで全員の役の事を話すスタイルでやっていますので、最初は戸惑っている演者さんもいました。役柄の年齢については基本的に台本には書かれていなくて、例えばある俳優は40歳ぐらいだと思っていたとすれば、違う俳優はもっと上だと思っていたとか。そういう差はそこでの話し合いで解決することができます。

――そして、今回はオリジナル脚本になります。どういう風に進めていったのですか?

桑原あい 西川さんとは1年以上前から、ミュージカルを作りたいという話はしていて、もともと普段の連絡から「あの舞台観た?」「この舞台はこう思った」という話はしていて、そのなかで「こういうミュージカルを作りたい」というのが彼の中から出てきて。私も13歳の時に小椋佳さんがつくられた「アルゴ」というミュージカルにエレクトーン奏者として出演させていただいた時からミュージカルはずっと好きで、劇場にも足を運んでいます。ミュージカルと言っても、日本人が日本のカンパニーで生み出した作品や、海外から輸入してきた作品を日本語訳で日本人が演じている作品、海外ものをそのまま英語で上演する作品や、色々ありますよね。それぞれに、広い意味で良いところと悪いところがあるなとずっと感じていました。

 そんな話を西川さんとよくしていて、「どういうものを作るべきか、日本人だからこそできて、かつ日本に固執しなくて、世界にも共通している作品を作りたい」と。なのでまずは「それはどういうものなのか」という概念から話し合っていきました。

――西川さんと桑原さんは音楽ユニット「かららん」でも活動していますが、MVはミュージカルの要素もあって、その延長線上にあるのかなとも思いました。音楽の制作にあたってはどういう流れですか?

桑原あい もちろん脚本が出来てから音楽を作ります。私はクインシー・ジョーンズに憧れています。クインシーはアメリカンポップスの巨匠ですが、実は『WIZ』や『The Color Purple』など、舞台や映画などの多くの作品の音楽をつくっています。ただ、私自身は日本人として普段ジャズをしている。確かに元々ジャズやポップスはアメリカで生まれたものですが、日本人であるアイデンティティを忘れては自分の音楽はできません。

 「かららん」の楽曲を作るときも西川さんがミュージカル俳優であるということや、お互いに日本人であることは意識していましたし、私がつくる音楽である限り、ジャズや洋楽と日本とミュージカルのミックスを求めてきました。でも、やっぱり1曲単位で作るとリーチしきれないところもあって、「どうしよう」と悩むことがあった。

 今回は20曲以上でひとつの作品を表現します。ミュージカルの肝は音楽でもあると思うので、役者のモチベーションやお客さんをどこまで世界観に引き込めるかも音楽で変わる。私自身、良い曲が多いミュージカルが好きですし。

 そういうことも踏まえ、西川さんは音楽を大事にしたミュージカルを作りたいんだろうなというのは分かっていました。でも、「日本人だからこういう音楽にしよう」というのはすごく邪魔になる。例えば「さくらさくら」は今日本のポピュラー音楽と言ったらそれは違うと思う。かと言ってアイドルソングがそうか、と言ったらそうでもないと思う。でも、祭りやイベントで流れるリズムを聴けばみんなテンションが上がる。「祭りの季節が来たな」とか。小さい頃からそれを聴いてきたから血が騒ぐというか。どんなジャンルでも、その歴史を知らなければ新しいものは生み出せないと思っています。過去のものを壊そうとは一切思っていない。

 この作品を作る上で西川さんから言われたのは、私がクインシー・ジョーンズが好きということを踏まえた上で「70年代、80年代のオールド感を出してほしい」と。「でも、日本人が生まれつき備えているリズム感、例えば祭りの太鼓をきくとテンションがあがるなど、日本人しか持っていないリズム感も大切にして、懐かしくも聴きやすくポップで」というのをオーダーされました。それは私の考えともリンクしていましたし、西川さんとはミュージカルについて色々意見を言い合ってきたので、そこにもたくさんのヒントがありました。気づいたら書き終えていましたね(笑)。

――ほかのミュージカルからヒントを得たということはそれぞれに日本の良さがあったということですよね。

西川大貴 もちろんです。

――ただ違和感があったということですよね。

西川大貴 私自身、海外のミュージカル作品を演じて感じることもありました。英語のグルーヴ感が日本語になってしまうと損なわれてしまうストレスがある。でも、日本語で歌うから生まれる良い変化もあって。例えば、ガツガツしすぎていて日本人には馴染まなそうな部分が、日本語を通すことで柔らかくなったり。日本語でやるからこその新解釈の良さはあります。

――西川さんは英語と日本語では子音と母音に違いある、と話されていましたが、もともと母音の数は日本語が5、対して英語は16。しかも英語では子音で終わるもの関しては半拍という考えもあるそうですから、違いは明らかですね。

西川大貴 英語は1音に1単語入りますが、日本語の場合はそれがない。例えば「TRUST」。英語なら1音で言えますが、日本語だと「信じる」となって、「し」「ん」「じ」「る」とそれぞれ1音になる。英語だと1音に当てはめられるのに、日本語だとバラバラになってしまう。音楽はこうしたいし、こういうグルーヴ感は欲しいけど、それを日本語でやってしまうとおかしなことになってしまうこともある。「信じる」という言葉を活かそうとすると音楽の抑揚はなくなり、グルーヴ感を捨てることになってしまう。海外の作品が素晴らしいからこそ、そういうストレスを覚えてしまう。「ここはとても素敵なのに捨てなくてはならないのか」と。

――日本人はもともと寡黙ですし、動作を大きくする習慣がないですからね。1語1語しっかりと話す必要がありますから。

西川大貴 海外の作品のなかには動きも「そのままコピーしてください」という作品も多くて、でも日本人のテンション感と大きなギャップがある場合がある。日本人は多くを語らないし、身振り手振りも少ない。外国人の役をやっているのだから、と頭では理解できていても、でもどうしても整理にあわないという場合も少なくありません。ここは穏やかに誠実に歌いたいな、と思っても「パッションが必要なんだ。大きく動いてくれ」と。それでなんとなくなじませるように対応しますが、そういったジレンマは少なくないですね。

桑原あい、西川大貴

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桑原あい、西川大貴
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