SNSではなく音楽で発信、桑原あい ジェンダーを超えた自分の音
INTERVIEW

SNSではなく音楽で発信、桑原あい ジェンダーを超えた自分の音


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年08月25日

読了時間:約15分

 ジャズピアニストの桑原あいが22日、桑原あいザ・プロジェクト名義の新作『To The End Of This World』をリリースした。本作はベース鳥越啓介、ドラム千住宗臣という新レギュラートリオの演奏を中心に「音楽が欲しがっている音を入れた自然体から生まれた」と言い、編成の枠にとらわれず自由に作り上げられた10曲が収録されている。また、ものんくるの吉田沙良、ラッパーのDaichi Yamamoto、EGO-WRAPPIN'の武嶋聡、ニューヨークからサックスプレイヤーのベン・ウェンデルといった多彩な客演が作品をいろどる。「自分が女性として音楽をする」という裏テーマもあったと語る桑原。その真意と、音楽制作やミュージシャンとしての生き方などについて話を聞いた。【取材=小池直也/撮影=冨田味我】

一瞬一瞬を大切に生きたい

桑原あい(撮影=冨田味我)

――アルバムの題名ですが、桑原さんがファンだと公言していらっしゃる寺山修司氏の『世界の果てまで連れてって』から引用されてる?

 それを予期する方もいると思いますけど、そういうわけではないです。単純にタイトルを考えていた時に、その言葉が浮かんだんですよ。ここ1年半くらい生と死について、世界の果てまでどうやって生きていくかという事を考えていて。それがたまたま色々な曲とリンクしていたので、この言葉に行き着いたんです。

 急に亡くなった知り合いがいたり、自分の日常も年齢によって変わっていったり。時間の流れの中でそういう事を考える様になっていきました。一瞬一瞬を大切に生きたいな、と。自分の周りの人を見て、自分の周りをどう愛していこうかと思う機会が増えたという事です。世界規模という事ではなく「私の世界」の話ですが。

――各曲はどの様に制作されましたか。

 作った時期が全部違うんですけど、それぞれ並べた時にすごくリンクしているなと思ったんです。アルバムの為に書いた新曲は「この世界に足りないもので、私に書けるもの」と考えて方向性を定めていきました。その中から、あれも入れようかな、これも入れようかなと詰めていきましたね。どの楽器を入れるかとかも、その音楽が欲しがっている音を入れたという感覚。なので最初から決めていた訳ではありませんし、ピアノトリオではない音楽を作りたかった訳でもなく、自然体の状態から生まれた音楽なんです。

――「桑原あいザ・プロジェクト」という新しいグループを結成されて、そのエネルギーを録音したいという気持ちではなかったんですね。

 もちろん音楽は録音していかないと形にはならないじゃないですか。鳥越啓介さん(b)、千住宗臣さん(ds)との新しいトリオは音楽に風が何度も吹くんですよ。それもこれからいい意味で形を変えて、風の吹き方も変わっていくと思うんです。ただ「今の吹き方」みたいな部分を録音するのは今しかできない。そういう意味では、もちろん録音はしたかったです。

 今回は織原良次さん(b)と山田玲くん(ds)とのトリオでも録音しています。彼らとは、まずライブをしてからのレコーディングでした。それも2人の良さを私なりに理解した上で、彼らと一緒に録音をしたいと純粋に思っていたんです。吉田沙良ちゃん(vo)に関しても、彼女の歌が必要だと思って誘いました。全ては必然性でできたものなんです。

――ちなみに今作のリードになる曲はどれでしょう?

 どれだと思います?

――「919」ですかね。

 あー、そういう風に言う方もいます。実は私もわからないんですよ(笑)。決められない。だから「あなたの思う曲でいいです」という感じです。ラジオとかでも、気分で曲を決めると思います。

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